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24.接近③
そして放課後。
「行きたいところ考えた?」
そう聞いた俺に対する瑠衣から回答は、明らかに困ったような表情というものだった。
遠慮してるのかそれとも本当に思いつかなかったのかはわからない。けど、まだ決めてなかったってことだけはバッチリ伝わってきた。
俺の隣に並んで歩きながら難しい表情で黙り込む。
なかなか決まりそうにない感じだけど、急かすつもりは毛頭ない。
一生懸命考えているらしいことがわかるその表情を見ていると微笑ましい気持ちになり、自然と口角が上がっていた。
瑠衣とだったらこうやってただ歩いているだけでも楽しいし、どこでだって楽しく過ごせそうな気がする。
「どこでもいいよ。瑠衣が行きたいところなら」
あまりプレッシャーに感じて欲しくないなと思いつつ、わざとのんびりとした口調でそう告げる。
瑠衣は暫く考えこんだ後、躊躇いがちに口を開いた。
「俺、特に行きたいとことか思い付かないから、高崎の行きたいところに行くっていうのでどう?」
漸く導き出されたその答えに、俺の心は妙にざわついた。
いつも俺からアプローチしない限り話し掛けてくるどころか、俺に近寄ってくることすらない瑠衣。
こんな時まで控え目な態度で接する様子に、堪らない気持ちが込み上げてくる。
それと同時に、瑠衣は俺に想いを寄せてくれているはずなのに、心の距離を全くといっていいほど俺に近付けようとしていないことに気付き、もどかしい思いに駆られた。
だから。
「名前」
「え?」
「名前で呼んで?」
「……は?」
「俺のこと、『高崎』じゃなく『昴流』って呼んで」
「…………」
「友達はみんな昴流って呼んでるし、高崎って呼ぶ人あんまりいないから」
見えない線を引かれてるように感じた俺は、あくまでも友達だということを強調しつつ、瑠衣に名前で呼んでほしいと言うことで手っ取り早くその線を取り払うことにした。
瑠衣はというと。
こういうやり取りに慣れてないのか複雑そうな表情をしながらも、一応了承の返事をしてくれた。
結局のところ、瑠衣と同様、行きたいところなんてすぐに思い付かなかった俺は、無難に海の見える公園を選択した。
ここは今までに何人もの相手と何度も行ったことのある場所で、最早定番コースといってもいいような場所だった。
男二人で来るにはちょっと抵抗があるかなとは思ったけど、ここから海を見るのは嫌いじゃないし、瑠衣と一緒にぼんやりと海を眺めながらのんびり話をするのも悪くない。
周りはみんなカップルばかりで、俺達の話を邪魔するような人間もいないだろうから、ある意味安心して話せるし。
瑠衣と話すようになって一週間が過ぎたのに、よくよく考えてみれば俺は瑠衣のことを何も知らない。それは瑠衣が俺の話を聞くばかりで自分から話そうとはしないからだってのはわかってるけど、今日は少しだけ踏み込んで瑠衣の話が聞ければいいなと思っていた。
夕暮れ間近の公園には思ったよりも多くの人がいた。
でも瑠衣と一緒にいるだけでいつもよりも穏やかな時間が流れているように感じられ、無理に会話なんてしなくてもこの時間を共有してるってだけで満たされたような気持ちになる。
隣にいる瑠衣に視線を向けると、まるで俺のことなど目に入っていないかのように難しい表情で何やら真剣に考え込んでいた。
「どうした? 難しい顔して」
ちょっと狙い過ぎかなと思いつつも、俺が一緒にいることをアピールするために少し身を屈めて瑠衣の顔を覗き込む。
瑠衣は考え事に没頭していたらしく、俺に声をかけられてビクッとしていた。
いつもより近い位置にある瑠衣の顔をじっと見つめると、明らかに狼狽えたように視線を逸らせるのがなんか可愛い。
