学園の王の愛はいらない

starry sky

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ピタリと足を止めて兄を振り返った。
 
 春馬というのは夏生の従兄弟だ。
夏生と同じ年で幼い頃から仲が良い。実の兄である冬哉よりも兄弟らしい存在だ。

「イジメ?春馬が?」

春馬は見た目も性格も大人しい。
活発で容姿端麗な夏生とは真逆なのだが2人は不思議とウマが合う。
昔から夏生は、ちょっと頼りない春馬の世話を焼いてきたし、春馬は春馬で夏生の大雑把で成り行き任せな所をフォローしてきた。
お互いをちょうど良く支え合って来たのだ。

 しかし春馬は去年全寮制の高校に入学した。
夏生は中学から通っていた私立校の高等部にそのまま上がったが春馬は自分の父親の母校である海堂学園を受験して入った。
夏生や春馬の家からは少し遠いため、入学してからはなかなか会えずにいた。
最後に会ったのは夏休みに春馬が実家に帰ったときだ。

「この前電話した時は元気だったぞ」

「お前に心配かけたくないんだろ」

「誰に聞いたの?」

「美佐江おばさんだ」

美佐江叔母は夏生と冬哉の亡くなった母、友里恵の妹だ。

「春馬に直接聞いてみる…」

「やめろ、お前に知られたくないと言っていたらしい」

「何で...!」

「春馬にだってプライドはあるだろ。いくら仲のいい従兄弟同士でも言えない事はある。おまえは明るくて人気者なのに自分は根暗で不甲斐ないと思ってる」

「なんだよそれ、春馬が言ったの?春馬は優しいし性格も頭も良いんだからそんな事思う必要なんてない」

「実際昔から親戚の集まりでお前達はよく比較されてたよ。夏生は綺麗な顔してるし愛嬌があって面白いけど春馬は地味で受け答えも冴えないって。春馬もそれを耳にした事があるんじゃないか?直接言われた事もあるかもな。可哀想に、悩んだだろうな」

「・・・」

ショックだった。
春馬がそんな葛藤を抱えてたとは思いもしなかった。それに自分はそれに気付けず春馬を悲しませていたのか。
今も進行形で春馬が苦しんでいるのなら放っておけない。

「・・・美佐江叔母さんに電話して聞いてみる」

「一昨日から海外だぞ。叔父さんに帯同してる。今日あたり重要なレセプションがあるはずだ、邪魔するな」

春馬の父は中堅の化学品専門商社の経営者だ。その妻として美佐江叔母の役割は大きい。
いつも忙しそうにしている2人の事を思う。
大人達の仕事の内容などよく分からない、時差のことも考えると電話を掛けるのもはばかられる。

兄はもう学費も払ったと言う。手続きが済んでしまったのなら戻れないのだろう。
夏生はギュッと眉間を寄せて低く呟いた。

「分かった...行くよ」

 冬哉はメガネの奥でその怜悧な目を光らせた。

「それで良い」

 編入についての話を一通りした冬哉は最後に言った。

「海堂に双葉グループの後継者がいるらしい」

「...え?」

「お前は人たらしだろ」

兄は両方の眉を上げて揶揄するようにニヤリと笑う。

「まぁついでと言うにはデカすぎる案件だが双葉の御曹司もたらし込んでこいよ」

兄にとってはどっちがついでだか分かったものじゃない。

「むかつく・・・」

夏生は不快に満ちた表情で書斎を後にした。



 
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