18 / 26
2章
17/魔人化
しおりを挟む
シルヴィが使った付与魔法があったからか、特段苦戦することなく黒いスライムとの戦闘にあっけなく勝利を収めた一行。
酸耐性が付与されていたおかげで一定の距離を保つために逃げ回る必要はなく、なんなら一歩たりとも動かないままでフレアとルミナの攻撃魔法だけ終わらせてしまったのだ。
「シルヴィさん……本当にあなたは何者ですか……付与魔法なんてもう使う人もいないものなのに」
「……え、まじですか」
「大マジです! 流石に色々教えてもらわないと先生は納得できませんよ!? もう誤魔化されませんからね!」
「えぇ……」
まさか付与魔法が廃れているとは思ってもみなかったシルヴィ。隠し事もここまでかと諦めようとした刹那、再び魔物の気配が強まる。それも先ほどのスライムよりも凶暴で、今の今までは一切感じることのなかった気配。まるで自分が兎にでもなり、獲物に飢えた虎に見つめられているような気分で、冷や汗が自然とあふれ出る。
ゆっくりと気配のする方向へと視線を向ける三人。そこには赤い血が漆黒の如く黒い体毛にべっとりとこびりついた狼がいた。それも体格は大人であるルミナよりも大きい。
「ひっ……!」
その狼はフレアが幼少期に見たあの魔物に酷似していた。そのためかそれを見た瞬間に体の震えが止まらなくなり、足が竦んでしまっていた。それでもなんとか克服しようと杖を前に突き出す。しかし体の震えで狙いは定まらず恐怖のあまり失禁してしまっていた。
一方でルミナは突然現れた魔物の気配に怯んでいる様子。魔王と対峙した経験から冷静を保っているシルヴィはともかくとして、生徒たちよりも先に生きる先生として情けないものだ。いや、自分の命を大事にしているのならば仕方のないことのなのかもしれないが。
とはいえ二人がこのままでは全滅するのも時間の問題になる。流石に騒ぎにならないように本来の力を隠している場合ではないとシルヴィは剣柄に手を添えて。
「滾れよ炎、唸れよ雷。万雷の如く叫ぶ火炎の怒りを以て我が剣に纏い、剰え光の如く瘴気を切り開かんとする力を我が剣に【刹那ノ除瘴】」
剣柄に触れたまま無防備に詠唱するシルヴィ。魔物からするとまるで襲ってくれと言っているようなもので、すかさず大きな口を開けて飛びかかる狼の魔物。
しかし詠唱が終わり、魔物とほぼゼロ距離になった刹那突然狼が地面に勢い良く落ち、首がころんと転がり身体から離れた。
あまりにも早すぎる斬撃。あたかも動いていないようにしか見えないそれだが、実際は剣を抜刀しただけである。というのも雷と炎の力で万物を切り裂く付与と、それに瘴気を打ち消す光の魔法が混ざった斬撃波が剣を抜いた瞬間に対象を切ったのだ。
けれどそれで終わりではない。瘴気に飲まれた魔物や、瘴気から生まれた魔物は心臓の代わりに魔力核が存在する。それがあれば首が離れようが、体が肉片になろうが再生し始めるのだ。
そのため少女はくるりと引き抜いた剣を逆手に持って、狼の核を砕いた。
「……あと数体いるけど、今ので襲っては来ないか」
剣に着いた血を振り落として鞘へと戻す。同時に精度を高く調節した即興の魔力探知で周囲の魔物の気配を読み取っていた。だが探知した魔物は戦意消失してるのか襲ってはこなさそうだった。
否。敵は戦意を喪失したわけではない。そもそも狙いがシルヴィではないのだ。
もちろんそれを知るものなどこの場には誰もおらず、それが起きた時には既に手遅れになっていた。
「フレア……?」
踵を返したシルヴィが目撃したのは、フレアがまるでマリオネットのように立ったまま力が抜けている状態なこと。明らかに様子がおかしく、先生もそれには気づいていたようで体を揺さぶって意識を取り戻そうと必死だ。
