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意外な一面
《5》
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「はい」
沢山の人に捕まってしまっている凌央さんをたまに眼で追いながら、私はアキさんと一緒に尊さんのお料理を沢山頂いた。
「彩ちゃん、ワイン、白でいい?」
「アキさん、座ってて。私が貰ってくるよ」
「足なら気にしないで。少し痺れてるだけだから」
でも……。
「これはね、俺の罪の名残なんだ」
一旦ここで言葉を切ると、アキさんは思い切るように笑った。
それからゆっくりと続ける。
「話すと長くなるからまたの機会にするけど、俺は昔……あまり行いが良くなくてね。その罪の名残なんだよ、この足は。それから……そんなどうしようもない俺をすくい上げてくれたのが、凌央なんだ」
「凌央さんが……?」
「うん。でもアイツは……俺の足がこうなったのは、自分のせいだと責めててね。だからアイツは俺のギャラリーでしか画を売らないんだ。俺が一生、食いっぱぐれないようにね」
「おいアキ!つまんねぇ話、してんじゃねぇよ!」
「うわぁっ」
突然後ろから、凌央さんがアキさんの首に腕を回して引き寄せた。
それからそのまま私を見てニヤリと笑う。
「彩、食べてるか?」
「……」
ああ、そんな仕草でさえ、私の胸は踊る。
「ん、どうした?」
不思議そうに少し眉を上げた凌央さんに、私は我に返ると首を振った。
「……どうもしないですよ」
「そっか。飲むばっかで……腹減った!」
「じゃあ今からいっぱい食べてください。お料理を取ってきますね」
私は席を立つと、料理の並ぶ壁際のテーブルへと足を進めた。
凌央さんを好きって気持ちが、今日もまた強くなったのを感じながら。
****
三時間もの間、私は尊さんのイタリアンレストラン《brillare》ブリッラーレのオープンパーティーを楽しんだ。
時計を見ると既に午後十一時過ぎ。
……あまりにも楽しくてすっかり遅くなっちゃった。
マンションのアプローチの手前でタクシーから降りた私は、フウッと息を吐いた。
でも大丈夫。
だって圭吾さんは今晩遅くなるって言ってたもの。
圭吾さんの『遅くなる』は確実に午前0時を過ぎる。
だから大丈夫。さっさとお風呂に入って寝よう。
「たーだっいまー!」
そう。こんな弾けた独り言も、聞かれる心配はない。
ところが、
「何時だと思ってるんだ」
「うわぁっ」
ライトが点いた途端、至近距離で低い声が響いた。
ご機嫌で勢いよく開けた玄関ドアの向こうに、なんと圭吾さんが立っているではないか。
しかも不機嫌オーラ全開の仁王立ち。
なんで?!どうして?!
凄く驚いて頭の中はパニックなのに、機敏な動作がとれない。
「圭吾さん、お帰り……うわっ!」
「っ!」
酔っ払っている挙げ句に驚いて足がもつれ、カツンという音とともにハイヒールが後方に飛んだ。
それから圭吾さんに激突する勢いで身体が前につんのめる。
うわ、怒られる……!
ところが、
「何やってるんだ」
「……あ」
フワリとギルティオムが香った。
それから私を抱き止める圭吾さんの逞しい身体。
おまけに至近距離から私を見下ろす涼しげな眼。
こ、これは……その、どうしよう。
圭吾さんの胸に密着した頬を起こすには、まず、えーっと……。
酔った頭で一生懸命考えるも、どうしたって背中に回っている圭吾さんの両腕を、どうにかしなきゃ無理で……。
なのに圭吾さんはムッとして私を見下ろすだけでその腕を解こうとしない。
通った鼻筋と形の良い唇がすぐ斜め上にあって、その近さに私は息を飲むしかなかった。
「……」
「……」
ち、沈黙が……怖い……。
その時、救いの手を差し伸べるかのように私のスマホが鳴り始めた。
程なくして私の身体に回っていた圭吾さんの腕が解かれる。
慌ててバッグから取り出したスマホの画面に思わず胸がキュッとした。
……凌央さんからだ。
「彩ー?ちゃんと家に着いたか?!送るって言ったのに拒否りやがって。アキが心配してるぞ」
「あ、はい。今着きました。ありがとうございました。凄く楽しかったです!お料理、美味しかったですね!尊さんとアキさんにもお礼言っておいてください」
「分かった。じゃあまた明日な。おやすみ、彩」
「おやすみなさい」
心配してくれたんだ。
……嬉しい……。
と、ここで再び、スマホから顔を上げた私の眼に圭吾さんの整った顔が写る。
「……」
「……」
圭吾さんは私から少し離れたものの、依然として不機嫌そうだ。
……ちょっと待って、もしかして……。
もしかして、圭吾さんも心配してくれていたとか?
だって、玄関ドアの前に立ってたし、バランスを崩した私をこんな風に抱き留めてくれたし……。
いや、でも……それじゃこの仏頂面が説明つかないか……。
その時、私は重要な事を思い出して圭吾さんを見上げた。
そうだ。
そういえば、インテリア雑貨の搬入のお礼をまだ言ってなかった。
圭吾さんは踵を返し、リビングの方向へと歩き出している。
「待って、圭吾さん」
待ってくれそうに思えず私が咄嗟に腕を掴んでしまうと、圭吾さんは少し驚いたように振り返った。
「あの、モデルハウスに使うインテリア雑貨をわが社に運んでくれてありがとう……凄く助かりました」
「……」
圭吾さんはマジマジと私を見下ろしているけれど、無言。
……あれ?
「……圭吾さん?」
圭吾さんは私の呼び掛けに漸く瞬きをした。
「ありがとう、圭吾さん」
「……大した事じゃない」
何だか決まり悪そうに私から視線を反らすと、圭吾さんは短くこう答えた。
「でも嬉しかったです。課長も喜んでいました」
「もう寝る」
その言葉に慌てて腕を離す。
「あっ、お休みなさい!また明日……」
姿勢の良い後ろ姿からは、何も窺い知れない。
でも少し、ほんの少しだけ、私の中で圭吾さんの印象が変わった夜だった。
沢山の人に捕まってしまっている凌央さんをたまに眼で追いながら、私はアキさんと一緒に尊さんのお料理を沢山頂いた。
「彩ちゃん、ワイン、白でいい?」
「アキさん、座ってて。私が貰ってくるよ」
「足なら気にしないで。少し痺れてるだけだから」
でも……。
「これはね、俺の罪の名残なんだ」
一旦ここで言葉を切ると、アキさんは思い切るように笑った。
それからゆっくりと続ける。
「話すと長くなるからまたの機会にするけど、俺は昔……あまり行いが良くなくてね。その罪の名残なんだよ、この足は。それから……そんなどうしようもない俺をすくい上げてくれたのが、凌央なんだ」
「凌央さんが……?」
「うん。でもアイツは……俺の足がこうなったのは、自分のせいだと責めててね。だからアイツは俺のギャラリーでしか画を売らないんだ。俺が一生、食いっぱぐれないようにね」
「おいアキ!つまんねぇ話、してんじゃねぇよ!」
「うわぁっ」
突然後ろから、凌央さんがアキさんの首に腕を回して引き寄せた。
それからそのまま私を見てニヤリと笑う。
「彩、食べてるか?」
「……」
ああ、そんな仕草でさえ、私の胸は踊る。
「ん、どうした?」
不思議そうに少し眉を上げた凌央さんに、私は我に返ると首を振った。
「……どうもしないですよ」
「そっか。飲むばっかで……腹減った!」
「じゃあ今からいっぱい食べてください。お料理を取ってきますね」
私は席を立つと、料理の並ぶ壁際のテーブルへと足を進めた。
凌央さんを好きって気持ちが、今日もまた強くなったのを感じながら。
****
三時間もの間、私は尊さんのイタリアンレストラン《brillare》ブリッラーレのオープンパーティーを楽しんだ。
時計を見ると既に午後十一時過ぎ。
……あまりにも楽しくてすっかり遅くなっちゃった。
マンションのアプローチの手前でタクシーから降りた私は、フウッと息を吐いた。
でも大丈夫。
だって圭吾さんは今晩遅くなるって言ってたもの。
圭吾さんの『遅くなる』は確実に午前0時を過ぎる。
だから大丈夫。さっさとお風呂に入って寝よう。
「たーだっいまー!」
そう。こんな弾けた独り言も、聞かれる心配はない。
ところが、
「何時だと思ってるんだ」
「うわぁっ」
ライトが点いた途端、至近距離で低い声が響いた。
ご機嫌で勢いよく開けた玄関ドアの向こうに、なんと圭吾さんが立っているではないか。
しかも不機嫌オーラ全開の仁王立ち。
なんで?!どうして?!
凄く驚いて頭の中はパニックなのに、機敏な動作がとれない。
「圭吾さん、お帰り……うわっ!」
「っ!」
酔っ払っている挙げ句に驚いて足がもつれ、カツンという音とともにハイヒールが後方に飛んだ。
それから圭吾さんに激突する勢いで身体が前につんのめる。
うわ、怒られる……!
ところが、
「何やってるんだ」
「……あ」
フワリとギルティオムが香った。
それから私を抱き止める圭吾さんの逞しい身体。
おまけに至近距離から私を見下ろす涼しげな眼。
こ、これは……その、どうしよう。
圭吾さんの胸に密着した頬を起こすには、まず、えーっと……。
酔った頭で一生懸命考えるも、どうしたって背中に回っている圭吾さんの両腕を、どうにかしなきゃ無理で……。
なのに圭吾さんはムッとして私を見下ろすだけでその腕を解こうとしない。
通った鼻筋と形の良い唇がすぐ斜め上にあって、その近さに私は息を飲むしかなかった。
「……」
「……」
ち、沈黙が……怖い……。
その時、救いの手を差し伸べるかのように私のスマホが鳴り始めた。
程なくして私の身体に回っていた圭吾さんの腕が解かれる。
慌ててバッグから取り出したスマホの画面に思わず胸がキュッとした。
……凌央さんからだ。
「彩ー?ちゃんと家に着いたか?!送るって言ったのに拒否りやがって。アキが心配してるぞ」
「あ、はい。今着きました。ありがとうございました。凄く楽しかったです!お料理、美味しかったですね!尊さんとアキさんにもお礼言っておいてください」
「分かった。じゃあまた明日な。おやすみ、彩」
「おやすみなさい」
心配してくれたんだ。
……嬉しい……。
と、ここで再び、スマホから顔を上げた私の眼に圭吾さんの整った顔が写る。
「……」
「……」
圭吾さんは私から少し離れたものの、依然として不機嫌そうだ。
……ちょっと待って、もしかして……。
もしかして、圭吾さんも心配してくれていたとか?
だって、玄関ドアの前に立ってたし、バランスを崩した私をこんな風に抱き留めてくれたし……。
いや、でも……それじゃこの仏頂面が説明つかないか……。
その時、私は重要な事を思い出して圭吾さんを見上げた。
そうだ。
そういえば、インテリア雑貨の搬入のお礼をまだ言ってなかった。
圭吾さんは踵を返し、リビングの方向へと歩き出している。
「待って、圭吾さん」
待ってくれそうに思えず私が咄嗟に腕を掴んでしまうと、圭吾さんは少し驚いたように振り返った。
「あの、モデルハウスに使うインテリア雑貨をわが社に運んでくれてありがとう……凄く助かりました」
「……」
圭吾さんはマジマジと私を見下ろしているけれど、無言。
……あれ?
「……圭吾さん?」
圭吾さんは私の呼び掛けに漸く瞬きをした。
「ありがとう、圭吾さん」
「……大した事じゃない」
何だか決まり悪そうに私から視線を反らすと、圭吾さんは短くこう答えた。
「でも嬉しかったです。課長も喜んでいました」
「もう寝る」
その言葉に慌てて腕を離す。
「あっ、お休みなさい!また明日……」
姿勢の良い後ろ姿からは、何も窺い知れない。
でも少し、ほんの少しだけ、私の中で圭吾さんの印象が変わった夜だった。
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