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69話
翌朝、リルドがギルドの扉を開けると、そこには異様な緊張感が漂っていた。
「北の街道に凶悪な魔獣が出たらしい」「上位ランカーたちが向かったが、まだ仕留めきれていないそうだ」と、冒険者たちが顔を強張らせて武器を研いでいる。
リルドはそんな喧騒をすり抜け、掲示板の最も隅、他の依頼札に隠れるようにして追いやられていた一枚の紙を見つけた。そこには赤い墨で『討伐緊急』と書かれている。
「……これ、みんな気づいていないのかな。放置しておくと、森のバランスが崩れちゃうね」
リルドはその依頼書を静かに剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。今日はこれに行ってくるよ」
「おはようございます、リルドさん。……ええっ!? それ、緊急依頼ですよ! 街道を封鎖している『影の暗殺者(シャドウ・ストーカー)』の討伐です。Bランク以上のパーティーが推奨されているのに、お一人で行くなんて無茶です!」
「うん、大丈夫。少しお散歩のコースを変えるだけだから。行ってくるね」
ギルドを出たリルドは、人気のない道に入ると、ふうと息をついた。
(……今日は少し、魔術を使わないといけないかもしれないね)
指定された場所は、陽の光さえ届かないほど木々が鬱蒼と生い茂る森の深部だった。リルドは足を止め、そっと目を閉じる。
「……【サーチ】」
リルドを中心に、透明な波紋のような魔力が周囲に広がっていく。彼の脳内には、木々の葉の揺れから地中の虫の動きまで、数キロメートル四方の全てが鮮明に描き出された。
(……いた。影に紛れて、次の獲物を待っているんだね)
リルドは標的の位置を完璧に捉えると、人差し指をスッと前方に向けた。
「音も立てずに、おやすみ。――【ファイアピック】」
彼の指先から、極限まで圧縮された針のように細い炎の杭が放たれた。それは大気を焦がす音すら立てず、森の木々を一本も傷つけることなく、数百メートル先の影の中に潜む魔獣の急所を正確に貫いた。
魔獣は悲鳴を上げることさえ許されず、一瞬で浄化の炎に包まれ、塵となって消えていった。
「よし、これで森も静かになるね」
夕刻、リルドは何事もなかったかのようにギルドに戻り、報告書を受付に置いた。
「ただいま、受付さん。緊急依頼の場所、見てきたよ。魔獣はもういなかったから、たぶんどこか遠くへ行っちゃったんだと思うな」
「おかえりなさい! ……えっ、いなかったんですか? でも、今戻ってきた偵察隊が『魔獣の気配が完全に消滅していた。一瞬で強力な一撃を受けたような痕跡があった』って報告してきたばかりですよ。……リルドさん、本当に何も見てないんですか?」
「あはは、僕はただ、綺麗な景色を探して歩いていただけだよ。お散歩日和だったからね」
リルドはとぼけた顔で報酬の銀貨を受け取ると、家路についた。
「さて、僕も今夜は、魔力を使った分、甘い木の実のタルトでも焼いてゆっくりしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない「静かなる裁き」を終えて、穏やかに更けていく。
「北の街道に凶悪な魔獣が出たらしい」「上位ランカーたちが向かったが、まだ仕留めきれていないそうだ」と、冒険者たちが顔を強張らせて武器を研いでいる。
リルドはそんな喧騒をすり抜け、掲示板の最も隅、他の依頼札に隠れるようにして追いやられていた一枚の紙を見つけた。そこには赤い墨で『討伐緊急』と書かれている。
「……これ、みんな気づいていないのかな。放置しておくと、森のバランスが崩れちゃうね」
リルドはその依頼書を静かに剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。今日はこれに行ってくるよ」
「おはようございます、リルドさん。……ええっ!? それ、緊急依頼ですよ! 街道を封鎖している『影の暗殺者(シャドウ・ストーカー)』の討伐です。Bランク以上のパーティーが推奨されているのに、お一人で行くなんて無茶です!」
「うん、大丈夫。少しお散歩のコースを変えるだけだから。行ってくるね」
ギルドを出たリルドは、人気のない道に入ると、ふうと息をついた。
(……今日は少し、魔術を使わないといけないかもしれないね)
指定された場所は、陽の光さえ届かないほど木々が鬱蒼と生い茂る森の深部だった。リルドは足を止め、そっと目を閉じる。
「……【サーチ】」
リルドを中心に、透明な波紋のような魔力が周囲に広がっていく。彼の脳内には、木々の葉の揺れから地中の虫の動きまで、数キロメートル四方の全てが鮮明に描き出された。
(……いた。影に紛れて、次の獲物を待っているんだね)
リルドは標的の位置を完璧に捉えると、人差し指をスッと前方に向けた。
「音も立てずに、おやすみ。――【ファイアピック】」
彼の指先から、極限まで圧縮された針のように細い炎の杭が放たれた。それは大気を焦がす音すら立てず、森の木々を一本も傷つけることなく、数百メートル先の影の中に潜む魔獣の急所を正確に貫いた。
魔獣は悲鳴を上げることさえ許されず、一瞬で浄化の炎に包まれ、塵となって消えていった。
「よし、これで森も静かになるね」
夕刻、リルドは何事もなかったかのようにギルドに戻り、報告書を受付に置いた。
「ただいま、受付さん。緊急依頼の場所、見てきたよ。魔獣はもういなかったから、たぶんどこか遠くへ行っちゃったんだと思うな」
「おかえりなさい! ……えっ、いなかったんですか? でも、今戻ってきた偵察隊が『魔獣の気配が完全に消滅していた。一瞬で強力な一撃を受けたような痕跡があった』って報告してきたばかりですよ。……リルドさん、本当に何も見てないんですか?」
「あはは、僕はただ、綺麗な景色を探して歩いていただけだよ。お散歩日和だったからね」
リルドはとぼけた顔で報酬の銀貨を受け取ると、家路についた。
「さて、僕も今夜は、魔力を使った分、甘い木の実のタルトでも焼いてゆっくりしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない「静かなる裁き」を終えて、穏やかに更けていく。
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