突然ルミナがその場に倒れ、胸元を抑えながら吐血した。その後もう一度吐血するとそのまま気絶してしまいかなり危険な状態である。
シルヴィが急いで駆けつけて、回復魔法を施しつつ今の症状から魔力の乱れにより起きたものであると推測した。その理由は症状が魔族語を見聞きした時に現れる症状と酷似していることだ。
一方そんなことが起きているのに呆然と立ち尽くすフレア。
本当にどうしたのかとフレアの顔を覗くように見上げるとゆっくりと不気味な笑みを浮かべていた。
「くはハ! ようやク、ようやくダ!」
「まさか……魔人化!? こんな時に……!」
フレアが急に天を仰いで叫ぶ声は、フレアの元の声と魔人の声で重なっており若干発生になれていないような独特な口調になっている。
周囲にあった反応がフレアの魔人化を狙っていたかのように動き、まるで磁石の如くフレアの元へと引き寄せられた刹那。
「ラオベン・ディー・ツァオバー・クラフト」
その魔法を放った。
危険を察知してルミナを引きずってでも魔人から離れようとするシルヴィは、途端に身体が重くなり思わず膝を折ってしまう。
立ち上がろうにもまるで魔力切れを起こしたように身体が重く、すぐに急激に自分の中にある魔力が大きく減少したことを悟った。
加えて魔人に引き寄せられた魔物の魔力も、シルヴィが運んでいるルミナの魔力すらも減少し、代わりに魔人の魔力が上昇している。
原因は魔人が魔族語で詠唱した魔法。周囲の魔力を奪い自分の魔力に変えてしまういわゆる闇魔法である。
「フゥ……さテ、小娘。その女を置いていケ。どうせ連れて帰ってモ、手遅れだろウ?」
辺りの瘴気も吸い取っていたのか、フレアの容姿はそのままに魔人特有の角が左頭部に一本。天を穿つかの如く生えており、目は黒く染っていた。
「それではいそうですかとは言えないね……!」
「そうカ、なラ今すぐに手遅れにするしかだナ!」
酸耐性が付与されていたおかげで一定の距離を保つために逃げ回る必要はなく、なんなら一歩たりとも動かないままでフレアとルミナの攻撃魔法だけ終わらせてしまったのだ。
「シルヴィさん……本当にあなたは何者ですか……付与魔法なんてもう使う人もいないものなのに」
「……え、まじですか」
「大マジです! 流石に色々教えてもらわないと先生は納得できませんよ!? もう誤魔化されませんからね!」
「えぇ……」
まさか付与魔法が廃れているとは思ってもみなかったシルヴィ。隠し事もここまでかと諦めようとした刹那、再び魔物の気配が強まる。それも先ほどのスライムよりも凶暴で、今の今までは一切感じることのなかった気配。まるで自分が兎にでもなり、獲物に飢えた虎に見つめられているような気分で、冷や汗が自然とあふれ出る。
ゆっくりと気配のする方向へと視線を向ける三人。そこには赤い血が漆黒の如く黒い体毛にべっとりとこびりついた狼がいた。それも体格は大人であるルミナよりも大きい。
「ひっ……!」
その狼はフレアが幼少期に見たあの魔物に酷似していた。そのためかそれを見た瞬間に体の震えが止まらなくなり、足が竦んでしまっていた。それでもなんとか克服しようと杖を前に突き出す。しかし体の震えで狙いは定まらず恐怖のあまり失禁してしまっていた。
一方でルミナは突然現れた魔物の気配に怯んでいる様子。魔王と対峙した経験から冷静を保っているシルヴィはともかくとして、生徒たちよりも先に生きる先生として情けないものだ。いや、自分の命を大事にしているのならば仕方のないことのなのかもしれないが。
とはいえ二人がこのままでは全滅するのも時間の問題になる。流石に騒ぎにならないように本来の力を隠している場合ではないとシルヴィは剣柄に手を添えて。
