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前半戦

格上

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「堂又くん!今日もいっぱい教えてね!それじゃーまた後でねー!」

太郎…あいつ4年だから階違うのに、練習ある日はいつも俺に教えて!って約束してくるの可愛いな。

ランドセルを背負う6年生の姿の中に1人、4年生の太郎がいる。もう見慣れた光景だ。

ん?でもあいつ、なんで友達と帰らねえんだろ。

同じスポ少のみんなは基本、俺が先にと言わんばかりに校庭を使って自主練をするから、まあスポ少のみんなと帰らないのもわからないでもない。でも…

まあ、早く自主練したいんだよな!

「どーまったさんw」

俺が太郎のことを心配したのはこいつらがいるからだ。というか、こいつらみたいなやつらが4年にもいないかどうかが怖いのだ。

「聞いたよ?南高山に引き分けしたんでしょ?wびっくりしたよw」

こいつ、山雅幸一やまがこういちは、最初はあの超有名クラブのユースチームの、箱田サッカークラブの選考に落ちたことを馬鹿にするだけだったが、最近はスポ少の事チーム自体を馬鹿にしてくるようになった。

幸一の横には真矢《しんや》と慶介けいすけが並んでいる。全員、箱田サッカークラブに1発合格を果たした有望株だ。

「引き分けたよ。それが?」

「随分頑張ってるよねー。新しい監督素人っぽいらしいじゃんw」

「やめろよ幸一。」

「うっさいな慶介。ちょっとしたいじりだよ。」

「もう知らねえよ」

「あらら。慶介ちゃんバイバーイw」

「慶介くん…」

幸一と真矢は小学校低学年の時、サッカー仲間として一緒に頑張っているうちに仲良くなった。だが、俺が選考に落ちてからは幸一と真矢の態度はまるっきり変わって、その頃に慶介もサッカーをし始めた。慶介にはとんでもない才能があったようだが、2人、俺ら3人は違う。3人で一生懸命同じくらい努力したってのに、なんでこうも道が違ってしまったか。

気付けば、仲が良かったはずの俺らの関係が崩れ始めたのが原因で、慶介すらも仲が悪くなってしまった。

「おい、いつものやんぞ。」

うっ。いやだいやだ、それだけは。

俺たち3人は体育館のトイレへと向かう。小学校の放課後は基本的に体育館は使われていない。トイレなんて尚更だ。誰もいない冷たいトイレの中に入ると、いつも身震いをする

「おらっ!」

ガンッ!

紙を破る?壁を破る?本気度は、何かを壊すくらいだ。幸一と真矢は俺の腹に向かって蹴りを入れる。
傷がバレないようにと、服で隠れる部分にだけ集中的に狙う。

ガン!
ガンッ!
ドンっ!

「調子乗んなよな。まじでw南高山に引き分けしたからって俺たちには足元にも及ばない。だってクソ雑魚のお前がいるからなぁーw」

「うわダッサこいつ、なにこの顔、笑うわw」

キーンコーン…

チャイムだ。そろそろ行かなきゃ、太郎が待ってる。

「約束があるから、そろそろいいか?」

「どの口が言ってんだよ。よーく俺たちには話しかけられるなw落ちたくせに。」

「調子乗んなっていっただろうがよっ!」

ゴンッ!

あいつらがトイレから居なくなったのは校庭でやっていた練習が終わる間近だった。

 ◆
「来た!堂又くん!」

太郎がそう言うと、練習中だったのにも関わらずみんながすぐにボールから離れて駆け寄って来た

「どうしたんだ?堂又。」

「監督。すいません、実はちょっと体調が悪くて。」

「そうだったのかわかった!ゆっくり休め!」

「はい!」

信じられないほどにあっさり騙せてしまうな。。。なんだか罪悪感がある。

「うぉっ、」

「堂又くん!ちょっとでいいからサッカー教えてよ!」

「太郎、お前ほんと俺のこと好きなんだな、ありがとなぁ」

「それは先生もキャプテンもみんな同じだよ!」

「あーっと、ごめんね2人」

「蒼、どした?」

「練習時間終わり…」

「えええ、まじかよおおおお」

蒼の気まずそうな声を聞いて、太郎がよれよれと腰を抜かしたように地面に倒れた。

「ごめん。太郎、また明日やろ?」

「うん、」

「ミーティングだ。まずな、今日もお疲れ様。堂又が居なかったのは残念だったが、仕方ない。切り替えて、県大会の話をしようと思う!」

「きたああ!やったあああああ!」

みんなが校庭に響く大声を出して喜んだ。

「1回戦はなんと、南高山小学校ッ!」

「えええっ!?まじかよ!楽しみ!」

「2回戦、当たる可能性があるのは、隣町のスポ少、雫岩スポーツ少年団!そして、超強豪の箱田サッカークラブだ!」

「箱田…、やば、終わったじゃん。なにそれ。」

っ…!終わった、終わった?

「なんでだよ!なんで終わったなんて言えるんだ。戦ってみなきゃわかんないだろ。」

「え、、堂又くん?」

思わず立ち上がって、5年の真に怒ってしまった。

「ちょっと、落ち着いて。そんなに言わなくてもいいよ!」

「すいません。」

 ◆
「堂又くんは悪くないよ。言いたいこと言ったんでしょ?なら別に良いだろ。終わったなんて言う方がおかしいと思うよ。」

「違う。俺が悪いんだよ。俺が言いすぎたんだ」

「そうか?」

「…それで?どこに居たの?」

「体育館の外でこっそり見てた。」

「なんで俺なんかと帰ってくれんの?」

「まーたそうやって!自信持てよもっと!チームのみんなも堂又くんが居ない間でも堂又くんのプレー真似しようと頑張って練習してたよ?」

「俺のプレーを真似して…。」

「なあ!あいつらの言葉なんか無視していいからな!俺も、逃げちゃってごめんな。臆病だからさ。でもあいつらの言葉はやっぱ聞かなくていい!」

「う、うん。」

「箱田サッカークラブがなんだよ!あいつら、油断してやがる。だって聞けよ!あいつらまともに練習もしねえんだぜ!そんなやつらに、本当に堂又が、チームが負けるって思ってんのか?」

「お前が言うのもおかしいけどなw」

「それもそうだwでもな、ちなみに俺は1回戦も勝つし、2回戦で堂又たちと当たっても勝つ気満々だよ。だからそっちもいっぱい練習してくれ!」

「うん。ありがとう!」

「それで見せてやれよ、史上最高のジャイアントキリングをさ!」
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