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52.リセット⑨(瑠衣視点)
「それ、脅しですか?」
睨みつけるように見据えると、倉木さんはあからさまに焦った表情になる。
「いや、気を遣っただけだよ。せっかく誰も瑠衣のことを知らない土地に引っ越したのに、大丈夫なのかな、と思って」
まるで俺のためだと言わんばかりの態度。
あきらかに含みを持たせた言い方をしてるくせに、気を遣ってるとか、ホント笑える。
「あなたこそ大丈夫なんですか、こんなところに来ていて。そもそも父や姉はこのこと知ってるんですか? どうやって俺の居場所を知ったのか知りませんけど、こんなところまで押しかけてくること自体、迷惑行為になってることわかりません?」
まさか俺が強気に出ると思っていなかったらしい倉木さんは、表情を一変させた。
「そんなこと言うなんて、瑠衣は変わっちゃたんだな……。俺と一緒にいる時は、いつもあんなに素直で可愛い反応を見せてくれたのに」
悲し気に眉を寄せ、俺の情に訴えかけているように見せかけて、俺たちが過去どういう関係だったのかギリギリのラインで匂わせるやり方。卑怯っていうか、狡いっていうか。
まともに相手にするのも馬鹿馬鹿しいけど、俺がいつまでも従順なままだと思われてちゃ困る。
「何も知らない子供を弄んで、自分にとって都合が悪くなったらあっさり切り捨てたくせに、こんな風に何もなかったような顔でこそこそ会いにくるなんて、倉木さんこそ変わっちゃったんじゃないですか? それとも俺が騙されていただけで、元々卑怯な人だったってことでしょうか」
「なっ……」
俺の嫌味交じりの反撃に、今度は絶句している。
この程度の挑発であっさり顔色を変えるような単純な人だったなんて。
俺の見る目がなさすぎたことがわかって笑えてくる。
「で? お望みなら俺のほうから話しましょうか? アナタが俺に教えてくれたのは、勉強だけじゃないってこと」
「……そんな真似をしたら困るのはそっちもだろ」
「俺の場合は大人に騙されたって言い訳できるんで、べつに。暴露されて社会的制裁を受けるのはそっちだけでしょ。いくら好意を向けられたからといっても、相手は中学生ですよ? まともな大人なら、適切な距離で接するのが当たり前で、思わせぶりな態度で手を出そうとするのは犯罪です」
ここまで言えば、どちらが不利かわかるだろう。
倉木さんの表情が醜く歪む。
人となりって、顔に出るっていうけど、それってホントなんだなって実感する。
恋愛フィルターがなくなったのもあるのかもしれないけど、今の倉木さんを見て、『洗練された大人の余裕を持つ素敵な人』だとは微塵も思えない。
(なんか、こんな人に煩わされる時間すらもったいな)
そんな風に感じた俺は、さっさとこの場を切り上げることに決めた。
「もう一度聞きますね。俺にお話ってなんでしょう? 今このタイミングでないと聞くのは難しいので、用件だけお願いします」
ホントは聞きたくもないけど、これ以上グダグダ言われるのも嫌だし、付きまとわれるのはもっと困る。
じっと見据えていると、倉木さんは俺が折れるつもりがないことを悟ったのか、観念したように話し出した。
「……最近、社長や雅さんに、瑠衣が家を出たきり帰って来ようとしないのは、俺が原因だと疑われている気がするんだ」
その瞬間。ああ、やっぱりなと妙に納得した。
姉から連絡がきた時に、探りを入れられているような気がしたのは、気の所為なんかじゃなかったってことか。
「だから、年末に帰って来た時に、ちゃんと説明してほしい。瑠衣だってそんな風に思われたら困るだろ?」
もう腹を括っている以上、困るということはないけど、話すタイミングは自分で決めたい。
それまでこの人に余計な真似をされるのは困る。
「……何を説明しろと?」
「瑠衣が家に帰らないのは、学校でのいじめが原因だから、地元に帰って来るのは気が進まないだけだと。それから瑠衣は、俺を慕ってくれていたから、俺と家族になることを歓迎してて、結婚式にはちゃんと出席するつもりだと言ってくれ」
自分の保身のために、都合の良い説明をしてほしいとか、身勝手にも程がある。
呆れて物が言えずにいる俺を見て、倉木さんは何を勘違いしたのか、とんでもないことを言い出した。
「そうだ! 雅さんは結婚後もしばらくは海外で暮らしたいと言っていたし、瑠衣が望むなら、また関係を続けたっていい。俺が本当に好きなのは瑠衣だけだ。瑠衣だって同じ気持ちだろ? だからこの先俺と一緒にいるためにも協力してくれるよな?」
(この状況で、俺がまだ自分のことを好きなままだと思えるなんて……)
呆れを通り越して恐怖を感じていると、ずっと俺たちのやりとりを黙って見守っていた高崎が口を開いた。
「瑠衣は今、俺と付き合ってるんです。勝手なこと言わないでもらえますか」
高崎が倉木さんに見せつけるように俺の手を握る。
高崎のことなんて迷惑だとしか思ってなかったし、この話を聞かれて嫌われたり引かれたりしても構わないって思ってたのに。
この温もりに妙に安心してしまっている自分にビックリだ。
高崎を見上げると、その目は心配そうに俺を見つめている。
俺は大丈夫だという意味を込めて微笑んだ。
再び倉木さんのほうに視線を戻すと、倉木さんは信じられないとばかりに目を見開いて、繋いだままの俺たちの手を凝視している。
「俺はもうアナタのことなんて好きじゃないですし、俺が家に戻らないのは俺の問題なんで、ご心配いただかなくとも大丈夫です。話がそれだけなら失礼します」
その言葉と同時に、高崎と手を繋いだまま歩き出す。
そして、すれ違いざまに。
「あ、そうだ。もう二度と父の許可なしに俺の前に現れないでくださいね。もちろん連絡もお断りですので」
それだけ告げると、振り返ることなく歩みを続けた。
睨みつけるように見据えると、倉木さんはあからさまに焦った表情になる。
「いや、気を遣っただけだよ。せっかく誰も瑠衣のことを知らない土地に引っ越したのに、大丈夫なのかな、と思って」
まるで俺のためだと言わんばかりの態度。
あきらかに含みを持たせた言い方をしてるくせに、気を遣ってるとか、ホント笑える。
「あなたこそ大丈夫なんですか、こんなところに来ていて。そもそも父や姉はこのこと知ってるんですか? どうやって俺の居場所を知ったのか知りませんけど、こんなところまで押しかけてくること自体、迷惑行為になってることわかりません?」
まさか俺が強気に出ると思っていなかったらしい倉木さんは、表情を一変させた。
「そんなこと言うなんて、瑠衣は変わっちゃたんだな……。俺と一緒にいる時は、いつもあんなに素直で可愛い反応を見せてくれたのに」
悲し気に眉を寄せ、俺の情に訴えかけているように見せかけて、俺たちが過去どういう関係だったのかギリギリのラインで匂わせるやり方。卑怯っていうか、狡いっていうか。
まともに相手にするのも馬鹿馬鹿しいけど、俺がいつまでも従順なままだと思われてちゃ困る。
「何も知らない子供を弄んで、自分にとって都合が悪くなったらあっさり切り捨てたくせに、こんな風に何もなかったような顔でこそこそ会いにくるなんて、倉木さんこそ変わっちゃったんじゃないですか? それとも俺が騙されていただけで、元々卑怯な人だったってことでしょうか」
「なっ……」
俺の嫌味交じりの反撃に、今度は絶句している。
この程度の挑発であっさり顔色を変えるような単純な人だったなんて。
俺の見る目がなさすぎたことがわかって笑えてくる。
「で? お望みなら俺のほうから話しましょうか? アナタが俺に教えてくれたのは、勉強だけじゃないってこと」
「……そんな真似をしたら困るのはそっちもだろ」
「俺の場合は大人に騙されたって言い訳できるんで、べつに。暴露されて社会的制裁を受けるのはそっちだけでしょ。いくら好意を向けられたからといっても、相手は中学生ですよ? まともな大人なら、適切な距離で接するのが当たり前で、思わせぶりな態度で手を出そうとするのは犯罪です」
ここまで言えば、どちらが不利かわかるだろう。
倉木さんの表情が醜く歪む。
人となりって、顔に出るっていうけど、それってホントなんだなって実感する。
恋愛フィルターがなくなったのもあるのかもしれないけど、今の倉木さんを見て、『洗練された大人の余裕を持つ素敵な人』だとは微塵も思えない。
(なんか、こんな人に煩わされる時間すらもったいな)
そんな風に感じた俺は、さっさとこの場を切り上げることに決めた。
「もう一度聞きますね。俺にお話ってなんでしょう? 今このタイミングでないと聞くのは難しいので、用件だけお願いします」
ホントは聞きたくもないけど、これ以上グダグダ言われるのも嫌だし、付きまとわれるのはもっと困る。
じっと見据えていると、倉木さんは俺が折れるつもりがないことを悟ったのか、観念したように話し出した。
「……最近、社長や雅さんに、瑠衣が家を出たきり帰って来ようとしないのは、俺が原因だと疑われている気がするんだ」
その瞬間。ああ、やっぱりなと妙に納得した。
姉から連絡がきた時に、探りを入れられているような気がしたのは、気の所為なんかじゃなかったってことか。
「だから、年末に帰って来た時に、ちゃんと説明してほしい。瑠衣だってそんな風に思われたら困るだろ?」
もう腹を括っている以上、困るということはないけど、話すタイミングは自分で決めたい。
それまでこの人に余計な真似をされるのは困る。
「……何を説明しろと?」
「瑠衣が家に帰らないのは、学校でのいじめが原因だから、地元に帰って来るのは気が進まないだけだと。それから瑠衣は、俺を慕ってくれていたから、俺と家族になることを歓迎してて、結婚式にはちゃんと出席するつもりだと言ってくれ」
自分の保身のために、都合の良い説明をしてほしいとか、身勝手にも程がある。
呆れて物が言えずにいる俺を見て、倉木さんは何を勘違いしたのか、とんでもないことを言い出した。
「そうだ! 雅さんは結婚後もしばらくは海外で暮らしたいと言っていたし、瑠衣が望むなら、また関係を続けたっていい。俺が本当に好きなのは瑠衣だけだ。瑠衣だって同じ気持ちだろ? だからこの先俺と一緒にいるためにも協力してくれるよな?」
(この状況で、俺がまだ自分のことを好きなままだと思えるなんて……)
呆れを通り越して恐怖を感じていると、ずっと俺たちのやりとりを黙って見守っていた高崎が口を開いた。
「瑠衣は今、俺と付き合ってるんです。勝手なこと言わないでもらえますか」
高崎が倉木さんに見せつけるように俺の手を握る。
高崎のことなんて迷惑だとしか思ってなかったし、この話を聞かれて嫌われたり引かれたりしても構わないって思ってたのに。
この温もりに妙に安心してしまっている自分にビックリだ。
高崎を見上げると、その目は心配そうに俺を見つめている。
俺は大丈夫だという意味を込めて微笑んだ。
再び倉木さんのほうに視線を戻すと、倉木さんは信じられないとばかりに目を見開いて、繋いだままの俺たちの手を凝視している。
「俺はもうアナタのことなんて好きじゃないですし、俺が家に戻らないのは俺の問題なんで、ご心配いただかなくとも大丈夫です。話がそれだけなら失礼します」
その言葉と同時に、高崎と手を繋いだまま歩き出す。
そして、すれ違いざまに。
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それだけ告げると、振り返ることなく歩みを続けた。
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