「いや、昴流がこういうところに俺を連れてきてくれるとは思わなかったから。……ちょっと戸惑ってただけ」
どうやら瑠衣は周りがカップルだらけという状況が落ち着かないらしい。
その新鮮な反応に思わず口元が緩んでしまう。
「行きたいところって言われて思い付いたのがここだった。海が嫌いな人ってあんまりいないじゃん。俺もまさか男二人で来るとは思ってなかったけど、瑠衣とならいいかなって思って」
素直な気持ちを口にすると。
「……そんな言い方されると、ちょっとくらいは友達以上になれてるのかなって期待しちゃう。……ズルいよ」
瑠衣はいじらしさを感じさせるような言葉と共にそっと目を伏せた。
その言葉と表情に、あらためて瑠衣が俺の事をそういう意味で好きなのだということをまざまざと実感させられ。
今まで以上に強烈にそのことを意識させられた途端、胸の奥がギュッと締め付けられる。
その瞬間。俺はもうあれこれ理由をつけて難しく考えることをやめていた。
本能の赴くまま、俯き加減になっている瑠衣の顎に手をかけ上向かせる。
俺の行動の意味を理解してるのかそうじゃないのか。瑠衣はそっと目を伏せた。
それが合図となったかのように、俺はゆっくりと唇を近付け瑠衣の唇を掠め取る。もっとちゃんと瑠衣の唇の感触を味わいたかったけど、場所が場所だけに、これ以上は無理だった。
まさかこんな所でキスされるとは思っていなかったのか、瑠衣は固まったまま動かない。
驚いたように見開かれた目にはしっかりと俺の姿が映し出されていた。
それはまるで瑠衣の全てを独占してるようにも感じられ、自分の中に言い様のない喜びが込み上げてくる。
恋はするもんじゃない、落ちるものなんだっていうことが大袈裟な表現でも何かの例え話でもなく、本当にあり得ることなんだってことをハッキリと思い知らされた瞬間だった。
俺は突然訪れた初めての恋にすっかり浮き足立っていた。
──この俺の一連の行動をアイツらが見ているなんて思わずに。
「行きたいところ考えた?」
そう聞いた俺に対する瑠衣から回答は、明らかに困ったような表情というものだった。
遠慮してるのかそれとも本当に思いつかなかったのかはわからない。けど、まだ決めてなかったってことだけはバッチリ伝わってきた。
俺の隣に並んで歩きながら難しい表情で黙り込む。
なかなか決まりそうにない感じだけど、急かすつもりは毛頭ない。
一生懸命考えているらしいことがわかるその表情を見ていると微笑ましい気持ちになり、自然と口角が上がっていた。
瑠衣とだったらこうやってただ歩いているだけでも楽しいし、どこでだって楽しく過ごせそうな気がする。
「どこでもいいよ。瑠衣が行きたいところなら」
あまりプレッシャーに感じて欲しくないなと思いつつ、わざとのんびりとした口調でそう告げる。
瑠衣は暫く考えこんだ後、躊躇いがちに口を開いた。
「俺、特に行きたいとことか思い付かないから、高崎の行きたいところに行くっていうのでどう?」
漸く導き出されたその答えに、俺の心は妙にざわついた。
いつも俺からアプローチしない限り話し掛けてくるどころか、俺に近寄ってくることすらない瑠衣。
こんな時まで控え目な態度で接する様子に、堪らない気持ちが込み上げてくる。
それと同時に、瑠衣は俺に想いを寄せてくれているはずなのに、心の距離を全くといっていいほど俺に近付けようとしていないことに気付き、もどかしい思いに駆られた。
だから。
「名前」
「え?」
「名前で呼んで?」
「……は?」
「俺のこと、『高崎』じゃなく『昴流』って呼んで」
「…………」
「友達はみんな昴流って呼んでるし、高崎って呼ぶ人あんまりいないから」
見えない線を引かれてるように感じた俺は、あくまでも友達だということを強調しつつ、瑠衣に名前で呼んでほしいと言うことで手っ取り早くその線を取り払うことにした。
瑠衣はというと。
