5 / 13
05_再会
しおりを挟む
拠点を移しながらの生活にも慣れてそれが日常になり始めた。移動の途中で散り散りになってしまった仲間も加わり、談笑も増えた。逃げ遅れた人もそれなりにいたが、それでも頑張って暮らそうと皆の士気が高まっていた。
「もう逃げられる場所がない」
それは突然の宣告だった。俺を含めた皆が疑問符を浮かべる。広瀬さんの隣に立つ観測班のリーダーが顔を俯けているのを見るとそれが肯定されているような気がして急に現実味を帯び始める。
「正確には大勢で逃げるのにリスクがつくようになる」
想像より深刻ではなかったからか周囲がおおっとざわつくが、広瀬さんは左手を宙に上げてそれを制す。
「ここから先は未探索の領域になる。遠征時も未探索の場所の行動でも行方不明者、死傷者は少なからずいた。大勢で移動して、もしなんらかの事態になったとき共倒れになる恐れがある、と私たちは判断した。したがって、今いる百二十人弱を十~十一人編成の十二班に分けることを提案したい」
再び周囲は喧騒に包まれる。突然、一つの集団が十二に分かれろと言われて困惑するのは至極まともだろう。
友達や家族と一緒にいられるか、この班編成は決定しているのか自由意志が尊重されるのか、そもそもそれから先に生き延びることができるのか。今のままの方がかえって生き残れるのではないか。周りから複数の事柄が同時多発的に生まれて頭が混乱しているのが見て取れる。
かく言う俺もこれから先の生活への不安に苛まれる。
「ここから先は私たちも責任が取れない。あくまでこの編成は提案だ。好きにするといい」
それを合図に集会は終わりを告げた。今までリーダー格を担っていた数人に大勢の人が群がり胸に抱くことを次々に詰問し始める。俺を含む一部の人は今知った事実にただただ打ちのめされていて愕然としていた。
「大丈夫だよ」
ふと横から可愛らしいけれど決意を感じさせる声が響く。
「私が一緒にいてあげる」
そう言って俺のだらりと下がっている左手を握る。
俺の不安を見透かしているかのように春菜はニカッと笑い、胸のうちの靄を無根拠な自信で晴らす。ゾワッとする不思議な感覚が身を包むが、それは気持ちの悪いものではなかった。
人々からくる無数の質問に丁寧に広瀬さんらが答えた後、生存とリスクのせめぎ合いの中、班編成の形式が定まった。
絶対条件として、元遠征班の人を一人以上含む班を再構成することになった。遠征班の人は未探索の領域での行動の仕方を熟知している。また、その他の班員は自由ということに決められた。いくら遠征に行っていた人だとしても死ぬ可能性がゼロになるわけじゃないからだ。班分けはすんなりと終わって、それから班員の能力値に応じて少しばかりの異動が行われた。幸い、俺と春菜は離されることはなかった。
「この先の旅に幸あれ!」
誰かがそう叫んだ。瞬巡の静寂に見舞われて後、復唱する声が次々に上る。 『この先の旅に幸あれ!』
まばらに始まったそれは回を重ねるごとに同調し、ついには森を震撼するほど大きなものになる。今まであった重厚な雰囲気は晴れ、楽観的で賑やかな雰囲気が周囲を包む。そのムードのまま探索の準備(食料、備品などの均等割と各班の行き先)が終わり、早い時間に床に着いた。
この四週間、雨は降ったけれど、火災を鎮火するには至らなかった。それどころか火は拡がる一方だ。この火災は全く火の気がないところから始まった、と誰かが言っていたのを聞いたような気もする。ぼんやりとする脳裏に浮かんでくる思考は実を結ばず、虚空を切る。
考えても答えを得られないことを悟った俺は意識を深層に埋没させた。
日数にして二十日くらいした頃、俺たちは森の奥深くに潜り水源を探していた。…はずなのだが。
「走れ!」
遠征班の人の指示によって俺たちはひたすらあるものからの逃走を余儀なくされた。
「ボァァァァ‼︎」
黒い巨躯のそれはジグザグに逃げる俺たちを一直線に追ってくる。間にある障害物を苦にもせず、唸り声をあげて距離を縮めてくる。
俺はこれを知っている。獰猛な鎌のような爪に見覚えがあった。父の右腕を引っ掻き大きな傷跡を残したものと酷似している。
…グリズリーだ。
肉も植物も食べられるものはなんでも喰らう森の化け物。銃があれば射殺も容易だが、海上都市を放棄せざるを得なかった俺たちにはないものねだりである。
「クソッ!」
班員の誰かが声を上げる。しかし、毒づいたところでなんになるわけでも無い。現状は深刻だ。追いつかれるのも時間の問題。あっちからしたら大量の食料が目の前にあるのだ。
黙って見過ごしてもらうのは不可能だろう。バキバキと木を薙ぎ倒す音がどんどん近くなってくる。完全に目視できるようになった熊(グリズリー)は鬼の形相。もう追いつかれる…と思った時、上空からキンと声が響いた。
「全員、321で飛べ!」
突然の来訪者は俺たちにそう告げる。
「3…2…1。今だ!」
藁にもすがる思いでその声に合わせて足に力を込め、放出する。するとギリギリまで熊の顔が迫り、食いちぎられると思った瞬間、地中から大きな網が現れ熊を捕縛した。
間一髪のことに驚きのあまり立ち尽くす。胸を撫で下ろす俺は横に春菜の姿を確認し安堵する。
