お世話になります ~仕事先で男の乳首を開発してしまいました~

餅月ぺたこ

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4.家政夫、欲求不満の乳首を食べる

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 キッチンではフライパンの上でジュージューと油を跳ねさせて、肉の焼けるいい香りが漂っていた。

 市井は頃合いをみてひっくり返し、もう半面を焼く。反転した上面は、程よい焼き色がついていて美味しそうだ。

 滞りなくいつもどおり料理する市井であったが、その心は荒ぶっていた。

『す……スゴかったですっ』

 頬を染めてはにかみながら言った大夢の言葉が、貧血でもないのに目の前を真っ暗にする。

(イルミネーションを見た後、佐藤さんと一体どんなスゴいことをしたんですか、八木沢さまッ)

 やることなんて、もうソレ以外ないじゃないか、と思えば思うほど悔しくて、無性に佐藤が羨ましかった。

(いやいやいや、俺の恋人でもない人の恋愛で、どうして俺が嫉妬しないとダメなんだ。ましてや、同性で恋愛対象でない上に、仕事のお客様なんだぞ)

 騒めく気持ちに言い聞かせ、心を落ち着かせるため、もう一品作り始めたが、スープは直ぐに出来上がってしまった。

 そうこうして動いているうちに、大夢はトイレから戻ってきていて、今はソファにいる佐藤の横に座って一緒に雑誌を覗き込んでいる。

(ええ、ええ。佐藤さんの横がいいですよね)

 トイレに行く前まで自分の横にいたのに、と今しがたの戒めの効果なく、狭い心でフライパンの上のハンバーグに竹串を突き刺してしまった。

 市井がどんな気分で串を突き刺そうとも、料理に失敗はなく、透明な肉汁がブワっと溢れ出てきて完璧な出来上がりを知らせる。今日は感情的になって挽き肉を少し捏ね過ぎたせいで硬めになってしまったが、若い男達なら気にせず食べてくれるだろう。

 仕上げにチーズを乗せて蓋をし、とろけさせると、食器棚から皿を出して、二人に声を掛けた。

「お待たせしました。飲み物はお二人ともビールでいいでしょうか」

 その声を待ってましたと言わんばかりに、大夢と佐藤がパッと顔を上げてウンウンと頷いている。

 ご飯を待ちわびた二人がいそいそとテーブルに並ぶ姿は、雛鳥みたいでちょっと可愛い。なんだかんだで憎めない人たちだなあ、と市井は自分の感情の愛憎模様におかしくなって小さく笑った。

「うまそー!」

「いただきますっ」

 既に箸を持った二人が、手を合わせるや否や皿に手を伸ばす。

「はい。どーぞ」

 市井の返事が言い終わらないうちに、真っ直ぐメインディッシュのハンバーグを掴むと、二人ともが口に入る限界まで肉を押し込み、咀嚼もそこそこにご飯を詰め込む。肉、白米、肉、肉、白米、肉――。

「あの……お二人ともそんなに口一杯、一気に詰め込まなくてもまだたくさん……え、えええーっ」

 エプロンを外しながら椅子に座ろうと中腰の姿勢でいた市井は、凄い勢いでご飯をかき込む二人を唖然と見つめた。

 そう。二人は飢えていたのだ。インスタント麺でもなく、コンビニ弁当でもない、およそ半月ぶりの久々の手料理の味は、一口食べたとたん、愛情に飢えきった舌と胃袋を夢中にさせ、凶暴化させたのだ。

 その姿は先ほどの可愛い雛鳥の面影など微塵もない。

 市井は一瞬だけ言葉を失ったものの、脱いだばかりのエプロンを掴むと慌ててキッチンに戻り、二人の皿に新たなハンバーグを追加で出す。そのハンバーグも数秒で消えようとしていて、市井は冷蔵庫からありったけの野菜を取り出すと、目にも留まらぬ速さで包丁をまな板に乱打して刻みまくった。同時進行でフライパンに入れていた油が温まると、鶏肉に調味料と小麦粉をまぶして、次々と投入していく。冷蔵庫からビール缶を取り出し、再びテーブルに向かい、言われる前にそれぞれの茶碗にごはんのおかわりを山盛り装うと、空き缶を回収してキッチンに戻り、豚肉と野菜を炒める。十分足らずで唐揚げと回鍋肉ホイコーローの大皿を持って市井がテーブルに帰還すると、大夢と佐藤が「ウオォォ」と手を振り上げて出迎えてくれた。

