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22話

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曹操とて呂布が断らない事を予想しての事だろうが、あまりにも回りくどいやり方ではある。もっとも、それは曹操と言う人物を知っていると言う前提条件があったからこそ見破れる方法でもあるのだが。
呂布も馬鹿ではないのでそこまで考えが至ると、これ以上の抵抗は無意味だと考えるようになった。
曹操軍の行動は迅速を極めた。
曹操軍の中でも名のある武将や兵士達を選抜し、呂布軍と合流して曹操軍の精鋭部隊が完成する。その人数は曹操軍の中で最も多いくらいで、数だけで言えば二万近くに達する。
これには呂布軍の面々も驚くしかなく、さすがの張遼も絶句してしまっていた。
呂布の妻や娘が囚われていると聞いて救出する事が目的だが、呂布軍は袁紹軍と直接対峙する訳では無い。曹操軍の大軍を率いて袁紹軍に圧力を加える事で間接的に助けようと言う作戦なのだが、これはこれでかなり大胆過ぎる策である。
「お義父さん……」
あまりの大軍の登場に、呂布も驚いていた。
もちろん曹操自身も驚いているだろうが、それはともかくとして、ここまでやっては呂布に対して何の疑いも無いと言える程である。
そんな袁紹軍との決戦前夜。曹操は全軍に向けて檄を飛ばす。
呂布軍に協力して袁紹軍を挟撃する事が目的ではあるが、曹操はこの戦は袁紹を討つ戦いだと宣言し、それによって曹操軍は一気に士気が上がっていた。
そんな時、呂布の元に張飛と劉氏が訪ねてきた。
呂布軍が集結してすぐに曹操と呂布の間には、互いの妻子を救出しに行くと言う約束が出来ていたが、曹操は今更になってそれを反故にしようと呂布のところへやって来たのだ。
いくら袁紹軍との決戦が迫っていても、これでは曹操が一方的に呂布を利用しているだけである。
曹操にとって袁紹と戦う事がどれほど重要だったとしても、家族を助け出そうとしていた呂布を利用しようとした事が許せなかった。
呂布は自分の妻子を救出する為に、徐州の人達の気持ちを踏み躙った事がある。それは自分がやった事だと、今でも悔いていた。だからこそ呂布はあの時の劉備とは違うと思っていたのだが、その呂布に対しても曹操は同じ様に利用するつもりでしか無かった事に落胆した。
もしここで呂布が怒りに任せて動けば、確実に徐州は荒れ果てる事になる。
そしてその時、自分は果たしてどちらの側に付くだろうか? それが分からなかった。
少なくとも、曹操には付いて行けない。曹操が家族を大切にしている事は分かっているが、それと家族が捕らわれているのは別の話であり、曹操に呂布を利用する事を許す事は出来ない。
例えここで曹操と戦った所で勝てるとは思えない。
いやむしろ、戦う事さえ許されないかも知れない。
そう思って曹操の誘いを断ったのだが、曹操はその答えを初めから知っていた様でもあった。
曹操はすぐに立ち去ったものの、呂布の目に映っていた曹操には迷いは無かったように見えた。
曹操に対する嫌悪感はある。しかしその一方で尊敬できる人だと思う。
その相反する感情はどちらが正しいのかを考える間もなく、呂布は曹操との決着を付ける事になった。
翌日、曹操は袁紹と開戦した。
呂布と劉備達もそれに合わせて動いたのだが、そこに一陣の援軍が現れた。
袁紹軍に先んじて攻め入ったのは、韓浩率いる荊州兵と劉岱の河北兵を中心とする援軍であった。
曹操は初めから呂布の妻達の事は諦めていたらしく、曹操は呂布への牽制と、呂布の兵力を削ぐ目的で最初から全力の布陣を行っていた。
その数は曹操自身が選んだだけあって精強無比な呂布軍に匹敵するほど多く、呂布が予想していたよりも遥かに多い数で呂布は驚かされた。その数は一万。徐州攻めを行った時に率いていた三倍近い戦力差で、徐州攻めで疲弊している呂布軍にとっては致命的な打撃となりかねない。
