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一章・追放編
罪深き魔王と新魔王
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十話
日が沈み始めた頃、彼女はーー天月乃亜は夕焼けに照らされた住宅街を歩いていました。
「陸斗君見ないです……」
と呟く彼女は、後ろで束ねたポニーテールが、彼女の生まれつきの茶髪が日暮れの色で真っ赤に染まっていてとてもいんしょうぶかく、また顔立ちも整っていて、よくいる普通の女子高生感があります。
「はぁ、どこに行ったんでしょうか?」
とまた呟きつつ彼女はまだ歩きました。
ーーーー翌朝、彼女は自宅のベッドで目覚めて起き上がります。
「ふわぁぁっ……おはよ、クー」
トラ模様の猫に彼女が名前を言うとニャーンと鳴き、挨拶がてらなのか彼女の足に自分の体を擦りつけていました。
彼女はしゃがんで軽く猫の体を撫でたあと眠そうにしながらパジャマ姿から制服へと着替え、朝食や歯磨きをすませ部屋を後にします。
しかし彼女は学校に向かう気配はなく、彼女の家……いや、陸斗と同じアパートに住んでいた彼女は裏へと周り陸斗が住んでいる部屋の窓を見ていました。
しかしカーテンをかけていて外からでは決して彼の部屋が見えない状況、なのにも関わらず彼女は、
「今日もいない……本当に陸斗君どこに行ったんでしょう……」
と、その部屋に居ないことを当てたのです。
流石に居ないと知った直後、諦めからかシュンっと悲しげな顔をして学校へと向かいました。
その刹那、彼女は名前を呼ばれたような気がしてばっと後ろに振り向きます。
「……気のせいかな?」
しかし後ろには誰もいなく、そう呟いて前に進もうとした時でした。
「お前が乃亜か?」
「ひゃっ!ご、ごめんなさ……え?」
ドッと重たくされどもコンクリートのような硬さではない何かに当たり、自然と後ろによろけてしまいます。
更にとても低い声が聞こえ何にぶつかったのかと恐る恐る前を見るとそこには筋肉質で図体の大きな男が立っていました。無論その身体故に彼女がぶつかったくらいでは彼はビクともしていません。
「もう一度聞く、お前が乃亜か?」
「は、はい、乃亜ですけど……えっと、どちら様でしょうか?」
と彼女は警戒しながら聞きますが相手は答えずドシドシと乃亜に近づきます。
「お前にはこちらに来てもらおう、転移魔法!」
気づけば、もうあと一歩近づいたら接触してしまうほどの距離になり、彼女は無意識に逃げようとします、ですが肩を捕まられ逃げ場を無くされ、さらに彼は呪文のような単語を言い放っていました。
そしてその刹那彼女の意識は一瞬にして遠退きました。
ーーそれから暫くして彼女の耳にまたあの低い声が響きます。
「乃亜よ、目を覚ませ」
とても低い声で、なおかつ響き渡る声でそう言われ、何故か床で横になっている乃亜は目を覚ましました。
目を開けあたりを観ればそこは薄暗く、されども青い炎がいくつか周りにあり、それによって床や壁などを淡く照らしています。
そんな見慣れない光景に驚き彼女は飛び起き、頬を抓ることで夢でないことを身体に教えます。
「ゆ、夢じゃない……てことはここは……?」
「細かい説明はそいつがする」
誰に向けた質問でもないのにその男は答え……なく、暗がりの先に向け指を指します。
それが合図だったのか、はたまた丁度いいタイミングだったのか、その先から茶色いフード付きのローブを着込んだ人が現れました。
「お初にお目にかかります乃亜殿」
「え?あ、は、初めまして……?ってそうじゃなくて!ここはどこなんですか!?」
ローブを着込んだ人はフードのせいで顔が見えなく更にあたりが暗めのため口元も顔も見えませんが、声が少し高めで丁寧な口調だからか礼儀正しい雰囲気が感じ取れます。
「ここは魔界ファーステリアでございます」
「え?」
「もう一度言わせてもらいます、ここは魔界、ファーステリアでございます」
魔界。彼は確かにそういい、言い間違い、聞き間違いという訳でもなく、勘違いということでもなさそうで、魔界の証拠にとローブの男は乃亜に近づいてフードをとり素顔を見せます。
フードの下に隠れていた“それ”は顔が赤い鱗で覆われており頭には小さく、されども全てを貫きそうな鋭く尖った角が生えていました。どうやら彼は人ではなく神話などに出てくる龍のようですが、普通の龍ではなく、見たまんま人の姿をした龍ーーすなわち龍人でした。
それを見た乃亜はここが魔界だということ、そして目の前に居る人が龍であることに盛大に驚くことになりました。
「驚くのも無理はありません。急に連れられ魔界に来たらどなたでも驚くものでございます」
「そ、その姿にも驚いてるんですけど……そ、それはそうとなんで私をここに連れてきたんですか?用があるから急に連れてきたんでしょうけど、まずなんで魔界?」
ひとしきり驚いたところで乃亜は冷静に疑問に思っていたことを聞き出します。
「現魔王に大変困っているのでございます。そのため急遽次期魔王を決めるため調査致しましたところ、乃亜殿に魔王の素質がございました。そのため、ここ魔界にお連れさせていただきました。以上が理由になります」
「は、はぁ……」
魔王の素質ってなんだろうと思いながら返事をしていましたが、やはり気になって仕方ない様子です。
しかしその気持ちを悟ったかのように龍人は。
「魔王の素質というのは基本的に魔力、精神力、また与えられた物事をしっかりとこなすことでございます」
二つ目と三つ目のはどこでも必要なものだと思いますが、一つ目の“魔力”が乃亜にあるのかはもちろん彼女がわかるはずもありません。
「乃亜はそれらが全て揃っている。だから連れてきたのだ」
「ちょっと待ってください!私は一般人ですよ!魔力なんてあるわけないじゃないですか!偏見ですよ!!」
ガタイの良い彼はそうして乃亜を連れてきたと言いますがそれに対し、若干怒り気味で彼女は反論、しかしどうやら彼らは聞く気もない様子で、ガタイの良い彼は自身の服の中に手を入れひとつの棒を取り出しました。
服の中から取り出された棒は見たところただ長く細い棒で力を加えたらパッキリと折れてしまうのではと思うほどの棒に見えます。
「ならばこれを持て、そうしたらわかる」
「いや、服の中から出したものは触らないですよ!?普通!」
「大丈夫だ、朝風呂入っている」
「そういう問題じゃなくてですね!?」
問題ありだと思いますが、色んな疑問を抱きながらも押し付けられたため仕方なく棒を握りました。
その直後何もしていないのに棒は真ん中からポッキリと二つに綺麗に折れます。どう考えても押し付けた時に折れた様ですが。
「やはりな、乃亜は今の魔王より充分に魔力がある」
「いやいやこんな細い棒でさっき強く押し付けたら折れるでしょって、この棒は何ですか!?」
「それはそこら辺に落ちてる木の枝を細く切っただけだが?いや、これだと説明が曖昧か……魔力を込めて削ったんだ。俺より魔力がなければそんな棒折れやしないぞ。まぁ、魔力もあるみたいだから、魔王のところに行くぞ」
細い棒のことや、この場所のことなどがまだ完全に理解出来ていないのにも関わらず、トントン拍子で話が進み乃亜は手を引っ張られ奥へと進んでいきます。
向かった先は先程よりも暗く、ましてや青い炎は見えない廊下。魔力があると言われているだけの一般人の乃亜には勿論全く何も見えません。
もうこれは夢であってほしいと思っていると、ドスっと乃亜は手を引き前にいたはずの男にまたもぶつかります。
「ああ、すまんな、もう付いたぞ」
「え!もうですか!?」
歩いて二分は経ってないですが、たしかに空気が重く感じ暗闇の中なのに、そこが王の間の様な感じなのを感じ取ることができます。
「魔王様、少しよろしいでーー」
「あぁ?なんだ?」
聞こえたのは若い男の声、それ以外は龍人の声と、コツコツという硬い靴で歩いている音のみ、なのにも関わらず、とても大きな何かが居ると分かるのは流石は魔界といった所でしょうか。
「ど、どこに魔王が……?」
「見えないのか?魔力があるから見えるはずだが……まあ、時期になれる」
「だから私は一般人ですから!?魔力なんてありませんよ!?」
と彼女は大声で言いますがやはり聞く耳を持ってくれませんでした。