「市井さんサイコー!」

 早速、出来立てのおかずを白米の上に乗せてガツガツと食べ始めている大夢の笑顔と言葉に、家政夫としての喜びが市井を満たす。

「急いで作りましたけど、味、大丈夫ですか?」

「おいしいっ」

 美味そうに食べている姿を見ることで一緒に幸せな気持ちになれるのだから、正にこれが天職だな、と市井が感じる瞬間であった。

「コレうまー! 市井さん、ホント最高。抱いてー! いや、嫁に来てー!」

「佐藤さん、俺に抱かれたいんですか、抱きたいんですか……あ、ほら、食事中に変なこと言うから。八木沢さまがむせたじゃないですか」

 ご機嫌でご飯を食べていたのに、大夢が茶碗と箸を持ったまま、顔を真っ赤にして咳き込んでしまっている。そんな大夢に同情の目をむけながら、市井が佐藤をたしなめた。佐藤は口を尖らせて隣に同調を求める。

「えぇー、今の俺のせい? 違うよな、八木沢。お前だって市井さんだったら嫁に欲しいよな?」

「……よっ、……っ、ゲホゴホゲホゲホッ」

 変な間合いで答えようとして更に気管に入ったのか余計に苦しみだした大夢に、これは答えられる状態ではないなと、佐藤は市井に視線を振る。水をグラスに入れて大夢に差し出しながら、市井は呆れたように佐藤の質問に答えた。

「えっと、いくら嫁にと言われても、俺、抱かれるのはちょっと……って、真剣に答えさせないでくださいよ」

「まあまあまあ。八木沢が落ち着くまで遊んでよ。あ、じゃあ抱くのはアリ?」

「佐藤さんを? 無理ですよっ」

「あははっ。確かに。俺、ベッドの中で可愛くできねーわ」

「…………。やめてくださいよ。想像したじゃないですか……」

「やだ、エッチ」

「ブハっ、何その動き……くくっ」

 強制的に新妻・佐藤を想像させられたのに非難されるとは理不尽だ。だが両手を胸の前でクロスさせて身体を捩った佐藤の仕草が滑稽で、思わず吹き出して笑ってしまった。

 大夢が一人で苦しんでいる横で、二人の話が弾みだす。

「じゃあ八木沢は? 前にコイツ、市井さんと比べてくれって見せてきたじゃん」

「何をです?」

「乳首」

 ようやく飲み始めることが出来たビールが市井の口から吹き出た。

「さ、佐藤さんにそんなこと聞いて見せてるんですか……」

 驚いて見つめる市井の視線で、言葉足らずだったことに気づいた佐藤は、野菜炒めをビールで流し込んで訂正する。

「いや、俺だけじゃないって。あの時、市井さんも居たじゃん。ほら、メイド服のときの」

「メイド服……」

 そういえば大夢が、乳首が敏感で困っているのだと悩み始めていた時期に、シャツをペラっとまくったことがあったか。

「あぁー」

 思い出した市井の返事に佐藤は満足そうだ。

「だろ。ね、どう? 乳首ピンクだよ」

「いや……乳首がピンクなのは確かに見ましたけど……あの、これ今何の話してるんですか?」

「嫁に来る?」

「その話!? アピールポイントが乳首って、直球すぎるでしょ」

「ピンク乳首嫌いなの?」

「……むしろ嫌いな男がいますか?」

 あまりの愚問に市井が眉を顰める。

「あの、佐藤さん、そうじゃなくて。八木沢さまには他にも良いところあるのに、いきなり乳首推しって……」

「八木沢にある他の良いところ?」

「いや、どこソレみたいな顔はホント失礼ですよ」

 恋人の長所が乳首しか出てこないなんて、それでも彼氏か、と呆れるばかりだ。

(確かに八木沢さまのは可愛い乳首ですよっ。知ってますよ! 俺だってイチオシ……ん? ひょっとして自慢されてるのか? ソレを自由に触って舐めて喘がせられる権利を自慢されてるのか?)

 向かいの席で首をひねっている佐藤をムっとして見ながら、市井が「たとえば」と少し張り合って教えてやる。

「性格的な優しさもありますし、ぱっと見で印象的といえば、ホクロですね。佐藤さんならよく・・ご存知かと思うんですけど、ちょっと色っぽいと思いませんか」

 ようやく咳が落ち着いて息を整えている大夢に、市井が優しい目を向ける。遅れて佐藤も大夢の顔をマジマジと見た。

 そのあからさまな視線に、大夢が自分の話をしているのかとギョッとして二人の顔を不安げに交互に見返す。

「な……何?」

 激しく咳き込んだあとの涙ぐんだ赤い目を細めて、大夢は視線を二人に向けたまま再びもぐもぐと唐揚げを頬張り始めた。

「ふ……二人とも食べないの? 俺、もっと食べていい?」

「どーぞどーぞ」

「俺の分、ちょっとは残せよ。あ、ビール取ってくる」

「あぁ、佐藤さん。俺が」

 佐藤が立ち上がったのを見て、市井が反射のように立ち上がる。

 狭い部屋の、すぐ側にあるキッチンの冷蔵庫へ行くだけの、数歩で済むことにまで職務に律儀な市井に、佐藤は感心するばかりだ。

「あー。じゃあ、二人で立ったついでに連れションに付き合ってよ」

「え? 連れ……ってトイレですか?」

「そうそう。八木沢、ちょっと行ってくるー」

「佐藤さん? えっ、えっ、なんで?」

 どうして一緒にトイレへ行かねばいけないのか、と戸惑いを隠せない表情の市井が、佐藤に肩を組まれて引っ張られていく。廊下を曲がるまで何度も大夢の方へ振り返り、佐藤の行動を尋ねるような視線を向けたのは分かったが、むしろ理由は大夢が聞きたかった。

(やっぱ、佐藤と市井さん、仲いいよなぁ)

 大夢が咽せて苦しんでいたときも、何の話題なのかは知らないが、なんだか楽しそうに話をしていた。

(嫁がどーのとか、抱きたいとか抱かれたいとか、そんな話だっけ)

 確かそんな話だった、と思いだして、不意に市井が佐藤に言った言葉を思い出した。

――俺に抱かれたいんですか、抱きたいんですか。

「ぅわぁっ……」

 爽やか好青年の市井が、抱かれたいとか抱きたいとかサラっと言っていた。その音声のリピートに、思わず恥ずかしさがぶり返して変な声が大夢から漏れる。

(市井さんに「抱かれたいんですか」とか言われたら、女の子はトキメクだろうなぁ。俺でさえドキッとしてご飯が変なとこに入って咽せた……)

「…………。違う違う、ドキッとじゃないないっ。変なこと言うからビックリしただけっ……って、うぁぁぁ……なんで勃ってんのっ。もうやだ……」

 自分の状態に赤い顔で呻いて、性欲より食欲に集中するべく、また一つ唐揚げを頬張った。

 大夢がひとりでビールと唐揚げを次々と平らげていたころ。八木沢邸のトイレでは、ドア横の廊下側の壁にもたれている市井が、寒さに上腕を手で摩りながら、ジョボジョボと何とも言えない水音を聞かされていた。

「すげー、湯気たってる」

 何から湯気が立っているのかはもちろん聞かない。

「あのー、佐藤さん。何でドア閉めずにおしっこしてんですか?」

「えー。だって連れションだもん」

「戻っていいですか……」

「あー、待って待って。話あるから。ってゆーか、ちょっと確認したいことあるから」

 意味深な佐藤の言葉に、市井は動かしていた手を止める。

「――なんですか?」

 ひょっとして、さっきの何気に挑発的な発言をしたことだろうか。それとも大夢にちょっかいを出したことがバレたのだろうか。いろいろやらかしている身としては、心当たりがあり過ぎて頬が強張った。

 何を言われるのかと佐藤の言葉に構えて待つ。

 水を流す音がして、廊下に佐藤が出てきた。

「市井さん、あのさ……」

「は――」

 はい、と返事をしようとするのと同時に、いきなり佐藤にガシッと腕を掴まれた。

「うわっ、ビックリした! ど……どうしたんです? てゆーか、佐藤さん、ちゃんと手、洗いました?」

 洗ってない気がして、勘弁してくれと思いながら、審判の時が来たと腹も括った。

「八木沢のさ」

「っ……はい」

 やはりその話だ。市井が慎重に返事を返すと、佐藤が続ける。

「アイツのこと、市井さんもやっぱ色っぽく見えたりするんだ」

 真剣な目で確認をとるように、低い声で聞いてくる佐藤に、寒さも忘れて脳がカッと熱くなった気がした。

(落ち着け。まだただの確認だ。――でも)

 たとえまだ数ヶ月ほどの付き合いでも、大夢と同様、佐藤の人の良さは色々見てきている。市井は佐藤に嘘はつきたくなかった。

「は……はい。……色っぽいと、思います」

 自分から洗いざらいはまだとても話せそうに無いが、聞かれたことは隠さず話そうと決めた。

(佐藤さんに怒られて当然のことを、俺はしているんだから)

 男女間に当てはめれば泥沼になるような、絶対にやらないことをしてしまっている。

 心苦しさいっぱいの思いの市井だったが、佐藤は掴んでいた市井の腕を、更にグッと力強く掴んでブンブン振りだすと、徐々に手の位置をずらして握手に変え、ガッチリ握り込んで、妙に親しげな笑顔を爆発させた。

「市井さんもアイツのホクロにやられてて良かったー! 俺だけかと思ってたー!」

 そう言って、今にも市井に抱きついてきそうな勢いで感激している。

「…………え。……へ?」

 現状に理解が追いつかない市井を置いて、佐藤は悩みが消え去り、解放されたような清々しい気分だった。

 以前。市井が大夢の家に初めて訪れた日に佐藤は、涙目の大夢にドキッとさせられたことがある。それからは然程意識もしていなかったのだが、年末に二人で見たイルミネーションで、点灯直後に満面の笑みで振り向いてきた腕の中の大夢に、今度はムラッとさせられたのだ。あの時は咄嗟にイルミネーションが綺麗だと誤魔化せたが、二人の密着していた距離に思わずギュっと抱きしめたい気持ちをグッと抑えなければいけなかった。佐藤にとって、あれは痛恨の出来事だった。

「アイツの目元のホクロは、ホントヤバい時あるでしょ!」

「目元……」

「いやー、同士がいてよかったー。じゃ、確認も出来たし、ココ寒いし。部屋に戻りましょ、市井さん」

「は、はい……え? ホクロ……目元……。え、それだけ……?」

 晴れやかな表情の佐藤とは違って、市井は混乱している。そんな市井の姿も笑い飛ばして、佐藤は握手した手を離すと、軽い足取りで廊下を歩き出した。

「俺、洗面所で手ェ洗ってから戻るんで」

「あ、はい……――って、やっぱり手、洗ってなかったんですね!」

「あははっ。ごめんなさい」

「まったく……」

 笑う佐藤に呆れながら、市井はガッツリ握手された手をフリフリっと強めに振り払う。

(えっと……、結局、何事もなかった……のか?)

