シオンズアイズ

友崎沙咲

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第六章

再会と決闘

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リーリアス帝国、王都リアラ。

「鞍と鐙は騎馬隊の数だけ出来上がった」

ファルの部屋の大理石の机で地図を見ていた香は、入り口から声をかけたマーカスを見て頷いた。

「分かった。見せて」

この世界には馬具が充実しておらず、せめて鞍と鐙の製作をと、香はファルに提案した。
本来なら拍車も欲しいところだが、ぶっつけ本番でそれを使うのは些か不安があるし、かといって短時間の訓練で馬が拍車の刺激に慣れるとも思えず断念した。

鞍と鐙の試作品は現代のものと比べれば随分と簡素なものになってしまったが、日数的に余裕がなかった。
でも、いい。あるとないでは大違いだ。

ファルの部屋を出て列柱の間の廊下を抜けると、中庭をつっきった先の訓練場の入り口にズラリと鐙付きの鞍が並べられていて、香はそのうちのひとつを手に取った。

鞍の部分は分厚い布製で、しっかりと両側に鐙が縫い付けられていた。
うん、いけそうだわ。

「馬を」

アルゴが一頭の馬の手綱をひきその手綱を手渡すと、香は馬の瞳を見上げて微笑んだ。

「あなたは、あの時の子ね。少しじっとしててね」

馬の背に鞍を置き首に回した紐を胸の前にあてがい鞍に結ぶと、腹帯にしっかりと結んで固定し香は馬の頬を優しく撫でた。
それからおもむろに鐙に足をかけると、グイッと膝に力をいれて馬の背にまたがった。

「鐙には爪先を乗せる感じで。この鐙があることによって簡単に立ち上がれるし、弓の的も定まりやすい。剣だって今より構えやすいし振りおろしやすくなるわ」

おお!と、アルゴが感嘆のため息を漏らした。

「これで、馬を太股で挟んで立ち上がらなくてもいいって訳か。楽になるぜ」

香はアルゴに微笑むと、騎馬隊員を見回した。

「皆、鞍をつけて馬に乗ってみて。感覚を早くつかんで。
弓矢隊は各自練習してみて。誰か私と剣の手合わせを」

ファルが素早くアルゴを見た。

「アルゴ、お前がいけ」
「あ?!なんで俺なんだよ?!か弱い女に剣なんかで斬りかかれるかっ」

アルゴはファルの軍の中で一番の巨体である。
従って力も強く腕もたつ。
ファルはアルゴの首に腕を回すとグッと引き寄せ、その耳に強く囁いた。

「言っておくが、アイツは全然か弱くない。本気でかからなきゃ負ける」

マジかよ!?
アルゴは至近距離からまじまじとファルを見つめた。

「……なに、そこの二人!」

険を含んだ香の声と、彼女の刺すような眼差しを受け、ファルはギクリと硬直した。
そんなファルに、香がニヤリと笑う。

「……王子でもいいのよ」
「アルゴが手合わせしたいそうだ!」

「え!俺!?」
「いいから、いけ!」

「しかし、女相手に」
「だから香を女と思うな」
「何ですって?!」

香がキッと二人を睨んだ。

「俺が相手になる」

澄んだ声が響き、三人のやり取りに呆れたマーカスが鞍をつけ終えた自分の愛馬にまたがった。
榛色の瞳が香を捉え、マーカスはスラリと愛剣を引き抜くと、高く掲げる。

「いいわ。アルゴ、剣を」

アルゴが焦って香に駆け寄る。

「おい香、マーカスは青白い顔してる割りには案外強いんだぜ」

マーカスがジロリとアルゴを睨んだ。

「俺は青白くない。お前が異様に黒いだけだ」
「どーでもいーから、早く剣を貸して」

イラッとした香に見据えられ、アルゴはやむ無く剣を渡した。
香は剣を受けとるとグルッと手首でそれを回し、肩に担ぐとマーカスを見つめた。

「鐙に爪先をかけて、立ち上がるときのコツを掴んで」
「分かった」
「いくわよ!」

言うや否や、香は手綱をさばいてマーカスに背を向け、十数メートル駆けると再び馬を返して彼に向かい合った。

「いつでも」

マーカスの声が響き、互いに剣を構えて駆け出した。
瞬時に距離が縮まり、二人の剣が十字に重なると共に硬い音が辺りに響き渡った。

な、なんだ、コイツは……!
マーカスは香の剣さばきに眼を見張った。

……俺の剣を受け止めるだけでなく、勢いよく弾き飛ばすと全く別の場所へと素早く攻撃を仕掛けてくる。
しかも両手利きか!?

