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第一章 箱庭の住人
曙さんの部屋で②
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「あ、お茶くみは僕の仕事なんじゃ……。管理人なのに……」
音霧さんを微笑ましく見送って着席してから、それが自分の仕事だったことに気付いて反省する。
そんな僕に一番に言葉を掛けてきたのは向かい側に座る曙さんだった。
「ボクは別にいいと思いますけど。遊くん本人が乗り気ですし」
「そうですね。むしろ遊ちゃんのやりたい事を奪っちゃうほうが良くないかも? だから五十嵐さんは気にしなくてオーケーです」
曙さんの意見に、僕の隣に座った星寧も同意する。
「わかりました。今回は気にしないことにします」
僕がそう言うと、星寧がにこやかに頷いた。
僕は言葉を続けた。
「まあ、管理人の仕事はしっかりとするつもりですので。まずはみなさんの生活習慣が知りたいです。いつ起きて、いつご飯を食べるのかとか」
二人に問いかけると、曙さんが星寧にアイコンタクトを送った。
「では、私から説明させていただきますね」
星寧がアイコンタクトの意図を汲み取って口を開く。
「まず、朝起きる時間ですが、これはみんなまちまちです。大体は私が一番早く……六時ごろに起きて、遊ちゃんが一番遅く……大体十時ごろまでに起きてきます。朝食は各々自由に食べて、昼食は十二時、夕食は七時頃に集まって食べてます。お風呂は十時までに全員が済ませてますので、それ以降でしたら五十嵐さんが大浴場を使って頂いても問題ないと思います」
星寧を受けて、僕は言葉を返す。
「なるほど……では、朝食は作り置きできるものを準備しておきます。昼食と夕食は出来立ての料理をみんなで食べましょう。浴場の清掃も明るいうちに済ませておきます」
「よろしくお願いします、五十嵐さん」
星寧が礼儀正しく一礼し、それに合わせて曙さんも軽く頭を下げた。
「おっまたせ~!」
ちょうど話題に区切りがついたタイミングで元気な声がした。
そちらに目を向けると、部屋の入口に亜麻色髪のメイドさん――音霧さんが立っていた。
彼女が手にしている銀のお盆には、四人分のカップ。
足元に散らばっている本の山を避けながら、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
と。
不意に、音霧さんの体がぐらりと揺らいだ。
肩にかかる長さの髪が浮き上がるように波打つ。
次の瞬間。
ガッシャーンッッ!!!
音霧さんが床にダイブし、同時に放り出されたカップが激しい音を響かせた。
「音霧さんっ!」
「ちょ、遊ちゃんっ、大丈夫⁉」
「あっちゅいっ‼」
心配の声二つと、悲鳴一つ。
悲鳴は曙さんのものだった。
カップの紅茶がもろにかかってしまったのだ。
僕は咄嗟にテーブルの端にあった布巾をつかみ、曙さんの元へ向かう。
視界の端で音霧さんが起き上がり、鼻を抑えていた。
曙さんにかかった紅茶を急いで拭き取る。
幸い、紅茶がかかったのは白衣の上からだけで、直接肌に触れることは無かったようだ。
「拭いてくれてありがとうございます。おかげで助かりました、管理人さん」
拭き終わった後、曙さんはそうお礼を言った。
それから、でもまだ熱い……と、白衣の前部を手で引っ張り、濡れた部分が肌につかないようにした。
「大事にならなくてよかった……」
僕はほっと一息つく。
ふと。そこで、見えた。見えてしまった。
白衣の隙間から、控えめな膨らみとその頂に佇む桜色が。
その瞬間、頭の中が一瞬でパニックになってしまう。
「あ、あああ曙さんっ……なんで何も着てないの⁉」
「なんでって……ボクはいつもこ、う……」
次第に鈍くなっていく曙さんの解答。
彼女は途中で何かに気付いたかのようにハッとして、それから見る見るうちに小さな顔を真っ赤にさせた。
「管理人さん、男性……う、あぁあああぁぁっっ‼」
曙さんはこれまでに無い程に取り乱した叫びをあげ、白衣を引っ張っていた両手を離す。
「あぁああ、あちゅいぃっ!」
再び熱さに見舞われてしまう曙さん。
「あ、あの、僕後ろ向いてるんでっ!」
言葉通り僕は後ろを向き、曙さんは窮地を脱する。
他の二人が僕らのやり取りを見ていた。
星寧は微妙な表情、音霧さんは涙目で。
「あー、あとは私が……五十嵐さんは遊ちゃんをお願いします」
星寧の提案に頷き、役割を交代する。
「音霧さん、大丈夫だった?」
「お鼻が痛いけど、遊、へーきだよっ!」
元気に答える音霧さん。
実際、鼻の頭が赤くなっているだけで、他に目立った外傷はないようだ。
「うわっ、すっごい濡れちゃってますね……白衣、脱いじゃいましょうか。私、替えの白衣取ってくるので、鍵貸してください」
「手間をかけるね、星寧くん」
背後でそんなやり取りが聞こえてきた。
それから、星寧が一度部屋を出ていく。
直後、背後から衣擦れの音がした。
「わっ、すっぽんぽん」
目の前の音霧さんが、コミカルな驚き顔になった。
どうやら、僕の後ろで曙さんは白衣を脱いだらしい。
……というか、すっぽんぽんってもしかして下も履いてないのか?
