異世界少女の勇者とペットな魔王さま〜世界征服した魔王は勇者のペットになりました〜

夜色シアン

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4話/冒険者

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「確かもう少し先だな。強い魔力を感じたって言ってたのは」

「うん……でも様子がおかしい……魔力を感じないし……その、トレント森の守護者たちの気配も……ない……よ?」

「もう既にトレントを始末して去った後か……だとしても争った形跡が少なすぎる……何か嫌な予感がするからみんな気をつけろ」

 夜更け。剣や杖、篭手に弓、鎧など装備を身にまとった男女達4人組は森から凶悪な魔力を感じたとの報告があり、トレントが巣食う森林を歩いていた。

 こんな夜遅くに活動している魔物は少ないと知っている4人はなるべく息を殺し、足を音を立てないように進んでいく。

 念には念をと、おどおどとした言葉を放つ女魔法使いが消音魔法を発動しているおかげで、会話にも余裕はあった。

 程なくして目的地にたどり着いた4人。しかしそこにはなんの気配すらなく、報告はデマかと呆然としていた。嘘の情報を掴まされたのはいたたまれないものの、何も無いことに越したことはなく、安全を確認した後帰ろうとした刹那、背中を舐められたような悪寒に4人組のリーダー格が振り返る。

 そこには巨大な獣、ワーウルフにも見える狼と1人の少女が呑気に寝ていた。それも少女は魔物など恐れていないかのごとく軽装。よく見れば見たことのあるような顔だが彼らの脳裏によぎった人物はそこまで無防備になる人ではない印象があり、別人だと考える。

 そんな知らない少女があまりにも無防備なためか狼が少女を守っているようにも見えるものの、いくらなんでもたかが動物1匹が人を守るなどありえない話。となれば狼が子どもを攫ってきたと考えるのが妥当だろう。

 しかし今は彼にとってそんなことはどうでもよかった。

「なんで見つけるまでこいつの魔力に気づかなかったんだ俺たち……もしかして報告のあった魔力の正体はこの狼か……?」

 見れば見るほど濃縮された魔力が狼から溢れているのを肌で感じとれる。まるで上位魔族に遭遇した時のように全身の毛が逆立つ嫌な感覚に思わず足が竦む。

 それが狼を視界に入れるまで感じとれなかったのだから本能がその存在は危険だと訴えてきているのだ。

 だが彼らは冒険者。それに怯んでいる場合では無い。また森から感じられた魔力の正体はどう考えてもそれとしか思えず、意を決して各々武器を手にする。

「……全く、人間というものは実に愚かだ」

 なるべく起こさないように警戒しながらゆっくりと近づいていると、狼がゆっくりと身体を起こし人の言葉を話す。低く発せられたただの言葉なのに空気が重くなるほど圧力を感じ、脂汗が額に滲んでくる。

 人の言葉を話せるワーウルフは珍しくは無いが、改めて見たその狼の姿は実に獣らしいもので、到底人の言葉を話せるような感じではないいわゆる魔物に近い存在だと悟る。

 だが仮に魔物だとするなら、その狼は人の言葉を発し、かつ圧もあるのはおかしく、消去的に魔族であることに繋がり。それも魔力の大きさ的に上位のものであるということになる。

 上位魔族は冒険者が10人以上いなければ討伐は不可能とも言われており、そのため基本的には戦闘に特出し固有魔法を授かった『勇者』が上位魔族の相手となる。

 もちろん狼を前に身体を震わせる彼らは固有魔法を持たない冒険者。一応その中でも手練ではあるが、戦闘能力は勇者以下だ。

「一体お前は何者だ……」

「我か? 知りたいのならば教えてやろう……我はグリフェノル。この世に蔓延る魔の王なり。さぁ貴様らも我のカグェ!? ちょ! シャネア! 今良いとこなのに邪魔せんといてや!!」

 魔王だと自称したそれが前に出て大きく牙を剥こうとした刹那、グイッと首から先に後ろへと引っ張られていた。

 飲み込まれるような圧が途端に消えて、息をするのを忘れていた冒険者たちは、早い動悸と共に荒い呼吸を繰り返す。全身から汗が溢れ、死すら垣間見えていたからか絶望感に襲われていたのだ。

 息を整えて変な口調になった狼が向く先を、彼らは見つめる。そこには先程まで寝ていた少女、シャネアが立っており無の表情から何を考えているかはまったく捉えきれない。しかし、小さな手に握られた狼に繋がる鎖を見るに冒険者を助けたのはその子で間違いないだろう。

「……っはぁ……き、君……助けてくれてありがとう……と言いたいところだけど……ごめん状況が理解できてないんだが……君はそれを使役している……のか?」

「ん。うちのグリルチキンがご迷惑した」

「だーれがチキンやねん! てかいい加減名前覚えてぇや! 我はグリフェノルやって!」

「覚えたグラサン」

「クソこいつ絶対わざとやろ……」

 自分の身体よりも何倍も大きな狼に睨まれながら平然と対話する少女の姿に何を見せられているのかと当惑する4人。

 狼の魔物が先程といい今回といい魔王の名を語っていることに疑問を抱き、杖を持つ女冒険者が恐る恐る尋ねた。

「グ、グリフェノルは魔王の名……あ、あなた本当に魔王だと言うの……?」

「はぁ……そう言ってるやろ人間。ていうか別に取って食おうとせんから楽にしいや。……仮に我がお前らを襲うともれなくこのクソ勇者に絞らいだだだだだ! 毛ぇ抜ける! 抜けるから引っ張んな! 禿げる!」

「私をクソって言った。当然の報い」

「ホントの事や……ギィヤァァ! もっさり毛ぇ抜きよったぁぁ!」

 体格差があるのにこうも力量差が少女の方が勝っているのを見ると理解に苦しめられるが、自称勇者と魔王の彼らは嘘をついている様子はない。

 とはいえ小さな少女に襲われる魔王という光景にいささか違和感しかなく、本当のことだと知ってもなお疑いの目で2人の騒がしいやり取りを見続ける。

「勇者……シャネア……なんか見覚えあるなと思ってたけどやっと思い出した、オーガキング討伐隊の時に真っ先に巣穴に走っていったバカ勇者か!」

「……えなに、シャネアお前有名な割に変な印象強いタイプなん……? プッフ…………ぁぁ、見ているか人間……これが魔王の行く末ゴファッ」

 冒険者のリーダーが手を叩き、思ったことをそのまま口に出す。本人的にはあまり触れてほしくないような言葉があったが、シャネアは澄まし顔だ。冒険者の言葉になど聞く耳すら持っていない。

 だがきょとんとした魔王が、小さく笑い始めると再び魔王(狼)の毛をむしり始める。それも一本一本丁寧にではなく、鷲掴みからの全力でのむしりを両手で連続して行われている。

 流石の魔王もそれにはかなわず【魔変化イリュージョン】を解除して人の姿へと変わるとそのまま白目を向き泡を吹いて野垂れ死ぬかのように気絶した。

 もはや慈悲なんてない少女の行い。くるりとシャネアが冒険者たちを見ると、彼らは咄嗟に頭に両手を添えた。しかしスキンヘッドの武闘家は仲間の行動を理解していない様子だった。

「安心して人の毛をむしる趣味は無いから」

「だ、だとしても恐怖しかないんだが……話を戻すが、そいつは魔王なん……だよな?」

 シャネアに敵意がないことと、なにかのきっかけで髪をむしり取られることは無いと知ると、改めてリーダーが確認を取る。

「そう。この世の魔を統べる王」

「はは……こいつが……のうのうと生きやがって……」

 先程まで怯えていたリーダーから殺気が溢れ始め、気絶している魔王の近くへと歩き剣を逆手で振りかぶる。

 我を忘れたように息が荒くその行動をしたのは、過去に魔王の手により故郷を失ったことがあるためだ。その時は人の姿でも狼の姿でもなかった為先程は気づいていなかったのである。

 あの時味わった恐怖、喪失感、怒り。全ての感情が恨み憎しみへとなり彼に力を与え、剣はグリフェノルの心臓を貫かんと突き立てる。

 ──今ならば。気絶している今ならば確実に殺れる。

 その想いをのせて持てる力を全て使い、振り下ろした。

 しかし勇者シャネアが怒りの一撃を自身の剣の胴で受け止めた。森の中に金属音が広がる。

「なに……すんだ勇者!」

「私と魔王は契約関係にある。死なれると私も死ぬ。あと困る」 

「知るか! そいつは俺の故郷を滅ぼしたんだ、死んで当然だろ! それにそんなやつと契約関係を結ぶ勇者が悪い自業自得だ! つうかちんちくりんのくせにどっからこの力出てんだよ……!」

「ちんちくりんは余計」

 怒りで声を荒らげる彼から聞きたく無い言葉を耳にすると、自分よりも大きな男を剣越しに蹴り飛ばし、切っ先を彼らに向ける。

 その行為は紛れもなく魔を庇う反逆の意味を持ち、少女の決意が強く、そして冒険者たちにとっての“敵”であることを示していた。

「一応言っておく。私すごく強いよ」
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