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37話

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「それでどうだ?間者から何か情報を得る事は出来たか?」
「いや……それが」
俺が口を濁していると張済は苦笑いを浮かべながら言った。
「おそらく董卓を甘く見ているのだろうな」
「そうなのかな?」
俺が聞き返すと張済は強く頷き言う。
「うむ、呂布奉先よ!お前も騙されてるぞ!」
俺はその言葉を聞いてイラッとして睨みつけるが、何故か張済は得意げな表情をしたまま言い続ける。
「これは全てを完璧にするための策なのだ」
「ん?」
その態度に俺は疑問の声を上げた。
しかし、張済はそれに全く気にする事なく続ける。
「お前の持つ聖龍の旗を囮にして、董卓を討つ!」
確かに董卓配下の兵達は俺たちに疑いを持っているらしい。
それなら確かに俺が持つ聖龍の旗を目印にして仕掛けてくる可能性は少なくないだろう。
そんな俺の言葉に張済は更に得意げな表情で頷くと得意げに言ったのである。
「私がお前に対して疑いを持ったのは、あの黄巾党との戦いの時だ」
俺は確かに張済には疑われても良いような事はしてきたので黙って聞く事にしたのだが……それでも疑問に思っていたのだ。
「何故分かったんだ?」
すると張済はその質問を待っていた様に不敵な笑みを浮かべて答える。
「私の前であれだけの事を為しておいて、未だにお前は自分の正体も明かさんのはなぜなのだ?」
(なるほど、李儒の言う通り俺の言動でバレてしまったんだな)
張済の言葉に俺は心の中で納得すると頷く。
「それを俺も聞こうと思っていた」
俺が素直に言うと張済は先程よりも満足気な表情を浮かべると力強く頷き言ったのである。
「この策ならばお前は間違いなく董卓軍にとって、欠かせない存在となる!私はそう確信している!」
だが、俺は首を横に振ると否定する。
「それは董卓も同じだろ?」
その質問に張済は深く頷くと言葉を続けた。
「ああ、だからこそ呂布は董卓軍にとって必要不可欠な存在となり、奴にとっては邪魔となる。分かるな?」
「その隙を付くわけか」
俺の答えに張済は頷くと話を続けたのである。
「左様!上手くすれば敵の大将を始末する事も出来るかもしれぬ!まぁ、それほどの度量があるかどうかは別だが……」
そんなやり取りをしていた時だった。
部屋の入り口の方から声がする。
「なら私が消してやろう!」
そんな言葉に驚いて俺は入り口の方を見るとそこには李儒の姿があった。
「誰だ?」
張済は警戒心をあらわにして鋭い視線を向けながら訊ねる。
それに対して李儒は落ち着いた様子で答える。
「私はただの文官です」
そんな態度に張済は少し安心したのか表情を緩めたが、それでも警戒を解く気はないらしい。
「いや、呂布の傍にいたという事は間者だと聞いたぞ」
「まさか私が間者だと思ってらっしゃるのですか?」
李儒は溜息をつくと張済に言った。
「では、なぜ呂布殿に密書を届けたとお考えで?」
「それは呂布の手柄を奪う為であろう!」
その言葉に李儒は大袈裟な様子で肩を落とすと首を振る。
「これは困った方ですね」
そんな態度を見て張済が目を細めると兵士に向かって怒鳴ったのだ。
「おい!衛兵!この男は間者だ!縛り上げよ」
その言葉に兵士達は困惑した表情を見せながらも武器を手に近づいてくる。
それを見ていた李儒が溜息をついて俺を見た。
(え?この流れで俺?)
俺の目の前まで来た兵士に俺は頷くと縄で縛られる。
そんな様子を張済は満足げ見つめていたのである。
その後、すぐに李儒を連れて部屋を後にした。
(まぁ、呂布奉先は太師のお気に入りだからな)
そんな様子を見ながら張済は少し不安げな表情を浮かべていたのだが本人は気が付いていない。
数日後、俺は一人で外に出ていた。
外での風を感じながら考えていると李儒が目の前に現れ声をかける。
「呂布殿、面白い事が起こりましたよ」
「どうしたの?」
俺がそう答えると李儒は顎髭を撫でながら目を細めて言う。
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