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29話side秋子
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ピンポーン
どこの家にでも良くあるごく普通のインターホンの呼び出し音。聞き慣れたはずの音に、私はソワソワと落ち着かない様子を見せる。
「ねぇ佳織、私やっぱり帰る。私のせいで自宅謹慎になったのに、申し訳なくて合わせる顔なんて無いよ~」
私は半泣きの状態になりながら、佳織の袖を引っ張り懇願する。そんな私を見て佳織はニヤリと笑いながら答える。
「だぁ~いじょうぶだって~。自宅謹慎になった腹いせにとって食おうなんてやつじゃ無いから。それとも~もしかして食べられたかったとか~?」
この表情と言葉は、さっき私の勘違いから起きたひと騒動の仕返しだろうか?私は彼女の揶揄うような仕草に少しムッとして言い返す。
「そんなんじゃないよ」
私のその言葉に佳織はパッと顔を明るくする。
「だよね!自分の恩人に対して礼の一つもできない友人を持った覚えは無いよあたしゃ!」
私は彼女の術中にまんまと嵌められたらしい…でも不思議と嫌な気分じゃない。彼女は私が勇輝君に会うための口実を作ってくれたのだ。
「友人って、私たち今日会ったばかりでしょ?」
佳織は明るく誰とでも仲良くなれる性格をしている。きっと彼女はクラスの誰とでも仲良くなることができて、彼女のとって『友人』と言う言葉は、その大勢の中の1人という意味だろう。
「佳織はお友達が沢山いるみたいね」
私が少し嫌味っぽく話すと、佳織は急に真剣な表情になる。
「…そんなことないよ、でも秋子とはきっと親友になれるよ。私の勘ってよく当たるのよ」
妙に自信ありげな表情で胸を張って断言する佳織。一体その自信はどこから湧いてくるのやら…
そんなやりとりを続けていると、不意に玄関の扉が開かれる。
「お、佳織と…誰だっけ?」
自宅謹慎中の彼は何故か上半身裸で、夏場にも関わらずその身体からは蒸気が漂っており、直前まで激しい運動をしていたことが分かる。彼の学生とは思えないほど引き締まった筋肉に減量中のボクサーかと思わんばかりの大量の汗が滴り落ちている。私はそんな彼の肉体美に釘付けになっていた。
「おーい、秋子ー。何見惚れてんのよ。涎垂れてるわよ」
ハッ!我に返った私は勇輝君に私は勢いよくお辞儀をする。
「あ!あの!昨日はありがとうございました!」
私の言葉を聞いた彼は、顎に手を添えながら空を見つめていた。
「あ~昨日の。気にすんなって、単に俺があの教師のことを前から気に食わなかっただけのことだから。話はそれだけ?じゃあ俺はトレーニングの続きがあるから」
そう言いながら踵を返し、家に入ろうとする勇輝くんの耳を力の限り引っ張り連れ戻す佳織。
「痛い!痛い!何すんだよバカ!」
「うら若き乙女に向かってバカとはご挨拶ね~。せっかくこんなむさ苦しい男の家に訪ねてきてやってるんだから、お茶の一杯くらい出しなさいよ!」
「うっせーな。乙女はそんな図々しいしくねぇっつうの。あー、秋子さんだったっけな?気が利かなくてすまねぇな。折角きてくれたんだ、お茶くらいだすよ。上がってきな」
彼は佳織の言葉に従い、私たちを案内してくれた。私たちはリビングに通され、ソファに腰掛けるよう案内される。
彼はシャワーを浴びて、清潔な服に着替えたかと思うと、手際よく台所でお湯をわ沸かしながらコーヒーを入れる準備をする。
「佳織、お前運が良いな。ちょうど今朝いい豆が手に入ったんだ」
勇輝君がコーヒー豆をミルでゆっくり挽くいた後、理科の実験室にありそうな物々しいい機材を取り出してきた。
「ドリップとか水出しもいいけど、やっぱサイフォン式だよな。コーヒーを淹れる過程が楽しいんだよな~」
昨日職員室で見た人物と同じとは思えないように、彼は子供のような無邪気な笑顔を浮かべていた。そしてお洒落な花柄のお皿に並べたクッキーと一緒に、淹れたてのコーヒーが私たちの前に並べられた。
佳織は待ってましたと言わんばかりにクッキーを頬張り、コーヒーで口の中の物を流し込む。
「……お前なあ」
その姿に勇輝君はため息を漏らす。
折角だし私も頂こうかな。コーヒーを一口含むと、その美味しさにしばらく言葉が出ない。
「どうした?口に合わなかったか?」
心配そうに私を見つめる彼に、私は首を横に振り否定する。
「ううん。こんな美味しいコーヒー初めて飲んだ!なんて言うか、苦味の中に僅かに甘みもあって、なによりも香りがすごく良い!このクッキーの素朴な味も、このコーヒーにすごく合ってる!」
私の言葉を聞いた勇輝君はその場に蹲ったかと思うと、ガバッと起き上がり私の両手を強く握りしめる。私は恥ずかしさのあまり声を失い、再び顔を真っ赤に染める。彼の体温で頭の中が沸騰しそうになる。
「分かってくれるか心の友よ!」
彼は興奮気味に声を上げる。嬉しいのは良いんだけど、顔が近いよぉ。
頭がクラクラしながら、彼の吹き飛ばされそうなほど激しいシェイクハンドに必死にくらいつく。
佳織はそんな私たちの姿が面白くならしく。ほっぺたを膨らましながら不満を漏らす。
「なによデレデレしちゃって。コーヒーなんて苦いか甘いかくらいの違いしかないででしょー!」
「なんだとこのお子様がー!」
「誰がお子様じゃー!この筋肉バカ!」
「ふふふふ…ひひひっ…ひーっひっひっひっ!だめ!我慢できない!」
私は子供みたいな喧嘩を本気でやる2人がツボに入ってしまい、涙を流しながら笑い転げる。
「ちょっとー!秋子笑いすぎでしょー!」
それが私たち3人の出会いだった。
どこの家にでも良くあるごく普通のインターホンの呼び出し音。聞き慣れたはずの音に、私はソワソワと落ち着かない様子を見せる。
「ねぇ佳織、私やっぱり帰る。私のせいで自宅謹慎になったのに、申し訳なくて合わせる顔なんて無いよ~」
私は半泣きの状態になりながら、佳織の袖を引っ張り懇願する。そんな私を見て佳織はニヤリと笑いながら答える。
「だぁ~いじょうぶだって~。自宅謹慎になった腹いせにとって食おうなんてやつじゃ無いから。それとも~もしかして食べられたかったとか~?」
この表情と言葉は、さっき私の勘違いから起きたひと騒動の仕返しだろうか?私は彼女の揶揄うような仕草に少しムッとして言い返す。
「そんなんじゃないよ」
私のその言葉に佳織はパッと顔を明るくする。
「だよね!自分の恩人に対して礼の一つもできない友人を持った覚えは無いよあたしゃ!」
私は彼女の術中にまんまと嵌められたらしい…でも不思議と嫌な気分じゃない。彼女は私が勇輝君に会うための口実を作ってくれたのだ。
「友人って、私たち今日会ったばかりでしょ?」
佳織は明るく誰とでも仲良くなれる性格をしている。きっと彼女はクラスの誰とでも仲良くなることができて、彼女のとって『友人』と言う言葉は、その大勢の中の1人という意味だろう。
「佳織はお友達が沢山いるみたいね」
私が少し嫌味っぽく話すと、佳織は急に真剣な表情になる。
「…そんなことないよ、でも秋子とはきっと親友になれるよ。私の勘ってよく当たるのよ」
妙に自信ありげな表情で胸を張って断言する佳織。一体その自信はどこから湧いてくるのやら…
そんなやりとりを続けていると、不意に玄関の扉が開かれる。
「お、佳織と…誰だっけ?」
自宅謹慎中の彼は何故か上半身裸で、夏場にも関わらずその身体からは蒸気が漂っており、直前まで激しい運動をしていたことが分かる。彼の学生とは思えないほど引き締まった筋肉に減量中のボクサーかと思わんばかりの大量の汗が滴り落ちている。私はそんな彼の肉体美に釘付けになっていた。
「おーい、秋子ー。何見惚れてんのよ。涎垂れてるわよ」
ハッ!我に返った私は勇輝君に私は勢いよくお辞儀をする。
「あ!あの!昨日はありがとうございました!」
私の言葉を聞いた彼は、顎に手を添えながら空を見つめていた。
「あ~昨日の。気にすんなって、単に俺があの教師のことを前から気に食わなかっただけのことだから。話はそれだけ?じゃあ俺はトレーニングの続きがあるから」
そう言いながら踵を返し、家に入ろうとする勇輝くんの耳を力の限り引っ張り連れ戻す佳織。
「痛い!痛い!何すんだよバカ!」
「うら若き乙女に向かってバカとはご挨拶ね~。せっかくこんなむさ苦しい男の家に訪ねてきてやってるんだから、お茶の一杯くらい出しなさいよ!」
「うっせーな。乙女はそんな図々しいしくねぇっつうの。あー、秋子さんだったっけな?気が利かなくてすまねぇな。折角きてくれたんだ、お茶くらいだすよ。上がってきな」
彼は佳織の言葉に従い、私たちを案内してくれた。私たちはリビングに通され、ソファに腰掛けるよう案内される。
彼はシャワーを浴びて、清潔な服に着替えたかと思うと、手際よく台所でお湯をわ沸かしながらコーヒーを入れる準備をする。
「佳織、お前運が良いな。ちょうど今朝いい豆が手に入ったんだ」
勇輝君がコーヒー豆をミルでゆっくり挽くいた後、理科の実験室にありそうな物々しいい機材を取り出してきた。
「ドリップとか水出しもいいけど、やっぱサイフォン式だよな。コーヒーを淹れる過程が楽しいんだよな~」
昨日職員室で見た人物と同じとは思えないように、彼は子供のような無邪気な笑顔を浮かべていた。そしてお洒落な花柄のお皿に並べたクッキーと一緒に、淹れたてのコーヒーが私たちの前に並べられた。
佳織は待ってましたと言わんばかりにクッキーを頬張り、コーヒーで口の中の物を流し込む。
「……お前なあ」
その姿に勇輝君はため息を漏らす。
折角だし私も頂こうかな。コーヒーを一口含むと、その美味しさにしばらく言葉が出ない。
「どうした?口に合わなかったか?」
心配そうに私を見つめる彼に、私は首を横に振り否定する。
「ううん。こんな美味しいコーヒー初めて飲んだ!なんて言うか、苦味の中に僅かに甘みもあって、なによりも香りがすごく良い!このクッキーの素朴な味も、このコーヒーにすごく合ってる!」
私の言葉を聞いた勇輝君はその場に蹲ったかと思うと、ガバッと起き上がり私の両手を強く握りしめる。私は恥ずかしさのあまり声を失い、再び顔を真っ赤に染める。彼の体温で頭の中が沸騰しそうになる。
「分かってくれるか心の友よ!」
彼は興奮気味に声を上げる。嬉しいのは良いんだけど、顔が近いよぉ。
頭がクラクラしながら、彼の吹き飛ばされそうなほど激しいシェイクハンドに必死にくらいつく。
佳織はそんな私たちの姿が面白くならしく。ほっぺたを膨らましながら不満を漏らす。
「なによデレデレしちゃって。コーヒーなんて苦いか甘いかくらいの違いしかないででしょー!」
「なんだとこのお子様がー!」
「誰がお子様じゃー!この筋肉バカ!」
「ふふふふ…ひひひっ…ひーっひっひっひっ!だめ!我慢できない!」
私は子供みたいな喧嘩を本気でやる2人がツボに入ってしまい、涙を流しながら笑い転げる。
「ちょっとー!秋子笑いすぎでしょー!」
それが私たち3人の出会いだった。
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