箱庭少女~山奥の屋敷で傷付いた少女たちと一緒に暮らすラブコメ~

深山ナオ

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第二章 その一歩は何をもたらす

遊さんのお願い②

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「今日はハンバーグを作ってみましょう」
「ハンバーグ! 家庭料理の定番ですね。遊、がんばりますっ!」

 両拳をギュッと握ってやる気満々の遊さん。
 
「では、まずは玉ねぎの準備です。皮をむいて、みじん切りにしましょう」
「わかりましたっ、シューくん先生っ!」

 元気に返事をして、玉ねぎの皮をむきにかかる遊さん。
 この工程は特に教えることも無いので、その間に僕はお米を研いでおく。
 
「皮、むき終わりましたね。じゃ、次はそれをみじん切りにしてみましょう。みじん切りの加減ですが、僕は細かくなるまでみじん切りにした方がいいと思ってます。粗いと玉ねぎ感が強くなりますので。まあ、そこはお好みで」
「そうなんですね。では、チョーみじん切りにしますっ」
「はい。あ、手は猫の手で」 
「猫の手はできますよ、にゃあにゃあ」

 言いながら、招き猫のようなポーズをとる遊さん。
 なにそれ、かわいい。

 思わず口元が緩み、そんな僕の様子を見た遊さんがクスリと笑ってから玉ねぎと向かい合う。

 そして、表情を引き締めた後、ゆっくりと包丁を入れ始めた。
 トン、トン、トン、トン。

 手付きは少々ぎこちないが、慣れればスムーズになっていくだろう。

 と、温かい目で見守っていたら。

「し~み~るぅ~っ」

 遊さんが悲鳴をあげ始めた。 

「……それは玉ねぎを切る者の宿命ですから……頑張って」
「はいぃ~」

 遊さんは、瞳をうるませながらも手を動かし続ける。

 そして……。

「で、できましたぁ~!」

 玉ねぎのみじん切りを終えた遊さんが、達成感に満ちた声を上げる。

 まな板の上の玉ねぎを確認すると、キチンと細かくなっていた。

「お疲れ様です。これが美味しいハンバーグへの第一歩です」
「おいしいハンバーグ……ごくり……」

 その味を想像したのか、遊さんが喉を鳴らす。
 そして、視線で次の工程は? と問いかけてくる。

「次は玉ねぎをいためます……が、レンジでもできますので、今日はレンジでやりましょう」
「はいっ!」
「では、みじん切りにした玉ねぎを容器に入れて、サラダ油を加えて混ぜます」
「……まぜまぜっ」
「混ぜたら、ラップをかけてレンジで三分。六百ワットで」
「六百ワットで三分っと」

 遊さんがレンジに容器を入れ、僕の指示を復唱しながら設定し、スタートボタンを押す。

 待っている間に、牛乳とパン粉、き卵、塩、そしてウスターソースの準備をしておく。
 そして、三分後……。

「三分チンしたものがこちらですっ」

 料理番組みたいなことを言いながら、遊さんが容器を取り出す。
 玉ねぎはいい感じにしんなりしている。

「ソース用にちょっとだけ別にして……遊さん、ここに牛乳とパン粉入れましょう」
「あいあいさー!」
「そしたら軽く混ぜ合わせて、玉ねぎが冷めたら卵を入れてまた混ぜる」
「はいっ、できました!」
「よし。それじゃあ、お肉出しますので、そこに塩とウスターソースを入れてください」

 冷蔵庫から合い挽き肉を出して遊さんに渡す。
 遊さんはそれをボールに開けて、取り分けておいた塩とウスターソースを順々に投入した。

「それを手で握り込むように混ぜて馴染ませます。お肉が温かくならないように手早くやるのがポイントです」
「手早くギュッ、ギュッと……」
「いいですね。では、そこに玉ねぎを入れて同じように混ぜましょう」
「同じようにギュッ、ギュッと……こんな感じです?」
「もうちょっと混ぜてください。ひき肉がけば立ってるような見た目になるまでです」
「ギュッ、ギュッ……これでどうですかっ?」
「オーケーです。それでは、丸めて形を作っていきましょうか」

 全部で五個作るので、まずは一つを手本として作ってみせる。

 適量手に取って丸め、それから空気抜きのために両手でキャッチボールをする。
 
「三十回くらいやって……表面に隙間が出来てなければ大丈夫です」
「ふむふむ……」

 真剣に頷いた後、遊さんは僕がやったのを真似て、ハンバーグを成形していく。

「この空気抜きが重要なのです」
「重要なのですか~」
「厚さは二センチくらいにしましょう」
「はいっ!」

 ポイントを話しつつ、二人で五個のハンバーグの種を作り終える。

「では、いよいよ焼きましょう」
「おおーっ!」

 待ってましたとばかりに、遊さんはテンションを上げる。
 
「まずはサラダ油を引いて、ハンバーグを並べましょう」
「はいっ!」
「並べたら、火を点けましょう。中火で両面に焼き色を付けます」
「中火で、焼き色っと……」

 点火して少しするとハンバーグがジュ―っと音を立て始める。

 それをじっと見守りながら、遊さんはひっくり返す時を待つ。

「もういいかな?」
「はい。そろそろひっくり返しましょう」

 僕の返答に遊さんは無言で頷く。
 それから慎重な手つきでフライ返しを操り、ハンバーグをひっくり返していく。

 表になった面には、しっかりと焼き色が付いていた。これなら上手くいきそうだ。

「ふう……全部返せましたぁ」
「よくできました。では、少し焼いた後、水を入れて蒸し焼きにしましょう」

 一分程焼いた後、水を投入し、ふたをする。

「蒸し焼きにすることで中まで火が通るからね。これもポイント」
「なるほどですっ」
「五分経ったら火を止めて、そのまま少し蒸らしましょう」
「はいっ!」
「焼けたらすぐにソースを作りますので、材料を準備しておきます」

 僕の指示に従って、遊さんはソースの材料を準備していく。

 その間に五分経ち、火を止めて蒸らしに入り……。

「おぉ~! めっちゃおいしそうですっ!」

 蓋を開けた遊さんが歓喜の声を上げる。
 ハンバーグはふっくらジューシーに焼けていた。大成功だ。

「ハンバーグをお皿に盛りつけて……そしたらフライパンにソースの材料入れて、中火でとろみがつくまで煮込んでください」
「中火でとろみがつくまで……」
 
 間もなくしてソースが完成し、ハンバーグにかけ……。

「かんせーいっ! いえーい!」

 遊さんが、喜びのあまりハイタッチを求めてきた。
 それに応じて手を打ち合わせると、パンっと気持ちのいい音が鳴り響いた。

「ばっちりできましたね。お疲れ様です」

 僕がねぎらいの言葉をかけると、遊さんは感涙に瞳を潤ませ……。

「シューくん先生のおかげで、遊、ハンバーグをつくれるようになりましたっ! ありがとっ!」

 その素直な感謝に心が温かくなる。
 ああ、この子がちゃんとハンバーグを作れるようになって良かったな。
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