箱庭少女~山奥の屋敷で傷付いた少女たちと一緒に暮らすラブコメ~

深山ナオ

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第二章 その一歩は何をもたらす

遊さんの過去②

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 重たい足取りで、病室へと戻る。
 遊さんの容体に変化はない。
 遊さん、早く目覚めてくれ。
 また元の、明るい笑顔を見せて欲しいんだ……。

 
 祈りを胸に病院へと通い続ける。
 病室の扉を開けるとき、微かな期待を抱く。
 面会時間の終わりには胸が詰まりそうになりながらドアを閉める。
 そんな日々が二週間続いた。

 そして。

「ん……」

 その小さな呻きは遊さんの口から出たものだった。

「遊さん!」

 僕は慌てて呼びかける。

「遊さん、聞こえますか! 遊さん‼」

 何度も何度も呼びかけた。必死に呼びかけた。

 すると……。
 呼びかけが届いたのか、彼女の瞼がピクリと動き――ゆっくりと瞼が持ち上がった。

 琥珀色の瞳は無機質に照明を反射するだけだったが、少しずつ焦点を結び始める。

「シュー……くん?」

 小さな声。けれど、二週間眠り続けた割にはまとも発声だ。
 
「目が覚めた……よかった、遊さん」

 僕は心の底から息を吐きだす。
 それだけで、体を蝕んでいた悪いものが抜け出ていくかのようだ。

「大丈夫? どこか痛いところはない? あ、ナースコール押すから――」
「――思い出したんだ」

 声が僕の言葉尻に被さる。遊さんの声。暗くて重い、今までに聞いたことのない声だ。

 遊さん? 
 問いかけたつもりだったが、音にならない。
 遊さんは上体を起こして独り、言葉を続ける。

「遊ね、思い出したんだ……思い出したんだよ、全部……」

 聞くだけで胸が苦しくなるほどの悲痛な声。

「今はいい!」

 僕は慌てて遮った。
 
「今はいいから、ゆっくり休もう」

 
 けれど、遊さんは首をゆっくり横に振る。

「……あの日、遊はいつもみたいに遊びに出かけてた。パパとママは作曲家と歌手。公演の日やテレビの日以外は家にいたの。音楽を作って、練習して……いつもそうだったから……遊は邪魔しないように、外で過ごしてた。けど、あの日、帰ったら燃えてたの……家が燃えてたの。それを見た瞬間、遊、なにも考えられなくなっちゃった。頭の中まで燃えちゃったみたいに熱くて、わからなくて……とにかく何もわからなくて……。ここは遊のおうちじゃないって、自分に言い聞かせた――何度も何度も自分に言い聞かせたの。そしたらさ、本当におうちがどこかわからなくなっちゃって、遊はそこから逃げたんだ」
「もういい……もういいんだ、遊さん」

 僕は遊さんの手を握って、懇願するように投げかけた。
 けれど、遊さんの言葉は止まらない。

「これは遊の罪なんだ。全部無かったことにしたの――あの日の炎も、パパとママの死も……全部無かったことにしたんだよ。忘却。それが、それこそが遊の罪。みんな忘れて、自分だけ新しい場所でのうのうと生きてた……それは許されるのかな?」
「遊さんが悪いことなんてない! これは全部犯人のせいなんだから‼」

 僕はむきになって応えていた。
 悪いのは犯人でしかない。それは当然だろ?

 しかし、遊さんは頷いてはくれなかった。

「それでも……忘れることだけはダメだっただよ。残された人にできるのは、覚えていることだけなんだから」
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