告白ごっこ

みなみ ゆうき

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9.茶番⑤

海の見える公園でキスをするというパフォーマンスから一週間。


高崎の攻略マニュアルは次の段階に入ったらしく、以前よりも格段に俺との距離が近くなっている。

それまでも休み時間ごとにわざわざ俺の席にきては何くれとなく話をしていた高崎だが、その時間が昼休みにまで拡大し、更には髪に触れる、手を握るなんていうボディータッチまでしてくるようになったのだ。

ちなみに心の距離が少しも縮まっていない俺は、四六時中一緒にいられると、ひとりになる時間が無さすぎて正直気詰まりで仕方ない。


「今日は教室じゃなくて違うところで食べようぜ」


今日もまた昼休みを一緒に過ごすことになり、うんざりした気持ちで席を立つ。

連れて行かれたのは校舎の屋上。
まだ暑さの残る季節のせいか、ここを利用している生徒は見当たらなかった。


日陰になっている場所に隣り合って座り、高崎の話に相槌をうちながら学校に来る途中で立ち寄ったコンビニで買ったパンを食べ始める。

少し前までは強い日差しで焼かれたコンクリートのせいでとてもじゃないが人が立ち入れる場所ではなかったそこは、最近急速に深まり始めた秋の気配のおかげもあり、そこそこ快適に過ごせる環境に変わっていた。


「瑠衣っていっつも買ったもの食べてるよな。飽きない?」


おそらくお母さんの手作りだと思われる弁当を食べている高崎にそう聞かれ、俺は少し返答に困った。

俺は訳あって独り暮らしをしている。一応料理は出来るし、夕食は自分で作ったものを食べているが、朝はギリギリまで寝てたいタイプなので、早起きしてまで弁当を作ろうという気概はない。ちなみに朝食は夜の残りを適当に食べて来ている。


「……お昼だけだから飽きたりしないけど」

「量も少ないし。そんなんでお腹空かない?」

「……俺は昴流と違ってあんまり動いたりしないから特には」

「確かに瑠衣って動いてないかも。体育してるの見る限り運動神経は悪くなさそうなんだけどなぁ。たまには体育以外で運動したほうがいいんじゃない? 今度一緒にバスケでもする? 人数集めて3on3とか」


絶対やだ。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いじゃないけど、俺の事をターゲットに選んでくれたバスケ部には腹を立てているし、そいつらがやってるってだけでバスケ自体嫌いになりそうな勢いだから、とてもじゃないがやりたいなんて思えない。


「……バスケ部に混じってやれるほど、運動神経も体力もないから遠慮しとく」

「そっか。よく考えたらせっかくの瑠衣との二人の時間なのに、わざわざ他のヤツを呼ぶ必要ないもんな」


高崎は時々不意討ちのように思わせ振りな甘い言葉を吐いてくる。
そしてその後必ず、まるで気安い間柄かのように俺の身体に触れてくるのだ。


「瑠衣の髪、サラサラしてる」


ほらね。

予想どおりの行動に苦笑いしてしまう。


「何? 微妙な表情してるけど」


おっと、いけない、いけない。うっかり素が出ちゃってた。
ここはもうちょい嬉し恥ずかしそうなリアクションをするとこだった。


「……いや、最近昴流がやけに触れてくるから、どうしたのかなと思って戸惑ってただけ」

「瑠衣に触れたいから、じゃダメ?」

「……べつにいいけど」


減るもんじゃないし。心の中でこっそり呟いておく。

いつの間にか弁当を食べ終わってたらしい高崎は、俺の返事を聞いてオッケーが出たと思ったらしく、遠慮なく俺の髪を指で弄び始めた。そしてその指で耳を優しくなぞり、頬を伝って唇に触れた。


「瑠衣ってどこもすべすべで触り心地いいよな」

「……そうかな?」

「そうだよ。ずっと触っていたくなる」


プニプニと指先で唇を押した後、その指先を顎から首筋へと滑らせる。


なんか雲行きがあやしい感じになってる気が……。

まるで愛撫をしているかのような動きに、さすがにちょっと身の危険を感じた俺は思わず身体を引いてしまった。

ところが。

逃がさないとばかりに背中に手を回され引き寄せられたと思ったら、唇が塞がれる。

舌先でチロリと唇を舐められ、驚きのあまり薄く開いたところに高崎の舌が遠慮なく潜り込んできた。

俺は高崎の胸を弱々しく手で押し返すという形ばかりの抵抗をしながら、本格的にヤバくなった時のために次のアクションに備える。

コイツに俺が抱けるとは思えないが、女なら誰でも抱ける自信があると豪語する恥知らずなだけに、万が一ってことがないとも限らない。


──たぶん決着の日は近い。

そんな予感にうんざりしながら、早くこのキスが終わらないかな、とボンヤリ思った。
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