満月を見たら思い出せ

みなと劉

文字の大きさ
上 下
5 / 5

005

しおりを挟む
俺が勝ち誇ったように笑うと、カドルが不満そうな目でこちらを見てきた。俺はそれを気にせず、授業の準備を始めた。

***
それから時間が過ぎていき、今は昼休みとなっていた。教室内では生徒たちがお弁当を食べながら会話をしている姿が多く見られる。俺はいつも通り机を合わせて昼食をとっていた。そして隣にはカドルがいる。彼は自分の席に座っていたが、なぜか俯いたまま一言も喋ろうとしない。
(うーん……さすがにこれはやり過ぎたかな?)
正直、少しだけ後悔していた。俺はただ友達と普通の学園生活を送りたかっただけで、いじめを解決するつもりなど毛頭なかったのだ。
だが、今さら撤回することもできない。俺は心の中で謝りつつ、なんとか話題を切り出そうと努力することにした。
「そういえば、カドルの親御さんはどこに住んでるんだ?」
「えっ?あぁ……うん、まあ遠いところだよ」
「ふーん……もしかして引っ越したのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……まあ、とにかくいろいろあって大変なんだよ」
「そうか……それは大変そうだな」
どうやら家族の問題はあまり話したくないようだった。俺もそれくらいは察することができる。
「あっ!それよりもお前の両親の話を聞きたいな」
カドルが急に思い出したかのようにそんなことを言い出した。
「俺の両親?」
「ああ、実は俺……お前のことはほとんど何も知らないんだよ」
「まあ確かに、俺自身について誰かに教えたことはなかったな……」

「そうだろう。それに気になることだってあるし……」
「例えば?」
俺が尋ねると、カドルはやや迷うような素振りを見せた後言った。
「まず最初に思ったのはお前が強いということだ。俺なんかより遥かに強い」
「別に俺はそこまで強くないぞ?」
「いや、強いよ。少なくとも今の俺とは大違いなんだ」
カドルの言葉を聞いて、俺の中に疑問が生まれる。
「それならどうしてお前は落ちこぼれなんて言われてるんだ?」
俺が質問すると、カドルは一瞬言葉に詰まると小さな声で答えた。
「実は俺、人見知りが激しくて人とうまく話せないんだ」
「なんじゃそりゃ……」
俺は思わず呆れてしまった。するとカドルはそれを否定してきた。
「本当なんだって。それに、最近はちょっと改善されてきつつあるけど、昔から友達ができなかったんだよ」
「なるほどね……」
「だけどナオキはそんな俺を受け入れてくれたんだ。俺が天才とか呼ばれていることを知った後も変わらずに接っしてくれて……。だから、今度は俺が頑張ろうと思ったんだよ」
カドルの話を聞くうちに、俺は彼の本当の気持ちを理解し始めていた。
「つまり……カドルは俺と対等な関係になりたかったんだな?」
「……そうだよ」
「それなのにいきなり友達になろうなんて言って悪かったな」
俺が謝罪すると、カドルは首を横に振った。
「そんなこと言わなくていいよ。俺の方こそ今まで黙っていてごめん……」
二人はしばらくお互いの顔を見て沈黙していたが、しばらくして同時に笑い始めた。
「俺たち似た者同士だな」
「だな」
こうして、俺たちの間に友情が生まれたのだった……。

***
放課後、
「じゃあまた明日」
俺はカドルに手を振ると、家へと向かって歩き出す。しかしすぐに後ろから足音が聞こえてきて、肩を掴まれた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...