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97話

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そしてその兵を殺し終えた時、俺は自分が恐ろしいほどの力を手にいれていることに気づいた。それはまさに人間離れした力だった。そのせいで俺は、人を殺してもその事に罪悪感を感じないようになっていた。しかしその時、あることに気づく。
「俺もしかして強すぎないか?」
そう呟くと後ろから気配を感じたので振り向くと、そこには、関羽、張飛、孔明、趙雲が立っていた。
その顔には少し怯えているような感じがあった。
そこで俺は思い出す。俺は昔は優しかったんだと。だから、こんな力があるとみんなが怖がってしまうだろうと思い俺は元の力に戻す。そうすると皆は安堵の表情をした。
「呂布殿。助かりました」
と孔明が言ってきたので、「気にするな」と返した後、これからについて話す。
「劉備殿は今どこにいるのだ?あと曹操と袁紹についても知りたいのだが」
と聞くと、関羽と張飛が
「劉備兄ちゃんは今は徐州城にいるぞ。でもそこにも曹操軍が迫っているって父上は言っていたぜ」
と答えたので
「劉備のところに行くか」
とだけ言い残し劉備の元へと急ぐ。徐州城に到着すると、劉備が待ち構えていた。
その横には劉備と瓜二つの少年がいた。おそらくこの子が劉備の息子なのだろうと推測する。劉備は俺を見て、こう言う。
「呂布将軍、どうか徐州を守ってくれ!」
と言うので、俺は「あぁ」と答えるだけだったが心の中では
(あぁなんてこった。これじゃ俺の方が守られる側だよ)
と思う。そして呂布は曹操との戦いに備えて準備を始めた。まずは武器の確保からだ。幸いなことに曹操軍の装備はかなり充実している。
曹操軍は呂布軍との戦いで消耗していた。しかし、徐州を攻めるために物資だけは大量に集めていたので問題はなかった。呂布はまず弓を手に入れるために弓矢店に向かった。そこは戦場とはかけ離れた平和な雰囲気が漂っていた。店の店主らしき男に話しかける。
「すまないが、弓を見せてもらいたい」と尋ねると男は快く了承してくれた。
そして弓を選ぶときに、俺は迷わず良い物を選んだ。その後、他の店で矢を買う。そして次は、食料を買いに向かう。しかしそこでは困ったことが起こった。俺は買い占めたのだ。それのせいで、多くの民達が困ってしまったのだ。そのことを謝ると、
「いえいえ、とんでもない。貴方様のおかげで私たちは救われたのですから感謝していますよ!」
と言われた。それなら良かったと思っていると、突然男が
「あの、よろしければ私の娘を貰ってくれませんか?貴方は英雄ですので。それにあなたはとても強いようですのできっと大丈夫だと思いますので。もしダメでしたら別の方を当たってください」
と言ってきた。その言葉に俺は動揺して固まってしまった。すると娘さんが来た。そして、俺に
「貴方がお父さんが言ってた方ですか?よろしくお願いします」
と言ったので俺はとりあえず家に帰ることになった。家に帰ると劉備達が集まっていたので、俺も加わることにした。するといきなり話を切り出してきたのは劉備ではなく息子の方だった。
「俺の名前は曹性だ!これから頼むな!」
と言うので
「あぁ、こちらこそ」
と答える。
そして本題に入る前に自己紹介をすることになった。そこで劉備が口を開く。
「私の姓は趙、名前は雲、字は子龍という。私は女性以外には興味が無い。だが、呂布将軍には魅力を感じる。なので、私が結婚を申し込むとしたら呂布将軍のみなのだよ」
俺はその言葉を言われた時にとても驚いた。なんせ俺はそんなことは全く予想していなかったのだから。俺は趙雲に聞いてみる。
「何故、俺なんだ?」
と聞くと、彼女はこう答えた。
「それはね、君の力さ」と、俺はその意味が分からなかった。すると今度は孔明が話し出した。
「私は諸葛孔明と申します。以後お見知りおきを。私にとって一番大切なものは主君の劉備玄徳でございます。劉備殿のためならばどんな犠牲を払ってでも守り抜く覚悟があります。ですので、私と結婚してくれませんか?」
その質問に対して俺は
「いいだろう」と答えた。孔明は喜んでいたが、劉備達は悔しそうだった。
その後孔明はどこかに行ってしまった。
「それで曹操のことなのだが」
と俺が切り出す。曹操の名前を出した瞬間に空気が重くなる。
そして俺はその空気を打ち破るために、曹操のことを皆に話す。すると皆はその話を真剣に聞いていた。俺はそのことに少し嬉しさを感じた。そして話が終わる。すると張飛がこんなことを言い出した。
「曹操軍と戦うんなら俺たちも戦うぜ。俺たちにはそれぐらいしか出来ないからよ」
と、劉備も
「俺からも頼みたい。曹操と戦って欲しい」
と二人に頼まれたので、俺は
「任せておけ」
とだけ言った。その後は今後の予定について話した。徐州防衛のための軍備強化、徐州奪還のための情報収集と準備、そして曹操との戦いに備えることだ。それから二ヶ月ほど経ち、曹操軍が現れたという報告を受けたので俺と劉備たちは徐州城に向かった。劉備軍と一緒に行動するということで呂布軍にも緊張が走る。劉備軍もかなりの実力者揃いなうえ、曹操軍もかなりの手練れが多い。さらに徐州城に近づくにつれてどんどん敵の数が増えていく。
徐州城の前にたどり着くと、そこには既に曹操軍の兵が溢れていた。その数は十万。それに対しこちらは劉備軍が約三千。呂布軍は四千と、数の差は絶望的だ。劉備はすぐさま呂布達に指示を出し、俺と劉備は城に入り籠城戦の準備を始めた。城に入るとすぐに曹操軍の兵士に囲まれる。そして俺達のところには二人の武将らしき男が近づいてくる。そしてその中の一人の武将が口を開く。
「おい、お前らが呂布と劉備か?噂は聞いているぞ」
とその男は言う。
「誰だ、お前らは」
と劉備が問うと男は
「俺は孟獲だ。そこのやつは李儒と言う」と言うので、俺は驚く。まさかここでこの二人の武将に会うとは思っていなかったからだ。すると、もう一人の男が俺に問いかけてくる。
「君は、あの有名な赤兎馬の持ち主のようだね。それにしても若いねぇ、僕の方が年上に見えるんじゃないかい? まぁ良い。僕は許昌の曹操軍で文官をやっている郭嘉と言うんだ。ところで、君たち、僕の配下にならないかい?今なら破格の待遇で迎え入れてあげるよ」
と言われたので
「断らせて頂く」と言うと
「それは残念だ」と言うだけだったので、「そろそろ攻撃してもいいですか?こいつらと喋るのは時間の無駄だ」
と劉備が言うので俺は
「そうだな」と答えて戦闘態勢に入った。そして、戦いが始まる。劉備と呂布が先頭に立ち敵を蹴散らす。そして、劉備の息子も戦場に立つ。そして無双する。その様子はまさに鬼神の如し。
しかしいくら強いとはいえ相手は大軍だ。なかなか敵の数を減らすことは出来ない。一方、こちらの損害も馬鹿にはならない。少しずつ負傷者が出てきている。そして、戦況は膠着状態になると思われたその時だった。曹操軍と俺達が対峙している場所よりさらに遠くで火の手が上がる。
曹操軍の士気はガタ落ちになり混乱が起きる。その隙に、俺達は攻勢をかける。一気に形勢逆転し、敵を押し始める。そして、なんとか曹操軍を撃退することに成功をした。そして俺達は、劉備達を連れて城に戻る。そして城内で祝勝会が開かれた。その日はとても盛り上がった。俺と劉備が酒を飲んでいた時の話である。
「今日の戦いはどう思った?」
と劉備が俺に聞いてきた。
「まぁまずまずだったと思うが、これからは厳しくなるだろう。これからはもっと激戦になるかもしれない。覚悟を決めておくべきだと思うぞ。俺達の目的は曹操の首を取ることだ。その目的を達成するためにも、これからは更に強くならないとダメだ」
と言った。それに対して劉備は、
「確かにそうかもしれんが…………うーん……」
と言って悩んでいた。俺達は酒を飲むと、いつものように語り合う。その途中で俺に話しかけてきたのが劉備の息子だ。俺は
「なんだ?」
と聞くと、息子はこう言った。
「俺は親父に認めてもらいたいんだ!そのためにも俺はもっと強くなりたい!俺は、いつかあんたを超えてみせる!」と
「あぁそうか。頑張れよ」
と言うと、劉備が俺に声をかけた。そして劉備がこんなことを言ってきた。
「実はお前に相談があるんだ。俺と真名を交換してくれないか?」
俺は少し戸惑ったが、了承した。
「じゃあ俺はなんて呼んだらいい?」
と聞くと、劉備は、自分のことを劉備と呼ぶように頼んできたのでそうすることにした。それから俺はしばらく酒を飲んだ後に寝た。それから三日後の夜のことだった。
俺は目が覚める。何故かとても気分が悪い。吐き気が酷いのだ。俺はとりあえずトイレに行き、用を足した後にまた眠った。それから数時間後のことである。俺は再び目を覚ます。まだ少し気分は悪いが、少しだけ良くなっていた。だが、俺はまだ少しおかしいと感じた。俺は少し不安になったので部屋を出ることにした。するとそこに孔明がいた。孔明はこんな時間にも関わらず起きている。何かを考えているようだったが、俺に気がつくと孔明が話しかけてきた。孔明曰く最近俺の顔色が悪くなっていると、心配して俺のところに来たのだという。そこで孔明に
「俺の体について知っているか?」と聞いた。すると
「いえ、私は詳しくは存じ上げません」と答える。なので俺は
「俺の体に異常はないのか?俺が倒れた原因が分からないか?」
と聞き直すと
「分かりませんが、可能性としては、疲労が原因ではないかと」
と答えた。
俺も最初はそうだと思った。俺の体調も良くないし疲れているのだと。だから俺の体は休息を求めているのではないかと。しかし、俺はそれを否定する。そんなことありえないと。なぜならこの世界での睡眠時間は現実とほぼ同じになっているからだ。つまり現実世界では二週間しか経っていないということになる。俺はその事実を知った時に愕然とした。何故ならば俺が劉備軍に入ってからもう三ヶ月経っていたからだ。劉備軍に入ってからというもの、俺の人生は大きく変わっていった。今までの俺なら絶対にしないようなこともやった。例えば人殺しをしたりもした。それもたくさん。そして時には命の危険を感じるほどの目にあったりもしたが、それでもなんとか生き延びることが出来た。俺には仲間がいる。そして、信頼できる家族のような存在もいる。
俺の目の前にいる男こそが劉備だ。そして、俺は劉備軍の一員となった。劉備と共に数々の戦場を駆け抜けて来た。しかし、俺のこの世界の役目が終わったのかもしれない。それは俺自身がこの世界に対して違和感を感じていたからでもある。そのせいなのか、俺は現実の世界に帰りたいとずっと思っていた。この気持ちの正体はわからない。俺はその感情を心の奥底にしまい込んでいた。しかし、今になってこの気持ちが強くなったのだと思う。俺は現実に戻りたかった。この世界でも良いことは沢山あった。だけど俺の求めていたものじゃない。ただそれだけだ。この感情が抑えられなくなる前に早く戻ろうと思い始めた。しかしそれは叶わなかった。俺が元の世界に戻る方法は見つからないままだった。このまま俺はこの世界で一生を過ごすのだろうか。俺にはそのことが耐えられなかった。
「真琴殿?大丈夫ですか?やはりどこか調子でも?」
と言うのは、俺の従者である諸葛亮だった。
そして俺は
「なんでもないよ」と返す。
しかし俺は今すぐここから出て行きたいという想いを抑え、その日は就寝した。
そして次の日のことだ。
その日の夜は宴が開かれることになった。理由は曹操軍の撃退に成功したからだ。
そしてその宴の中で、劉備とその息子は、曹操の首を狙っていると言った。
真琴と俺は呼ばれるが基本は呂布奉先として登録されている。
それを諸葛亮は知ってはいるが彼は俺の事を真琴殿という。
「すまない諸葛亮殿その俺の事を呼ぶ時は……」
「真琴殿……あ……呂布将軍」
「いや、それでいいんだ。俺の真名は奉先。呂布と呼んでくれて構わない。そう呼んで欲しい」
「はい、わかりました」
そう言うと二人は話をし始める。曹操軍のことについてだ。
「今回の曹操軍との戦いは辛かったなぁ呂布さん。まぁあんたがいれば何とかなると思うけどさぁ気をつけてよね。まぁ、あのクソ親父が死ねば俺がこの国を継ぐんだけどね!そしたらこの国のトップだぜ!」
と息子は話す。劉備は苦笑いをしている。まぁ仕方ないだろう。いきなりこんなことを言い出す奴が目の前にいたら誰だってこうなる。俺も同じ立場だったらこうなる自信がある。だが劉備は、
「お前の事は頼りにしているぞ、息子よ」
と言って会話を終わらせようとする。劉備は、息子とはあまり話したがらないようだ。息子はそのことに気がついていないのか気にしていないだけなのか分からないが、そのまま劉備と喋っている。まぁそんな事があった後に、息子との話は終わったのか俺達のところに劉備が来る。そして劉備が俺達に話しかけてきた。
