嘘つきの君と弱い俺

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第九話 よめない君

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蝉の声が外から聞こえる。
教室は蒸し暑く、じとっと汗が服にまとわりついた。
プールの授業が始まる一週間前になだけあって、最近はかなり気温が高い。
授業を受けていると、隣のクラスが移動をしているらしく、廊下がほんのすこし賑やかになった。
ぼーっとしながら耳を傾けていると、自分の名前を呼ばれピクッと反応する。
「あっここのクラスなんだよね、清水君って」
「へぇ~…もう声掛けたの?」
「掛けられるわけないよ~!」
…?なんだ?なんで俺の話をしてるんだ??
さりげなく視線を廊下に向ける。
気になるな…。
「清水君ってなんかおどおどしててかわいいじゃん?」
「あー、わかる…てか一人なことが多いよねぇ」
「でも顔がさ、ちょっとかっこいいの!あ~好みだな~!」
耳から伝う言葉。それを脳みそは処理をする。
うん、幻聴だ。
完璧な幻聴。
それか他の人だろう。俺なわけがない。
俺は馬鹿げた言葉を忘れ、集中しようと黒板をみた。

ーーーーーーーーーー

昼休み。
賑やかになり、教室中に談笑の花が咲く。
俺はお弁当を食べようと、テーブルにお弁当箱をのせた。
「あの」
聞きなれない声が聞こえ、顔を上げる。
そこには二人の女子がいた。
……見慣れない。他のクラスの人だ。
一体…なんのようだろう…。
じっと見つめる。
「ほら、なにかいいなよ!ついてきてあげたんだから」
「で、でも…う、うん…」
…??な、なにしてるんだろ…。
俺、なにかしちゃったかな…。
「あっあのっ…お、お弁当一緒に食べてくれませんか??」
「……ん?」
一瞬脳みそがフリーズする。
え、お、お弁当??俺と??な、なんで??
頭のなかが?で埋め尽くされる。
二人のうち一人はおどおどしている。
顔も少し赤い。
てか、この人たち誰だろ…。
思い出そうと記憶を遡る。

ーーーーーーーーーー

「あっあの…大丈夫??」
朝、登校中にうずくまってる女子に声をかけた。
下腹部をおさえる女子は、苦しそうな表情で、顔色も悪い。
「おっ…おなかっ…い、いたい…っ」
「………っ」
こ、こういうときどうすればいいんだろ…。
色々思考を巡らせ、最初に浮かんだ案はとりあえず暖めることだった。
な、なにか暖めるもの…暖めるもの…。
なかなかいいのが思い付かない。
「…っこ、これでもかけて!」
「え?」
とりあえず俺は上着を被せた。
ぽかんとする女子にそのあとは暖かい飲み物をダッシュで買ってあげた。
「せ、先生にいっておくから!!」
「…あっ」
なにかいいたげな女子をその場において、気まずさで全力疾走で立ち去った。

ーーーーーーーーーー

「………」
あのときの女子か…。
…なんだろ、対処がわからなかったから、変な対応しちゃったかも…。
若干の申し訳なさを感じながら、俺は口を開く。
「あぁ、よくなったらよかった」
しかしよくなったみたいで少し安心。
ほんのすこし口元が緩んだ。
「あっあの、上着…実は飲み物をこぼしてしまって…洗って返す」
「えっあっう、うん…」
まさかの事態になっていたが、とりあえず頷いておいた。
「……」
急に無言になったかとおもえば、女子は俺の横に来た。
そして、俺の近くの席に座ろうとしたがー
ドカッ
「!!?」
ビクッと突如肩にきた重みに体が驚き跳ねた。
背後をみたら、そこには祖岩君がいた。
「そ、祖岩くー」
声をかけようとしたが、声が出る前に肩を強引に組まれる。
そして、ニコッとした笑顔になった。
「今は無理だな。ごめんね」
………。
なんだろう、この圧……。
笑顔なはずなのに、なにか底にある気がする…。
その様子をみた二人の女子は、隣のクラスに戻った。

ーーーーーーーーーー

人がまばらにいなくなる。
下校時刻になった。
教室からは人が、一人、また一人といなくなる。
そろそろ帰ろうかな…。
「そ、そのっ…」
先程きいた声がして、正面に顔を上げると…。
「あっ…君は…」
「え、えっと…」
先程の女子がいた。
けれども、先程とは違い一人だけ。
「今日…一緒に帰ってほしー」
「ー清水君」
割り込むように祖岩君が現れた。
まるで、その会話を遮るように。
「えっと、祖岩く」
「帰ろっか」
「えっ?」
「ごめんね、僕と帰る約束をしてて」
「えっあのっ」
「じゃあ、いこっか」
ぐいっと腕を引っ張られる。
…っ少しだけ痛い。いつもより、力が強いな…。
一体、どうしたんだろ…。
俺は強引に腕を引っ張り続ける祖岩君に、若干の恐怖と戸惑い、そして疑問を抱いた。







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