当たり前かのように左右の手で剣を持ち替え、激しく斬り掛かってくるが、香は息も乱さない。
彼女の打ち込む剣は重く、男のマーカスであっても歯を食い縛らねばならないくらいだ。
アルゴは息を飲んで馬上の二人を見つめた。

「おい、嘘だろ?マーカスの汗を見てみろ」

ファルは、斬り結ぶ度に額の汗が空に飛び散るマーカスを見て口を開いた。

「な?アイツはまるでか弱くない」

……確かにか弱くはないが……ますます惚れた!
アルゴは、マーカスと剣の音を響かせている香をただただ見つめた。

「マーカス!感覚は掴めた!?」

剣をふるいながらの香の問いに、マーカスは大きく頷いた。

「ああ!これなら騎馬隊員はすぐ慣れる」
「オッケイ!じゃあここまでにしましょ!」

香はフワッとマーカスに微笑み、ゆっくりと剣をおろした。
マーカスは眼を見張った。
こんなに力強く剣を振るうクセに、頬にまとわり付く髪を細い指先で払いながら微笑んだ顔が、やたらとあどけない。
マーカスは聡明な女が好みである。

「なに?」

自分を凝視するマーカスを訝しく思い、香は眉を寄せた。

「いや、別に」

あ、あいつーっ!!
香に想いを寄せているアルゴは、いち早くマーカスの胸の内を察知し、血相を変えて彼に近づいた。

「マーカス!!」

アルゴの勢いにたじろぐマーカス。

「な、なんだ」

アルゴは焦るマーカスを、ギリギリと歯軋りしながら見据えた。
そんなアルゴの腕をファルが掴み、ズルズルと引きずるように離した。

「とにかくお前も鞍と鐙に慣れるのが先だ」

そこで一旦言葉を切ると、ファルは全員を見回して凛とした声で告げた。

「皆!鞍と鐙に慣れるように今から訓練だ。鐙の長さはしっかりと調節しろ!
三日後、このリアラを立ちケシアを目指すぞ!各隊長から戦法を詳しく聞け!
今晩は決起集会と宴だ!伝令係は愛馬をよく手入れし、マーカスの指示に従い父上の軍と連絡を取るんだ!」

おお!と勇ましい雄叫びを上げると、騎馬隊や歩兵隊が慌ただしく身支度を整え、訓練へと邁進した。

「香」
「なに、ファル」

ファルは、馬から降りて自分の正面に立った香を見つめた。

「俺とジュードは、明日の早朝ケシアに立つ」

ジュードはリアラに帰りついた時こそ正気を失ってはいたが、大した怪我はなく暫く療養すると瞬く間に回復した。

「俺達は馬を飛ばし、三日以内にケシアに入る。待ち合わせは父上の別荘の南側の谷だ」

ケシアの南にはエリルの森から続く深い谷がひろがっている。
隠れ待つには最適で、そこが絶好の拠点となる。
だが三日以内にケシアに入るには、エリルの森を突っ切り獣道へ進むしかない。
香が頷くとマーカスが口を開いた。

「俺は三日後、残りの歩兵隊と荷物を馬車でエリルの森まで運ぶ。それからは獣道に入りケシアを目指す。向こうで落ち合おう」

マーカスの言葉にファルが頷いた。
獣道は険しいが、エリルの森を迂回すると時間と疲労が蓄積される。
ケシア奪還は、奇襲攻撃と決めた。
何もない平野での決戦ではなく、街中で敵の寝込みを襲う作戦である。

騎馬隊の中でも、特別騎兵隊……いわゆる決死隊を最小限にし、後は歩兵隊で攻め込む。
一言で歩兵隊といえど、その中身は扱う武器により、実際は隊の名称が数種類に分けられている。

父王ダクダの兵達は騎馬隊が主であるが、この度のファルの兵は歩兵隊が主力なのだ。
マーカスがファルの黄金色の瞳をしっかりと見据えた。

「湖岸の闘いでは手厳しくやられたが、今度はそうはいかない。ケシアは黄金族人間の街だ。俺の作戦に抜かりはない。必ず奪還できる」

街中での奇襲攻撃で力を発するのは、やはり小回りが効き、弓、剣を体の一部のように扱える身体能力の高い歩兵隊なのだ。

「今夜は飲もう。軍神マルスに祈りを捧げ、我らの武運長久を祈って」

マーカスの言葉に、皆が力強く頷いた。

◇◇◇◇

「明日の朝、アーテス帝国に帰る」

庭で摘んだ花を花瓶に生けようとしていたところであったが、シオンはカイルのその声に僅かに息を飲んだ。
……行きたくない。
アーテス帝国へ行けばいまよりも一層、ファルと離れてしまう。

シリウスに刺された足は、多少の違和感が残るものの生活に支障はない。
馬にもなんとか乗れる。
……逃げるなら、今かもしれない。

「ねえ、シオン」

急に耳元で名を呼ばれ、ビクッと跳ねそうになる身体をシオンはなんとか抑えた。
振り仰げば、至近距離からこちらを見下ろすカイルの青い瞳が目に入る。

「……なに?」

カイルは無言だった。
ただ、真っ青な瞳がこちらを真剣に見ていて、シオンは苦しかった。

いやだ……見ていられない。
シオンはカイルから眼をそらして俯いた。
その直後、カイルの苦笑いが聞こえた。

「シリウス様との約束の日をとっくに過ぎてしまってる。きっと帰ったらブツブツ言われるだろうな」
「私、馬を見てくる」

カイルは固い表情のシオンをチラリと見て息をついた。

「夕食を用意しておくから、暗くなる前には帰っておいで」
「……分かった」

シオンは馬宿に足を向けながら考えた。
どうしよう、アーテス帝国になんか行きたくない。
行けば一生ファルに会えない気がする。

このまま馬に乗って逃げようか。
けれどもうすぐ夕方だ。
土地勘もないし、暗くなると進めない。
ああ!どうしたらいいの!?

その時である。

「おい」

屋敷の出入り口を出たところで、野太い声がした。
振り返ると、兵士が一人こちらを向いて笑っていた。

「あなたは……馬を貸してくれた人よね」

兵士は軽く頷いた。

「馬……だいぶ上達したみたいだな」

ゆっくりと歩を進めながら、シオンは気恥ずかしくなって微笑んだ。

「カイルに比べればまだまだだけど」

その言葉を聞いて兵士は大きく笑った。

「カイル様と比べるのは間違ってるぜ。カイル様には誰も敵わない」
「それもそうね」

「お前も……アーテス帝国に来るのか?」
「…………」

たちまちのうちに影を落としたシオンの顔を見て、兵士は呟くように言った。

「黄金族人間の……リーリアス帝国へ、帰りたいのか?」
「帰りたいと思うほど、その国を好きになった訳じゃないの。でも……」

でも、好きな人がいるの。
言いたい気持ちを飲み込んで、シオンは今にも雨が降りそうな曇った空を見上げた。

……なんだ……この女の眼は……。
兵士は夢中でシオンの瞳を見つめた。
キラキラと黄、夕焼け色、赤、紫、青……様々な色に変化しては全体が七色に輝く。

「あなたは、好きな人いる?」

兵士は我に返ると同時に驚いて瞬きした。

「アーテス帝国はあなたの母国なんでしょう?……ご家族はいらっしゃるの?」

兵士は僅に眼を細めた。

「父親はずっと前に死んだが……家族は、お袋と妹が国にいる」

シオンはじっと兵士を見つめて優しく微笑んだ。

「明日、アーテス帝国へ帰れるわね。良かったね」

兵士は苦しげに眉を寄せた。

「帰っても……何もない。お袋にも妹にも、何もしてやれない」
「…どうして?」

兵士は、雲に隠れた気の弱い夕陽を見つめた。

「病気なんだ、お袋が。不治の病ってやつさ。
妹は看病のせいで結婚もできない。働き手は俺しかいないから、俺が働かなきゃ薬代が払えない。
だから俺は、好きなヤツなんて作らない。そういうのは……諦めてる」

