恋した彼は白金狼~プラチナウルフ~

友崎沙咲

文字の大きさ
4 / 28
vol.1

災難は突然やって来る

しおりを挟む
●●●●●●●●●●

翌日。

「瀬里、起きなさーい!」

ママが一階から呼ぶ声に、私は眼を閉じたまま顔をしかめた。
……昨日は……なかなか寝付けなくて。
ああ……頭が重い。休みたいなあ。でも、ダメなんだ。
私の家には『学校休むんだったら絵を描いちゃダメ』という掟がある。
……地獄……。
その時、返事をしない私を心配したのか、ママが再び一階から声を張り上げた。

「瀬里、早くー!旬君も待ってくれてるわよー!」

ん!?……旬……?なんで?
片瀬旬は、お隣に住んでる私の幼馴染み。
さっきまでのダルさが吹っ飛び、私はベッドメイキングもしないまま部屋を飛び出すと階段をかけ降りた。

「瀬里、はよ」

ダイニングに旬が腰かけていて、階段を降りた私を見つめた。

「旬、なんで?」

旬が優しく笑った。

「バスケ部の朝練休みだから瀬里と学校行こうと思って」

やだ、うそ!超うれしーんだけどっ!

「本当?!じゃあ一緒に行こ!待ってて!すぐ用意するから!」

言い終えるなり慌てて二階にかけ上がる私に、旬は苦笑しながら声をかけた。

「こら、危ないぞ」
「ん、待っててね、旬!」

●●●

「なあ、瀬里」
「ん?」

私は旬と並んで歩きながら、彼の顔を見つめた。
背の高い旬を見上げると、バックの青空が彼をよりカッコよく彩っていて、私の胸は次第にドキドキとうるさく響いた。
ああ、旬が大好き。
もうとても長い間、私は旬に片想いだ。私のこの想いに、きっと旬は気付いていない。

保育園に通ってた時からずっと一緒に遊んでいて物心ついた時から大好きだったけど、私は一度も旬に『好き』って告げた事がない。
だって旬はあの頃から凄く人気者で、彼の周りにはいつも気が強くてお洒落な女の子達が沢山いたもの。地味であか抜けない私なんか、旬に似合わない。

あの頃から既に、

『瀬里ちゃん、旬くんとお隣だからって自慢しないでよね』

とか、

『幼馴染みだからって、旬くんと瀬里ちゃんじゃ釣り合わないから』

とか言われ続けてたっけ。
でも旬は、いつも私に優しかった。小学生の頃から勉強を教えてくれてたし高校受験を控えた中三の頃も、

『俺と同じ志望校、通えるように特訓してやる』


って、家庭教師役を買って出てくれたりもした。
スポーツ万能で顔だってスタイルだって抜群で、いつだって私は、旬に憧れてる。本当に大好き。

「なあって。なにボーッとしてんの」

あ。
私は焦って言葉を返した。

「寝不足でボーッとしちゃった」

ウソ。
寝不足は本当だけど今はただ、旬に見惚れてたんだ。
私の言葉に旬が少し眉をあげた。

「寝不足?何してたの?」
「ん、絵の直し」
「ほどほどにしとけよ。じゃないと」

旬は私を見下ろして、そこで一旦言葉を切った。
すぐ近くの駅に大勢の人が吸い込まれるように入っていく中、旬が立ち止まるから私もつられて足を止めると、まるで私達だけ時が止まっているような感じがした。

「……旬?」

どうしたのかと思って私が旬を見上げて首をかしげると、急に旬が私に手を伸ばした。
適度に筋肉のついた腕が、私の後頭部に回る。
トン、と額が旬の胸に当たって、何がなんだか分からなくなりそうな程、身体が熱くなった。
なにこれ……。

「なあ、瀬里」

少し旬の声が掠れていて、それがやけにドキドキする。

「あの、旬」

歩道の私達をチラ見しながら沢山の人が追い越していくのに、旬は一体どうしちゃったの?
勿論、こんな事は初めてだ。

「……瀬里、デートしよう」
「……え」

すると旬が私の後頭部に手を回したまま、斜めから窺うようにこっちを覗き込んだ。

「俺とデートは嫌?」

クッキリとした旬の綺麗な眼。
ああ、旬は本当に素敵だ。私は夢中で首を横に振った。

「嫌じゃないよ。嫌なわけない」

でも、どうして?
そう訊けないまま、私は旬の胸に頬を寄せてガチガチに固まってしまった。

「じゃあ……俺とデートしてくれる?」
「……うん……」
「じゃあ、今週末の土曜日は?」
「うん」

僅かに頷くと、ようやく旬が私を離した。

「……やった」

それからニッコリ笑うと、

「行こ」

私の手をギュッと掴んだ。信じられなかった。
夢みたいだった。

●●●●●●●

「誰だと思う!?」
「顔は見えなかったの?!」
「愛華先輩の話じゃ、雪野先輩の方がベタ惚れって感じだったんだって!ギューッと彼女を抱き締めて、『愛してる』って囁いてたらしいのっ!」

……ブーッ!!
何も飲んでないのに何かを噴き出しそうになり、私は思わず息を飲んだ。
一歩入った教室から、そのままバックで出ていきたい衝動に駆られる。
こ、こ、こ、この会話は、まさか……!
入り口で硬直する私を見て、さっきの会話のど真ん中にいた人物……志帆ちゃんが勢いよく立ち上がった。

「ねえ、瀬里!あんた昨日、部活だったよね?非常階段で雪野先輩見なかった?」

きゃあーっ!
まだ教室に一歩しか入ってないのに、もう身の危険にさらされるなんて。
どうやら雪野翔に関する話は、恐ろしいスピードでファン達の間を駆け巡るらしい。
音速、いやもはや光速で走り抜けた雪野翔のラブシーンの話題に呆然としながら、私は立ちすくんだ。

「時間的には三時半頃なんだけど、見なかった?!」

見たどころかそれは私よっ!
なんて言えるわけもなく、私は千切れて飛んで行くほどの勢いで首を横に振った。

「み、見てないよ、全然」
「そっかあ……」

志帆ちゃんは残念そうに唇を少し尖らせてカタンと椅子に座り込んだ。
そんな彼女達の横を通りすぎて私は席に着いたんだけど、もう気が気じゃないったら!

「ねえ!愛華先輩なにか他に、雪野先輩に抱き締められてた女子の特徴見てないの!?」
「それが、雪野先輩が女子を抱き締めてる姿が映画のワンシーンみたいで、あまりにも素敵すぎて動揺しちゃったんだって!」
「やだー!!やだやだ、むっかつく!誰よ一体!」

こ、怖い。もしもそれがバレちゃったら、私は一体どうすればいいの?
……怖すぎる。
雪野翔も怖いけど、そのファンの女子達も凄く怖い。
私は誰にも見つからないように溜め息をつくと、力なく机に突っ伏した。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...