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12話side勇人
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放課後、俺は校庭の隅にあるタイヤの半分が土の中に埋まっている謎のオブジェの上にいた。正確にはその上に仰向けに寝そべっている。
何でかって?一言で言うと筋トレだ。
俺はしずかが不良に攫われた事件で自身の力の無さを痛感し、以降放課後筋トレをしている。
といってもジムに通う金なんて小学生が持ってるはずがない。俺はモップの両端に水を満タンにしたバケツをくくりつけ、タイヤに仰向けになった状態で持ち上げる。
所謂『ベンチプレス』だ。
次に手作りのウエイトを担いでスクワット、デッドリフトを行う。これで強くなれるかは謎だが、今の俺には圧倒的に筋力が足りない。どんなに優れた技術を保とうが、子どもが大人に勝てる可能性なんてゼロだ。今回大きな怪我をせず、皆無事に帰れたのはたまたま運が良かっただけ。
故に俺は筋トレをする。馬鹿らしいって?そうだな、俺は馬鹿だからこの位しか出来ることが思い浮かばない。でも今は何かしていないと落ち着かない。なんせ栞の死因は不明、時期も6年の夏休みの間という漠然とした情報しかない。解決策の糸口さえ見えない状況だ。
「んぎぃぃぃい!」
最後の力を振り絞り、持ち上げたお手製バーベルを地面に落とした俺は力尽きて地面に仰向けにの転がる。
あぁ…青くて綺麗だ…
汗だくになった俺の顔に容赦無く降り注ぐ太陽の光を大きな影が遮った。
俺は今野生の熊に遭遇している。決して嘘ではない。俺の目の前には体調3メートルはあろうかという巨大な熊がいる。やつは俺を片手で軽々と持ち上げると、校庭の端にある巨木の下にゆっくりと下す。
「お!お!俺なんて食っても美味しくないぞ!」
「…」
両手を顔のまえでクロスさせ、必死に抵抗する俺の腕に冷たい何かが当たる。俺はそっと瞼を開くと、その正体がよく冷えたペットボトルであることが分かる。
「あ…あの?」
「ん」
そう一言放ち俺に冷えたペットボトルを差し出す無表情の熊は、よく見るとボサボサ頭でボロボロの胴着を着た大柄な男だった。
もしかして俺が倒れていたと勘違いして心配してくれたのだろうか?俺が恐る恐る彼から渡されたペットボトルに口をつけると、彼の表情は少し和らぎ、微笑んだように見えた。
ペットボトルの中身は水かと思ったが、口の中に爽やかなレモンの香りと蜂蜜の優しい甘みが広がり、筋トレで限界まで追い詰めた体に染み渡った。
「ふーっ。あ、ありがとうございます。あ、あの、熱中症とかじゃないんで大丈夫です」
俺の言葉を聞くと大男は静に頷き、わずかに微笑んだ…ように見えた。そして彼はゆっくりとした歩みで校庭を出ていく。俺は念の為に右の頬を軽く叩く。
痛い…夢じゃないみたいだな。
腹へったなぁ。小学生の身体に戻ってからやたら腹が減る気がする。胃が小さく一度に食える量が少ないのか、単なる成長期で体が大きくなるための栄養を欲しているのか。
「どっかで買い食いでもするかなぁ」
ポケットの中にある財布を除くも、小学5年の経済力では俺の腹は満たせそうにない。
「帰ってカップラーメンでも食うか」
「あ、あの今急いでるんで、困ります」
「え~さっきまで携帯みてたじゃん。暇してんでしょ?俺たちもちょうど暇なんだけど、これって運命じゃね?俺この辺で美味しい店知ってんだ~。ちょっとだけでいいからお茶しよ~よ~」
金髪に似合わないサングラスと派手なアロハシャツを身に纏った男2人が、気の弱そうな女性に声をかけている。女性表情は明らかに嫌がっているが分かる。
ドン!
2人は建物の壁に女性を追い詰め、拳を壁に叩きつける。
「なあ!行くの?行かないの?ハッキリしてくんねーかな!?俺たちも暇じゃねーの!」
「ひっ!」
周りにいる大人たちが男たちの上げる大声に足を止め注目する。
「ああ?何見てんだよ!文句あっか!?」
2人から睨まれた通行人たちは、視線を下げ見て見ぬふりで通理すぎて行った。
「ああ。残念だね~。誰も助けにきれくれないね~。じゃあ行こっか?」
強引に女性の手を引きながら歩き出した男は、気づくとバランスを崩し、顔面をアスファルトに擦り付けていた。
「痛えぇぇぇえ!」
うわぁ…あれはマジで痛そうだ。やった俺が言うのも何だけど。
俺はナンパ野郎の横を通り過ぎるフリをし、歩き出す際に軸足めがけて全力でタックルをかましてやった。いくら筋トレをしているとはいえ、子どもが大人に力で対抗するには全身を使ってぶつかるしか方法は無い。
「ぢくしょう!テメェ!コロス!」
顔面を大根おろしのようにアスファルトですり下ろされ、血だらけになり、鼻血まで垂れブチ切れるナンパ男。
「早く逃げて!早く!走って!」
「え…でも…」
「いいから!」
「け、警察よんでくるから!あなたも逃げて!」
ナンパ男に絡まれていた女性は、不安な表情をしながら走り去る。視界から女性が消えたことを確認し、俺に殺意を向ける2人に視線を向ける。
はぁ…どうすっかなこの状況…
何でかって?一言で言うと筋トレだ。
俺はしずかが不良に攫われた事件で自身の力の無さを痛感し、以降放課後筋トレをしている。
といってもジムに通う金なんて小学生が持ってるはずがない。俺はモップの両端に水を満タンにしたバケツをくくりつけ、タイヤに仰向けになった状態で持ち上げる。
所謂『ベンチプレス』だ。
次に手作りのウエイトを担いでスクワット、デッドリフトを行う。これで強くなれるかは謎だが、今の俺には圧倒的に筋力が足りない。どんなに優れた技術を保とうが、子どもが大人に勝てる可能性なんてゼロだ。今回大きな怪我をせず、皆無事に帰れたのはたまたま運が良かっただけ。
故に俺は筋トレをする。馬鹿らしいって?そうだな、俺は馬鹿だからこの位しか出来ることが思い浮かばない。でも今は何かしていないと落ち着かない。なんせ栞の死因は不明、時期も6年の夏休みの間という漠然とした情報しかない。解決策の糸口さえ見えない状況だ。
「んぎぃぃぃい!」
最後の力を振り絞り、持ち上げたお手製バーベルを地面に落とした俺は力尽きて地面に仰向けにの転がる。
あぁ…青くて綺麗だ…
汗だくになった俺の顔に容赦無く降り注ぐ太陽の光を大きな影が遮った。
俺は今野生の熊に遭遇している。決して嘘ではない。俺の目の前には体調3メートルはあろうかという巨大な熊がいる。やつは俺を片手で軽々と持ち上げると、校庭の端にある巨木の下にゆっくりと下す。
「お!お!俺なんて食っても美味しくないぞ!」
「…」
両手を顔のまえでクロスさせ、必死に抵抗する俺の腕に冷たい何かが当たる。俺はそっと瞼を開くと、その正体がよく冷えたペットボトルであることが分かる。
「あ…あの?」
「ん」
そう一言放ち俺に冷えたペットボトルを差し出す無表情の熊は、よく見るとボサボサ頭でボロボロの胴着を着た大柄な男だった。
もしかして俺が倒れていたと勘違いして心配してくれたのだろうか?俺が恐る恐る彼から渡されたペットボトルに口をつけると、彼の表情は少し和らぎ、微笑んだように見えた。
ペットボトルの中身は水かと思ったが、口の中に爽やかなレモンの香りと蜂蜜の優しい甘みが広がり、筋トレで限界まで追い詰めた体に染み渡った。
「ふーっ。あ、ありがとうございます。あ、あの、熱中症とかじゃないんで大丈夫です」
俺の言葉を聞くと大男は静に頷き、わずかに微笑んだ…ように見えた。そして彼はゆっくりとした歩みで校庭を出ていく。俺は念の為に右の頬を軽く叩く。
痛い…夢じゃないみたいだな。
腹へったなぁ。小学生の身体に戻ってからやたら腹が減る気がする。胃が小さく一度に食える量が少ないのか、単なる成長期で体が大きくなるための栄養を欲しているのか。
「どっかで買い食いでもするかなぁ」
ポケットの中にある財布を除くも、小学5年の経済力では俺の腹は満たせそうにない。
「帰ってカップラーメンでも食うか」
「あ、あの今急いでるんで、困ります」
「え~さっきまで携帯みてたじゃん。暇してんでしょ?俺たちもちょうど暇なんだけど、これって運命じゃね?俺この辺で美味しい店知ってんだ~。ちょっとだけでいいからお茶しよ~よ~」
金髪に似合わないサングラスと派手なアロハシャツを身に纏った男2人が、気の弱そうな女性に声をかけている。女性表情は明らかに嫌がっているが分かる。
ドン!
2人は建物の壁に女性を追い詰め、拳を壁に叩きつける。
「なあ!行くの?行かないの?ハッキリしてくんねーかな!?俺たちも暇じゃねーの!」
「ひっ!」
周りにいる大人たちが男たちの上げる大声に足を止め注目する。
「ああ?何見てんだよ!文句あっか!?」
2人から睨まれた通行人たちは、視線を下げ見て見ぬふりで通理すぎて行った。
「ああ。残念だね~。誰も助けにきれくれないね~。じゃあ行こっか?」
強引に女性の手を引きながら歩き出した男は、気づくとバランスを崩し、顔面をアスファルトに擦り付けていた。
「痛えぇぇぇえ!」
うわぁ…あれはマジで痛そうだ。やった俺が言うのも何だけど。
俺はナンパ野郎の横を通り過ぎるフリをし、歩き出す際に軸足めがけて全力でタックルをかましてやった。いくら筋トレをしているとはいえ、子どもが大人に力で対抗するには全身を使ってぶつかるしか方法は無い。
「ぢくしょう!テメェ!コロス!」
顔面を大根おろしのようにアスファルトですり下ろされ、血だらけになり、鼻血まで垂れブチ切れるナンパ男。
「早く逃げて!早く!走って!」
「え…でも…」
「いいから!」
「け、警察よんでくるから!あなたも逃げて!」
ナンパ男に絡まれていた女性は、不安な表情をしながら走り去る。視界から女性が消えたことを確認し、俺に殺意を向ける2人に視線を向ける。
はぁ…どうすっかなこの状況…
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