年頃の男としては振り返りたい衝動に駆られてしまうが、それを死ぬ気で我慢する。
やがて、星寧が真っ白な白衣を手にして戻ってきた。
「はい、曙さん。とってきましたよ」
「ありがとう、星寧くん。……ん、これでよし」
曙さんが新しい白衣に着替え、騒動はとりあえずひと段落した。
音霧さんを微笑ましく見送って着席してから、それが自分の仕事だったことに気付いて反省する。
そんな僕に一番に言葉を掛けてきたのは向かい側に座る曙さんだった。
「ボクは別にいいと思いますけど。遊くん本人が乗り気ですし」
「そうですね。むしろ遊ちゃんのやりたい事を奪っちゃうほうが良くないかも? だから五十嵐さんは気にしなくてオーケーです」
曙さんの意見に、僕の隣に座った星寧も同意する。
「わかりました。今回は気にしないことにします」
僕がそう言うと、星寧がにこやかに頷いた。
僕は言葉を続けた。
「まあ、管理人の仕事はしっかりとするつもりですので。まずはみなさんの生活習慣が知りたいです。いつ起きて、いつご飯を食べるのかとか」
二人に問いかけると、曙さんが星寧にアイコンタクトを送った。
「では、私から説明させていただきますね」
星寧がアイコンタクトの意図を汲み取って口を開く。
「まず、朝起きる時間ですが、これはみんなまちまちです。大体は私が一番早く……六時ごろに起きて、遊ちゃんが一番遅く……大体十時ごろまでに起きてきます。朝食は各々自由に食べて、昼食は十二時、夕食は七時頃に集まって食べてます。お風呂は十時までに全員が済ませてますので、それ以降でしたら五十嵐さんが大浴場を使って頂いても問題ないと思います」
星寧を受けて、僕は言葉を返す。
「なるほど……では、朝食は作り置きできるものを準備しておきます。昼食と夕食は出来立ての料理をみんなで食べましょう。浴場の清掃も明るいうちに済ませておきます」
「よろしくお願いします、五十嵐さん」
星寧が礼儀正しく一礼し、それに合わせて曙さんも軽く頭を下げた。
「おっまたせ~!」
ちょうど話題に区切りがついたタイミングで元気な声がした。
そちらに目を向けると、部屋の入口に亜麻色髪のメイドさん――音霧さんが立っていた。
彼女が手にしている銀のお盆には、四人分のカップ。
足元に散らばっている本の山を避けながら、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
と。
不意に、音霧さんの体がぐらりと揺らいだ。
肩にかかる長さの髪が浮き上がるように波打つ。
次の瞬間。
ガッシャーンッッ!!!
音霧さんが床にダイブし、同時に放り出されたカップが激しい音を響かせた。
「音霧さんっ!」
「ちょ、遊ちゃんっ、大丈夫⁉」
「あっちゅいっ‼」
心配の声二つと、悲鳴一つ。
悲鳴は曙さんのものだった。
カップの紅茶がもろにかかってしまったのだ。
僕は咄嗟にテーブルの端にあった布巾をつかみ、曙さんの元へ向かう。
視界の端で音霧さんが起き上がり、鼻を抑えていた。
曙さんにかかった紅茶を急いで拭き取る。
幸い、紅茶がかかったのは白衣の上からだけで、直接肌に触れることは無かったようだ。
「拭いてくれてありがとうございます。おかげで助かりました、管理人さん」
拭き終わった後、曙さんはそうお礼を言った。
それから、でもまだ熱い……と、白衣の前部を手で引っ張り、濡れた部分が肌につかないようにした。
「大事にならなくてよかった……」
僕はほっと一息つく。
ふと。そこで、見えた。見えてしまった。
白衣の隙間から、控えめな膨らみとその頂に佇む桜色が。
その瞬間、頭の中が一瞬でパニックになってしまう。
「あ、あああ曙さんっ……なんで何も着てないの⁉」
「なんでって……ボクはいつもこ、う……」
次第に鈍くなっていく曙さんの解答。
彼女は途中で何かに気付いたかのようにハッとして、それから見る見るうちに小さな顔を真っ赤にさせた。
「管理人さん、男性……う、あぁあああぁぁっっ‼」
曙さんはこれまでに無い程に取り乱した叫びをあげ、白衣を引っ張っていた両手を離す。
「あぁああ、あちゅいぃっ!」
再び熱さに見舞われてしまう曙さん。
「あ、あの、僕後ろ向いてるんでっ!」
言葉通り僕は後ろを向き、曙さんは窮地を脱する。
他の二人が僕らのやり取りを見ていた。
星寧は微妙な表情、音霧さんは涙目で。
「あー、あとは私が……五十嵐さんは遊ちゃんをお願いします」
星寧の提案に頷き、役割を交代する。
「音霧さん、大丈夫だった?」
「お鼻が痛いけど、遊、へーきだよっ!」
元気に答える音霧さん。
実際、鼻の頭が赤くなっているだけで、他に目立った外傷はないようだ。
「うわっ、すっごい濡れちゃってますね……白衣、脱いじゃいましょうか。私、替えの白衣取ってくるので、鍵貸してください」
「手間をかけるね、星寧くん」
背後でそんなやり取りが聞こえてきた。
それから、星寧が一度部屋を出ていく。
直後、背後から衣擦れの音がした。
「わっ、すっぽんぽん」
目の前の音霧さんが、コミカルな驚き顔になった。
どうやら、僕の後ろで曙さんは白衣を脱いだらしい。
……というか、すっぽんぽんってもしかして下も履いてないのか?
年頃の男としては振り返りたい衝動に駆られてしまうが、それを死ぬ気で我慢する。
やがて、星寧が真っ白な白衣を手にして戻ってきた。
「はい、曙さん。とってきましたよ」
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