その圧倒的な数の優位は曹操軍だけにあらず、呂布軍の動揺も大きかった。
この状況下で曹操と呂布が直接刃を交える事など出来るはずもなく、このまま曹操と呂布の一騎討ちと言う状況を作り出す事も不可能だろう。それでも呂布は、関羽に自分の思いを伝えるために戦場に残って戦った。
この一戦、この一戦だけは負けられないと気合いを入れて挑んだ呂布だったが、その気迫をあっさりと見抜いたのはやはり曹操である。
敵兵の数が多いと言う状況にもかかわらず、呂布と曹操の戦いに介入する者は無く、呂布としては戦い難い状況であった。
曹操はその事を承知した上で、呂布との戦いに集中する事が出来る。
戦況は曹操の圧倒的有利と言って良かった。
それどころか、曹操は呂布の妻達が捕まっている事を知らないのだから、この時点で呂布は曹操の手の平の上で踊らされている様な状況にあるのだが、曹操はそれを分かった上で呂布を討ち取ろうと考えている。
呂布は必死に抵抗するが、曹操の攻撃は苛烈を極めている。
本来であれば、曹操と呂布との間にそれほどの差はないはずだった。だが呂布には守りたい者があり、それを曹操が守ろうとしない。その為、呂布の心構えの違いによって大きな力となって現れた。
それでもさすがと言うべきか、互角以上に呂布は奮戦していたが、それも長く続かなかった。ついに耐えきれず、呂布の軍は崩壊していく。
そこへ徐栄の軍も合流し、さらに形勢不利になったところで陳宮も呂布と合流する。
その頃にはすでに呂布軍は壊滅状態にあり、陳宮はすぐさま曹操軍に向かって攻撃を仕掛ける。
曹操軍を相手にしても、呂布軍は一歩も引かない。その陳宮の手腕はさすがと言えるのだが、それでも呂布の軍の惨状を見ていてはもはや助かる術は無いように思えた。
そんな絶望的な状態で、意外な人物が現れる。
呂布軍の武将で、劉備の妹を妻に迎えている張飛が単騎突撃して来たのだ。
張飛は凄まじい戦闘能力を持っているが、この時もまさにその名に恥じない働きを見せてくれた。
呂布の軍は壊滅的な被害を受けていたが、張飛の働きでかろうじて持ち堪える。
そしてそこで、張遼の父である高順や劉備の妻達である厳氏や蓉、魏越などが救援に現れたのである。
それは呂布にとっても想定外の事であり、あまりにも突然の事で一瞬意識が空白になってしまった。
劉備とその家族がここにいる事が信じられず、目の前の状況が理解出来なかったのだ。
ただ、曹操の追撃を受け続けていた呂布軍は態勢を立て直す。
そこからは呂布と曹操の決戦となる。
曹操は相変わらず呂布との決戦に拘っているのだが、そこに袁紹軍が動き出した。
張遼の予測通り、袁譚が曹操軍の動きに気付き、袁紹から全軍の指揮を任されたのである。
曹操軍は袁紹軍が動こうとも、呂布と戦う事を優先した。だが、袁紹軍が動くと言う事は袁紹が呂布と雌雄を決する事を望んでおり、そうなれば呂布軍が必ず動くと確信していたからだ。曹操軍は呂布の軍と袁紹の軍が戦うのを待つ形で、一旦後退する。呂布の軍と袁紹軍が正面から激突する事を期待していたのだが、そこに劉備軍と呂布軍が加わり、袁紹軍と曹操軍の戦いが始まる事になった。
この期に及んでなお両軍は膠着状態となり、呂布と曹操は一騎討ちを行う事になる。
もはや呂布軍が全滅寸前になっているのを見た曹操は、呂布と戦う事を選んだようだ。
呂布としても曹操と戦いたかったが、この状況では一騎討ちどころではない。
「俺が負けたらどうなる?」
呂布はそう言って、曹操を見つめる。
その声を聞いて、曹操は笑う。
まるで最初からそう思っていたかの様に、曹操は答えた。
「私が死んだ後は、私の天下だ」
曹操は剣を抜き、呂布に向けて突きつける。
