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本編
27. 何も分かりません
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「光の精霊よ……」
殿下に高位の治癒魔法をかけるために詠唱を始める私。
邪魔にならないようにとアリスもアルト様も何も話していないから、馬車のガタゴトという音だけが響いている。
「……癒しの力をここに」
詠唱が終わり、治癒魔法特有の淡い緑色の光が浮かぶ。
そして……。
「っ……。僕は何を……」
レオン殿下が目を覚ました。
ちなみにだけれど、殿下はアルト様によって私達が座っている席の向かい側に寝かされていた。
王家の馬車が大きいとは言っても、足を伸ばすことなんて出来ないから窮屈そうな姿勢になっている。
一方の私達はというと、特に窮屈さを感じることもなく3人で腰かけている。この椅子は3人掛けだから。
「目を覚ましてくれて良かったわ……。まだ私のこと嫌い?」
「僕が本心でアリスを嫌うなんてあり得ないよ」
「ソフィアの言ってた通り、洗脳も解けたみたいね。本当に良かったわ」
そんなやり取りが交わされる中、私は念の為にとアリスやアルト様にも魔法をかけた。
しばらくして、王宮に到着した私達はこの前と同じように陛下の執務室を訪れていた。
「父上、最初に謝罪をさせてください。
僕は大変な失態を犯してしまいました。申し訳ありません」
そう口にして深々と頭を下げるレオン殿下。
「何があったか想像は出来たが……。
その失態について説明しなさい」
「はい。
今日の昼のことですが……」
躊躇うことなく、あったことを細かく説明していく殿下。
そこに自らの過ちを誤魔化そうとする様子は全く無かった。
「……なるほど。これは早急にセレスティア嬢を拘束する必要がありそうだな」
「陛下、大変申し上げにくいのですが……セレスティア様はレオン殿下に巻き込まれて頭を打ってしまったようで、気絶していたところを騎士団に拘束されています。
拘束に来ていた方には防御魔法をかけておいたので、逃げられる心配は無いと思います」
陛下が拘束の指示を騎士団に出す前に、私はそう付け加えた。
「そうか。では、騎士団にはセレスティア嬢を釈放しないように指示を出そう」
「ありがとうございます」
そんなやり取りの後、陛下が宰相様とバルケーヌ公爵家のことについて話したいということで、私達は執務室を後にすることになった。
婚約者同士に見せる演技ももう終わり。
また1人で過ごすことになると思うと少し寂しいけれど、目的は果たせたのだから仕方ない。
けれども、私がアルト様にも嫌われたという噂が流れてしまうと思ったから、対策について相談することにした。
「アルト様、お話ししたいことがあります」
「深刻そうだな? 何があった?」
今までのことに比べたら大したことは無いのだけれど、そんなに今の私は酷い顔をしていたのかしら?
「アリスにかけられた魔法は消えたので、婚約者の演技も終わりになるのは約束の通りです。
ですが、数日足らずで私が嫌われたと悪評が立ってしまうと思うのです……」
完全に無くすことは出来なくても、噂を抑えることは出来るはず。
そんな希望を抱きながら、私は言葉を紡いだ。
「その対策、か。あることにはあるが、ソフィアの面目に関わるかもしれない。
場所を移してもいいか?」
「ええ」
アルト様にも提案され、頷く私。
そうして案内されたのは王宮内にある庭園の一角だった。
間違いを起こさないために、婚約していない男女が二人にりになることは基本的にしてはいけない。
だから、部屋に二人だけで入る時は扉を少し開けたままにして、使用人を待機させるのが常識になっている。
けれども、ここは庭園。
声が聞こえないくらい離れている場所からでも私達の姿を見ることが出来る。
密談にはちょうど良かった。
そして、アルト様はこう切り出した。
「風評を避ける方法なのだが……このまま本当に婚約するというのはどうだろうか?」
「そ、それはどういう意味ですか……?」
アルト様が冗談を言っているようには見えない。
だから、私には彼の考えていることが全くわからなかった。
殿下に高位の治癒魔法をかけるために詠唱を始める私。
邪魔にならないようにとアリスもアルト様も何も話していないから、馬車のガタゴトという音だけが響いている。
「……癒しの力をここに」
詠唱が終わり、治癒魔法特有の淡い緑色の光が浮かぶ。
そして……。
「っ……。僕は何を……」
レオン殿下が目を覚ました。
ちなみにだけれど、殿下はアルト様によって私達が座っている席の向かい側に寝かされていた。
王家の馬車が大きいとは言っても、足を伸ばすことなんて出来ないから窮屈そうな姿勢になっている。
一方の私達はというと、特に窮屈さを感じることもなく3人で腰かけている。この椅子は3人掛けだから。
「目を覚ましてくれて良かったわ……。まだ私のこと嫌い?」
「僕が本心でアリスを嫌うなんてあり得ないよ」
「ソフィアの言ってた通り、洗脳も解けたみたいね。本当に良かったわ」
そんなやり取りが交わされる中、私は念の為にとアリスやアルト様にも魔法をかけた。
しばらくして、王宮に到着した私達はこの前と同じように陛下の執務室を訪れていた。
「父上、最初に謝罪をさせてください。
僕は大変な失態を犯してしまいました。申し訳ありません」
そう口にして深々と頭を下げるレオン殿下。
「何があったか想像は出来たが……。
その失態について説明しなさい」
「はい。
今日の昼のことですが……」
躊躇うことなく、あったことを細かく説明していく殿下。
そこに自らの過ちを誤魔化そうとする様子は全く無かった。
「……なるほど。これは早急にセレスティア嬢を拘束する必要がありそうだな」
「陛下、大変申し上げにくいのですが……セレスティア様はレオン殿下に巻き込まれて頭を打ってしまったようで、気絶していたところを騎士団に拘束されています。
拘束に来ていた方には防御魔法をかけておいたので、逃げられる心配は無いと思います」
陛下が拘束の指示を騎士団に出す前に、私はそう付け加えた。
「そうか。では、騎士団にはセレスティア嬢を釈放しないように指示を出そう」
「ありがとうございます」
そんなやり取りの後、陛下が宰相様とバルケーヌ公爵家のことについて話したいということで、私達は執務室を後にすることになった。
婚約者同士に見せる演技ももう終わり。
また1人で過ごすことになると思うと少し寂しいけれど、目的は果たせたのだから仕方ない。
けれども、私がアルト様にも嫌われたという噂が流れてしまうと思ったから、対策について相談することにした。
「アルト様、お話ししたいことがあります」
「深刻そうだな? 何があった?」
今までのことに比べたら大したことは無いのだけれど、そんなに今の私は酷い顔をしていたのかしら?
「アリスにかけられた魔法は消えたので、婚約者の演技も終わりになるのは約束の通りです。
ですが、数日足らずで私が嫌われたと悪評が立ってしまうと思うのです……」
完全に無くすことは出来なくても、噂を抑えることは出来るはず。
そんな希望を抱きながら、私は言葉を紡いだ。
「その対策、か。あることにはあるが、ソフィアの面目に関わるかもしれない。
場所を移してもいいか?」
「ええ」
アルト様にも提案され、頷く私。
そうして案内されたのは王宮内にある庭園の一角だった。
間違いを起こさないために、婚約していない男女が二人にりになることは基本的にしてはいけない。
だから、部屋に二人だけで入る時は扉を少し開けたままにして、使用人を待機させるのが常識になっている。
けれども、ここは庭園。
声が聞こえないくらい離れている場所からでも私達の姿を見ることが出来る。
密談にはちょうど良かった。
そして、アルト様はこう切り出した。
「風評を避ける方法なのだが……このまま本当に婚約するというのはどうだろうか?」
「そ、それはどういう意味ですか……?」
アルト様が冗談を言っているようには見えない。
だから、私には彼の考えていることが全くわからなかった。
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