恋した彼は白金狼~プラチナウルフ~

友崎沙咲

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vol.1

プラチナ満月

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●●●●●●

「おい」
「きゃ!」

時間は午後3時30分。
全ての授業が終わり、部活棟へ向かおうとしていた私は、急に腕を掴まれて非常階段の踊り場で息を飲んだ。
咄嗟に見上げると、ひとりの男子生徒が唇を引き結んで私を見下ろしている。

長めの前髪から覗く切れ長の眼、通った鼻筋、精悍な頬。
どれもこれも整いすぎている。同じ人間とは思えない。
……まあ、人間じゃないかも知れないけど。てゆーかやっぱり……昨日のアレは……。
じゃないと、この端正な男前男子が私に声を掛ける訳がない。

私は至近距離からこちらを見る彼……雪野翔(ゆきのしょう)を、張り付いたように見上げた。

雪野翔(ゆきのしょう)とは、私が通う高校の三年生。つまり私よりひとつ先輩。
切り込んだような二重瞼の眼はいつも鋭くて、噂じゃどこかの暴走族の頭張ってるとかなんとか……。クールな見た目に比例して、性格も冷たそう。

なのに何故か女子には物凄く人気で、ファンクラブがあるらしいんだよね。
耳には校則違反のピアスを付けてるんだけど、それは彼が生まれた時に両親が付けたらしく、一度付けると二度と外すことが出来ない仕組みになっているんだって。
なんでも、宗教上の理由だとか。外すとなれば外科手術が必要だとかで、学校側には特別な許可を得ているらしいの。

……なんで知ってるかって?
それはね、学年は違えど私達二年生女子にも熱狂的な雪野翔ファンが存在していて、彼の事に関しては週刊誌並に詳しいの。
そんな彼女達が休み時間毎に雪野翔の話題で持ちきりなものだから、そばを通ると嫌でも聞こえるし日々脳ミソに叩き込まれていくんだよね。

「おい、聞いてんのか」

へっ!?
思わずビクッと身体が跳ねる。

「……な、んですか……?」

綺麗な瞳が苛立たしげに瞬き、雪野翔は私を真正面から睨み据えた。

「なんですか、じゃねーんだよっ。お前、見ただろ、昨日」

き、き、き、昨日!
目眩がした。あれはやっぱ幻想でも幻覚でもなかったんだ……。
私はギュッと眼を閉じるとあの出来事を思い返した。


●●●●●●

─昨夜─


……すっかり遅くなっちゃった。
私は夜道を早足でやり過ごしながら、弾む息を整えた。
今日は美術教室の日だった。
私ね、絵画が大好きなんだ。でも残念ながら私の通う高校には美術部がない。あるのは全て運動部だけ。
運動は好きでテニス部に所属しているけど、やっぱり美術も勉強したい。だから私はママに頼んだ。絵を習いたいって。

ママはイイ顔をしなかったけど、学校の成績が下がらないように頑張るなら続けてもいいって言ってくれた。
だから放課後は毎日部活、帰ってから美術教室。美術教室が終わると帰宅して宿題。
美術教室は週に一回だけど、家でも絵を描くし、毎日忙しいんだよね。

この日は特に遅くなってしまった。新聞社主催の絵画コンクールに出す作品の手直しをしていたから。
時間は午後九時にさしかかる頃で、私はパタッと立ち止まり、左手に広がる竹林を見た。
……突っ切っちゃおうかな。
この竹林を横断すると、回り道をしないですむから半分の時間で家に着く。

昔、私がまだ小学生だった頃はよくこの竹林で遊んだっけ。
友達の家に行くのに、この竹林を突っ切るのが一番の近道だったし、何よりこの竹林が私は好きだった。
ムッとした暑い日に入ると、スーッと冷ややかで気持ち良かったし、春でも秋でもとにかく空気が違うように感じたから。マイナスイオンってやつだ、多分。
今日は満月で、明るいし……よし。

私は道路からそれて溝をまたぐと、少し坂になっている竹やぶへと足を踏み入れた。その途端、長い間忘れていたある記憶が蘇ってきて、私は竹やぶの中で立ち止まった。
あれは……まだあるのかな。
あれっていうのは、小さな小さな鳥居のある祠(ほこら)。
小学生の頃、この竹林の中で迷子になった時、偶然見つけたんだよね。人なんか入れないような小さな祠に、沢山のぬいぐるみがお供えしてあったの。

そのぬいぐるみは何故か全て犬のぬいぐるみで、私は凄くビックリしたのを覚えている。
大小様々なぬいぐるみが全て犬だったから、私は勝手に『犬神様の祠』と呼んでいた。
祠なんていうと何となく怖い感じがするんだけど、その犬神様の祠は全然怖くないんだよね。
なぜなら、お供えしてある犬のぬいぐるみがどれも凄く可愛いから。

……行ってみようかな。
まだ、沢山の可愛い犬のぬいぐるみがお供えしてあるのかな。
私は空を見上げた。
プラチナ色の満月は、眩しいくらい明るい。
大丈夫。明るいし、少しだけなら。
私は祠の方へ足を向けると、再び歩き出した。



●●●●●●●●●



……あった……。一、二分歩くと祠が見えきた。ちょっと感動。だってもうかれこれ七年経ってるのに、まだ犬神様の小さな祠はそこにしっかりとあったんだもの。
ん……?
近寄ろうとして思わず足が止まる。だって……誰かいる……あれ?あれって……うちの学校のスクバだ。
てことは、うちの学校の男子……だよね。
祠からは十メートル程離れているし、明るいと言えども満月の光だけだし、顔は分からない。
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