「今日の戦いについて、俺達は何も出来なかった。俺達が弱いばかりに迷惑をかけた。本当にすまなかった」
と言って頭を下げる。俺は
「劉備様は悪くありませんよ。悪いのは敵です。敵の首を取ることで戦いは終わります。そうすれば後は復興だけで済みます。それまで頑張りましょう。この国がまた平和になるその日まで。私も協力します。共に頑張りましょう」と言った。
劉備は
「そうだな……」
と言い、少し笑みを浮かべる。その後俺は劉備に、これからどうするべきかを相談した。俺達は曹操軍に勝ったものの、兵力の差はまだまだ大きいままだ。それに、俺はまだ満足できるほどに強くもない。そこで、まずは人材を集めることから始めるべきだと思ったのだ。
しかし、劉備は俺に、もう少しここに残って欲しいと言われた。
その理由を聞くと、今の劉備軍は少し問題があるのだという。それは俺には関係がないと伝えると、実は俺の妻の一人が劉備の娘なのだ。なのでもし、その娘と会いたければ俺がこの城に残ってくれれば、すぐに呼び出せるらしい。だから俺にはこの城から出るなと言われてしまったのだ。だが、俺にもこの世界に家族を残してきているのだ。簡単に了承することは出来なくなった。なので
「それならば、俺と戦おう」
と言うと、劉備の息子と、関羽、張飛までも俺と戦うと提案してきた。
だが俺の相手ではない。
そして戦う事になったのだが、一瞬にして終わってしまった。
劉備のところにいる三人も強かったが、俺も強くなっていた。俺もだいぶ力がついたものだ。
それからは劉備と俺はよく話をするようになった。そして、俺が現実に戻る方法を探すため、この世界のことを知るために、旅をすることを提案したら、劉備も賛成してくれた。こうして、俺の旅が始まることになる。そしてその前に俺と妻たちの間に子供が出来たことを報告しておこうと思う。俺と劉備の子供だ。名前は劉禅とした。この子はいずれ王となるのだろう。その時までに、俺は強くならなければならない。
俺にはもう帰るべき場所があるんだ。だから……待っていてくれ。
「はあ……どうすれば」
俺、呂布奉先はすこし悩んでいた。何故悩んでいるかと言うと、最近、劉備軍の人達がよく話しかけてくれるようになった。そのことで、元の世界に戻る手がかりを探しづらくなってしまった。まぁ、いいことなんだが……。俺は早く現実に戻りたいと思っていたしな。しかし今になって困った事があるんだ。
俺の従者が一人増えて二人になってしまったということだ。最初は、関羽だけだったはずなのにいつの間にか二人も増えていた。これはどういうことだ?まぁ、可愛い女の子が増えて俺は嬉しいけどね。
ちなみに、新しく加わった二人の少女の名前は、諸葛亮孔明、龐統士元。この子達は、俺より年下だった。しかもこの二人は姉妹のようだ。まぁ見た目からなんとなく察していた。だがこの二人、めっちゃ賢い。諸葛亮さんは、この国の文官のトップだし、妹の龐統さんは武官トップだ。さらに、二人組での実力も申し分ないくらいに強い。この二人は、劉備軍の中でもずば抜けている。
それともう一つ。俺はある男と戦ってみたいんだ。それは趙雲という人だ。劉備軍の中の最強の人物とも言われているんだろう。実際に戦ったことはない。だが俺の中で、この人は絶対に倒さなければならない。そう思っていた。俺はこの人に負けたくない。何故かはわからないが、俺はその人の事を心の底から嫌いになっているような気がした。そんな気持ちになった理由は自分でもよくわからなかった。ただその人とだけは戦いたいとそう思った。でもこの世界では、そんな願いすら叶えられないかもしれない。
この世界を楽しめていない俺の目の前には一人の男がいる。この男は、趙雲というらしい。俺は戦いたいと思っているんだが……こいつは嫌だという。俺は何度も誘っているのだが、毎回断られてしまう。俺はその度にしつこく誘っていた。
「ねぇー、戦いましょうよ!戦いたいんです!」
と言うと、趙雲はこう言う。
「お前とは戦いたくはない」
俺は何度聞いてもこの答えに辿り着くのだ。
だが今回は違った。
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