「お兄ちゃん…」
遥か上を見つめていた春菜は驚いた表情で呟いた。
「もう逃げられる場所がない」
それは突然の宣告だった。俺を含めた皆が疑問符を浮かべる。広瀬さんの隣に立つ観測班のリーダーが顔を俯けているのを見るとそれが肯定されているような気がして急に現実味を帯び始める。
「正確には大勢で逃げるのにリスクがつくようになる」
想像より深刻ではなかったからか周囲がおおっとざわつくが、広瀬さんは左手を宙に上げてそれを制す。
「ここから先は未探索の領域になる。遠征時も未探索の場所の行動でも行方不明者、死傷者は少なからずいた。大勢で移動して、もしなんらかの事態になったとき共倒れになる恐れがある、と私たちは判断した。したがって、今いる百二十人弱を十~十一人編成の十二班に分けることを提案したい」
再び周囲は喧騒に包まれる。突然、一つの集団が十二に分かれろと言われて困惑するのは至極まともだろう。
友達や家族と一緒にいられるか、この班編成は決定しているのか自由意志が尊重されるのか、そもそもそれから先に生き延びることができるのか。今のままの方がかえって生き残れるのではないか。周りから複数の事柄が同時多発的に生まれて頭が混乱しているのが見て取れる。
かく言う俺もこれから先の生活への不安に苛まれる。
「ここから先は私たちも責任が取れない。あくまでこの編成は提案だ。好きにするといい」
それを合図に集会は終わりを告げた。今までリーダー格を担っていた数人に大勢の人が群がり胸に抱くことを次々に詰問し始める。俺を含む一部の人は今知った事実にただただ打ちのめされていて愕然としていた。
「大丈夫だよ」
ふと横から可愛らしいけれど決意を感じさせる声が響く。
「私が一緒にいてあげる」
そう言って俺のだらりと下がっている左手を握る。
俺の不安を見透かしているかのように春菜はニカッと笑い、胸のうちの靄を無根拠な自信で晴らす。ゾワッとする不思議な感覚が身を包むが、それは気持ちの悪いものではなかった。
人々からくる無数の質問に丁寧に広瀬さんらが答えた後、生存とリスクのせめぎ合いの中、班編成の形式が定まった。
絶対条件として、元遠征班の人を一人以上含む班を再構成することになった。遠征班の人は未探索の領域での行動の仕方を熟知している。また、その他の班員は自由ということに決められた。いくら遠征に行っていた人だとしても死ぬ可能性がゼロになるわけじゃないからだ。班分けはすんなりと終わって、それから班員の能力値に応じて少しばかりの異動が行われた。幸い、俺と春菜は離されることはなかった。
「この先の旅に幸あれ!」
誰かがそう叫んだ。瞬巡の静寂に見舞われて後、復唱する声が次々に上る。 『この先の旅に幸あれ!』
まばらに始まったそれは回を重ねるごとに同調し、ついには森を震撼するほど大きなものになる。今まであった重厚な雰囲気は晴れ、楽観的で賑やかな雰囲気が周囲を包む。そのムードのまま探索の準備(食料、備品などの均等割と各班の行き先)が終わり、早い時間に床に着いた。
この四週間、雨は降ったけれど、火災を鎮火するには至らなかった。それどころか火は拡がる一方だ。この火災は全く火の気がないところから始まった、と誰かが言っていたのを聞いたような気もする。ぼんやりとする脳裏に浮かんでくる思考は実を結ばず、虚空を切る。
考えても答えを得られないことを悟った俺は意識を深層に埋没させた。
日数にして二十日くらいした頃、俺たちは森の奥深くに潜り水源を探していた。…はずなのだが。
「走れ!」
遠征班の人の指示によって俺たちはひたすらあるものからの逃走を余儀なくされた。
「ボァァァァ‼︎」
黒い巨躯のそれはジグザグに逃げる俺たちを一直線に追ってくる。間にある障害物を苦にもせず、唸り声をあげて距離を縮めてくる。
俺はこれを知っている。獰猛な鎌のような爪に見覚えがあった。父の右腕を引っ掻き大きな傷跡を残したものと酷似している。
…グリズリーだ。
肉も植物も食べられるものはなんでも喰らう森の化け物。銃があれば射殺も容易だが、海上都市を放棄せざるを得なかった俺たちにはないものねだりである。
「クソッ!」
班員の誰かが声を上げる。しかし、毒づいたところでなんになるわけでも無い。現状は深刻だ。追いつかれるのも時間の問題。あっちからしたら大量の食料が目の前にあるのだ。
黙って見過ごしてもらうのは不可能だろう。バキバキと木を薙ぎ倒す音がどんどん近くなってくる。完全に目視できるようになった熊(グリズリー)は鬼の形相。もう追いつかれる…と思った時、上空からキンと声が響いた。
「全員、321で飛べ!」
突然の来訪者は俺たちにそう告げる。
「3…2…1。今だ!」
藁にもすがる思いでその声に合わせて足に力を込め、放出する。するとギリギリまで熊の顔が迫り、食いちぎられると思った瞬間、地中から大きな網が現れ熊を捕縛した。
間一髪のことに驚きのあまり立ち尽くす。胸を撫で下ろす俺は横に春菜の姿を確認し安堵する。
「お兄ちゃん…」
遥か上を見つめていた春菜は驚いた表情で呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる