転生したらとんでもないトコロをイケメンにされた

餅月ぺたこ

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13.三十日目

第27話

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 13 三十日目 

  

 新居で暮らすようになってから、文化的な生活をゲットした俺たちは、たまにバーベキューしたい日以外は毎日の狩猟生活からも解放され、ゴロゴロする時間を過ごせるようになっていた。 

 どんなタイミングで到達するのか未だ不明だが、魔法で出した家にもいわゆるレベルアップの法則があるようで、10日間連続でポトフしか出てこなくて俺たちをブチ切れさせた食事も、最近はパスタやピザ、唐揚げなど八種類のメニューから選べるし、着るものだって館内着以外もクローゼットに出現するようになっている。襟やボタンの付いた服を着て、ソファに座ってティーカップ片手にお茶を飲めば、マティアスもロランも、エロエロ絶倫魔人とは思えない、びっくりするほど爽やかなイケメンさんに見えた。

 今日もリビングのソファで、俺だけのイケメン二人を鑑賞しつつ、キノコ茶を飲みながら、まったりと朝のひと時を過ごしている。

 ちなみに、キノコ茶を飲むと、無性にエッチがしたくなると二人ともが言うのだが、俺は全然なんともない。 

 二人がスケベなだけじゃないの?  

 どっちかっていうとキノコ茶は利尿作用を疑ったほうがいいと思う。昨日もずっとおしっこしながら、噛み合わない話を二人で長々としてたよね? 

 そんな感じで新居で暮らして早30日。
 ひと月も経てば、色々不満も出てくるわけで。

「ねぇ。家で服を着る必要性ってあるの?」 

 俺の乳首にシャツの上から、のの字でちょっかいを掛けていたロランが、気だるげにシャツのボタンをプチプチと、上から順番に外しながら聞いてくる。 

「あるに決まってるじゃん! 俺が楽しいの!」 

「カイト。ちょっと狩りに行ってくる」 

 今度は横から、元々シャツも着ていなかった半裸のマティアスが、既にズボンの腰に指を掛けて脱ぎ始め、腰蓑片手に準備を始めてる。

「何で一番防御力の低い腰蓑で狩りに行くの!」 

 人は一度解放されると、文化的なものはどうも窮屈らしい。 

 このままでは、セックス文化だけが発達した、全裸がデフォルトの日常になってしまう。 

「うぅ、すぐにでもこの島から脱出しないと、人としてダメになる気がするぅ!」 

 頭を抱えた俺が、そう叫んだ瞬間。 

 俺たちは何故か、海沿いに広がるレンガの街並みと、その奥に荘厳なお城がそびえる景色を見下ろせる丘の上に立っていた。 

「な、何が起きたの!?」 

 突然の中世ヨーロッパ風の街並みと、そこで大勢の人が行き交う様子が伺える眺めに、俺たちは呆然とする。 

 最初に気づいたのはロランだった。 

「――っ、帝都だ!」 

「えっ! 帝都って、ロランの故郷の!?」 

 俺の問いにコクンと頷いて、ロランが信じられないとばかりに瞳を潤ませる。 

 その瞳に、俺は感動と、そして、この物語の終わりを感じて、ポロリと涙が溢れた。 

 三人ともが、何となく気づいていた、あの島から脱出できる方法……。 

 陰毛がパッと消えたことも、家が突然出てきたことも、全部、俺が願ったことが叶っていた。 

 だから、俺があの島から出たいって、望んでしまえば、叶うんじゃないか……って、言葉にしなくても、多分三人ともが考えたはずだ。 

 ただ、あの島で、三人で暮らすのが楽しすぎて……というか、エッチなことがやめられなくて、誰も口にはしてこなかったのだ。 

「わ……、わぁ……! ロラン、良かったね! 家に帰れるよ!」 

 遭難して以降、ロランが帰る日を願い続けただろう事は、容易に想像がつく。 

 だから、きっとロランとはここでお別れになるけれど、ちゃんと喜んであげないと。 

 心は騒めいて、悲しくて、全然喜んであげられないのに、俺は強張りそうになる顔を必死に笑顔にした。 

 そうやって無理やり笑顔を作っていると、港に大型の帆船が見えてしまって、俺は笑顔のままさらに顔色を失くした。 

「ふ……船、だ……。――ってことは、マティアスも故郷に帰れる船便とか……あるんじゃないの……」 

 俺は震える声でそう言って、隣に立つ男を見上げると、青灰色の瞳を潤ませて船を見つめるマティアスの姿に、頭の中が真っ白になる。 

 なんでそんなことをするのか自分でもよくわからないテンションで、強引にロランとマティアスの手を掴んで握手して、嬉しげにブンブン腕を振って、俺は泣きながら笑っている。 

(ど、どうしよう……ロランだけじゃなくて、マティアスまで故郷へ帰っちゃう) 

 頭の中が、どうしよう、どうしよう、って言葉でどんどんいっぱいになって、不安で埋まって、叫び出しそうだった。 

「カイト、どうして泣くんだ」 

「そんなお別れみたいな顔しないで」 

 二人が心配そうに俺を呼んで、手を伸ばして抱きしめてきた。 

 俺は、ぎゅうって二人を抱きしめ返す。 

「よかったねぇ! ごめんね、なんか俺のワガママで帰るの遅くなっちゃって!」 

 帰してあげなきゃ。二人には故郷があって、待っている人たちがいるんだから。 

 俺は――俺だけが、この世界に故郷なんてなかった。 

 ううん。故郷だけじゃなくて、この世界でも前の世界でも、俺には家族なんて、いなかった。 

 家族のもとへ向かうことが出来る喜びを湧き上がらせた二人に、俺は心がぐちゃぐちゃになって、もう我慢できなくて、ポロポロ泣きながら、カラフルな二人の髪をくしゃ……って優しく撫でて、それから一歩後ろに、離れた。 

「バイバイ。元気でね! 大好き!」 

「おいっ、カイト、一緒に……!」 

「バイバイって、待ってカイト……!」 

 それが、二人との最後の会話だった。 

 俺は、もともとそこに俺なんか居なかったみたいに、一瞬で二人の目の前から消えた。 

  

  

 さっきまで三人で一緒にお茶を飲んでいたリビングで、俺は一人ぼっちで声を上げて泣く。 

 楽しかった日々に浸って、甘えて、気づきたくなかったことを思い出してしまった。 

 俺にだけ、どうして家族はいないんだろう。 

 俺だって、家族が欲しかった。 

「神様にっ、お願いずる時だっで、我慢っ、できだのにぃっ。二人がっ、俺を、あんなに甘やかずがらぁ……!」 

 その後も涙が全然止まらなくて、でも、時間が経つとお腹は空いて。俺は、しゃくり上げながらキッチンに行く。

「ひっく……っ、はいっ、どーもー! トリオから突然ピンになって初めての食事でーす!」

 涙声でテンション高く、俺は慣れた口調で一人明るく喋る。そして、鍋の蓋に手を掛けた。

「ひっ……く、オープン! はいっ、ポトフ~。うん、そんな気はしてた! イケメン消えたらレベルダウンする気がしたもん! この家、俺に似て面食いだと思ったもん! エロい空気消えたら閲覧数とポイントは減るって佐田も言ってたもん!」

 ぷりぷりと文句をひとしきり言って、ポトフを食べながら、最初にみんなで食べた日を思い出して涙がぶり返したし、ご飯のあと、人の気配を探してダメ元で覗いた、誰もいないお湯の流れ続けてるお風呂場を見ても泣いた。リビングでもトイレでも、もう一回キッチンでも。玄関でもクローゼットでも屋根でも。川でも木の上でも――。

 思い出のある場所に行けば、涙が溢れて、恋しかった。 

「うえぇぇ……っ。てゆーか、グスっ、あいつら、色んな場所でエッチし過ぎだろ! グスッ、どこ行ってもやらしい思い出ばっかじゃん!」 

 俺は泣いて震える息をゆっくり吸い込んで、マティアスが最初に作ってくれた木の上の寝床から、森に向かって思い切り叫んだ。 

「ばかー! エッチ! 絶倫! しつこい! デカくて顎疲れた! 背が高すぎ! マッチョ! この……金髪! 青髪! イケメン! ……全部、大好きー!!」 

 ……はぁ。ちょっとだけ、スッキリしたかも。 

 そうして、そのまま木の上で、涙が落ち着くまでボーっと葉っぱが揺れるのを見て過ごしてたら日が暮れてきて。俺は家に戻ると、寝室のドアを開けて、ベッドにダイブする。 

 広い三人用のふかふかベッドで大の字になって、それから、やっぱり泣いた。 

 今日だけ。今日だけは、うんと泣いて、明日は泣かない。 

 だから、今日だけはこのベッドで甘えさせてよ。 
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