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34話
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俺にもっと力があれば彼女のことも守ることができたかもしれない。だが、現実は違った。俺は彼女の家族から嫌われており、誰も助けることなどできなかったのである。
そう思うと何とも言えない気持ちになる。だが、同時に怒りの念も湧き上がってきた。
(どうして気付いてあげられなかったんだろうな……)
俺は自分を責めると大きく深呼吸をする。
(これから俺はどうすれば良いんだ?)
その問いに対する明確な答えは無い。そもそも、俺の命は既に風前の灯火なのだから……。
(でも、最後に一つだけ……)
できることならアリスの誤解を解きたいと思った。そう思った瞬間、アルフレッドの目には涙が浮かんでいた。そして、頬を伝うようにして零れ落ちる。
「俺はアリスのことを恨んじゃいない。それに嫌いでもない……」
その言葉を耳に入れると彼女は小さく首を振った。
「今更、そんなことを言われても困ります……」
「ああ、そうか……」
「もう二度と私の前に現れないでください……」
そう言い残すと部屋から出て行った。その背中からは悲しみの感情を感じる。きっと後悔をしているのだろう。そして、俺も同じように悲しくなった。
アルフレッドが黙っていると、しばらくして彼の父がゆっくりと近寄ってきた。そして、無言のまま抱きしめられる。
「父さん?」
彼は返事をしなかった。ただ強く抱き締めてくるだけである。
アルフレッドは不思議とその温もりを感じているうちに眠くなってきた。やがて瞼が重くなっていき、意識が遠くなっていく。
(これで終わりなのか……)
そう思いながらも抗うことはせず静かに目を閉じる。
それから数日後、一人の少女が亡くなったと噂されるようになる。その事実はすぐに王国中へ広まり、人々は悲しみに包まれたという……。
アルフレッドたちが旅に出てから一ヶ月近くが経過していた。
現在、彼らの姿はある場所にあった。それは王都より東にある小さな街であり、周囲には畑が広がっている。
この街の名前は『イース村』と言い、人口はおよそ千人ほどで規模的にはドリュアスの森の街と比べても小さいと言える。
どうして彼らがこの場所にいるかというと、それはある依頼のためだった。その依頼とは森の調査に関するものである。というのもここ数日の間に魔獣による被害が多発しているらしいのだ。
もちろん最初は冒険者たちが討伐に向かおうとしたのだが、その度に返り討ちに遭っているそうだ。そのせいでギルド側は街の住民たちに協力を要請した。だが、報酬が出せないのでは協力しようにもできないと断られてしまう。そこで、領主の娘であるアリシアが自ら調査を行うことにしたのだった。
ちなみにその話をアルフレッドたちは村長から聞かされていた。
「アリシア様がわざわざ来てくださるとは何ともありがたきことです……」と言って深く頭を下げたあと、彼は話を続けた。
「ですが、本当によろしいのですか? もし危険だと判断したらすぐに引き返してくださいね?」
「はい、わかっていますわ」
「ありがとうございます。それではご案内いたします……」
こうして彼らは目的地へと向かったのであった。
◆ 村長の家を出るとアルフレッドはアリシアへと話しかける。
「なあ、この依頼を受けたことだけど、本当は反対していたのか?」
「いえ、そういうわけではないんですが、少し気になりまして……」
彼女は申し訳なさそうな顔をして言う。「気にしないでくれ。それより行こうか」
アルフレッドは苦笑すると、先へと歩き始めた。その後ろをアリス、シルビア、エマ、アイラの四人がついていく。
アルフレッドはチラッと振り返って背後を見た。そこには心配そうな表情を浮かべるアリシアがいる。おそらく今回の一件に関して責任を感じているに違いない。
(まったく……仕方ない奴だな……)
アルフレッドはそう思って軽く溜息をつく。
とはいえ、このまま放置しておくわけにはいかない。だからといって下手に慰めたところで逆効果になるだろう。そう考えたアルフレッドは何も言わずに前へと向き直った。すると、前方から声が聞こえてきた。
「ねえ、アルフレッド……お腹が空いたんだけど何か買ってきてくれない?」
見るとエマが両手を合わせながらこちらを見上げている。どうやらお腹が空いて動けなくなったようだ。だが、ここで彼女の願いを叶えてはキリがない。なので、アルフレッドが断るつもりで口を開く。すると、その前に別の人物の声が上がった。
「ちょっと待ちなさいよ! その役目は私がやるわ!」
と叫んだのはシルビアである。
どうやら自分もお腹が空いたようで食べ物をせびろうとしているのだ。
(いや、別にいいけどよ……)
正直言って呆れてしまう。だが、シルビアに言ったところで無駄だ。
そう思ったアルフレッドは黙っていた。すると、今度はアリスが口を開く。
「あら、お姉さま……そんなことを言わなくても私が行ってきますよ」
どうも自分の手柄にしたいらしい。まあ、その気持ちは分からなくもない。彼女は自分が行けば俺の心を動かせると思っているからだ。
(おいおい、まさかコイツらもか?)
嫌な予感がしたので、試しに近くにいたアリスへ話しかけることにした。
「あの~アリスさん? 俺の分も頼んでも良いのかな?」
と聞くと、案の定
「えっ!? ダメですよ!!」
と拒否された。
そして、何故かシルビアとアリスの間で睨み合いが始まった。
そんな彼女たちの様子を遠巻きに眺めていると、不意に服を引っ張られたのでそちらを振り向く。
すると、アリスが上目遣いをしながら尋ねてきた。
「ねぇ、アルフレッド……私とお姉さま、どっちが良いの……?」
「…………」
アルフレッドはその問いに対して無言を貫く。というより答えることができなかった。なぜなら答えたら後が怖いからである。そう思っていると再び後ろから声を掛けられる。
「ちょっとアルフレッド、無視をするんじゃないわよ!」
振り向いてみると、頬を膨らませたシルビアの姿があった。
その顔には不満の感情が現れている。だが、面倒事には巻き込まれたくない。なのでアルフレッドは再び沈黙を貫こうとする。
しかし、それを許してくれなかった。
何しろ相手は自分のことを好きかもしれない女なのだ。そして、彼女は俺のことが好きだと思い込んでいる。
だからこそしつこく付き纏ってくる。俺はそれが堪らなく鬱陶しかった。だから思わず怒鳴りつけそうになる。だが、寸でのところで踏み止まった。何故なら今は大切な任務の最中だ。だから、感情を露わにしてはいけなかった。そう思って冷静になったのである。
そう思うと何とも言えない気持ちになる。だが、同時に怒りの念も湧き上がってきた。
(どうして気付いてあげられなかったんだろうな……)
俺は自分を責めると大きく深呼吸をする。
(これから俺はどうすれば良いんだ?)
その問いに対する明確な答えは無い。そもそも、俺の命は既に風前の灯火なのだから……。
(でも、最後に一つだけ……)
できることならアリスの誤解を解きたいと思った。そう思った瞬間、アルフレッドの目には涙が浮かんでいた。そして、頬を伝うようにして零れ落ちる。
「俺はアリスのことを恨んじゃいない。それに嫌いでもない……」
その言葉を耳に入れると彼女は小さく首を振った。
「今更、そんなことを言われても困ります……」
「ああ、そうか……」
「もう二度と私の前に現れないでください……」
そう言い残すと部屋から出て行った。その背中からは悲しみの感情を感じる。きっと後悔をしているのだろう。そして、俺も同じように悲しくなった。
アルフレッドが黙っていると、しばらくして彼の父がゆっくりと近寄ってきた。そして、無言のまま抱きしめられる。
「父さん?」
彼は返事をしなかった。ただ強く抱き締めてくるだけである。
アルフレッドは不思議とその温もりを感じているうちに眠くなってきた。やがて瞼が重くなっていき、意識が遠くなっていく。
(これで終わりなのか……)
そう思いながらも抗うことはせず静かに目を閉じる。
それから数日後、一人の少女が亡くなったと噂されるようになる。その事実はすぐに王国中へ広まり、人々は悲しみに包まれたという……。
アルフレッドたちが旅に出てから一ヶ月近くが経過していた。
現在、彼らの姿はある場所にあった。それは王都より東にある小さな街であり、周囲には畑が広がっている。
この街の名前は『イース村』と言い、人口はおよそ千人ほどで規模的にはドリュアスの森の街と比べても小さいと言える。
どうして彼らがこの場所にいるかというと、それはある依頼のためだった。その依頼とは森の調査に関するものである。というのもここ数日の間に魔獣による被害が多発しているらしいのだ。
もちろん最初は冒険者たちが討伐に向かおうとしたのだが、その度に返り討ちに遭っているそうだ。そのせいでギルド側は街の住民たちに協力を要請した。だが、報酬が出せないのでは協力しようにもできないと断られてしまう。そこで、領主の娘であるアリシアが自ら調査を行うことにしたのだった。
ちなみにその話をアルフレッドたちは村長から聞かされていた。
「アリシア様がわざわざ来てくださるとは何ともありがたきことです……」と言って深く頭を下げたあと、彼は話を続けた。
「ですが、本当によろしいのですか? もし危険だと判断したらすぐに引き返してくださいね?」
「はい、わかっていますわ」
「ありがとうございます。それではご案内いたします……」
こうして彼らは目的地へと向かったのであった。
◆ 村長の家を出るとアルフレッドはアリシアへと話しかける。
「なあ、この依頼を受けたことだけど、本当は反対していたのか?」
「いえ、そういうわけではないんですが、少し気になりまして……」
彼女は申し訳なさそうな顔をして言う。「気にしないでくれ。それより行こうか」
アルフレッドは苦笑すると、先へと歩き始めた。その後ろをアリス、シルビア、エマ、アイラの四人がついていく。
アルフレッドはチラッと振り返って背後を見た。そこには心配そうな表情を浮かべるアリシアがいる。おそらく今回の一件に関して責任を感じているに違いない。
(まったく……仕方ない奴だな……)
アルフレッドはそう思って軽く溜息をつく。
とはいえ、このまま放置しておくわけにはいかない。だからといって下手に慰めたところで逆効果になるだろう。そう考えたアルフレッドは何も言わずに前へと向き直った。すると、前方から声が聞こえてきた。
「ねえ、アルフレッド……お腹が空いたんだけど何か買ってきてくれない?」
見るとエマが両手を合わせながらこちらを見上げている。どうやらお腹が空いて動けなくなったようだ。だが、ここで彼女の願いを叶えてはキリがない。なので、アルフレッドが断るつもりで口を開く。すると、その前に別の人物の声が上がった。
「ちょっと待ちなさいよ! その役目は私がやるわ!」
と叫んだのはシルビアである。
どうやら自分もお腹が空いたようで食べ物をせびろうとしているのだ。
(いや、別にいいけどよ……)
正直言って呆れてしまう。だが、シルビアに言ったところで無駄だ。
そう思ったアルフレッドは黙っていた。すると、今度はアリスが口を開く。
「あら、お姉さま……そんなことを言わなくても私が行ってきますよ」
どうも自分の手柄にしたいらしい。まあ、その気持ちは分からなくもない。彼女は自分が行けば俺の心を動かせると思っているからだ。
(おいおい、まさかコイツらもか?)
嫌な予感がしたので、試しに近くにいたアリスへ話しかけることにした。
「あの~アリスさん? 俺の分も頼んでも良いのかな?」
と聞くと、案の定
「えっ!? ダメですよ!!」
と拒否された。
そして、何故かシルビアとアリスの間で睨み合いが始まった。
そんな彼女たちの様子を遠巻きに眺めていると、不意に服を引っ張られたのでそちらを振り向く。
すると、アリスが上目遣いをしながら尋ねてきた。
「ねぇ、アルフレッド……私とお姉さま、どっちが良いの……?」
「…………」
アルフレッドはその問いに対して無言を貫く。というより答えることができなかった。なぜなら答えたら後が怖いからである。そう思っていると再び後ろから声を掛けられる。
「ちょっとアルフレッド、無視をするんじゃないわよ!」
振り向いてみると、頬を膨らませたシルビアの姿があった。
その顔には不満の感情が現れている。だが、面倒事には巻き込まれたくない。なのでアルフレッドは再び沈黙を貫こうとする。
しかし、それを許してくれなかった。
何しろ相手は自分のことを好きかもしれない女なのだ。そして、彼女は俺のことが好きだと思い込んでいる。
だからこそしつこく付き纏ってくる。俺はそれが堪らなく鬱陶しかった。だから思わず怒鳴りつけそうになる。だが、寸でのところで踏み止まった。何故なら今は大切な任務の最中だ。だから、感情を露わにしてはいけなかった。そう思って冷静になったのである。
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