17 / 36
4.家政夫、欲求不満の乳首を食べる
2
しおりを挟む餅つきの話題でひとしきり盛り上がったあとも、濡れた髪のまま携帯電話をいじっている佐藤に市井は、風邪をひくから、とドライヤーをかけるよう促した。
部屋の中でも油断出来ない季節だ。特に今日は今冬一番の寒気が流れ込んでいるとニュースで散々言っている。
昼過ぎに訪問したのに、思った以上に掃除に手間取ったこともあって、もうすっかり外は暗くなっているから、また気温が下がり始めたのだろう。
「八木沢さま、もう一枚着込まなくて寒くないですか?」
シャツだけでいる大夢にも声をかけた。シャツの下に肌着を着ていないことが、尖った乳首が布地を浮き上がらせている様子で分かったことは言わないでおく。その件で大夢がかなり気を使って隠していたのを知っていたこともあったし、休日の自宅でくらい気が抜ける場所があってもいいと思ったからだ。
(そして何より俺の目が楽しいです、八木沢さま)
可愛い突起の気配を服の上から読み取るくらい許してほしい。
「はい。暖房も効いてますから」
「そうですか。もし寒くなったら、カーディガンはクローゼットに入れましたから」
「ありがとうございます」
シャツ乳首(市井作の造語だ)をもう少し見せてもらえるとのこと。邪な感情を一切見せず市井は大夢の返事に、綺麗にニコリと微笑んだ。
大夢に悶々とさせられて、早いものでもう五ヶ月が経とうとしている。大夢という同性に対する興味が、我ながらよく飽きないなと、市井は遠い目をしてから意識を現実に戻した。
「夕飯の支度はこれからですけど、それまでに何か軽くつまみますか?」
あの汚部屋でどんな食生活だったのか想像も出来ないが、もし腹を空かせているなら少し待たせてしまうことになる。そう思っての提案だったのだが、大夢の返事は市井をとても喜ばせた。
「いえ、待ちに待った市井さんのご飯ですから。いっぱい食べたいんで、美味しいものの前におやつ食べたらもったいないですよ」
真面目な表情が、大夢のお世辞抜きの本音だと分かって、市井はニヤニヤしてしまわないように奥歯を噛む。
「ありがとうございます。じゃあ、コーヒーだけいれますね」
髪をふわふわにした佐藤がリビングに戻ってくると、丁度市井がコーヒーをフィルターにセットしたところだった。年末の大掃除のときに見つけた、流し台の下の収納棚に、箱に入ったまま眠っていたコーヒーメーカー。当然これも先程まで干からびたフィルターの中の粉がリビングの床にひっくり返り、見るも無残な状態だったのだが、市井の手によって再び蘇っている。
十分ほどでテーブルの上には、サーバーからカップに注がれたコーヒーが芳ばしい香りと湯気をたてていた。
「年末からって聞きましたけど、佐藤さんは休みの間ずっと泊まってたんですか?」
キュウリの皮を剥きながら市井は、テーブルに着く二人に話しかける。
佐藤はブラックのまま一口啜って味に満足すると、まったりとくつろぐ気になったのか、折角部屋の隅に片付けた雑誌をまた引っ張り出し始めた。返事は大夢に任せる体をとるその姿にため息をついて、大夢は休暇を思い出して頷いた。
「佐藤は元旦だけ実家に顔を見せに行ったくらいで、基本的にはこんな感じでここにいましたね」
「そうだっけ? 俺そんなに入り浸ってた?」
「自覚なしかよっ。俺の家なのにどんどん私物で溢れさせて。このまま転がり込んで住み着く気かと思ってきてたんだぞ」
「ハハッ、あんな汚い部屋に住みたくねーよ」
「佐藤が原因なんだけど……っ」
二人のやりとりに、なんとなく部屋が荒んでいった顛末が分かって市井が苦笑する。
佐藤が居ることで他の同僚も立ち寄りやすくなって、大夢の部屋は溜まり場となったのだろう。当初は片付けもしていた——とは訪問した時に大夢から聞いていたから、だんだん掃除が追い付かなくなり、頼りの綱である家政夫の登場に歓喜したようだ。
「で、同僚の皆さんとはずっと飲んでばかりだったんですか? 片付けたとき旅行誌とか情報誌とか色々雑誌がありましたけど、何処か旅行に?」
サラダが完成すると、今度は挽き肉に卵を落として捏ねながら聞く。
献立が気になったのか、大夢はキッチンに立つ市井の横に並んできて、ボウルを覗き込みながら答えた。
「佐藤以外は年末の、比較的まだ部屋が片付いていたころによく集まって。最初はみんなで何処か一泊でもするかーって、市井さんがおっしゃる通り、本を買ったりして眺めてたんですけど。結局はみんな面倒臭がってここで飲んでばかりでしたね」
恥ずかしそうに市井を見上げて微笑んだ姿にきゅうんとさせられて、思わず握りつぶした挽き肉が指の間からムニュッと湧き出る。
(やっぱ可愛いなっ、八木沢さま)
しばらく会わない間に、また妙な色気が増した気がしてトキメいてしまった。
(きっと正月休みの間中、佐藤さんとヤリまくってたんだろうな……)
大夢の変化の原因は佐藤だと信じている市井にとって、結論はいつも切ない気持ちにさせる。
(なんていうか、シャツ乳首もそうだけど、今日の八木沢さまからは……何ともいえない、エッチな火照り感が漏れてるんだよなぁ)
そんな市井の見立ては、当たらずも遠からず。確かに今の大夢は、珍しく少しエッチな気分が高めだった。
それは佐藤が長期間居着いたことによって、自慰もできない日々が続いていたからだ。腹の立つことに佐藤は他人の家でも構わず、トイレや風呂場で出しているようだ(聞いてもいないのに自己申告された)が、一人っ子の大夢は今までの環境と違うからか、人の気配が気になって神経質になっているのか、とにかくどうにも集中できなくて困っていた。別に毎日出さなくても死なない派の大夢も、半月致さない長丁場は初めての経験で、流石に悶々としてきていた。そして今夜は、佐藤もご飯を食べれば帰りそうな様子でいるし、ようやく一人でゆっくりスッキリできそうなのだ。その期待に夕方からちょっとフライング気味に気分が昂まってきている。大夢のこの僅かなムラムラを、市井は満足感からくる色気だと感じ取っていた。
「あ、このイルミ特集であの駅前載ってるじゃん」
佐藤が雑誌をパラパラとめくっていた手を止めて顔をあげた。見覚えのある場所があったようだ。開いたページを大夢に向けてくる。
「な、八木沢、コレあの時に見たやつだ。なんか既に懐かしくね?」
向けられた雑誌に市井も目をやると、紙面には大きく《クリスマスデート・恋人イルミ特集ベスト5》とキャッチコピーが書かれている。
「え……見たって、ふ、二人でソコに行かれたんですか……?」
確か十二月は大夢も佐藤も連日の残業で、市井とも大掃除の日以外はほとんど会うことが無かった。それほど忙しくしていたのに、ちゃっかりそういうデートの時間は確保していたというのか。
動揺する市井の表情が、男同士でイルミネーションを見に行ったのか、というドン引く意味に――ある意味合っているのだが――誤解されたと思った大夢が慌てて説明する。
「いや、あのですね、おかしな意味じゃないんですよ? たまたま、偶然、仕事帰りに通りかかったら点灯式をしてたんです。それだけですから。な、佐藤っ」
「おお。八木沢の背中は温かいし、可愛かったなー」
「いや、いろんなことが端折られてるよっ。そうじゃなくてっ。変な言い方するなよっ」
一生懸命な説明が余計に市井の心を抉る。
要するに二人は、くっ付いてイルミネーションを見たのだ。
「ええ。わかってます。佐藤さんと見たからって、おかしなことないですよ、うん。雑誌に載るくらいなら、綺麗だったんでしょうね」
あまりにも穏やかな市井の受け応えに違和感を覚えながらも、大夢はその時のことを思い出したのか、素直に瞳を輝かせた。
「はい。それはとても綺麗でスゴかった……」
そして、直後に頬をポッと染める。
(ええっ、そのポッは何ですかっ。イルミネーション思い出したあと、別の何かを思い出しましたよねっ。おかしな意味は無いって言ったのに、おかしな反応してますよっ!)
心のバロメーターのように、手に取った挽き肉が目に見えぬ速さで市井の左右の手の平をドリブルする。
大夢と佐藤の間には市井が心配することなど勿論なく、いつもの偶然が重なっただけの話だ。ただ、その日の夜に見た夢を思い出すと、大夢はちょっと恥ずかしい気分になって、思わせぶりな態度をとってしまったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる