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第三話 臥龍
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広秀と惺窩の出会いから凡そ一年後、凶報を告げる早馬が龍野に駆け付けたのは景雲寺に菖蒲の花が薫る梅雨の頃だった。播磨細川(兵庫県三木市)にある惺窩の実家 下冷泉家が播磨三木城の軍に夜襲を受け、惺窩の父と兄が共に斬首されたと従者は声を詰まらせる。
下冷泉家は歌に秀でた京の名家であったが応仁の乱に始まる治安の悪化から京を逃れ播磨に居を構えていた。朝廷を担ぐ織田信長に与した下冷泉家を毛利輝元に与した三木城の軍が攻め滅ぼしたのだった。
凶報を受け惺窩の顔は硬直するが次の刹那振り向きざまに言い放った。
「広秀!お前には関係ない!下らんことは考えるんやない!」
広秀は獅子王の太刀を手に雨に打たれる菖蒲の庭を見つめたまま惺窩を顧みようとはしない。
二十を過ぎたばかりの若き三木城主 別所長治もまた狂った時代に翻弄された悲運の武将と言える。新興勢力の侵略を良しとしない古参の好戦的な家臣団をその強過ぎる責任感故に御しきれず、破滅の路と知りながら成す術なく突き進んで行く。
程なく三木城は羽柴軍による臥龍の如き幾重の包囲を受け、その龍尾に赤松広秀は名を連ねていた。
「阿保が!」
その報せをひとり龍野の景雲寺で聞く惺窩は吐き捨てた。
「お前だけは戦をしたらあかんやろが!」
羽柴軍に囲まれた三木城は二年にも及ぶ籠城に耐えるも遂に陥落し三木の干殺しと語る声を震えさせた。開城後の城内は凄惨を極め、牛馬は言うに及ばず蛇や鼠、庭木の根に至るまで口にできるもの全てが喰い尽くされていた。秀吉は細やかな酒宴を送り敵兵を労うと若き三木城主 別所長治は自ら妻子を刺し殺し、その返す刃で己の肚を貫き惨劇に幕を降ろした。
今はただ 恨みもあらじ 諸人の
命にかはる 我身と思へば
この戦を境に広秀は己の理想と苛烈な現実の狭間で身を焼くようになり、僧籍を京の相国寺に移した惺窩とも次第にすれ違っていく。
下冷泉家は歌に秀でた京の名家であったが応仁の乱に始まる治安の悪化から京を逃れ播磨に居を構えていた。朝廷を担ぐ織田信長に与した下冷泉家を毛利輝元に与した三木城の軍が攻め滅ぼしたのだった。
凶報を受け惺窩の顔は硬直するが次の刹那振り向きざまに言い放った。
「広秀!お前には関係ない!下らんことは考えるんやない!」
広秀は獅子王の太刀を手に雨に打たれる菖蒲の庭を見つめたまま惺窩を顧みようとはしない。
二十を過ぎたばかりの若き三木城主 別所長治もまた狂った時代に翻弄された悲運の武将と言える。新興勢力の侵略を良しとしない古参の好戦的な家臣団をその強過ぎる責任感故に御しきれず、破滅の路と知りながら成す術なく突き進んで行く。
程なく三木城は羽柴軍による臥龍の如き幾重の包囲を受け、その龍尾に赤松広秀は名を連ねていた。
「阿保が!」
その報せをひとり龍野の景雲寺で聞く惺窩は吐き捨てた。
「お前だけは戦をしたらあかんやろが!」
羽柴軍に囲まれた三木城は二年にも及ぶ籠城に耐えるも遂に陥落し三木の干殺しと語る声を震えさせた。開城後の城内は凄惨を極め、牛馬は言うに及ばず蛇や鼠、庭木の根に至るまで口にできるもの全てが喰い尽くされていた。秀吉は細やかな酒宴を送り敵兵を労うと若き三木城主 別所長治は自ら妻子を刺し殺し、その返す刃で己の肚を貫き惨劇に幕を降ろした。
今はただ 恨みもあらじ 諸人の
命にかはる 我身と思へば
この戦を境に広秀は己の理想と苛烈な現実の狭間で身を焼くようになり、僧籍を京の相国寺に移した惺窩とも次第にすれ違っていく。
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