 気が抜けた足取りで先にリビングに戻った市井だったが、視界の中に、一人でテーブルに座った大夢が、不貞腐れて唐揚げを頬張っている姿が目に入って頬が緩む。佐藤と仲良くすると拗ねることが分かってしまってから、この不機嫌な様子は自分を独占したいやきもちなのだと、大夢本人が気づいていなくても市井は知っている。あの告白を大夢は酔っていて覚えていないようだが、可愛いやきもちは心地よいものだ。

(なんて考えてるんだから、反省してるはずなのに、ダメだよなぁ)

 大夢に関しては、理性と真逆の思考にどうしても抗えない。

(こういうの、毒されてる、っていうのか? いや、それだと八木沢さまが悪いみたいだし、違うよなぁ)

 色々考えながら、無言で食べ続けている大夢の向かいの席に腰を下ろすと、市井はどうしても笑顔になってしまうことを隠せないまま、大夢の顔を覗き込んだ。

「結構食べましたね。まだ足らないですか?」

「大丈夫、です」

 優しい市井の声と表情に、喉がキュっとなって、苦しいような気持ちになった大夢が、拗ねた気持ちを悟られまいと笑顔を作る。それでもどうしても気になって、おずおずと、口をもごもごさせて聞いてきた。

「……あのっ、佐藤と、なんの話だったんです、か? あ、俺が聞いてもいい話なら、ですけど……」

(嫉妬心を一生懸命隠そうとしてるのが可愛いなぁ)

 にやにやしてくる口角に力を入れながら、市井は「ただの連れションでした」と呆れたようにため息を吐いて安心させる。

「そ、そうですか」

 市井の言うことを言葉どおりに受け取ればいいのかどうか一瞬悩んだようだが、市井が大夢に隠し事をする理由がないことに結論が辿り着いたようで、ホッと息をつくと恥ずかしそうにはにかんだ。

 その一連の心理状況が表情だけで分かって、最後の恥じらう様子などは市井の心臓に三本くらい矢をトスッと突き刺すほどの威力があった。

(ああ、もうっ。俺がこんな表情をさせているのかっ。八木沢さま、俺のこと大好きじゃん!)

 舞い上がりそうなほど気分が盛り上がったところで、旦那が帰ってきた。

「うー……寒ぅ……。唐揚げ残ってる?」

「……どーぞ。俺、まだ手を洗ってないんで、手づかみで取ってあげましょうか?」

「うっ、貴殿におかれましては是非、まず手洗いからお願いいたします。この度は申し訳ございませんでした!」

 営業職の淀みない平謝りに、市井は声を出して笑った。

 笑いながら、心の中でどうしても考えてしまう。

(抱きしめれば泣くほど嫌がられたのに、どうしてこんなに独占欲は見せてくれるんだろう)

 しらふの時と泥酔の時とで、性格や思考が変わるのだろうか。

 大夢の不安定な気持ちに一喜一憂するのも楽しいが、涙を見せられると一歩が踏み出せない。

(一歩が踏み出せないっていうか、一線が越えられないっていうか……って、越えてどうするっ。そもそも一線ってどのラインを考えてんだ)

 悶々と考えてしまう未知過ぎる境界線は、冷たい水で手を洗っているうちに目が覚めてしまった。

(まぁ、俺がどうこう考えてもしょうがない話だな)

 追加のビールを持ってテーブルに戻ると、市井はようやく今日の晩御飯を食べ始めることが出来た。が、それもひと口ふた口食べたところで再び箸を置くことになる。

「なぁ、佐藤。今日はもう帰るんだろ?」

 なんだか唐突に切り出された大夢の言葉に、佐藤がビールの缶を開けながら「んー」と唸る。

「え、それってどっちなの?」

 判断できない返事に大夢が答えを急かせる。

「えー。今日寒いしなぁ」

 確かに時間が遅くなればなるほど、外には出たくない。

 どうやら佐藤はもう一泊世話になろうとしているようだ。

 そんなニュアンスの返事に、大夢は無言で席を立つと、市井の手を掴んで引っ張り、立ち上がらせた。

「市井さん。今度は俺と連れションです」

「えっ? えっ?」

 言われるまま、市井は連れ去られるようにテーブルから離れていく。

「行っトイレ~」

 箸を持ったままの佐藤に手を振られて見送られ、市井は再び極寒の廊下に連れ出された。

 そして。

「あ……あのー、八木沢さま。何で……二人で一緒に個室に入ってんですか?」

「だって連れションだもん」

 さっきと似たような場所で、似たような会話のやり取りをしているハズなのに、全然状況が違うことになっていた。
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