ただ、大声を出したことによってなのか、はたまた話しかけていた龍人に向かってなのか魔王と呼ばれる男は苛立ち、誰が聞いても気分が悪くなるような怒りの声で、
「何のようだドラン。一応言っておくが変わる気は無いからな?無理に変えようとするなら存在ごと抹消してやる」
「左様でございますか……我々は少々魔王様を見くびっていたようです」
「ふん、わかればいい」
言葉だけでかなりの気迫が感じ取れ、そこに魔王という存在がいるということを、その魔王がとてつもない力を持っているということは感じ取れます。しかしそう感じたのはこの場にいる乃亜のみ、龍人ーードランや体つきが良い男は至って普通の表情。流石に魔界慣れしてるからでしょう。
「魔王様、いえヴェルドニージェ殿。貴方を契約書第五条に基づき、秘書の権限を持って貴方を解雇致します。あ、“辞めるくないなら存在ごと抹消してやる”んでしたよね?やれるものならやって見やがれでございますよ?」
「貴様!誰に向かってーー」
「“一般魔人”でございますよね?では“一般魔人”の貴方はここに無断ではいられた“不法侵入”としても罰せなければなりません」
と以下にも笑っていないような、されども冷たく凍えてしまうかのような言葉を魔王、ヴェルドニージェにかけると、バシッという音と共に淡く燃える炎ですら凍ってしまうような冷たい氷が一面に張り巡らされます。
流石にその状況に危険だと感じたガタイの良い男は自身の耳を塞ぎ、乃亜にも急いで耳を塞げと言いました。
その男の声は慌てた声色に聞え、乃亜も急いで耳を塞ぐと不思議なことに周りの音は聴こえず、氷の寒さも全く感じることが無くなり、何が起きているのかはまだ暗闇しか見えていない乃亜にとってわかることはありませんでした。
『ドラグニル・エンヴァルティの名の元に裁きの鉄槌を使用す、罪深き汝に恐怖を、絶望を、死を与えんーー〈罪の贈物〉』
耳を塞ぐ彼らには届くことの無い声量、されども上にいる魔王、ヴェルドニージェには届く声量でそう唱えますが、先程聴いていた龍人の少し高めの声とは裏腹な渋く低い声。更には殺気紛いの気迫も放っていて、先程の威勢はどこへ行ったのか、耳を塞がなかったヴェルドニージェはまるで石になったかのようにピクリとも動くことができませんでした。
いや、正確にはドランが放った気迫だけで恐怖を、絶望を、死を体験し、間もなく死に至ったのです。
無論その場に“亡骸”を放置しておく訳には行かないため、ドランは自前の転移魔法でササッと片付けてしまいました。
「あ、あれ?魔王って人は?」
まだ見えないものの、とても大きな何かがいなくなったというのは感じ取り、それが魔王であることもすぐに悟りその言葉を問いかけます。
「お前の所では……知らぬが鳥だ」
「し、知らぬが鳥……?」
「コホン、知らぬが仏ですよ。さて取り乱してしまい誠に申し訳ありません。乃亜殿が来てくださったおかげで心置き無く罪深き魔王を解雇することが出来ました」
「大変なんですねって魔王は罪深きものなんじゃ……」
ドランは最初の丁寧な口調へと戻りペコリと謝罪をしていました。
その後罪深きという言葉に引っ掛かりを感じ彼女は魔王は罪深き者なのではという疑問を問いかけます。
すると直ぐに返事が返ってきました。
「それは昔の話でございます。今は平和主義なのですよ、ここ魔界ファーステリアは。先程の魔王はそれを知りつつ魔人を躊躇無く殺めたり、無力な人を奴隷としたり、無罪の者を牢獄に入れたり、理不尽な法を勝手に取り入れようとするのです。故に魔界に攻撃をする人も増えているのです」
「乃亜よ、そこで頼みがある。我が魔界の王となりこの地の者を護ってくれ」
「え……でも……」
少し躊躇っていましたが頭を下げられまたお願いされると力になろうと決心し魔王を短期ながらもやることにしました。
「わかりました、でも何をしたらいいんですか?」
と乃亜が聞くと、龍人のドランはこう言いました。
「それについてはスクルドが話をしま……そう言えばまだ自己紹介していませんね。皆はドランとお呼びですが、私めはドラグニル・エンヴァルティと申します。ここで、魔王様の秘書、司祭を務めております。以後お見知りおきを」
「俺はスクルド、スクルド・ハウンドだ。ここで剣豪、情報屋をしている」
自己紹介が終わりガタイのいい男ーースクルドは、“改めて”という意味なのかまたも頭を下げました。
「ーーそれで、何をしたらいいかだよな。まずは王都に行き、その街や人の様子をみてくる。それが最初にやることだ、わかったか?」
「わかりましたけど……王都と言ってもどこに行ったら?」
「それはーー」
そうして時は進み、王都、イデロード王都の収穫祭真っ最中の夜に警報が鳴り響いたのです。
日が沈み始めた頃、彼女はーー天月乃亜は夕焼けに照らされた住宅街を歩いていました。
「陸斗君見ないです……」
と呟く彼女は、後ろで束ねたポニーテールが、彼女の生まれつきの茶髪が日暮れの色で真っ赤に染まっていてとてもいんしょうぶかく、また顔立ちも整っていて、よくいる普通の女子高生感があります。
「はぁ、どこに行ったんでしょうか?」
とまた呟きつつ彼女はまだ歩きました。
ーーーー翌朝、彼女は自宅のベッドで目覚めて起き上がります。
「ふわぁぁっ……おはよ、クー」
トラ模様の猫に彼女が名前を言うとニャーンと鳴き、挨拶がてらなのか彼女の足に自分の体を擦りつけていました。
彼女はしゃがんで軽く猫の体を撫でたあと眠そうにしながらパジャマ姿から制服へと着替え、朝食や歯磨きをすませ部屋を後にします。
しかし彼女は学校に向かう気配はなく、彼女の家……いや、陸斗と同じアパートに住んでいた彼女は裏へと周り陸斗が住んでいる部屋の窓を見ていました。
しかしカーテンをかけていて外からでは決して彼の部屋が見えない状況、なのにも関わらず彼女は、
「今日もいない……本当に陸斗君どこに行ったんでしょう……」
と、その部屋に居ないことを当てたのです。
流石に居ないと知った直後、諦めからかシュンっと悲しげな顔をして学校へと向かいました。
その刹那、彼女は名前を呼ばれたような気がしてばっと後ろに振り向きます。
「……気のせいかな?」
しかし後ろには誰もいなく、そう呟いて前に進もうとした時でした。
「お前が乃亜か?」
「ひゃっ!ご、ごめんなさ……え?」
ドッと重たくされどもコンクリートのような硬さではない何かに当たり、自然と後ろによろけてしまいます。
更にとても低い声が聞こえ何にぶつかったのかと恐る恐る前を見るとそこには筋肉質で図体の大きな男が立っていました。無論その身体故に彼女がぶつかったくらいでは彼はビクともしていません。
「もう一度聞く、お前が乃亜か?」
「は、はい、乃亜ですけど……えっと、どちら様でしょうか?」
と彼女は警戒しながら聞きますが相手は答えずドシドシと乃亜に近づきます。
「お前にはこちらに来てもらおう、転移魔法!」
気づけば、もうあと一歩近づいたら接触してしまうほどの距離になり、彼女は無意識に逃げようとします、ですが肩を捕まられ逃げ場を無くされ、さらに彼は呪文のような単語を言い放っていました。
そしてその刹那彼女の意識は一瞬にして遠退きました。
ーーそれから暫くして彼女の耳にまたあの低い声が響きます。
「乃亜よ、目を覚ませ」
とても低い声で、なおかつ響き渡る声でそう言われ、何故か床で横になっている乃亜は目を覚ましました。
目を開けあたりを観ればそこは薄暗く、されども青い炎がいくつか周りにあり、それによって床や壁などを淡く照らしています。
そんな見慣れない光景に驚き彼女は飛び起き、頬を抓ることで夢でないことを身体に教えます。
「ゆ、夢じゃない……てことはここは……?」
「細かい説明はそいつがする」
誰に向けた質問でもないのにその男は答え……なく、暗がりの先に向け指を指します。
それが合図だったのか、はたまた丁度いいタイミングだったのか、その先から茶色いフード付きのローブを着込んだ人が現れました。
「お初にお目にかかります乃亜殿」
「え?あ、は、初めまして……?ってそうじゃなくて!ここはどこなんですか!?」
ローブを着込んだ人はフードのせいで顔が見えなく更にあたりが暗めのため口元も顔も見えませんが、声が少し高めで丁寧な口調だからか礼儀正しい雰囲気が感じ取れます。
「ここは魔界ファーステリアでございます」
「え?」
「もう一度言わせてもらいます、ここは魔界、ファーステリアでございます」
魔界。彼は確かにそういい、言い間違い、聞き間違いという訳でもなく、勘違いということでもなさそうで、魔界の証拠にとローブの男は乃亜に近づいてフードをとり素顔を見せます。
フードの下に隠れていた“それ”は顔が赤い鱗で覆われており頭には小さく、されども全てを貫きそうな鋭く尖った角が生えていました。どうやら彼は人ではなく神話などに出てくる龍のようですが、普通の龍ではなく、見たまんま人の姿をした龍ーーすなわち龍人でした。
それを見た乃亜はここが魔界だということ、そして目の前に居る人が龍であることに盛大に驚くことになりました。
「驚くのも無理はありません。急に連れられ魔界に来たらどなたでも驚くものでございます」
「そ、その姿にも驚いてるんですけど……そ、それはそうとなんで私をここに連れてきたんですか?用があるから急に連れてきたんでしょうけど、まずなんで魔界?」
ひとしきり驚いたところで乃亜は冷静に疑問に思っていたことを聞き出します。
「現魔王に大変困っているのでございます。そのため急遽次期魔王を決めるため調査致しましたところ、乃亜殿に魔王の素質がございました。そのため、ここ魔界にお連れさせていただきました。以上が理由になります」
「は、はぁ……」
魔王の素質ってなんだろうと思いながら返事をしていましたが、やはり気になって仕方ない様子です。
しかしその気持ちを悟ったかのように龍人は。
「魔王の素質というのは基本的に魔力、精神力、また与えられた物事をしっかりとこなすことでございます」
二つ目と三つ目のはどこでも必要なものだと思いますが、一つ目の“魔力”が乃亜にあるのかはもちろん彼女がわかるはずもありません。
「乃亜はそれらが全て揃っている。だから連れてきたのだ」
「ちょっと待ってください!私は一般人ですよ!魔力なんてあるわけないじゃないですか!偏見ですよ!!」
ガタイの良い彼はそうして乃亜を連れてきたと言いますがそれに対し、若干怒り気味で彼女は反論、しかしどうやら彼らは聞く気もない様子で、ガタイの良い彼は自身の服の中に手を入れひとつの棒を取り出しました。
服の中から取り出された棒は見たところただ長く細い棒で力を加えたらパッキリと折れてしまうのではと思うほどの棒に見えます。
「ならばこれを持て、そうしたらわかる」
「いや、服の中から出したものは触らないですよ!?普通!」
「大丈夫だ、朝風呂入っている」
「そういう問題じゃなくてですね!?」
問題ありだと思いますが、色んな疑問を抱きながらも押し付けられたため仕方なく棒を握りました。
その直後何もしていないのに棒は真ん中からポッキリと二つに綺麗に折れます。どう考えても押し付けた時に折れた様ですが。
「やはりな、乃亜は今の魔王より充分に魔力がある」
「いやいやこんな細い棒でさっき強く押し付けたら折れるでしょって、この棒は何ですか!?」
「それはそこら辺に落ちてる木の枝を細く切っただけだが?いや、これだと説明が曖昧か……魔力を込めて削ったんだ。俺より魔力がなければそんな棒折れやしないぞ。まぁ、魔力もあるみたいだから、魔王のところに行くぞ」
細い棒のことや、この場所のことなどがまだ完全に理解出来ていないのにも関わらず、トントン拍子で話が進み乃亜は手を引っ張られ奥へと進んでいきます。
向かった先は先程よりも暗く、ましてや青い炎は見えない廊下。魔力があると言われているだけの一般人の乃亜には勿論全く何も見えません。
もうこれは夢であってほしいと思っていると、ドスっと乃亜は手を引き前にいたはずの男にまたもぶつかります。
「ああ、すまんな、もう付いたぞ」
「え!もうですか!?」
歩いて二分は経ってないですが、たしかに空気が重く感じ暗闇の中なのに、そこが王の間の様な感じなのを感じ取ることができます。
「魔王様、少しよろしいでーー」
「あぁ?なんだ?」
聞こえたのは若い男の声、それ以外は龍人の声と、コツコツという硬い靴で歩いている音のみ、なのにも関わらず、とても大きな何かが居ると分かるのは流石は魔界といった所でしょうか。
「ど、どこに魔王が……?」
「見えないのか?魔力があるから見えるはずだが……まあ、時期になれる」
「だから私は一般人ですから!?魔力なんてありませんよ!?」
と彼女は大声で言いますがやはり聞く耳を持ってくれませんでした。
ただ、大声を出したことによってなのか、はたまた話しかけていた龍人に向かってなのか魔王と呼ばれる男は苛立ち、誰が聞いても気分が悪くなるような怒りの声で、
「何のようだドラン。一応言っておくが変わる気は無いからな?無理に変えようとするなら存在ごと抹消してやる」
「左様でございますか……我々は少々魔王様を見くびっていたようです」
「ふん、わかればいい」
言葉だけでかなりの気迫が感じ取れ、そこに魔王という存在がいるということを、その魔王がとてつもない力を持っているということは感じ取れます。しかしそう感じたのはこの場にいる乃亜のみ、龍人ーードランや体つきが良い男は至って普通の表情。流石に魔界慣れしてるからでしょう。
「魔王様、いえヴェルドニージェ殿。貴方を契約書第五条に基づき、秘書の権限を持って貴方を解雇致します。あ、“辞めるくないなら存在ごと抹消してやる”んでしたよね?やれるものならやって見やがれでございますよ?」
「貴様!誰に向かってーー」
「“一般魔人”でございますよね?では“一般魔人”の貴方はここに無断ではいられた“不法侵入”としても罰せなければなりません」
と以下にも笑っていないような、されども冷たく凍えてしまうかのような言葉を魔王、ヴェルドニージェにかけると、バシッという音と共に淡く燃える炎ですら凍ってしまうような冷たい氷が一面に張り巡らされます。
流石にその状況に危険だと感じたガタイの良い男は自身の耳を塞ぎ、乃亜にも急いで耳を塞げと言いました。
その男の声は慌てた声色に聞え、乃亜も急いで耳を塞ぐと不思議なことに周りの音は聴こえず、氷の寒さも全く感じることが無くなり、何が起きているのかはまだ暗闇しか見えていない乃亜にとってわかることはありませんでした。
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いや、正確にはドランが放った気迫だけで恐怖を、絶望を、死を体験し、間もなく死に至ったのです。
無論その場に“亡骸”を放置しておく訳には行かないため、ドランは自前の転移魔法でササッと片付けてしまいました。
「あ、あれ?魔王って人は?」
まだ見えないものの、とても大きな何かがいなくなったというのは感じ取り、それが魔王であることもすぐに悟りその言葉を問いかけます。
「お前の所では……知らぬが鳥だ」
「し、知らぬが鳥……?」
「コホン、知らぬが仏ですよ。さて取り乱してしまい誠に申し訳ありません。乃亜殿が来てくださったおかげで心置き無く罪深き魔王を解雇することが出来ました」
「大変なんですねって魔王は罪深きものなんじゃ……」
ドランは最初の丁寧な口調へと戻りペコリと謝罪をしていました。
その後罪深きという言葉に引っ掛かりを感じ彼女は魔王は罪深き者なのではという疑問を問いかけます。
すると直ぐに返事が返ってきました。
「それは昔の話でございます。今は平和主義なのですよ、ここ魔界ファーステリアは。先程の魔王はそれを知りつつ魔人を躊躇無く殺めたり、無力な人を奴隷としたり、無罪の者を牢獄に入れたり、理不尽な法を勝手に取り入れようとするのです。故に魔界に攻撃をする人も増えているのです」
「乃亜よ、そこで頼みがある。我が魔界の王となりこの地の者を護ってくれ」
「え……でも……」
少し躊躇っていましたが頭を下げられまたお願いされると力になろうと決心し魔王を短期ながらもやることにしました。
「わかりました、でも何をしたらいいんですか?」
と乃亜が聞くと、龍人のドランはこう言いました。
「それについてはスクルドが話をしま……そう言えばまだ自己紹介していませんね。皆はドランとお呼びですが、私めはドラグニル・エンヴァルティと申します。ここで、魔王様の秘書、司祭を務めております。以後お見知りおきを」
「俺はスクルド、スクルド・ハウンドだ。ここで剣豪、情報屋をしている」
自己紹介が終わりガタイのいい男ーースクルドは、“改めて”という意味なのかまたも頭を下げました。
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