ここまで話して兵士は唇を引き結んだ。
それから、心配そうな顔でこちらを見つめるシオンを見て少し驚いた。

「……どうした?」
「悲しくて」

兵士は面食らった。

「なんでお前が悲しむんだ」

シオンは立ち止まって胸に手を当てた。

「だって、あなたが凄く辛そうな顔をしてるんだもの」

兵士は誤魔化すように鼻をすすって空を見上げた。

「ハハッ、俺は平気だ。……馴れてる。それに……人は何かを諦めながら生きていくものだろ?」
「あなた、歳はいくつ?」
「……二十五」

……不思議なヤツだ。
……今まで、女に歳を聞かれたことなんかないぜ。
シオンは兵士の正面に立つと、眉を寄せたまま彼を見上げた。

「……諦めるなんて、まだ早いわ」

シオンの瞳が七色に輝いた。

「お母さんの病気だって、妹さんの結婚だって。それに、」

シオンは兵士を元気付けようと、精一杯微笑んだ。

「あなた自身の事だって」
「……え?」

「好きな人を作らないなんて、そんな事言わないで。諦めるのはまだ早いわよ」
「……期待すると……叶わないと思い知った時……」

シオンは首を振りながら、兵士の言葉を遮った。
それから兵士の腕にゆっくりと触れる。

「私が、お母さんの病気を治してあげる。
誰かの病気を治した経験はないけど……多分、出来ると思うの」

シオンは自分の力でアイーダの傷が塞がったのを思い出しながらそう言った。

「お前は……七色の瞳の乙女だから、治せるのか?」

シオンは頷いた。

「ね?だから、家族の事もあなたの事も、まだ諦めてほしくないの。私が力になるから」

なんなんだこの女は。
なんでこんな風に……。
兵士はグッと唇を噛んだ。

途端に視界がぼやける。
おい、嘘だろ。
俺に涙なんて似合わねえし、そんなものが体内にあったなんて意外だぜ。

こんなの、大した事ねえ。
ただの日常会話だ。
うわべだけの取り繕った会話だ。

そう思いたいのに、なんなんだ。
俺は、信じていいのか?
差し伸べられた手を掴む資格なんかないこの俺に……。

「……泣かないで、大丈夫だから」
「俺に触るな。……俺は、汚れてるから。ひどいヤツなんだ、俺は」

兵士はゴシゴシと眼を擦りながら、撥ね付けるように言った。
シオンは兵士を静かに見つめた。

「あなた、名前は?私はシオン。神崎シオン」

兵士はちょっと笑った。

「俺は……リーディック」
「リーディック、あなたはきっと根っからの悪人じゃないと思うわ。だって、泣いてるもの」

リーディックはかぶりを振り、自嘲的に笑った。

「俺は女を犯そうとしたんだぜ?!それに、お前の事だって」
「でも、後悔してるんでしょ?」
「俺は、こんな生き方しか出来ないんだ。多分、これからも」

「後悔してるなら改心出来る。あなたはもうきっと繰り返さないと私は信じるわ。
ねえ、リーディック。一緒にアーテス帝国に帰りましょう。私があなたのお母さんを治してあげるから」

リーディックは、信じられずに眼を見開いた。

「お前は……リーリアス帝国に行きたいんじゃないのか?黄金族人間の王子ファルのところへ」

シオンは、浅く笑った。

「私ね、ファルが好きなの。でも、今は会えない。
カイルは私をアーテス帝国へ連れ帰るつもりでいるし。
……だから先に、あなたのお母さんを治してあげる」

「バカか、お前は。
自分の事より俺みたいなヤツを心配するのか?!
俺のお袋を治そうとするなんて……アーテス帝国へ行くと、そう簡単には出られないんだぞ」

シオンは笑った。

「大丈夫よ」

リーディックは、こらえきれずにシオンを引き寄せてかき抱いた。

「きゃ!」
「バカだな、お前は!」

リーディックは泣きながら笑った。

……ずっとずっと、苦しかったんだ。
不条理に心がささくれだっていたし、そんな世の中を俺はずっと憎んでいたんだ。

けど今、幸せだ。
胸の中が温かかった。
満たされていく感覚が嬉しかった。

自分を暗い闇から引っ張り上げようとしてくれるシオンに、リーディックは心の底から感謝した。

「リーディック、苦しいっ」
「シオン、お前ってヤツは」

ありがとよ、シオン。
こんな俺に優しさをくれた事を、俺は一生忘れない。

「友達になろうぜ」
「ほんと?!嬉しい」

その時である。
薄暗くなり始めた空間を、何かがヒュンと震わせた。

「っつ!!」

途端にリーディックがシオンを胸に深く抱いて、何かからかばった。

な、なに?!
今の音は……弓矢?!
確かアイーダの時もこんな音が……。

「貴様……シオンから離れろ!!今度は外さない!!」

屋敷の入り口に眼をやると、松明の明かりを背に足を投げ出すようにしながら近付いてくる人影が見えた。

「……カイル様だ」

リーディックの苦々しい声がし、シオンは眉を寄せた。

「リーディック、血が出てる」

リーディックは手早く左の頬を拭った。

「平気だ」

そんなやり取りの中、みるみる近づいてきたカイルがリーディックからシオンを引き剥がした。

「何のつもりだ、リーディック!!殺されたいのか?!」
「やめて、リーディックは、弓矢からかばってくれただけよ!」

シオンの声も、今のカイルには全く届かなかった。
許せない……許せない!!

シオンに近付く男は、誰であろうがどんな理由があろうが許せない!!
こんな三下と、何故!!