「滾れよ炎、唸れよ雷。万雷の如く叫ぶ火炎の怒りを以て我が剣に纏い、剰え光の如く瘴気を切り開かんとする力を我が剣に【刹那ノ除瘴】」
剣柄に触れたまま無防備に詠唱するシルヴィ。魔物からするとまるで襲ってくれと言っているようなもので、すかさず大きな口を開けて飛びかかる狼の魔物。
しかし詠唱が終わり、魔物とほぼゼロ距離になった刹那突然狼が地面に勢い良く落ち、首がころんと転がり身体から離れた。
あまりにも早すぎる斬撃。あたかも動いていないようにしか見えないそれだが、実際は剣を抜刀しただけである。というのも雷と炎の力で万物を切り裂く付与と、それに瘴気を打ち消す光の魔法が混ざった斬撃波が剣を抜いた瞬間に対象を切ったのだ。
けれどそれで終わりではない。瘴気に飲まれた魔物や、瘴気から生まれた魔物は心臓の代わりに魔力核が存在する。それがあれば首が離れようが、体が肉片になろうが再生し始めるのだ。
そのため少女はくるりと引き抜いた剣を逆手に持って、狼の核を砕いた。
「……あと数体いるけど、今ので襲っては来ないか」
剣に着いた血を振り落として鞘へと戻す。同時に精度を高く調節した即興の魔力探知で周囲の魔物の気配を読み取っていた。だが探知した魔物は戦意消失してるのか襲ってはこなさそうだった。
否。敵は戦意を喪失したわけではない。そもそも狙いがシルヴィではないのだ。
もちろんそれを知るものなどこの場には誰もおらず、それが起きた時には既に手遅れになっていた。
「フレア……?」
踵を返したシルヴィが目撃したのは、フレアがまるでマリオネットのように立ったまま力が抜けている状態なこと。明らかに様子がおかしく、先生もそれには気づいていたようで体を揺さぶって意識を取り戻そうと必死だ。
突然ルミナがその場に倒れ、胸元を抑えながら吐血した。その後もう一度吐血するとそのまま気絶してしまいかなり危険な状態である。
シルヴィが急いで駆けつけて、回復魔法を施しつつ今の症状から魔力の乱れにより起きたものであると推測した。その理由は症状が魔族語を見聞きした時に現れる症状と酷似していることだ。
一方そんなことが起きているのに呆然と立ち尽くすフレア。
本当にどうしたのかとフレアの顔を覗くように見上げるとゆっくりと不気味な笑みを浮かべていた。
「くはハ! ようやク、ようやくダ!」
「まさか……魔人化!? こんな時に……!」
フレアが急に天を仰いで叫ぶ声は、フレアの元の声と魔人の声で重なっており若干発生になれていないような独特な口調になっている。
周囲にあった反応がフレアの魔人化を狙っていたかのように動き、まるで磁石の如くフレアの元へと引き寄せられた刹那。
「ラオベン・ディー・ツァオバー・クラフト」
その魔法を放った。
危険を察知してルミナを引きずってでも魔人から離れようとするシルヴィは、途端に身体が重くなり思わず膝を折ってしまう。
立ち上がろうにもまるで魔力切れを起こしたように身体が重く、すぐに急激に自分の中にある魔力が大きく減少したことを悟った。
加えて魔人に引き寄せられた魔物の魔力も、シルヴィが運んでいるルミナの魔力すらも減少し、代わりに魔人の魔力が上昇している。
原因は魔人が魔族語で詠唱した魔法。周囲の魔力を奪い自分の魔力に変えてしまういわゆる闇魔法である。
「フゥ……さテ、小娘。その女を置いていケ。どうせ連れて帰ってモ、手遅れだろウ?」
辺りの瘴気も吸い取っていたのか、フレアの容姿はそのままに魔人特有の角が左頭部に一本。天を穿つかの如く生えており、目は黒く染っていた。
「それではいそうですかとは言えないね……!」
「そうカ、なラ今すぐに手遅れにするしかだナ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる