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16.終わりの日③
完全に沈黙した連中に無言の一瞥をくれて、俺は窓を閉め静かにこの場を立ち去った。
さっきまでうるさいほどに喚き散らしていた中田は、部活動停止という言葉で漸く事態の不味さと、自分の不利を理解したのか、最終的には顔色を悪くしたまま立ち尽くしていた。
ああいった輩は集団でいると強気になって増長しがちだが、その反面、集団から外れてしまうことを過剰なほどに恐れる傾向がある。
自分達の行動が原因で、部活全体が連帯責任を取らされる可能性があるとなれば、これ以上馬鹿な真似はしないだろう。
約一ヶ月にも渡る不自由な生活から解放され、俺はやっと平穏な日常を取り戻した。
でもさすがに晴々したという気分にはなれず、どこか重苦しい気持ちを抱えながら特別棟から教室へと移動する。
達成感というよりは脱力感。
後悔はないけれど、この結果を満足だとも思えなくて、それでいてなんか物凄く気が抜けた感じ。
なんとも奇妙な感覚だった。
ただひとつだけ良かったと思えることは、アイツら、というより高崎のおかげで、一ヶ月前に味わった今までの人生において確実に上位に来るだろうと思われるほどの、辛くて切なくて思い出しただけで泣きたくなって、どうしようもなく苛立つのにやるせないっていう気持ちが、いくらか薄まったことことくらいだろう。
失恋の痛みを和らげるのは新しい恋だと聞いたことがあったけど、怒りの感情もなかなかのものだったと言わざるを得ない。
──あの人を思うとまだ胸は痛む。
だけどそれは少しずつ過去のものになっていて。
あんなに拘ってしがみついていた恋心が、こんな形で淘汰されていく日がくるなんて思いもしなかった。
渡り廊下を歩きながら、すっかり高くなっている秋の空をぼんやりと眺める。
澄みきった青空があまりに綺麗で、それが妙に眩しく感じられた俺は軽く目を眇め、その場に立ち止まった。
その時。
「瑠衣ッ!」
ここ一ヶ月ほどですっかり聞きなれた声が俺の名前を呼んだ。
思わず胡乱な目でそちらの方を見てしまう。
さっきの今で俺に話しかけてくるとか、あり得ないし。
そもそも俺のほうはもうコイツに用はない。
無視して歩き出すと、何故か右の手首を掴まれもう一度名前を呼ばれた。
「瑠衣」
舌打ちしたくなるのをグッと堪えて振り向くと、頭半分ほど上にある高崎と視線を合わせる。たぶん嫌悪感は隠せてないと思うけど、もうネタばらしした後だから問題ない。
「……まだ何か用?」
そう言った途端。
「え、ちょっと……! なに!?」
ムッツリと黙り込んだままの高崎に強引に手を引かれ、半ば引き摺られるようにして特別棟のほうへと連れて行かれてしまったのだ。
なんなんだ!? 一体。
空いている教室に入ったところで漸く、強く掴まれていた手首が解放される。
ちょっと赤くなったところを見ながらこれ見よがしにため息を吐いてやると、わかりやすいくらい高崎の表情が変わり、すぐに申し訳なさそうな顔になった。
「……ごめん」
「何のつもり? もう午後の授業始まるけど」
何に対して謝っているのかよく分からないそれを無視して、こんな真似をした理由を尋ねる。
そろそろ予鈴がなる時間だけに、言いたい事があるならさっさと済ませてもらいたい。
早くしろとばかりに冷たい視線を送ってやると、高崎は少しの逡巡の後、酷く言いづらそうに口を開いた。
「……瑠衣とちゃんと話がしたいんだ」
今更何の意味も持たない言葉に、ついせせら笑いが出てしまう。
「ハハッ……。話って何の? さっきのじゃまだ説明が足りなかったってこと? 何が聞きたいのかわかんないけど、それを聞いたところでどうすんの?」
「………………」
嘲るような俺の言葉に、高崎の表情がわかりやすく歪む。たぶん俺に良いようにされてしまったってことを理解したくないんだろうけど、それが現実である以上、ちゃんと受け止めて反省なり後悔なりしてもらいたい。
そのためにはもう少し詳しい説明が必要かな?