荒れ狂った海のような瞳がリーディックを睨み据え、リーディックはその激しい感情に息を飲みながら地に膝をついで頭を垂れた。

「申し訳ございません、カイル様」

そんなリーディックの背に思いきり弓を打ち付けると、カイルは怒鳴った。

「いいか。金輪際シオンに触れるな!二回目はないと思え!」

そう言うや否や、カイルはシオンを担ぎ上げた。

「やめて!やめてよ、カイル」

シオンの悲鳴を聞いたリーディックが、たまらず身を起こして口を開く。

「恐れながらカイル様、シオンを離してやってください」

……シオン、だと?!

カイルは立ち上がろうとしたリーディックの顎を蹴り上げた。

「うっ!!」
「きゃああ!リーディック!!」

仰向けにひっくり返ったリーディックに、カイルは侮蔑の表情で言い放った。

「今度やると命はないものと思え」
「リーディック、リーディック!!」

……大丈夫だ、シオン……俺は大丈夫。
だから、泣くな、そんな顔、するな。
俺は……俺は、嬉しいんだからよ。

必死で首をねじり、こちらを見つめるシオンに、リーディックは、片手を上げて答えた。
降り始めた雨が、起き上がれないリーディックの頬を濡らしたが、彼にはこれが精一杯であった。


◇◇◇◇

「どうしてあんな事したのよ!?」

叩き付けるように降る雨の音がシオンの激情を誘い、彼女は声を荒げた。
乱暴に部屋の寝台に放り出されたシオンは、後ろ手をつきながらカイルを睨み上げた。

「リーディックは何も悪くない!悪いのはカイルよ!!」

カイルはシオンに背を向けて、窓の外の吹き降る雨を見ていたが、苛立たしげに振り向くとシオンを見据えた。

「……君は何やってたんだ。馬を見に行ったんじゃないのか。どうしてアイツと抱き合ってたんだ。君は男なら誰でもいいのか。とんだ淫乱だな」

なんですって……?!
リーディックとの話は一言では言えないし、言う気もない。
リーディックの事情が絡んでいるのだ。

「カイルに関係ない!リーディックは友達なのよ!なのに……何て事するのよ!」
「友達!?笑わせるな」

一瞬鼻に皺を寄せて嫌悪感を顕にすると、カイルはイラついたままの瞳でシオンを見下ろした。

冬の海のようなカイルの青い眼を、シオンは睨み続けた。
それから吐き捨てるように呟いたカイルに、ゆるゆると首を振った。

「あなたは人の気持ちが分からないのね、可哀想だわ」

瞬間、カイルがシオンを突き飛ばした。

「きゃあ!」

勢いよく寝台に後頭部をぶつけ、シオンは顔をしかめた。

「君こそ、人の気持ちが分かってない」

起き上がる間を与えず、カイルはシオンに覆い被さり、至近距離から彼女の瞳を覗き込んだ。

「やめて、どいて!」

シオンは咄嗟に足をバタつかせたが、カイルは表情すら変えなかった。

「分かってないのは君だよ、シオン」

暴れるシオンの両手首を束ねるようにして掴むと、カイルは顔を歪めた。

「君は分かってない」

だめだ、両足の上に乗られて身動きがとれない。
カイルの瞳が切なげに光った。

「カ、イル」
「僕が……俺が、どんなに君を好きか、君は全然分かってない」

カイルは言うまいといったようにかぶりを振ってギュッと眼を閉じたが、やがてフッと笑うと、諦めたように口を開いた。

「……今から君を抱いて……分からせてやる。俺の想いを」

嘘、でしょ。

「やだ、やだ、カイルッ!」

熱をはらんだカイルの眼がシオンを捉え、艶っぽく光った。

「嫌あっ!」
「好きだ、シオン」
「や、めて」
「やめられない」

やめられないんだ、シオン。
この思いはもう止められない。
カイルはシオンの首筋に舌を這わせ、鎖骨の辺りを強く吸い、その下へと更に動いた。

「やっ……!!」

柔らかなカイルの唇を感じ、シオンは体をのけ反らせた。
嫌だ、嫌だ。
助けて、助けて!

「カイルお願い、やめて」
「シオン、君を愛してる。
君を誰にも渡さない!リーディックにも、黄金族人間の王子にも」

カイルはそこで一旦言葉を切り、シオンを見つめた。

「絶対渡さない!……シリウス様にも……神にも!」
「や……やだ、やめて……っんっ!」

荒々しくカイルはシオンに口付け、片手でシオンの服をまくり上げて身体を撫でた。

「……すぐに、よくなるから……シオン、俺を感じて」

両手首を痛いくらい掴まれて、抵抗できない。

「シオン、俺のものになって」

カイルはシオンの膝を割ると、片足を持ち上げて更にのし掛かった。
長い指先をシオンの身体に這わせ、熱情を隠しもせずに弄ぶ。

「カ、イル……!」

やがて辿り着いたその部分に扇情的に触れると、今度は唇を寄せようと屈みこんだ。
助けて、ファル、ファル……!
シオンはギュッと眼を閉じると身を固くして歯を食い縛った。

その時である。

「うっ!!」

カイルは眼を見開くと、シオンの上で身を震わせて仰け反った。

「きゃああっ!」

見るとカイルの右腕に深々と短剣が突き刺ささっていて、血が筋となって流れるところであった。
これは……!黄金の剣?

「俺のシオンから離れろ!!」

これは……幻なんだろうか。
ほんとに、本当……?!
豪雨に濡れながら、その愛しい男は立っていた。

ファル、ファル!

瞬きも出来ないシオンの前で、窓から身を踊らせるように部屋に押し入ると、ファルは腰から黄金の長剣を抜き放った。
一方カイルはシオンの上から飛び退き、壁にかけていた銀色の剣を掴むと素早く構えた。

「これはこれは、黄金族人間の王子様」
「カイルだな」

強くこちらを睨み据えたファルを、カイルは憎しみを込めて見返した。

「いかにも」

ファルは一瞬だけ瞳をシオンに向けて、唇だけで笑った。

「一緒に帰るぞ」

優しい声だった。

「ファル……!」

ああ、会いたかった、会えるのを夢に見ていた!
寝台から降り、ファルの元へと走り寄ろうとしたシオンに、素早くカイルが飛び付いて阻止した。

「行かせない!」
「きゃああっ!」

グイッとシオンの首に腕を回すとジリジリと下がりながら部屋の隅へと移動し、カイルはファルと距離を取った。

「シオンは僕のものだ」

言いながらカイルはシオンの首に回した腕に力を込めて引き寄せると、その髪に口付けた。

「誰にも渡さない!」

それから、腕を解くと素早く右腕に刺さった黄金の短剣を引き抜き、投げ捨てた。
その傷口からは血が溢れ、シオンは思わず両手で口を覆った。

「観念しろ!その傷では戦えまい」

ファルの低い声にカイルが歯軋りした。

「僕を……誰だと思ってる!!」

途端にカイルはシオンから腕を離し、大きく跳躍するとファルめがけて斬りかかった。
グッと歯を食い縛ったファルが、長剣の柄を両手で握り締め、カイルの剣を受け止める。

受け止めた瞬間、ファルはカイルの腿を蹴って距離を取り、右手で剣を水平に振り抜いてカイルの胴を狙った。
その黄金の剣を床に寝そべる程の体勢でやり過ごすと、カイルは腹筋を使って素早く身を起こし、ファルの両足に斬りかかった。

ファルは、地面を蹴って飛び上がりながらカイルの攻撃をかわすと、カイルの右側に着地した。
……しまった!
左側に振り放った剣が間に合わない。

カイルは床を転がりながらファルの一撃を何とか避けると、寝台の影に隠れて体勢を立て直した。
お互いに息が乱れ、肩が上下に揺れる。

◇◇◇

……どうしよう、どうしよう!!
シオンは目の前の光景が怖くて、ガタガタと全身が震えた。
煩いほど剣のぶつかる音が響き渡り、ファルとカイルの素早い動きに眼が追い付いていかない。

これは映画じゃない。
この二人は本当に闘っているんだ。
二人の形相は今までに見たこともないほど険しく、鬼気迫っている。

カイルの腕からは、斬り結ぶ度に鮮血が飛び散った。
怖くて怖くて見ていられない!
……けれど、部屋を出て逃げるなんて出来ない。

だって、部屋を出た後、ファルがカイルに殺されでもしたら……。
嫌だ、ファルと帰りたい!
じゃあ、今この状況で私に出来ることは!?

シオンは震えながら考えた。
あっ!!
脳裏に浮かんだのはリーディックの顔であった。

そうだ、この戦いでファル達が勝利すると私はファルと一緒に帰ることが出来るけど、リーディックとの約束が守れない。
シオンはリーディックとの会話や、彼の泣き笑いの表情、自分を抱き締めて震えていた腕を思い出した。

『友達になろうぜ』
『ほんと!?嬉しい』

彼のお母さんを治してあげたい。
そうだ、今、私に出来ることは……!!
シオンは目の前の戸棚を開けた。
なにか、ない?!なにか……!!

