学園の王の愛はいらない

starry sky

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金沢駅近くのオフィス街に夏生が務める会社がある。
10階建てのガラス張りのビルで、上層階には役員フロアと広報、営業部門が、低層階には研究開発室、商品企画室が入っている。一階にはショールームを兼ねた展示スペースが設けられ、全国の取引先が訪れる拠点となっている。
    夕方近く、夏生は先輩社員と並んで自社ビルのドアをくぐった。
外回りの帰りで手には取引先から預かった資料の入ったファイルを抱えている。
受付のスタッフに会釈をすると「お疲れ様です」とにわかに華やいだ声があがる。
 営業部のあるフロアに向かうエレベーターに乗り込むと夏生は少しホッとした。
 フロアに戻ると自分のデスクでパソコンに向かい、今日訪問した会社の報告書を入力していた。全て終えてようやくひと息ついたところで「広瀬ー」と声が掛けられた。

    「なぁ、今日みんなで飲みに行かない?いつものとこ」

同じ部署の同期の羽田はだが誘った。
夏生も「行くか!」と即答して場所を確認すると残った雑務を片付けにかかった。
    同期が集まる場所として定番化してきた居酒屋。そこの二階に時間通りに到着すると既に気の早いメンツがもう飲み始めていた。

「おっ、広瀬きた!」

「わっ、王子きたぁ~」

「広瀬くん今日参加でらっきー!」

と、はしゃぐ声に歓迎される。
夏生が苦笑しながらジャケットを脱ぐと、素早く女子の1人が立ち上がりハンガーにかけてくれた。
お礼と共に「めっちゃ気が利くね」と褒めるとその女子は頬をピンクに染めて夏生を席に案内した。
座敷の広いスペースだ。どこでも良さそうだが、どこでも良くはないらしい。
周りを女子で固められた席が指定席だった。

「ここかよー!好きなとこ座らせろよ」

「だって広瀬くんと話したいって子いっぱいいるから平等に話せるように時間制にしようと思って」

「はぁ?だるぅ!」

「同期の絆って大事じゃん?ね?ね?女子が喧嘩しないようにお願い!ほら座って」

「⋯っ⋯分かったよ⋯」

夏生は久しぶりに聞く「絆」という言葉に反応して言葉を飲み込んだ。
    場が盛り上がってきた頃、夏生はようやく指定席から開放された。
落ち着いて飲める所に避難すると羽田が夏生にグラスを渡した。

「はい、お疲れ様」

チンとグラスを合わせてきて冷えたビールを飲み干した。
夏生は上下する喉仏を見ながら羽田の飲みっぷりに身惚れた。

「いいな、お前」

「え?」

「そんだけ飲めたら便利じゃん」

少しいじけたような夏生の口ぶりに羽田が苦笑する。

「広瀬は弱いもんな」

爽やかな笑顔で嫌味無く言うこの男は夏生の勤める会社の社長の息子だ。同期も皆知っている。
 社長の方針で息子への特別な配慮は不要とのことだが、上司たちは気を遣っているようだ。
 同期も始めは羽田に対して遠慮していた。だが同じ部署の夏生がごく普通の態度でいるのに習って、今では皆が一人の同期として接している。
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