だったら。
「どうしても俺と話したいっていうなら、話してあげるよ。まずはこの一ヶ月、俺がどういうつもりでお前の側にいたのかってところからかな」
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
俺は授業に出ることを諦め、不本意ながらも高崎の望みを叶えてやることにした。
さっきまでうるさいほどに喚き散らしていた中田は、部活動停止という言葉で漸く事態の不味さと、自分の不利を理解したのか、最終的には顔色を悪くしたまま立ち尽くしていた。
ああいった輩は集団でいると強気になって増長しがちだが、その反面、集団から外れてしまうことを過剰なほどに恐れる傾向がある。
自分達の行動が原因で、部活全体が連帯責任を取らされる可能性があるとなれば、これ以上馬鹿な真似はしないだろう。
約一ヶ月にも渡る不自由な生活から解放され、俺はやっと平穏な日常を取り戻した。
でもさすがに晴々したという気分にはなれず、どこか重苦しい気持ちを抱えながら特別棟から教室へと移動する。
達成感というよりは脱力感。
後悔はないけれど、この結果を満足だとも思えなくて、それでいてなんか物凄く気が抜けた感じ。
なんとも奇妙な感覚だった。
ただひとつだけ良かったと思えることは、アイツら、というより高崎のおかげで、一ヶ月前に味わった今までの人生において確実に上位に来るだろうと思われるほどの、辛くて切なくて思い出しただけで泣きたくなって、どうしようもなく苛立つのにやるせないっていう気持ちが、いくらか薄まったことことくらいだろう。
失恋の痛みを和らげるのは新しい恋だと聞いたことがあったけど、怒りの感情もなかなかのものだったと言わざるを得ない。
──あの人を思うとまだ胸は痛む。
だけどそれは少しずつ過去のものになっていて。
あんなに拘ってしがみついていた恋心が、こんな形で淘汰されていく日がくるなんて思いもしなかった。
渡り廊下を歩きながら、すっかり高くなっている秋の空をぼんやりと眺める。
澄みきった青空があまりに綺麗で、それが妙に眩しく感じられた俺は軽く目を眇め、その場に立ち止まった。
その時。
「瑠衣ッ!」
ここ一ヶ月ほどですっかり聞きなれた声が俺の名前を呼んだ。
思わず胡乱な目でそちらの方を見てしまう。
さっきの今で俺に話しかけてくるとか、あり得ないし。
そもそも俺のほうはもうコイツに用はない。
無視して歩き出すと、何故か右の手首を掴まれもう一度名前を呼ばれた。
「瑠衣」
舌打ちしたくなるのをグッと堪えて振り向くと、頭半分ほど上にある高崎と視線を合わせる。たぶん嫌悪感は隠せてないと思うけど、もうネタばらしした後だから問題ない。
「……まだ何か用?」
そう言った途端。
「え、ちょっと……! なに!?」
ムッツリと黙り込んだままの高崎に強引に手を引かれ、半ば引き摺られるようにして特別棟のほうへと連れて行かれてしまったのだ。
なんなんだ!? 一体。
空いている教室に入ったところで漸く、強く掴まれていた手首が解放される。
ちょっと赤くなったところを見ながらこれ見よがしにため息を吐いてやると、わかりやすいくらい高崎の表情が変わり、すぐに申し訳なさそうな顔になった。
「……ごめん」
「何のつもり? もう午後の授業始まるけど」
何に対して謝っているのかよく分からないそれを無視して、こんな真似をした理由を尋ねる。
そろそろ予鈴がなる時間だけに、言いたい事があるならさっさと済ませてもらいたい。
早くしろとばかりに冷たい視線を送ってやると、高崎は少しの逡巡の後、酷く言いづらそうに口を開いた。
「……瑠衣とちゃんと話がしたいんだ」
今更何の意味も持たない言葉に、ついせせら笑いが出てしまう。
「ハハッ……。話って何の? さっきのじゃまだ説明が足りなかったってこと? 何が聞きたいのかわかんないけど、それを聞いたところでどうすんの?」
「………………」
嘲るような俺の言葉に、高崎の表情がわかりやすく歪む。たぶん俺に良いようにされてしまったってことを理解したくないんだろうけど、それが現実である以上、ちゃんと受け止めて反省なり後悔なりしてもらいたい。
そのためにはもう少し詳しい説明が必要かな?
だったら。
「どうしても俺と話したいっていうなら、話してあげるよ。まずはこの一ヶ月、俺がどういうつもりでお前の側にいたのかってところからかな」
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
俺は授業に出ることを諦め、不本意ながらも高崎の望みを叶えてやることにした。
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