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しおりを挟む神谷が出て行くと二人だけになった。
颯斗はソファに深く腰を下ろし、腕と足を組んで横を向いたまま口を閉ざしている。
「何だよ、不貞腐れてんのか?」
夏生が軽口を叩いても颯斗は「別に」
と言うだけだ。
夏生は苦笑して肘を使って体を起こした。
「よっ・・・と・・・」
別に傷は痛まないのだが、颯斗は慌てて立ち上がり夏生のそばに来て背中を支えた。
「気をつけろ」
夏生は甘酸っぱい気持ちで胸が満たされた。
自分の感情よりも夏生の体を気遣う方を優先してくれた。
不貞腐れてそっぽを向いていたくせに一瞬で「大丈夫か?」と心配して顔を曇らせている。
さっきから夏生のツボを押しまくる颯斗が可愛くて仕方ない。
「颯斗、痛かったか?」
夏生は自分が叩いた颯斗の頬をそっと撫でた。
颯斗の瞳がグラグラと揺れる。
「颯斗、他人から何を言われても気にしないのに俺から言われると堪える?」
颯斗は視線を逸らして黙り込む。
夏生は颯斗の手を取って両手で包んだ。無骨だが繊細で綺麗な手だ。
「俺はそのままの颯斗も好きだけど、颯斗は変わらないといけない」
夏生が静かに言うと颯斗も口を開いた。
「お前の言葉はマジで刺さる・・・良い事も悪い事も」
「ずっと一緒にいたいんだ。颯斗と」
「夏生・・・」
「颯斗が立派なリーダーになる事はもちろん望んでる。けど、俺は自己中だから、広瀬夏生は綺堂颯斗の隣にいる意味があるって人から思われたい。だから俺の為にも成長しろよ。何ができるか分かんないけど俺も努力するし、支えになる。お互いを高め合える関係になろう」
夏生の言葉を一言一句、聞き逃さないようにじっと聞いていた颯斗はゆっくり息を吐いた。
怒りも苛立ちも困惑も消えた颯斗の瞳にうつるのはこの世で誰よりも大事な存在と、揺るぎない想いだった。
「わかった、俺は変わる。自分と夏生とそれ以外の為に」
「うん、ありがとう」
夏生は嬉しくて泣き笑いのような笑顔で颯斗を見つめ返した。
颯斗も一瞬同じ顔をして、でも次の瞬間にはひどく真面目な顔で言った。
「夏生、愛してる。俺と結婚してくれ」
「・・・な・・・に・・・?」
結婚・・・?
「俺と結婚してくれって言った。一生を共にして欲しい」
颯斗の声は低く静かで決意を帯びている。
夏生は呆気に取られて小さく笑ったが、颯斗は「本気だからな」と夏生の手を強く握り、片手で持ち上げるとその甲にキスをした。
夏生は呆然と見、しばらく黙っていた。
胸の奥が熱くて涙が込み上げてきそうだった
夏生の脳裏にこれまでの時間が走馬灯のように駆け巡る。
出会った頃の、暴君だった颯斗。体だけの関係に落ちた時のどうにもならないやるせなさ。婚約者やそれ以外の存在にも悩んだ。
今、目の前にいる颯斗はあの頃とは違う。
颯斗のそばに居たら苦しむだけだと、逃げ出した夏生を追いかけて来てくれた。夏生の手を握り、ただ夏生だけを選んでいる。
顔をあげた夏生は颯斗の手を強く握り返して引き寄せ、手の甲にキスを仕返した。
「喜んで。でも言っとくけど俺はお前に守られるだけの存在じゃない。颯斗の隣に立って、一緒に戦って、おかしいと思ったら殴ってでも正すから」
ニヤリと笑い、けれどその声はどこまでも真剣だった。
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