告白ごっこ

みなみ ゆうき

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32.終わりの日①(昴流視点)

月曜日。
俺はいつもより早い時間に家を出た。

部活の朝練がある日以外は結構ギリギリの時間に登校する俺がこんな中途半端な時間にいるのが珍しいのか、学校に着くまでの間にかなりの人数に声をかけられた。

それらを適当にあしらいながら、逸る気持ちで教室へと向かう。

人影もまばらな教室内。
瑠衣の姿はまだない。
でもここにいれば確実に瑠衣に会えると思ったら、見慣れた教室が特別な空間のように思えた。


結局のところ瑠衣からの連絡はなく、送ったメッセージが既読になることすらもなかった。

このまま俺達の関係がダメになるんじゃないかとか、俺の顔を見るのも嫌になるほど嫌われたんじゃないかとか。不安な気持ちばかりが次々と沸き上がってくるせいで、昨夜もほとんど眠れなかった。

でもこんな事で瑠衣を諦める気も、瑠衣への気持ちを無かったことにすることも出来ず、最初に俺を好きだと言ってくれた瑠衣の気持ちを信じようと心に決めた。

こんなのは些細なすれ違いでしかなく、直接会って話をしてちゃんと謝れば許してもらえる。

──愚かな俺はここにきて、まだそんな甘いことを考えていた。



◇◆◇◆


登校してきた瑠衣は俺のほうを見向きもしなかった。
誰とも視線を合わせず、挨拶すらしないで真っ直ぐに自分の席に着く瑠衣を、俺は黙って見ていることしか出来なかった。

まるで一ヶ月前に戻ったかのように近寄り難い雰囲気を醸し出す様子は、全身で俺を拒絶しているかのように思え、今までのように簡単には近付けない。

タイミングを見計らって強引にでも瑠衣と話をしようと思っても、それを阻止するかのように中田がやたらとウザ絡みしてくる始末。

俺は焦りと不安に押し潰されそうになりながらも、瑠衣が一瞬でも俺のほうを見てくれることを願って、ただひたすら瑠衣に視線を送り続けた。



昼休み。

さっさと教室を出ていった瑠衣を捕まえることが出来ず、俺は中田達に誘われたこともあり久しぶりにバスケ部メンバーと過ごすことになった。

場所はいつもの部室棟の裏。
何が楽しいのか、ハイテンションで喋る中田におざなりな相槌を打ちながら、流れ作業のように弁当を口へと運ぶ。

瑠衣はいつもどこで昼休みを過ごしていたんだろう、とか、今日もコンビニのパンを食べてるのかな、なんてぼんやりと考えていたら、突然中田に話の矛先を向けられて我に返った。


「そういえばさー、あの賭けどうなった? もしかして決着ついちゃった?」

「……は?」

「もう好きだって言わせたんだろ? 先週のアイツ、見るからにデレデレだったじゃん」


こんな状態の時に不躾に瑠衣との進捗状況を尋ねられたことにイラッとする。

それと同時に、一昨日まで一番近いところにいた筈なのに、話かけるどころか目を合わせることも出来なくなっている現実に打ちのめされた。

今となってはあの告白は幻だったんじゃないかと思えるほど、瑠衣が遠い存在のように思えて切なくなる。


「確かに好きだとは言われたけど……」



あれは本当のことだったんだと自分に言い聞かせるようにそう呟くと、中田達が一気に色めきたった。


「男相手でもあっさりそう言わせちゃうなんて、さっすが昴流!」

「じゃあ、焼き肉食べ放題は確定ってこと!? 小遣い出てからにして! っていうかやっぱり昴流だけ全然罰ゲームじゃねぇじゃん」

「充分罰ゲームだろ? 相手、男だぞ? 俺だったら絶対無理ー」

「そうそう。男に告白は充分罰ゲーム。後は賭けの範囲。
で? どうなったんだよ? 今日はもう放置してるってことはこの週末で決着ついたんだろ?」

「そういえば、土曜の午後デートだったんだっけ? 当然一気に攻め落として美味しく処女いただいちゃったんだよな?」

「うえ~。男の処女とかべつにいらねー。
でもどうなんだよ? 女とどっちが良かった? 前立腺とかホントにあんの?」

「いらねーとか言いながら興味津々じゃねぇか。で、どうだった?」

「お前もな!」


勝手な事を言って盛り上がっている中田達を他所に、俺はひとり、こんなヤツらにのせられてあんな形で瑠衣との関係を始めてしまったことを深く後悔していた。

でもあれがなければ瑠衣を知ることもなかったのも事実で。

ずっと適当に人付き合いをしてきた俺が誰かとずっと一緒にいたいとか、こんな風に夜も眠れなくなるほど相手のことを考えることもなかっただろう。


コイツらはまだ俺が賭けのためだけに瑠衣と一緒にいると勘違いしているようだが、俺の中で瑠衣はもうそんなに軽い存在じゃなくなってる。

これ以上瑠衣のことを馬鹿にされるのも、瑠衣との事を面白可笑しく噂されるのも、ゲスな話をされるのも耐えられそうにないし、何よりもどんな形であれ、俺以外の人間が瑠衣に関心を寄せていることが嫌だった。

瑠衣に本当のことを話さないまま勝手な苛立ちをぶつけて、全てを手に入れようとした卑怯な俺が言えた義理ではないが、コイツらの悪ノリは度が過ぎてるし、これ以上何か言われたらキレてしまいそうで。

だから俺は全てに決着を付けるためにもコイツらに本当の事を話して、罰ゲームと賭けを無かったことにしてもらおうと心に決めた。

何を言われたって構わない。罰ゲームと賭けのペナルティーなんて瑠衣を失うことに比べたら安いもんだ。

そう考え、口を開きかけたその時。


「随分と面白そうな話してんじゃん。せっかくだから俺も交ぜてよ」


不意に特別棟のほうから聞こえてきた声に俺の身体は凍り付く。
そして情けなくも、あれほどごちゃごちゃ考えていた俺の思考はキレイに真っ白になっていた。


──一番聞きたいと思っていた声が今、このタイミングで聞こえてきたことに、喜びの気持ちは微塵も沸いてはこなかった。
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