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美醜 ⒍
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「美しさ」
それは見た目のことを言う。
それは内面のことを言う。
それは絶対の幸福を言う。
─────私にとってそれは、全てだった。
私を内側から構成する、全てだった。
美しい姉。私の愛するお姉ちゃん。
彼女の美しさは、私の心を虜にし、私の世界を作り上げた。
美しさが如何に重要で、如何に影響するか。
中身の美しさなんて、気遣ったところで誰も見ていない。それは、私が生きてきた中で体験として刻まれた。
優しさが相手に響くのは、美しいという前提が存在するからだ。
美しいものに価値がある。
美しくなければ息をしないのも同然。
私は知っている。
この世界で生きるには何が重要なのか。
─────ははっ…。
空笑いを漏らす。
「結局、あなたみたいにはなれなかったよ、お姉ちゃん。」
どれだけ強く望んで、渇望しても、私は姉のようにはなれなかった。
姉と同等の美しさを手に入れても尚、私の心は満たされず、ただ虚しさを感じさせる。
何故か。
知っている。分からないふりをしていることを、知っている。
でも、それを認めてしまったら、私の人生に意味がなくなってしまう。
「どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。」
華奢な細い肩を下げ、私は息を吐く。
「私が望んだことなのに、ちっとも嬉しくないわ。」
本当の美しさは、簡単には手に入らない。
多くの経験を経て、何時も笑顔を絶やさず、自分の人生を誇れる生き方をした者だけが享受することができるのだ。
つまりそれは、内面から滲み出る美しさ。
人の努力は、美しさとなり、その人を彩るのだ。
姉は優しかった。
いくつもの羨望の眼差しが彼女に注がれようと、彼女は実に謙虚で、自分を持っている人だった。
私のことを一人の人間として見てくれた。見た目の醜さではなく、人としての美しさを見てくれていた。
何故気づかなかったのだろう。
私は姉の、そんなところに美しさを感じていたのだ。
「もう、遅いかな。今更頑張ったって、無駄なのかな。」
鏡の前で、一人呟く。
────「人は、いつだって変われるものよ。」
声が、聴こえた。
いや、正確にはこの部屋には私しかいないから、聴こえたような気がしただけなのだろう。
でもあれは、姉の声だ。
その言葉を口の中で転がしながら、私は幼い頃の姉との会話を思い出した。
──────「私、自分のことが嫌いなの。」
唐突に話し始めた姉に、私は驚き、目を見開いた。
「お姉ちゃんみたいな完璧な女の子でも、自分のことが嫌いになるの?」
姉はクスッと笑って、「あなたにはそんなふうに見えてるのね。…でもね。」と話を続けた。
「私ね、心が黒くなっちゃうことがあるの。心が黒くなるとね、自分のことが嫌で嫌で堪らなくなるの。そんな時、自分の気持ちをコントロールしようとするの。でも、上手くいかないんだ。」苦笑混じりにこちらをみる姉は、珍しく頼りなかった。
「私もだよ!私もね、お姉ちゃんみたいに自分のことが嫌いって思うこと、あるよ!だからさ。」
「だから…?」
「一緒に変わろうよ!」
「変わる?…変わるか…。いいわね!そうしましょう!」
幼心に姉を励まそうとした私に、具体的な「変わる」の意味は分からなかったが、あの言葉を掛けたのは姉ではなく私だったのだ。
それから何かある度に、姉は私にあの言葉を掛けてくれた。
「変わろう。」
はっきりと声に出す。
今からでも遅くはない。
私は自分に誇りを持てるように、生きる。
鏡に映った私の顔は、どこかすっきりとしていた。
完
それは見た目のことを言う。
それは内面のことを言う。
それは絶対の幸福を言う。
─────私にとってそれは、全てだった。
私を内側から構成する、全てだった。
美しい姉。私の愛するお姉ちゃん。
彼女の美しさは、私の心を虜にし、私の世界を作り上げた。
美しさが如何に重要で、如何に影響するか。
中身の美しさなんて、気遣ったところで誰も見ていない。それは、私が生きてきた中で体験として刻まれた。
優しさが相手に響くのは、美しいという前提が存在するからだ。
美しいものに価値がある。
美しくなければ息をしないのも同然。
私は知っている。
この世界で生きるには何が重要なのか。
─────ははっ…。
空笑いを漏らす。
「結局、あなたみたいにはなれなかったよ、お姉ちゃん。」
どれだけ強く望んで、渇望しても、私は姉のようにはなれなかった。
姉と同等の美しさを手に入れても尚、私の心は満たされず、ただ虚しさを感じさせる。
何故か。
知っている。分からないふりをしていることを、知っている。
でも、それを認めてしまったら、私の人生に意味がなくなってしまう。
「どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。」
華奢な細い肩を下げ、私は息を吐く。
「私が望んだことなのに、ちっとも嬉しくないわ。」
本当の美しさは、簡単には手に入らない。
多くの経験を経て、何時も笑顔を絶やさず、自分の人生を誇れる生き方をした者だけが享受することができるのだ。
つまりそれは、内面から滲み出る美しさ。
人の努力は、美しさとなり、その人を彩るのだ。
姉は優しかった。
いくつもの羨望の眼差しが彼女に注がれようと、彼女は実に謙虚で、自分を持っている人だった。
私のことを一人の人間として見てくれた。見た目の醜さではなく、人としての美しさを見てくれていた。
何故気づかなかったのだろう。
私は姉の、そんなところに美しさを感じていたのだ。
「もう、遅いかな。今更頑張ったって、無駄なのかな。」
鏡の前で、一人呟く。
────「人は、いつだって変われるものよ。」
声が、聴こえた。
いや、正確にはこの部屋には私しかいないから、聴こえたような気がしただけなのだろう。
でもあれは、姉の声だ。
その言葉を口の中で転がしながら、私は幼い頃の姉との会話を思い出した。
──────「私、自分のことが嫌いなの。」
唐突に話し始めた姉に、私は驚き、目を見開いた。
「お姉ちゃんみたいな完璧な女の子でも、自分のことが嫌いになるの?」
姉はクスッと笑って、「あなたにはそんなふうに見えてるのね。…でもね。」と話を続けた。
「私ね、心が黒くなっちゃうことがあるの。心が黒くなるとね、自分のことが嫌で嫌で堪らなくなるの。そんな時、自分の気持ちをコントロールしようとするの。でも、上手くいかないんだ。」苦笑混じりにこちらをみる姉は、珍しく頼りなかった。
「私もだよ!私もね、お姉ちゃんみたいに自分のことが嫌いって思うこと、あるよ!だからさ。」
「だから…?」
「一緒に変わろうよ!」
「変わる?…変わるか…。いいわね!そうしましょう!」
幼心に姉を励まそうとした私に、具体的な「変わる」の意味は分からなかったが、あの言葉を掛けたのは姉ではなく私だったのだ。
それから何かある度に、姉は私にあの言葉を掛けてくれた。
「変わろう。」
はっきりと声に出す。
今からでも遅くはない。
私は自分に誇りを持てるように、生きる。
鏡に映った私の顔は、どこかすっきりとしていた。
完
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