こういうやり取りに慣れてないのか複雑そうな表情をしながらも、一応了承の返事をしてくれた。
結局のところ、瑠衣と同様、行きたいところなんてすぐに思い付かなかった俺は、無難に海の見える公園を選択した。
ここは今までに何人もの相手と何度も行ったことのある場所で、最早定番コースといってもいいような場所だった。
男二人で来るにはちょっと抵抗があるかなとは思ったけど、ここから海を見るのは嫌いじゃないし、瑠衣と一緒にぼんやりと海を眺めながらのんびり話をするのも悪くない。
周りはみんなカップルばかりで、俺達の話を邪魔するような人間もいないだろうから、ある意味安心して話せるし。
瑠衣と話すようになって一週間が過ぎたのに、よくよく考えてみれば俺は瑠衣のことを何も知らない。それは瑠衣が俺の話を聞くばかりで自分から話そうとはしないからだってのはわかってるけど、今日は少しだけ踏み込んで瑠衣の話が聞ければいいなと思っていた。
夕暮れ間近の公園には思ったよりも多くの人がいた。
でも瑠衣と一緒にいるだけでいつもよりも穏やかな時間が流れているように感じられ、無理に会話なんてしなくてもこの時間を共有してるってだけで満たされたような気持ちになる。
隣にいる瑠衣に視線を向けると、まるで俺のことなど目に入っていないかのように難しい表情で何やら真剣に考え込んでいた。
「どうした? 難しい顔して」
ちょっと狙い過ぎかなと思いつつも、俺が一緒にいることをアピールするために少し身を屈めて瑠衣の顔を覗き込む。
瑠衣は考え事に没頭していたらしく、俺に声をかけられてビクッとしていた。
いつもより近い位置にある瑠衣の顔をじっと見つめると、明らかに狼狽えたように視線を逸らせるのがなんか可愛い。
「いや、昴流がこういうところに俺を連れてきてくれるとは思わなかったから。……ちょっと戸惑ってただけ」
どうやら瑠衣は周りがカップルだらけという状況が落ち着かないらしい。
その新鮮な反応に思わず口元が緩んでしまう。
「行きたいところって言われて思い付いたのがここだった。海が嫌いな人ってあんまりいないじゃん。俺もまさか男二人で来るとは思ってなかったけど、瑠衣とならいいかなって思って」
素直な気持ちを口にすると。
「……そんな言い方されると、ちょっとくらいは友達以上になれてるのかなって期待しちゃう。……ズルいよ」
瑠衣はいじらしさを感じさせるような言葉と共にそっと目を伏せた。
その言葉と表情に、あらためて瑠衣が俺の事をそういう意味で好きなのだということをまざまざと実感させられ。
今まで以上に強烈にそのことを意識させられた途端、胸の奥がギュッと締め付けられる。
その瞬間。俺はもうあれこれ理由をつけて難しく考えることをやめていた。
本能の赴くまま、俯き加減になっている瑠衣の顎に手をかけ上向かせる。
俺の行動の意味を理解してるのかそうじゃないのか。瑠衣はそっと目を伏せた。
それが合図となったかのように、俺はゆっくりと唇を近付け瑠衣の唇を掠め取る。もっとちゃんと瑠衣の唇の感触を味わいたかったけど、場所が場所だけに、これ以上は無理だった。
まさかこんな所でキスされるとは思っていなかったのか、瑠衣は固まったまま動かない。
驚いたように見開かれた目にはしっかりと俺の姿が映し出されていた。
それはまるで瑠衣の全てを独占してるようにも感じられ、自分の中に言い様のない喜びが込み上げてくる。
恋はするもんじゃない、落ちるものなんだっていうことが大袈裟な表現でも何かの例え話でもなく、本当にあり得ることなんだってことをハッキリと思い知らされた瞬間だった。
俺は突然訪れた初めての恋にすっかり浮き足立っていた。
──この俺の一連の行動をアイツらが見ているなんて思わずに。
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