その曹操の表情は自信に満ち溢れており、呂布にはそれが虚勢には見えなかった。
そう感じさせるほどの迫力を持った曹操に対して、呂布もまた槍を構えて曹操に向ける。
一騎討ちが始まった瞬間、曹操の背後に一頭の馬が駆けてくる。
曹操はその馬に乗ろうとするのだが、それを許す呂布ではなかった。
「逃げんのか、曹操!」
呂布は曹操に対し怒鳴りつけ、そのまま曹操と斬り結ぶ。
曹操の馬術は確かに見事だった。
並の相手であれば、振り落とされて落馬した上に体勢を崩してまともに動けなかったであろうが、呂布が相手ではそう簡単にはいかない。
だが、曹操がいくら巧みな腕前を持っていた所で多勢に無勢な状況に変わりはなく、曹操が乗っていた馬の脚が折れて地面に転がった。
そこにすかさず呂布が切りかかり、曹操はなんとか防ぐ。しかし、すでに曹操は劣勢に追い込まれていた。
曹操と互角に渡り合う事が出来る者はこの戦場において、関羽くらいしかおらず、その関羽も呂布と戦っていて手出しできる状況には無かった。
呂布の妻達は戦場にはいなかった為、まだ捕まっていない可能性もあったのだが、その希望はあっさりと断たれてしまう。
関羽と戦っていたのはあの夏侯惇で、曹操は今まさにその夏侯惇に首を取られるところであった。
その時、曹操の首を取ったかに見えたはずの曹操は自らの首に噛み付いた犬の顔を蹴飛ばし、曹操はその場から離れる。
そして曹操は愛刀を引き抜き、構えを取る。
その姿を見て、呂布は驚く。
呂布と互角以上の腕前である曹操だったが、それでも体力的には衰えがあるはずで、もう長い時間戦い続ける事は出来ないはずなのだが、曹操の気迫は未だ失われていない。
そして曹操は驚くべき行動に出た。
曹操は自身の首に刃を当て、自ら斬ろうとしたのだ。
さすがの呂布もその光景には驚いたが、曹操の行動はそれで終わりではなかった。
さらにもう一度、同じ様に自らの首に向かって曹操は斬りかかる。これで三度、曹操は自分を自らの手で殺そうとしたのだ。
だが、それは無駄に終わる。
呂布はその事を知っていた。
かつて曹操と同じ行動をした者がいたのだ。呂布はそれを見てきた。
三回も同じ行動を繰り返した曹操だったが、今度はそれを阻む者が現れる。
呂布が曹操に意識を奪われている間に近づいてきていた張遼が、その曹操の自殺行為とも言える暴挙を止めたのだ。
「呂布将軍! お止め下さい!」
張遼は必死に叫ぶ。
だが、張遼が止めるより先に呂布が曹操の身体を抑え込んでしまっていた。
それでも曹操は抵抗を止めようとしない。
「放せ! 呂布よ、離すのだ!」
曹操が暴れると、呂布も押さえる手に力が入る。
その様子に張遼は、呂布の心中を察する。
もし、ここで呂布が曹操を押さえていなければ、おそらく曹操は呂布を殺す事に何の躊躇いも持たない。
そしてそれは、自分の命を軽んじる様な曹操の考え方に対する怒りや失望といったものではない。そんな事ではなく、自分が死ぬ事によって少しでも多くの敵を討つと言う考えで曹操は死のうとしているのだ。
そしてそれは、自分自身の死を持ってでしか成し得ないと考えている。
そんなものは、ただの自己満足ではないか。
張遼には、そう思えてならなかった。
それに呂布だって分かっているはずだ。
自分と曹操が死ねば、誰がその後を引き継いでくれるというのだ。少なくとも、張遼にはそれは不可能な事のように思える。
曹操軍にも名将は大勢いるが、それらを率いて曹操の後につこうと言う武将は皆無である。曹操軍の兵は曹操のカリスマ性に依存しており、その曹操が死んでしまえば、その兵達の忠誠心を繋ぎとめる事は誰にも出来なくなってしまう。
呂布軍が健在であれば、あるいは呂布の器量と人柄であれば可能かもしれないが、それも難しいと言わざるを得ない。
それならば、この場にいる誰かがこの二人の内のどちらか片方でも抑え続けなくてはならない。
「張遼!」
呂布が叫んだ時には、すでに呂布と曹操の間に入って二人を抑える事が出来る人物は、他に誰もいなかった。
張遼は自分の未熟さを痛感する事になった。
自分はまだまだ弱い。それなのに無理をして、曹操から叱責されるどころか下手をすれば殺される事になる所だった。
呂布が曹操に勝つ事が出来たとしても、そうなれば呂布は英雄となり得るだろうが、同時に危険人物にもなる。
それこそ曹操の様な野心的な人物から狙われる事にもなりかねない。
「曹操殿は、何を?」
呂布と曹操の間に割って入った時、夏侯惇は張遼に尋ねる。
夏侯惇は先ほどまで関羽と戦っていたのだが、さすがに関羽を相手にしていただけに無傷とは行かなかったようで、左腕に傷を負って血を流していたりするのだが、呂布と曹操の戦いに驚いてそちらの方は忘れてしまっているようだった。
ただ、今はその怪我の事を忘れて夏侯惇に尋ねられたところで、答える言葉が無い。
「……自害、でしょうか」
ようやく出てきたのは、そんな答えだった。
夏侯惇にしてみれば曹操の自殺は不可解なものであり、理解不能である事は確かだった。
曹操の最期の手段については、後々になって分かった事だが、これは劉備による仕業だったらしい。
曹操が呂布との戦いを始めようとした矢先、突然曹操の馬が暴走を始めたのだ。しかも運の悪い事に、暴走している馬の上に乗っていたのは袁紹であった。
元々乗馬に関しては苦手な部分のある袁紹であったが、この時ばかりはそれ以前として全く訓練されていない野生の馬を制御出来なかった。それでもなんとか乗りこたえようとしていたものの、その途中でついに耐え切れなくなり落馬してしまう。
そこへ暴走した曹操の愛馬の脚が直撃し、一瞬で絶命。その時にはすでに曹操の剣は呂布に向けられていたのだが、馬が倒れた衝撃で曹操自身も地面に投げ出されていたので、結果的にその馬蹄が曹操の胸を貫く事も無かった。
また曹操に斬りかかった呂布だったが、その前に曹操が自身の首を斬ろうとしており、その行為で我に返った呂布は慌てて曹操の首根っこを掴んで引き戻して止めた。呂布が曹操を引き止めてくれなければ、曹操は本当に首を落として命を絶っていたところであり、いくらなんでも無茶苦茶すぎる行動である。
呂布の行為に驚いたのは曹操だけでなく、張遼もそうだったがすぐに冷静さを取り戻し、呂布の行動を止めた。
呂布はすぐにその場を離れる。
呂布軍は曹操軍との戦いでかなりの被害を受けていて、これ以上の戦闘を続けるのは難しい状況にあった。呂布自身、もう曹操と戦っている余裕は無く、逃げるしかなかった。
しかし、逃げ遅れた者は少なからずいた。曹操軍の猛攻の前に逃げ出した者、戦っているうちに曹操軍に飲み込まれてしまった者達、それらの犠牲によって曹操の部隊は壊滅状態に陥ったと言っていい。
張遼も呂布に従っていただけであって、別に曹操と戦う事にこだわりがあるわけではない。むしろここで曹操を倒しておけば、これから楽になる。
それは張遼だけではなく、呂布や陳宮と言った諸将の共通認識でもある。
だから曹操にとどめを刺そうとした。
そのはずだった。その時にはすでに曹操軍の中から曹操の姿は消えていた。
曹操軍の精鋭は、その混乱の中で散り散りとバラバラになっていたらしく、どこに消えたのかが分からない。
そしてその事実に気がついた時、張遼も自分の失態に気づいた。
曹操の自殺を止めたのは、何も自分一人では無かった。呂布もまた、曹操の自殺を食い止めていたのだ。もし呂布がいなければ間違いなく死んでいたはずの曹操を庇い、あまつさえ自殺すら止めてしまうとは想像の外だった。
もちろん曹操に死んで欲しくないと言う気持ちもあったが、それと同じくらいに自分は死ぬべきだと考えていたはずだ。
それなのに、いざその時になったら自分は呂布を助けていたのだ。
おそらくあの瞬間だけは、自分の心は呂布への同情に支配されてしまっていたのだと言う事を、張遼は後になって思い知る事になる。
結局のところ、張遼は自分が死ぬ事が出来ない理由を作ってしまった。それは自分の心の弱さだと言う事を理解しているので後悔する事は無い。
もし自分が死ぬ事が出来ていれば、呂布と曹操は戦い、その結果どちらか片方は死ぬ事になっても、その後を引き継ぐ者が生まれ、天下に争いが無くなったかも知れない。
そんな事を考えながらも、張遼は自分が戦場を去る時に曹操の姿を見かけていない事を思い出してもいた。
曹操が死んでいれば、呂布は曹操を逃さなかっただろうし、そのせいで曹操が生き残っていれば、その後を引き継いだとしても人望を得る事は困難だと思われる。
どちらにせよ、張遼がこの場に留まる理由はなくなっていたのだった。
曹操の敗走により、漢軍はほぼ全軍が撤退する事になった。
特に被害が大きかったのは魏続と侯成、さらに高順である。
中でも一番の被害を受けたのは、臧覇であった。
その日、魏続と侯成が手柄を争うように突撃を繰り返している中、高順に付き従って最前線に出て来た臧覇は、敵に囲まれて包囲されてしまい、それを切り抜けようと奮戦するのだが数に押されてついには陣形を破られてしまう。
そこからは乱戦となり、その中で孤立してしまったところを曹操軍の武将に討たれる事になった。
その武将こそ、郭嘉であった。
この敗戦の責任を取る形で、呂布は総大将を辞任する事になった。後任には呂布の従兄弟である丁原が任じられる事になり、また呂布の妻子の処遇について話し合いが行われる事になる。
曹操は逃走の際に多くの配下を切り捨てていったのだが、その中には徐州の太守となった陶謙の息子で徐州太守となっている弘農王がいる。
曹操はその子供を人質に取って、呂布と交渉しようと持ちかけた。
これはあまりにも卑劣な策であると、当然の様に反発があったが、呂布はその提案を受け入れた。
人質の命を救う代わりに、今回の曹操との戦で失った兵数の補充を求めると言う条件である。
これは本来であれば呂布の器量を示すものでもあったが、今回は呂布の妻である厳氏の存在が呂布にとって足かせとなってしまいかねない事態を招く事になる。
そもそも曹操からしても、この様な交渉に応じなくてもいいくらいなので、それほどの損失がある訳でもない。
それでも要求を受け入れさせたのは、これが最大の譲歩であり呂布の本心を現したものだと曹操は思ったからである。
実際に呂布は妻達を守るためならばどんな条件でも受け入れていたし、だからこそ他の諸将も呂布に対する反感を抑える事が出来るのだが、今回に限って言えばその決断は大きな過ちだったと言える。
呂布は、その身一つだけで曹操との戦いに勝利したのだ。その武勲に対して、十分な報酬が与えられてもおかしくはなかった。
だが呂布はそうしなかった事で、その身を軽んじられる結果を招いた。
そしてそれは呂布のみならず、呂布の妻と子にまで降りかかってくる。
呂布とその妻は長安へと送られたのだが、呂布の態度の悪さは目に余るものが有った為、呂布とその妻は牢屋に閉じ込められてしまった。元々呂布は寡黙な性格で、口より先に拳が出てしまうような人物ではあったが、この時ばかりはそれが災いして妻の目の前で呂布は何度も殴られ、時には食事を与えられなかった事もあった。
妻は耐え続けた。呂布に何か言ってしまえば、また同じ事が繰り返される事は分かっているのでひたすらに耐えた。
そうしてようやく呂布が罰せられる事が決まった時、陳宮は呂布にある事を持ちかける。
それは呂布自身が、自らの命を絶つと言うものであった。
曹操との交渉の際、曹操が呂布の首を持っていくのと引き換えに妻子を解放してくれないかと提案した。
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