震える指差に冷たい小瓶が触れた。
これなら、使えそう!
シオンは大きく息を吸うとそれを手に取り、蓋を開けると中身を空にした。

◇◇◇◇

「返してもらうぞ。ケシアもシオンも」

ファルは不敵な笑みを浮かべてカイルを見下ろした。
床に膝をつき低く剣を構えたカイルは、その声を不快に思いながらファルを睨み上げた。

「君じゃシオンに釣り合わない。
短気で単純で、剣の腕も中途半端な王子様じゃね」

言いながらカイルは口角をグイッと引き上げ、青い瞳を光らせると下方に構えていた剣を目にも止まらぬ早さで振り上げ、そのままファルに一瞬だけ背を向けると後ろ蹴りを食らわせた。

「ぐっ!」

鎧にカイルの剣がえぐるように当たり、その後の蹴りをかわせず、ファルは後ろに倒れた。
来る!

すかさず剣を突き立てようと接近するカイルの脚に足を絡ませて転倒させると、ファルは腰の短剣を抜き、カイルに覆い被さった。

「そうはいくかっ!」

長剣は接近戦では不利である。
けれどカイルは、長い愛剣を左手一本で水平に構えると、ファルの手首目掛けて力任せに打ち付けた。

「くっ……!」

ファルの右手の短剣が弾き飛ばされ、好機とばかりにカイルが長い柄の腹で、ファルの顔を殴り飛ばした。
ガシャンと派手な音がして、ファルは寝台の脇のテーブルを壊しながら床に倒れた。

もらった!!
カイルがのし掛からんばかりに剣を突き立てた。
壊れたテーブルで何とかかわすものの、ファルの長剣は寝台の向こうである。
ちきしょう!!

「勝負あったな」

床に倒れたファルの右手首を左足で踏みつけたまま、カイルが侮蔑の表情で呟いた。

「シオンの前で、無様に死ね」

青い瞳が勝利を感じて喜び、ギラギラと光る。
それを見ていたファルがニヤリと笑った。

「言っただろう」

いぶかしげにカイルが眼を細める。

「ケシアもシオンも返してもらうとっ!!」

言うなりファルは、寝台の下に隠し持っていた壊れたテーブルの木片を、黄金に変えた。
な、に!?

「ぐっ……!!」

それでカイルの腹を突き刺し、グイッとにしる。

「ぐああっ!!」
「悪いな、俺は何でも黄金に変えられるんだ」

カイルの脇腹に刺した黄金の棒を、彼の体を蹴って引き抜き、ファルは立ち上がった。
反対に、カイルがよろけて床に膝をつく。

押さえた脇腹から流れ出た血がみるみる服に染み、次第にその面積を広げた。
カイルは蒼白な顔を上げてユラリと立ち上がると、銀色の剣を再び構えた。

「やめておけ。勝敗は明白だ」
「ほざけ」
「なら、死を以て自分の敗けを理解するんだな」

ファルが軽々と、カイルの構えた剣を黄金の棒で弾き飛ばした。
硬い高音が響き、銀の剣が回転しながら床を滑る。

「ファル、やめて!」

走り寄ったシオンがファルの身体にしがみつき、止めをさそうと振り上げた腕を止めた。

「離せ、シオン!」

シオンは夢中で首を横に振った。

「殺さないで、カイルを殺さないで」

ファルは厳しい顔でシオンを見つめた。

「どけ!」

黄金色の瞳が強く光り、シオンを射抜くように見据える。

「嫌!!」

シオンはファルの鎧を拳で叩いた。

「カイルを殺すなら、私はファルとは帰らない!!」

な、に?!
シオンは泣きながら訴え続けた。

「あなたがカイルを殺すのを見たくない!カイルが殺されるのもあなたが死ぬのも嫌、絶対に嫌!」

子供のようにしゃくり上げるシオンを暫く見つめていたが、やがてファルは諦めたように息をついた。

「いいんだ、シオン」

シオンは振り返ると、脇腹を押さえて壁に寄りかかるカイルに走り寄った。

「カイル、カイル、しっかりして!」

カイルはそんなシオンを見て、力なく笑った。

「そんな顔しなくていい」
「だって、血が凄くでてる」

「構わない。白金族と黄金族は、殺やるか殺られるかだ。僕たちはそういう世界で生きてる」
「嫌だ、死なないで。傷を見せて」

カイルは荒い息の中で首を横に振った。

「ダメだ。君に治して貰ったら……僕は期待してしまう、君の行為に。君の気持ちを勘違いしてしまう」

カイルの顔が土気色に変わりつつある。

「カイル、嫌よ死ぬなんてダメ!私に傷を見せて」

シオンは脇腹を押さえるカイルの手を掴んで無理矢理どけると、眼から溢れる涙を手に取り押し付けた。
カイルが苦しそうに顔を歪める。

「君は……わかってるのか?!俺を治すことがどういう事か」

シオンは泣きながらカイルを見つめた。

「シリウスが嫌いよ!闘いも嫌い!けど、カイルには死んでほしくないの」

カイルは眼を見開いてから、唇を噛み締めて苦しげに顔を背けた。

「……行くんだシオン。王子と行け」
「カイル」
「俺は白金族人間だ。ここにはいられない」
「カイル」
「いいから、行け!!」

ファルがシオンに腕を伸ばした。

「シオン、行くぞ」

シオンは慌てて再び涙を拭うと、その手をカイルの腕に押し付けて擦った。

「さよなら、カイル」

腕の傷と腹の傷がやけに熱くなって、カイルは目眩がした。
シオン、君とずっと一緒にいたかった。
いつの間にか愛してしまったんだ。

君が『七色の瞳の乙女』だろうが普通の女だろうが、関係ない。
君だから好きになったんだ。
カイルは切なげにシオンを見つめた。

「お別れだ。さよならシオン」

たまらずカイルはシオンを胸に抱いた。
それから彼女の耳元に口を寄せ、囁くように告げる。

「愛してたよ」

カ、イル……!

「さらばだ!ファル!」

カイルは身を翻して窓にかけより、ヒラリと窓枠を飛び越えると、瞬く間に豪雨の闇に消えた。

カイル……!
シオンはズキズキと痛む胸に手をやりながら、カイルが消えた窓を見つめた。

カイル、カイル。
ファルがシオンに再び声をかけた。

「シオン、もう行くぞ!香が待ってる」

シオンはファルを振り返った。

「先にリーディックを探さなきゃ」
「白金族の兵士か。ヤツならもう撤退した筈だ」
「リーディックに渡さなきゃならないものがあるの!」

シオンは身を翻して駆け出した。
窓から飛び降り、なんとか立ち上がるとリーディックと別れた馬宿付近を目指した。

「リーディック!!リーディック!!」

カイルとファルの兵達の戦闘を覚悟していたが、予想に反して外は静かだった。

「リーディック!!リーディック!!」

シオンは必死でリーディックを呼んだ。
ここで会えなかったら、彼のお母さんを助けてあげられない。
嫌だ、リーディックには幸せになってもらいたい。

豪雨に打たれながら、シオンは諦めずにリーディックを探し続けた。

「リーディック!!」

喉が痛いくらい叫んだ直後である。

「シオン!!」

馬の嘶く声と重なるようにリーディックの声がし、シオンは弾かれたようにそちらを向いた。

「リーディック!!」

リーディックは急いで馬から降りると、シオンの両肩を掴んだ。

「無事だったか!良かった!」

シオンは頷きながら眉を寄せ、胸元に指を入れると服の間から小瓶をつまみ出した。

「ごめん、アーテス帝国に行けなくなったの。その代わりにこれをお母さんに飲ませて。これを飲むとお母さんは絶対よくなると思う」

リーディックは小さな陶器の瓶を両手で受け取ると、シオンを見つめた。

「……いいのか!?」

シオンは思いきり笑った。

「当たり前でしょ?!」

それから苦し気に眉を寄せた。

「本当は……苦しんでる人全てを助けたいけど……今の私には不可能なの。でもあなたのお母さんをどうしても助けたい。
だからこれを飲ませて!蒸発しちゃわないように国に帰ったら真っ先に飲ませて!」

リーディックは、シオンを抱き締めた。

「ありがとう、シオン!お前のことは一生忘れない!
……俺の家は代々『鳥使い』なんだ。お前に手紙を書くよ。鳥に届けさせる」

シオンはリーディックの胸から身を起こして頷いた。

「うん、待ってる!……もう行ってリーディック。
あなたの幸せを祈ってる!」

リーディックは泣きながら笑った。

「いつか会えたらいいな!じゃあな、シオン」
「さよなら!」

降りしきる雨の中、シオンは馬で去っていくリーディックを見つめた。
……良かった、渡せて……。

「シオン」
「ファル……」

振り向くと、ファルが立っていた。
エリルの森で出逢い、別れ別れになってしまっていたが、彼はあの時と代わりなく素敵だった。

シオンはファルをみてフワリと笑った。
緊張続きだった身が、心なしか柔らかくなる。

「ファル、言い遅れたけど……」

グラリと視界が傾き、シオンの体勢が崩れた。
……あれ?なに?何だか気分が悪いけど……でも、言わなきゃ。

「凄く、会いたかった……」

完全に目の前から光が消え、シオンは何も分からなくなって意識が途絶えた。
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