23 / 26
3章
22/記憶のない魔族
しおりを挟む
フレアと別れたあと、魔界がある西の方角へと歩みを進めていた。その方角は瘴気の森がある場所。
あれ以降定期的にシルヴィが一人で瘴気から生まれる魔物を処理してきたが、これからは旅に出るためどうすることも出来なくなる。
魔法学校には優秀な生徒がいるうえ育成もされているため、ある程度は対処できるだろう。しかしそれでは限度があり、時間が足りずやがて対処不能になる。
そこでシルヴィは今一度強力な結界を張るべく向かっているのだ。
最も瘴気を断ち切る剣の力を使えばいいのだが、エイスとの戦いで限界が来ており、今はただのボロボロな剣になっているため瘴気を減らすことが出来ない。そのため結界を張ることにしたのだ。
「まぁ瘴気の森を包むような結界なんて張れば、何かしらに追われそうだけど……卒業して色んな場所行けるようになったし何とかなるか」
森の中へと進もうとしたとき、頭上から微かに悲鳴が聞こえた気がして上空を見上げる。すると太陽と被るようにして何かがシルヴィに向かって落ちてきているのが見えた。
ただ、石や木などの無機物の物体ならば良かったものの、その影は人そのもの。翼が生えていることから魔族だろう。
一体何がどうして落ちてきているのか不明だが、このままでは例え魔族でも生死に関わる。直ぐにその影に向かって手を伸ばし風や重量系魔法で勢いを殺して、何とか何事もなく着地させることができた。
改めて影の正体を見ると、やはり魔族だった。羽毛によりふわっとした黒い翼の存在感が凄いが、対して身体はまるで八歳程の子供。
また、魔族にしては珍しい黒髪でシルヴィ同様肩まで伸びており、その上に乗っかる朱色のベレー帽は先程の落下でも形を崩しておらず、ピッタリとくっついたままだ。
「う……ん……ここは……?」
しばらくすると空から落ちてきた魔族が何事もなかったかのように目を覚ます。
「大丈夫……? 空から落ちてきたけど」
「空から……?」
こてんと小首をかしげる少女。空から落ちてきたことに自覚していないようで、上を指さして再び空から落ちてきたと言う。けれどパッとしない表情のままだ。普通なにかしらの理由で空から落ちてきたのならば意識を失っていたとしても直前の記憶があるはず。しかしまるで覚えていないような雰囲気を出しており、ならばとシルヴィは別のことを聞いてみることにした。
「空を飛んでたことは覚えてる?」
その質問に首を横に振る魔族。
「なら……どこから来たかとかは?」
「どこから……ど、どこから来たんでしょうか……」
「記憶喪失……かな。うーん困ったな……自分の名前とかわかる範囲で教えてくれるかな」
「え、えっと……名前はその、ルーシャです。魔族です多分……」
案の定と言っていいほど何も覚えていない様子だった。ただルーシャと言う名前と自分が魔族であることは知っているのは唯一の救いだろう。
とはいえこの調子ならばルーシャは魔界に帰ることはまずできない。だからとて置いていくわけにもいかない。まだ少女が人間ならばアドリシアの孤児院などに預けることができるが、少女は魔族。またシルヴィたちがいるのは瘴気があり魔物も出現する危ない場所だ。記憶がないなら戦闘もできないと考えれば余計置いていくことなどできるはずがない。
「このまま置いていけないし……仕方ない。なんで記憶がなくなったのかはわからないけど、暫く私と一緒にいようか。その方が安全でしょ?」
「わ、わかり、ました」
記憶がないとはいえ、この場所が危険で彼女についていく方が安全とわかっているのか、疑うことなくシルヴィの提案に乗り少女は彼女の後ろを歩き始めた。
彼女たちは森の奥深くへと進んでいく。奥に進むほど瘴気により淀んだ空気が二人を包み始める。それも以前フレアの中に潜むエイスと争った時よりも濃い。念のためにと瘴気から身を護る魔法を使用しているがそれがなければ、今頃倒れているか体調が悪くなっているか程だ。
魔族にとっては瘴気の濃さなど殆ど関係はないが、濃すぎると自我を失い凶暴化する危険性もある。そのためルーシャにも瘴気から身を護る魔法をかけ、更に奥へと足を進める。
程なくしてたどり着いたのは瘴気を断ち切る剣が置いてあった小屋だ。だが以前よりも朽ちており崩れ落ちていた。
「うわぁ……派手に壊れてるなあ……これはもう住めなさそう……」
「あ、あの……ここは……?」
「秘密基地……みたいなところかな」
目の前に広がる朽ち果てた家の状態に、ルーシャのことをすっかり忘れてしまう程言葉を失っていた。
だからこそか、ルーシャの問にとっさに思いついた無茶な嘘を焦りながら吐いた。
「秘密基地……? えっと、それで、ここでなにを……?」
「ここで瘴気を研究してたの。まぁ魔王に殺されて気づいたら転生してて今に至るんだけど……ここに置いてあった瘴気を断つ剣が壊れたし、結界張らないと瘴気が溢れる危険があるから来たの」
小屋の跡を魔法でせっせと掃除し魔法陣を書き始めがらそういうシルヴィ。魔王は流石に知ってる体で話をしていたが、ちらっとルーシャの方を見てみるがシルヴィの話がよくわかっていないのか首を傾げていただけだった。
「その様子だと魔王もわからない?」
「は、はい……」
「そっかぁ……まぁ私についてくるならそのうちわかるだろうし今はわからなくていいよ。話すと長いからね」
改めて魔族なのに何も知らないことが身に染みて苦笑を浮かべる。
かと言って無理やり思い出させるのは脳に負担がかかる気がして、今は魔法陣を描く作業に専念することにしていた。
あれ以降定期的にシルヴィが一人で瘴気から生まれる魔物を処理してきたが、これからは旅に出るためどうすることも出来なくなる。
魔法学校には優秀な生徒がいるうえ育成もされているため、ある程度は対処できるだろう。しかしそれでは限度があり、時間が足りずやがて対処不能になる。
そこでシルヴィは今一度強力な結界を張るべく向かっているのだ。
最も瘴気を断ち切る剣の力を使えばいいのだが、エイスとの戦いで限界が来ており、今はただのボロボロな剣になっているため瘴気を減らすことが出来ない。そのため結界を張ることにしたのだ。
「まぁ瘴気の森を包むような結界なんて張れば、何かしらに追われそうだけど……卒業して色んな場所行けるようになったし何とかなるか」
森の中へと進もうとしたとき、頭上から微かに悲鳴が聞こえた気がして上空を見上げる。すると太陽と被るようにして何かがシルヴィに向かって落ちてきているのが見えた。
ただ、石や木などの無機物の物体ならば良かったものの、その影は人そのもの。翼が生えていることから魔族だろう。
一体何がどうして落ちてきているのか不明だが、このままでは例え魔族でも生死に関わる。直ぐにその影に向かって手を伸ばし風や重量系魔法で勢いを殺して、何とか何事もなく着地させることができた。
改めて影の正体を見ると、やはり魔族だった。羽毛によりふわっとした黒い翼の存在感が凄いが、対して身体はまるで八歳程の子供。
また、魔族にしては珍しい黒髪でシルヴィ同様肩まで伸びており、その上に乗っかる朱色のベレー帽は先程の落下でも形を崩しておらず、ピッタリとくっついたままだ。
「う……ん……ここは……?」
しばらくすると空から落ちてきた魔族が何事もなかったかのように目を覚ます。
「大丈夫……? 空から落ちてきたけど」
「空から……?」
こてんと小首をかしげる少女。空から落ちてきたことに自覚していないようで、上を指さして再び空から落ちてきたと言う。けれどパッとしない表情のままだ。普通なにかしらの理由で空から落ちてきたのならば意識を失っていたとしても直前の記憶があるはず。しかしまるで覚えていないような雰囲気を出しており、ならばとシルヴィは別のことを聞いてみることにした。
「空を飛んでたことは覚えてる?」
その質問に首を横に振る魔族。
「なら……どこから来たかとかは?」
「どこから……ど、どこから来たんでしょうか……」
「記憶喪失……かな。うーん困ったな……自分の名前とかわかる範囲で教えてくれるかな」
「え、えっと……名前はその、ルーシャです。魔族です多分……」
案の定と言っていいほど何も覚えていない様子だった。ただルーシャと言う名前と自分が魔族であることは知っているのは唯一の救いだろう。
とはいえこの調子ならばルーシャは魔界に帰ることはまずできない。だからとて置いていくわけにもいかない。まだ少女が人間ならばアドリシアの孤児院などに預けることができるが、少女は魔族。またシルヴィたちがいるのは瘴気があり魔物も出現する危ない場所だ。記憶がないなら戦闘もできないと考えれば余計置いていくことなどできるはずがない。
「このまま置いていけないし……仕方ない。なんで記憶がなくなったのかはわからないけど、暫く私と一緒にいようか。その方が安全でしょ?」
「わ、わかり、ました」
記憶がないとはいえ、この場所が危険で彼女についていく方が安全とわかっているのか、疑うことなくシルヴィの提案に乗り少女は彼女の後ろを歩き始めた。
彼女たちは森の奥深くへと進んでいく。奥に進むほど瘴気により淀んだ空気が二人を包み始める。それも以前フレアの中に潜むエイスと争った時よりも濃い。念のためにと瘴気から身を護る魔法を使用しているがそれがなければ、今頃倒れているか体調が悪くなっているか程だ。
魔族にとっては瘴気の濃さなど殆ど関係はないが、濃すぎると自我を失い凶暴化する危険性もある。そのためルーシャにも瘴気から身を護る魔法をかけ、更に奥へと足を進める。
程なくしてたどり着いたのは瘴気を断ち切る剣が置いてあった小屋だ。だが以前よりも朽ちており崩れ落ちていた。
「うわぁ……派手に壊れてるなあ……これはもう住めなさそう……」
「あ、あの……ここは……?」
「秘密基地……みたいなところかな」
目の前に広がる朽ち果てた家の状態に、ルーシャのことをすっかり忘れてしまう程言葉を失っていた。
だからこそか、ルーシャの問にとっさに思いついた無茶な嘘を焦りながら吐いた。
「秘密基地……? えっと、それで、ここでなにを……?」
「ここで瘴気を研究してたの。まぁ魔王に殺されて気づいたら転生してて今に至るんだけど……ここに置いてあった瘴気を断つ剣が壊れたし、結界張らないと瘴気が溢れる危険があるから来たの」
小屋の跡を魔法でせっせと掃除し魔法陣を書き始めがらそういうシルヴィ。魔王は流石に知ってる体で話をしていたが、ちらっとルーシャの方を見てみるがシルヴィの話がよくわかっていないのか首を傾げていただけだった。
「その様子だと魔王もわからない?」
「は、はい……」
「そっかぁ……まぁ私についてくるならそのうちわかるだろうし今はわからなくていいよ。話すと長いからね」
改めて魔族なのに何も知らないことが身に染みて苦笑を浮かべる。
かと言って無理やり思い出させるのは脳に負担がかかる気がして、今は魔法陣を描く作業に専念することにしていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる