シオンズアイズ

友崎沙咲

文字の大きさ
2 / 19
第一章

魔性アイーダの恋

しおりを挟む
アイーダは急いで姿を現した。
たった今黄金族人間の王子ファルが唇に含んだ一本の細い草を、必死になって探した。
黄金が欲しいからではない。
彼が所有した物が欲しいのだ。

アイーダは、王子ファルに心を奪われていた。
最初に彼を見たのは数年前である。
偶然にもこのエリルの森で、武術の稽古中であった彼の姿がアイーダの目にとまった。

数名の青年の中で一際異彩を放つ王子ファルに、彼女は一目で恋に落ちたのである。
逞しい身体つきと顎から首にかけての男らしい線、強い意志を感じる眼差しに、清潔そうな口元。
また、武術の腕前もかなりのものである。

剣を交える度に額からこぼれ落ちる汗がキラキラと飛び散り、アイーダはその眩しさに思わず眼を細めて息をのんだ。
やがて剣をおさめた青年達は互いの腕前を称え合い、肩を抱き合うと耳に口を寄せて何かを話し、弾けるように笑った。

王子ファルの無邪気な笑顔にアイーダはドキリとし、思わず自分の胸に手を当てた。
自分の鼓動があまりにも大きくなってしまい、あたりに響き渡りそうに思えたのである。
そして彼女はそんな自分を恥ずかしく思い、俯いた。

何と素晴らしい男だろう。
美しさと強さ、時折見せる無邪気な笑顔。
あの逞しい腕に抱かれ、厚い胸に顔を埋めて愛を語らいたい。
そんな幸せな女は、自分であって欲しい。

アイーダは王子ファルとの出会いを嬉しく思った。
だが次の瞬間には、絶望の闇が身体中に広がった。
自分は魔性だ。
かつては人間であったが、悪の女神に殺され、生まれ変わる事を許されない魔性としてさ迷う運命を背負わされたのである。

唯一悪の女神が許したのは、人を愛する事であった。
だがそれは、同時に永遠に成就出来ない恋を背負う事でもある。
それでもアイーダは、女神に殺されて初めて幸せだと思った。

王子ファルを愛してしまった。
彼を、自分のものにしたい!
その唯一の方法を、彼女は知っているのだ。
昔人間だった頃耳にした、自国に伝わる伝説をアイーダは信じていた。

…何処にいる、七色の瞳を持つ乙女。
七色の瞳の乙女は、どんな願いも叶える力を持っているのだ。
それゆえに、私利私欲にまみれた数多くの者達にその存在を狙われる。
見つけなければならない、誰よりも先に。

アイーダは足元でキラリと光る一本の針を見つけて、ニヤリと笑った。
拾い上げるとふっくらとしたバラ色の唇にそれを押し当てて、眼を閉じた。
何としてでも見つけるのだ、七色の瞳の乙女を。

生き返り、人間としてこの恋を成就させる為に。
アイーダは、ユグドラシルの樹で作られた腕輪をシャラリと揺らし、徐々に透明になるとその美しい姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いや、無理。 (完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...