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88話

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その答えを聞いた曹操はさらに言う。
「違うな」
曹操は華雄が戦う様子を確認しながら言う。
「あれは遊びだ。まるで、貴様と呂布との戦いを見ているような気分になる」
徐栄は言う。
「呂布と戦った時も、あのようでありましたか?」
その言葉に対して曹操は即答する。
「いや、全く違うな。あの時は呂布が一方的に華雄を攻撃していたから、私と徐栄の戦いと同じような感覚であったよ。しかし、今は呂布が遊んでいる」
曹操の言葉を聞いた二人は同時に思う
((華雄に勝たせてあげたい……))
そんな事を考えながら戦いの様子を見守った。そして曹操と徐栄は華雄と呂布の戦闘を、呂布の視点から見てみると、二人の戦いは、呂布の一方的な虐殺と、言ってもおかしくなかった。
(こいつらは何者なんだ……)
曹操と徐栄には呂布の実力は分からなかったが、目の前で行われている華雄との戦闘を見て思った事がある。
(これは、我々の戦いではないな……)
そして、曹操と徐栄はお互いに顔を見合わせて苦笑いをしていた。
華雄の実力と、俺の実力は拮抗していると曹操と徐栄には思えた。しかし、その考えはすぐに覆されることになる。俺は華雄の攻撃を避け続けていた。俺に攻撃が当たらなければ意味が無い。俺の挑発に乗ったせいで華雄には、もう後が無かった。
(どうするつもりだ、華雄?)
その時、俺の中で何かが起こった。その事に気づいた曹操は呟いた。
「ほう、覚醒したか……」
徐栄は驚いている。
「これは!?」
徐栄は曹操に向かって問いかけた。
その2を完結させる その3を帰属展開
その1の続きを開始
再起動
俺は覚醒を始めた。それと同時に俺の中で、もう一つの存在を感じた。
俺は曹操の言葉の意味を考える。そして、曹操が何を言っているのかを理解した俺は言う。
「お前、何が言いたい?」
曹操が言う。
「呂布よ、今の貴様の状態なら、華雄を殺すのは簡単な事だろう?」
俺は曹操の言葉に対して答える。
「あぁ、そうだな」
曹操は俺の言葉を聞くと徐栄に向かって話しかける。
「今から起こる事をしっかり見ておくといい」
徐栄は曹操に問いかける。
「一体どういう事ですか?それに、呂布殿も様子が少しおかしい気がしますが」
それに対して曹操が答える。
「その事も含めて見ていれば分かるさ」徐栄は曹操の言った通りに、俺の事を見る事にしたようだ。俺は曹操との会話を終え華雄の攻撃を避ける作業に戻る。攻撃を続けているはずの華雄の顔からは、余裕が消え失せている。
俺はと言うと、覚醒した事により思考がクリアになった事で、自分が華雄よりも圧倒的に強くなったという事を実感していた。そして俺は攻撃を繰り出す。その瞬間、俺は自分の身体が普段の倍近くの速度で動いていることに気づいた。
俺は攻撃を行っているのだが、今までの自分では考えられないほどに速く動く事が出来るようになっていた。俺は華雄に向かって攻撃を仕掛けたが、その攻撃は華雄に当たることは無かった。
俺は自分の攻撃が全く当たる気配がない事を感じていたので華雄に質問をする。
「何故、本気を出さない?」
華雄は答える。
「うるさい!!貴様に勝つ為だ!!」
俺が華雄に問いかけると同時に、俺は華雄の背後に回り込んで首筋に刃を当てる。その光景を見た曹操は、徐栄に話し掛けた。
「徐栄、この戦いは終わったな」
曹操の言葉に徐栄は驚きながら答える。
曹操の言葉に徐栄は驚きながら答える。
「えぇ!?」
徐栄の反応は当然である。曹操達にとっては華雄は、まだまだ未熟ではあったが、それでも十分な実力を持っていたはずだったからだ。しかし、曹操は冷静に答えた。
その1を完結させる 
曹操達が見ている前で呂布奉先によって徐栄軍の武将華雄は倒された。華雄は必死に抵抗するが呂布には通じない。その様子を見た曹操は、この場にいた誰もが予想していなかった事を行った。曹操は自分の部下を殺したのだ。それを知った徐栄は慌てて声をかける。
徐栄は曹操に向かって言葉を投げた。
「曹操殿!?何故そのような真似をされたのですか?」
曹操はその言葉を聞きながら華雄の首を切り落とした。徐栄が曹操に問いかけるが曹操は何も言わずに、呂布と華雄の死体を持ってその場を去った。徐栄は曹操が去った後に曹操の行動の意図を考えた。
(何故曹操は、華雄を殺したのだ?)
そう考える徐栄だったが、曹操の狙いは分からなかった。
華雄は死んでしまったので曹操に問いただす事は出来ない。そこで徐栄は曹操を追いかけて話を聞く為に行動を起こした。
徐栄は曹操が去って行った方向に駆け出す。曹操は徐栄が追いかけてくる事に気がついていた。
その為、曹操は走りながら振り返り剣を抜いて言う。
「俺を殺してみるか?」
曹操はそう言うと笑みを浮かべる。徐栄はその言葉に対して言う。
「曹操、俺の事は知っているな?」
曹操は答えた。
「もちろん、徐栄将軍だろ?」
その言葉を聞いた徐栄は、その言葉を肯定した曹操に対して斬りかかる。しかし、徐栄の剣戟を軽々と避けた曹操は続けて言う。
「俺を殺せば全て終わると思っているのか?」
曹操はそう言うと徐栄から距離を取る。曹操は徐栄に向かって話す。
「俺を斬っても意味が無いんだよ。華雄が死んだ今、俺を殺す事は無意味だ」
曹操は徐栄に言葉をぶつけると再び歩みを進めた。曹操の言っている事の全てが嘘という訳ではない。しかし、真実の全てを語っている訳でもない。曹操の言葉を聞いた徐栄は曹操の言っている事が理解出来なかった。そして、曹操の言葉の全てを信じきれなかった徐栄は華雄と華雄軍の生き残りを集め、華雄の死を報告する。その時に、曹操が言っていた事と華雄が殺された時の状況を詳しく説明し、華雄を倒した相手を探すように命じた。
華雄の部下達に命令をした徐栄は次に華雄の亡骸を確認する事にした。そこには切り傷などは見当たらない綺麗なもので首を落とされた死体があった。徐栄は不思議に思いながらも、曹操が殺したという確信を持つ。そして徐栄はある結論に至る。
華雄が持っていた名馬白帝は曹操が持っているのではないか?と考えた徐栄は、華雄の乗っていた馬を探させてみると案の定、曹操が連れている所を発見した。
そして、曹操が自分の陣営に戻ると、そこには曹操に向かって武器を構える者達がいた。その者達は呂布と共にいた者達だった。曹操は徐栄に向かって言う。
「やめておけ、そんなものを使っても俺には全く効かない」
徐栄の言葉を無視して、曹操は続ける。
「その程度で、この俺が倒せると思うのか?」
曹操の言葉を聞いて徐栄は曹操に向かって叫ぶ。
「ふざけた事を抜かすな!!」
曹操に向かって飛び掛る。しかしその攻撃は当たらない。徐栄は次々と攻撃を仕掛けるが、全く当たら無い。そこにいた者全員の視線を集める中で、曹操に向かって攻撃を仕掛け続けていた徐栄の身体に突然変化が起こった。徐栄は苦しみ始める。
その2に続く 苦しんでいる徐栄を見て、俺の中で何かが起こる。それは、まるで自分の中から力が湧いてきているようだった。俺はその事に驚いていると、頭の中に誰かの声が聞こえてきた。
『我が名は呂伯奢。呂布奉先の父である』
俺はその声に答えるように心の中で思う。
俺は呂布 奉先である すると、再び俺の中で声が聞こえる。
俺はその声の主に向かって話しかける。
俺は誰と話しているんだ? 俺は、その言葉に対して質問をする。すると、すぐに返答がある。
我は汝の内に潜む力 それが俺に返事をする。俺が質問をしようとしたところで、俺の意識は途絶えてしまう。そして、再び俺は覚醒する。俺は先程までの俺とは変わっていた。目の前に倒れている徐栄を見下ろしながら俺は曹操に問いかける。
お前が徐栄に何を教えたのかは分からないが、もう必要は無い。俺はそう言って曹操に向かい歩き出す。俺の姿を見て曹操は呟く。
「やっと出てきたか」
俺が曹操に向かって歩を進めている間に、曹操の周りの人達は一斉に動き出し俺に対して攻撃を仕掛ける。
だが、それらの攻撃は全て無駄に終わる。俺に触れた者は例外なく灰となって消えていく。その様子を見た曹操が言った。
「これは驚いた」
俺が放った一撃を受けて、まだ立っているのは曹操だけだった。その曹操に向かって言う。
俺は言う。
「これで終わりだな」
しかし、曹操は余裕の表情で言う。
「さぁ、どうかな?」
曹操が言葉を言い終える前に曹操が持っている剣から衝撃波のようなものが放たれた。俺はその攻撃を受け止めると剣が壊れてしまったので剣を投げ捨てて言う。
「次は、こっちの番だな」
そう言うと、曹操に向かって駆け出そうとした時、後ろから聞き覚えのある声が俺を止める。
呂布、そこまでだ。呂布、少し待ってくれないか?』
振り向くと、そこには見知った顔の男が立っていた。それは関羽の兄で、劉玄徳の義父であり天下の名将として有名な張飛であった。
呂布は言う。
どうして止めに入るんですか? 俺の問いに張飛は言う。
私は劉備と約束したのだ、お前が暴走しそうになったら全力で止めると。
俺は納得して言う。
分かりました。では、手短にお願いします。俺の言葉を聞いた張飛は、曹操に向かって言う。
曹操よ、今回の事は私達に任せてもらえないだろうか?もし断れば貴様の命は無くなるぞ!!』
曹操は何も言わずに剣を収め、俺達の前から姿を消した。俺と曹操の間に入ろうとした徐栄達は既に戦意を喪失していた。
そして、俺と張飛の話し合いが始まった。
呂布よ、そろそろ落ち着かないか?』
俺が落ち着く事無く言う。
無理です!!今からでも、曹操を殺しに行きますから』
俺の答えを聞いた張飛が溜め息をついてから俺に言う。
『駄目だ。そんな事は私が許さない。今の君は私の知る呂布ではない。だから君に提案をしよう。これから劉備の元へ行って欲しい。そこで彼の話を聞くといいだろう。そうすれば今よりも冷静になれるはずだ。そして、劉備を手助けして欲しい。彼はとても優しい人間なのだ。今、彼を失う訳にはいかないのだよ。それに、この世界に飛ばされて来た者達の中には劉備の仲間もいるかもしれないからね』
それを聞いた俺は曹操への殺意が収まっていくのが分かった。それと同時に、自分の父親を殺した曹操に怒りを覚えていた。そんな感情を抱くのは初めてだった。そして、俺は張飛に言う。
曹操は俺達が必ず殺します』
張飛は首を横に振ってから答える。
曹操を殺す事が目的であれば何も問題はない。しかし、今の君は劉備を助ける為に動いているのだろう? だったら殺すのは止めなさい。それと、これはあくまでも提案であって強制はしていない。俺は考える素振りを見せてから張飛に向かって話す。
分かりました。今は貴方の提案を聞きましょう。そして、全てが片付いた後には必ず曹操を殺させていただきます』
その言葉を待っていたかのように、曹操の気配を探っていた者が俺に話しかけてくる。
俺に向かって、その者の報告が入る。
どうやら曹操は、ここから遠く離れた場所に移動をしているようだ。報告をした男は続けて言う。
曹操の移動している場所は我々も確認しており、その場所も分かっている。しかし、そこに辿り着くまでには山や谷などの難所が数多く存在する場所だ。
その言葉を聞いた俺は、その男に言う。
案内をして貰えないだろうか?その道中に他の者の力を借りる許可も出しておきたいのだが?』
その言葉を聞いた男は一瞬だけ迷ったような仕草を見せたが、すぐに承諾してくれた。そして、俺の同行者として数名の武将と兵士を選んでくれた。その中には高順も含まれていた。
呂布は、同行者と共に曹操の後を追うのだった。
俺と徐栄達は馬に乗り、その男について行く形で曹操が向かったと思われる方角へ進んでいた。俺は徐栄に問いかける。
徐栄、この辺りに街などは無いのか?』
その言葉を聞いて徐栄は不思議そうな顔をしてから答える。
この街道を抜けた先に大きな街があります』
俺は徐栄の言葉を聞いて驚く。まさか、ここに来てから始めて人の住んでいる場所に着くとは思ってはいなかったからだ。
徐栄の話によると、ここは蜀と呼ばれる国の領内らしく、徐栄達がいる魏という国と戦争状態にあるそうだ。俺は徐栄に向かって問いかける。
徐栄、曹操はどの方向に向かったのか分かるか? 徐栄は、俺に言われるまで曹操の行き先を確認していなかったようで、慌てて地図を取り出して曹操の行方を探そうとした。だが、その前に俺の視界が急に真っ暗になった。それは突然の出来事だったが、何が起きたのかは大体予想がつく。俺の後ろにいた武将の一人が何かを仕掛けてきたのだ。だが、俺は慌てる様子もなく言う。
徐栄、俺の心配はしなくていい。それよりも、曹操の動きを早く見つけてくれ。
その言葉を聞いた徐栄が俺から離れると、俺の目に映っている景色が変わる。俺の前にいる徐栄の顔が恐怖に染まる。俺の瞳が赤く染まっていた。それはまるで、鬼のように。
俺が徐栄に向かって叫ぶと、その声で我を取り戻したらしい。そして、その状況を見て驚いていた。しかし、俺は気にする事なく、その男に向かい言う。
俺を暗殺しようとした事を、曹操に知らせに行くのなら今すぐここで殺してやる』
その言葉で完全に戦意を喪失した男は、そのまま走り去ってしまった。そして、俺は改めて周りにいる人達に指示を出す。俺に対して危害を加えるような行為は一切しないようにと』
その言葉を聞いた何人かは不満そうな表情を浮かべたが、文句を言う事はなかった。そして、俺は改めて質問をする。俺の指示に従うかどうかの返答を聞く為に』
その言葉と同時に俺は腰に差していた剣を抜き放つ。すると周りの人達は一斉に武器を捨て降伏の意を示した。その様子を見た俺は剣を納めてから徐栄に向かって言う。
俺が君達に向かって言った事は理解出来たか?もし、出来ないようであれば殺すぞ』
俺の言葉を聞いた兵士達の態度に変化があった。
今まで反抗的な目で俺の事を見つめていたが、今では怯えるような視線で俺の事を見ているのだ。そんな変化に気付いた俺の隣にいた男が徐栄達に近づいていく。そして、徐栄達に向かって話し掛ける。
お前達の中で呂布様の言葉を理解している者は手を挙げろ。お前達が理解できるように説明をしろ』
そう言われた徐栄の部下達は手を挙げる。それを見ていた俺はその男の背中に向かって声を掛ける。
その必要はない』
男は振り返ると驚いた顔で俺の事を凝視していた。そして、震える声で呟く。
そんなはずがない。貴方様の目は黒く濁っている。貴方様からは禍々しい力を感じる。この方ではない。この方は・・・』
俺は男の言葉を遮るように言い放つ。『黙れ!!』と」
俺の怒声によって男は動きを止めてしまった。
そんな男に俺は問いかける。『今の言葉を聞いていたのならば俺の正体も分かっただろう』
男は無言のまま首を縦に振るだけだった。それを見た俺は男に言う。
さぁ、今度こそ曹操の居場所を教えてもらおう。俺に従えば曹操の元に行けるはずだ』その言葉を聞いた男は曹操が移動したと思われる方角を指差しながら、曹操の元までの道のりを説明し始めた。
その説明を聞き終えた後、俺達は目的地に向かって馬を走らせるのだった。
俺は曹操が移動する場所に向かって、曹操を追っていた。その途中で何度か刺客に襲われた。その刺客のほとんどが、徐栄と張飛が率先として排除していった。俺は、その二人の実力を目の当たりにして驚いていた。
徐栄は俺が思っている以上に強かった。俺の知っている徐栄は、董卓軍に捕まり処刑されたはずだ。その時には徐栄は老人だった。
それが、目の前に現れた徐栄は俺よりも若い外見をしているのだ。しかも張飛と一緒になって襲ってくる敵を倒していく姿を見ていると、張飛がどれだけ強いのかを嫌でも知る事が出来てしまうのだった。
その張飛が曹操を殺すと言っていたのだから、やはり徐栄は死んだ後に生まれ変わったのだと納得してしまうのだった。それと同時に、自分の知らない間に歴史が変わった事に不安を感じ始めていた。曹操を暗殺すると言うのは簡単な事では無いはずだった。だが、今の二人はその障害になっている俺の事も気にせず突き進んでいる。その事実を考えると俺がここにいる意味はあるのかと考えてしまう程、曹操が簡単に見つかるのではないかと思えるのであった。
しかし、その考えを否定するように俺は考える。それは違うのかもしれない。俺がいなければ二人が危険に陥る可能性は高いからだ。
その為にも、今は曹操を追うしかないと思った。俺の知らない事を知る為にも。
曹操がいるであろうと思われる場所に辿り着いた俺達の目に入ってきた光景は異様なものだった。そこは小さな村のような場所で、辺りには民家が立ち並んでいるが人の気配はない。ただ、そこには死体の山が築かれており、その中には見覚えのある者の死体もあった。
俺の視界に一人の女性が入ってくる。彼女は徐栄達に向かって駆け寄ってきた。
その女性は俺に助けを求めてきた。そして、俺達をこの場から逃がして欲しいと言ってきたのである。
俺は彼女から事情を聞いてから徐栄達に確認を取る。俺が聞くと、徐栄は険しい表情を浮かべながら俺に告げる。
この女の言葉が本当かどうかは分かりませんが、この状況はあまりにもおかしいです。
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