箱庭少女~山奥の屋敷で傷付いた少女たちと一緒に暮らすラブコメ~

深山ナオ

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第二章 その一歩は何をもたらす

限定プリンと学生証②

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「ありがとうございました~」

 店員さんの挨拶を背に、店を出る。
 手に限定プリンが入った袋を下げて。

「最後の五個だったな」

 そう、僥倖ぎょうこうにも僕が買った分が最後の五つだったのだ。
 一人一つ。屋敷のみんなで食べることができる。
 
 僕は若干歩調を弾ませて駐車場へと戻る。
 しかし、その途中。

「ひゃっ!」
「うわっ!」

 悲鳴、そして、胸部への衝撃。
 曲がり角で人とぶつかってしまった。
 
 相手が走っていたからかなりの衝撃だったが、僕はなんとかその場で踏ん張る。

 一方、相手は倒れ込み尻餅をついてしまった。

 正面衝突した反動で後ろ側に吹っ飛んだ相手は、両脚を盛大におっぴろげていて、黒ストッキングの下に白い下着が透けていた。

 そう、ぶつかった相手は女の子。
 着ているセーラー服は、県内一の偏差値を誇る女子校のものだった。

「大丈夫ですか――」

 安否確認の言葉を口にしかけたところで息を飲んだ。女の子が泣いていたから。 

 赤くなった目。
 頬を伝い落ちる雫。

 それらが僕を慌てさせる。

「だ、大丈夫⁉」
「すみません……こ、これは違くて……平気です、平気ですからっ」

 女の子は上体を起こした後、セーラー服の袖で涙を拭う。
 泣き声を堪えながら何度も何度も拭う。
 彼女の長い黒髪が波打っていた。

 僕はどうすればいいかわからない。
 彼女の見た目に怪我がないのだけが救いだ。

 泣いているところを見つめているのも良くないと思い、アスファルトの上に散らばる彼女の荷物を拾い集めることにした。
 鞄の口が開いていたらしく転んだ拍子に散らばってしまっていた。

 教科書、ノート、ペンケース――そして、学生証。
 
「あれ……?」

 ふと目に入った学生証の文字に、思わず声が漏れた。
 
 希ノ崎星寧きのさきあかね……?

 屋敷で一緒に暮らしている優等生な彼女と同じ名前。

 漢字まで一緒だ。

 珍しそうな名前なのに、同姓同名とは……すごい偶然もあるものだ。

 そう思いながら、学生証も鞄の中に入れておく。

 散らばっていたものを集め終え、女の子に鞄を渡す。

 女の子はアスファルトの上に座り込んだまま。
 涙こそ止まっているものの、目は真っ赤だった。

「す、すみません……ぶつかった挙句、お手を煩わせてしまって……」

 女の子は立ち上がって頭を下げる。
 長い黒髪がさらりと靡いた。

「顔を上げてください。それより、お怪我は……」
「大丈夫です。その……泣いちゃったのも、ぶつかったからじゃなくて、その前からで……」
「その前とは?」

 僕の問いかけに女の子は少しためらってから口を開いた。

「……実は、学校で嫌なことがあって……」
「なるほど……。大変だったんですね」

 そういえば、今は平日の午前中。
 学校の時間真っただ中なわけで。
 
 この子は学校で嫌なことがあって、泣きながら走って逃げて……そして、ここで僕とぶつかった。

 そんな感じだろうと推察。
 
 僕は手に下げた袋の中からプリンを一つ取り出し、女の子に差し出した。

「プリン。先程そこのお店で購入したものです」
「え、や、でも……」
「遠慮しないでください。まだ四つもありますので」
 
 言いながら、袋を持ち上げてみせる。

「なら……ありがとうございます」
 
 女の子はおずおずと受け取ってくれた。
 彼女の表情が少し和らいだのに気付いて、僕は嬉しくなった。

 それから彼女と別れ、駐車場に戻り、屋敷へと戻った。
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