のほほん異世界暮らし

みなと劉

文字の大きさ
397 / 945

「シャズナとルシファン──蜻蛉の舞う秋の午後」

しおりを挟む
翌朝、夏の暑さが少し和らいだ空気を感じながら目を覚ますと、窓から柔らかな光が差し込んでいた。秋の気配が漂い始めたこの季節、朝のひんやりとした空気に少し身震いしながらも、どこか心地よい感覚を覚える。

「にゃあ」
ベッドの隣でシャズナが小さく鳴いた。まるで「起きる時間だよ」と知らせてくれているかのようだった。ルシファンは僕の胸元で丸まったまま、「ち」と甘えた声を漏らしている。

「おはよう、ふたりとも」
ふたりを軽く撫でて起こし、朝の支度に取り掛かることにした。


---

朝食を終えたあと、庭先に出ると爽やかな秋の風が吹き抜けていった。クリスティピーナッツの茎はますます力強く伸び、ハロウィーンソフィも深い緑の葉を広げている。プランターの中で育つそれらを眺めながら、僕はふたりと一緒に少し庭仕事をすることにした。

「ほら、これが秋になるとおいしい実をつけるんだぞ」
僕がクリスティピーナッツを指差して説明すると、ルシファンは興味津々とばかりに近づき、その葉をくんくんと嗅いでみせた。

「ち!」
どうやら気に入ったらしい。一方のシャズナは、そんな様子を少し離れたところから見つめながらも、特に近寄ることなく「ふん」と気のない声を上げるだけだった。


---

午後になり、農場の近くにある草原に出かけることにした。魔力トラックを走らせながら、ふたりは車窓から風景を眺めている。秋の澄んだ空気の中、遠くに山々がくっきりと見えるのが美しい。

草原に到着すると、ふたりは一目散に草むらへと駆け出していった。シャズナは優雅な足取りでふわふわと歩き回り、ルシファンはあちらこちらを走り回っている。その姿を見ているだけで、僕も自然と笑顔になった。

「ほら、あれを見て」
指差した先には、数匹の蜻蛉が空を舞っていた。赤く輝く羽根が秋の陽光を反射して、きらきらと輝いている。

ルシファンはそれに気づくと、一気に跳び上がろうとしたが、蜻蛉はひらりと飛び去ってしまう。シャズナはと言えば、それをちらりと見てから、興味がないのかそのまま草の上に寝転がってしまった。

「そんなに簡単には捕まえられないよ、ルシファン」
僕が笑いながら言うと、ルシファンは悔しそうに「ち!」と短く鳴いてしっぽを振った。それでもすぐに気を取り直し、再び蜻蛉を追いかけ始める。


---

日が傾き始める頃、草原の風が少し冷たく感じるようになってきた。ふたりを呼び寄せ、魔力トラックに戻ることにする。

「今日は楽しかったか?」
助手席に座るルシファンに尋ねると、「ち!」と元気よく返事をしてくれる。その後ろでシャズナはしっぽを揺らしながら、気だるげに窓の外を眺めていた。

家に戻ると、夕陽が庭をオレンジ色に染めていた。ふたりと一緒に庭のクリスティピーナッツとハロウィーンソフィを見て回りながら、僕は今日の穏やかな一日を思い返していた。

「こうしてふたりと過ごす時間が、何よりも幸せだな」
そう呟くと、シャズナは軽く「にゃあ」と応え、ルシファンは僕の膝に飛び乗って「ちち!」と楽しげに声を上げた。秋の静かな夕暮れの中、ふたりの温もりが僕の心をじんわりと包んでいくのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

処理中です...