157 / 202
156
しおりを挟む
「どのくらい偉いかって?」
松田は聞き取りづらいはずの夏生の言葉をちゃんと拾った。
そして夏生はその事に密かに狼狽した。
松田が夏生から目を離さずゆっくりと言う。
「順番は三番目くらいかな。祖父、父、俺。でも父でも頭が上がらない役員もいるから実際は三番目とは言えない」
「⋯そうなんだ」
「でも」
松田は言葉を切って夏生の反応を見た。
「実質的な実務のトップは父で、その父から業務の統括を任されてるのは俺だからね。役員を説き伏せるのはそんなに難しくはない」
夏生はパッと松田の方を向いた。
松田の顔が思ったよりも近くにあってドキリとする。
探るような瞳の色をサッと消した松田はニッコリ笑って言った。
「蘭月とは手を組むなって説得してあげようか?」
「ほんと⋯に?」
「ただし、タダじゃない。広瀬が一晩、俺に付き合ったらな」
悪戯めいた笑みとは裏腹に目だけは鋭く光り欲望の片鱗が垣間見える。
即座に「冗談はやめろ」と言い返せばいいのに喉が動かない。
「⋯あ⋯」
何を言ったら良いか分からずにいると松田が「なんてね」と言って身を引いた。
「あー、飲みすぎたかな。岡やん、水くれ」
「もう⋯、くだらねぇ事言うのやめろよな」
夏生が吐き捨てるように言う。
「だって、悩んでる顔が可愛くてさ。ホントにどうした?もし困ってて頼る気があるなら俺は悪い条件は出さない。広瀬の事は大事に思ってるからちゃんと力になるよ」
心臓がドキドキと鼓動を速める。
それはどういう意味にとったらいいのだろう。
力を借りるなら松田が求める条件を飲まなくてはいけないということなのか。
過去の松田とのやり取りを思えば、松田がまだ夏生に対していくらかの思いを残している可能性もある。だとしたらその思いを利用する事になる。
そうでないとしても、これまで保ってきた関係を壊すのは不本意だ。松田が望んだとしても。
そして何より自分にそんな事が出来るか分からない。
夏生はグラスを握りしめて下を向いた。
「俺は⋯」
ガチャン!!
カウンターの中でグラスの割れる音がして夏生はハッと我に返った。
「失礼しましたぁ」
岡やんの申し訳なさそうな声がしてそっちを見るとペコペコと四方に頭を下げている。
「岡やん大丈夫か?怪我してない?」
松田が声を掛けると岡やんは更に謝った。夏生は空気が変わったことに安堵した。
松田は聞き取りづらいはずの夏生の言葉をちゃんと拾った。
そして夏生はその事に密かに狼狽した。
松田が夏生から目を離さずゆっくりと言う。
「順番は三番目くらいかな。祖父、父、俺。でも父でも頭が上がらない役員もいるから実際は三番目とは言えない」
「⋯そうなんだ」
「でも」
松田は言葉を切って夏生の反応を見た。
「実質的な実務のトップは父で、その父から業務の統括を任されてるのは俺だからね。役員を説き伏せるのはそんなに難しくはない」
夏生はパッと松田の方を向いた。
松田の顔が思ったよりも近くにあってドキリとする。
探るような瞳の色をサッと消した松田はニッコリ笑って言った。
「蘭月とは手を組むなって説得してあげようか?」
「ほんと⋯に?」
「ただし、タダじゃない。広瀬が一晩、俺に付き合ったらな」
悪戯めいた笑みとは裏腹に目だけは鋭く光り欲望の片鱗が垣間見える。
即座に「冗談はやめろ」と言い返せばいいのに喉が動かない。
「⋯あ⋯」
何を言ったら良いか分からずにいると松田が「なんてね」と言って身を引いた。
「あー、飲みすぎたかな。岡やん、水くれ」
「もう⋯、くだらねぇ事言うのやめろよな」
夏生が吐き捨てるように言う。
「だって、悩んでる顔が可愛くてさ。ホントにどうした?もし困ってて頼る気があるなら俺は悪い条件は出さない。広瀬の事は大事に思ってるからちゃんと力になるよ」
心臓がドキドキと鼓動を速める。
それはどういう意味にとったらいいのだろう。
力を借りるなら松田が求める条件を飲まなくてはいけないということなのか。
過去の松田とのやり取りを思えば、松田がまだ夏生に対していくらかの思いを残している可能性もある。だとしたらその思いを利用する事になる。
そうでないとしても、これまで保ってきた関係を壊すのは不本意だ。松田が望んだとしても。
そして何より自分にそんな事が出来るか分からない。
夏生はグラスを握りしめて下を向いた。
「俺は⋯」
ガチャン!!
カウンターの中でグラスの割れる音がして夏生はハッと我に返った。
「失礼しましたぁ」
岡やんの申し訳なさそうな声がしてそっちを見るとペコペコと四方に頭を下げている。
「岡やん大丈夫か?怪我してない?」
松田が声を掛けると岡やんは更に謝った。夏生は空気が変わったことに安堵した。
142
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜
統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。
嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。
本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。
「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦
中岡 始
BL
「好きって言ったら負け」
それが、俺たちの間にある、たったひとつのルールだった。
星遥学園の顔、生徒会長・一ノ瀬結翔と副会長・神城凪。
容姿、成績、カリスマ性――すべてが完璧なふたりは、周囲から「最強ペア」と呼ばれている。
けれどその内側では、日々繰り広げられる仁義なき恋愛頭脳戦があった。
・さりげない言葉の応酬
・SNSでの匂わせ合戦
・触れそうで触れない、静かな視線の駆け引き
恋してるなんて認めたくない。
でも、相手からの“告白”を待ち続けてしまう――
そんなふたりの関係が変わったのは、修学旅行での一夜。
「俺、たぶん君に“負けてもいい”って思いかけてる」
その一言が、沈黙を揺るがし、心の距離を塗り替えていく。
勝ち負けなんかじゃない、想いのかたちにたどり着くまで。
これは、美形ふたりの駆け引きまみれなラブコメ戦線、
ついに“終戦”の火蓋が落ちるまでの物語。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる