告白ごっこ

みなみ ゆうき

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37.リスタート②(昴流視点)

冬も近付いてきたある土曜日。
俺は隣県にある私立青陽せいよう学園を訪れていた。

目的は来週予定されている練習試合のための顔合わせ。
三年生が引退し、俺達二年生が主導となって始動してから最初の練習試合で、しかも今まであまり接点が無かった相手ということもあり、場所の下見も兼ねて事前に挨拶を、ということで来てるんだけど……。


訪問メンバーはバスケ部の監督と俺と安達。

──実は俺、バスケ部の部長になったのだ。


俺が部長だなんて何の冗談かと思うだろう。

俺も前部長から次の部長に推薦しようと思ってると言われた時、ちょっとした冗談かと思ったし、話を聞いているうちに本気で言ってるのだとわかっても、それを受け入れる気には到底なれなかった。

なのに次の日、前部長から話を聞いたらしい監督からは大して反対もされないどころかどこか面白がってるような顔で『頑張れよ』と言われるし。
副部長に推薦された安達までもが『せっかくそう言ってもらったんだからやったらいいじゃん。意外と適任かもよ?』なんて軽い調子で言った挙げ句に、周りを巻き込んで勝手に外堀を埋めており、あっという間に引き受けざるを得ない状況になっていたのだ。


それまでの俺は、ノリが悪いとか空気を読まないとか言われないよう、基本的には場の雰囲気に合わせつつも面倒な事に巻き込まれないよう適当に過ごしてきた。

そんな俺が部長にむいてるとは思えなかったし、俺がしてきたことを思えば、いくら心を入れ替えたといっても人の上に立ってまとめていける器じゃない事くらいわかってる。
それに女子からの人気はともかく、お世辞にも男子からの信望があるとは言い難い俺に、部活全体のまとめ役である部長が務まるとは思えなかった。

でも安達の根回しのお陰か、俺のことを良く思っていない人間も含めて一応みんなの了承を得た形になったことで、俺は最終的に色んな意味で腹を括り、部長という大役を引き受けることに決めた。

俺的にはむしろ安達が部長のほうがいいんじゃないかと未だに思ってるし、実際安達がフォローしてくれなかったら絶対にやっていけてないと断言出来るけど、それでも俺は俺なりに頑張ってみようと思っている今日この頃だ。



で、俺達が今いる場所は、この青陽学園のバスケ部が普段活動しているという専用の体育館。

この学校に着いてすぐにここの監督と部長に挨拶した後、バスケ部のマネージャーだという男子生徒からバスケ部が練習している体育館に案内してもらい、二階のギャラリーから練習風景を見学している最中なのだ。


「さすが全国レベルともなると部員の数からして違うよなー。しかもこの設備。さすが有名私立」

「……だな」


階下に見える光景にただただ感心したようにボソリと呟いた安達に、隣にいた俺も全く同じ気持ちで同意した。

いつも俺達がやっていることと同じものの筈なのに、全く違う光景に見えるのはレベルの違いなのか、何なのか。

たかが練習といえども、なんていうかこの場の空気感が違うっていうか、格の違いを感じるっていうか。とにかく見たもの全てに圧倒されている状態だ。


ここはうちと同じく全国大会への切符は逃したものの、バスケでは名の知れた学校で、本来ならうちみたいに県内ではそこそこでも全国レベルじゃない学校なんて相手にしてもらえないような有名私立高校だったりする。

──そんな学校がよくうちとの練習試合を引き受けてくれたなと思っていたら。

なんとここの監督がうちの監督の大学の後輩という縁があり、先輩の権限をフルに使い、半ば強引に練習試合の約束を取り付けてきたらしい。

どうやら監督はここ最近今までになく真面目に部活に取り組んでいる俺達を見て、格上の相手、しかも全国レベルの相手と対戦して経験を積むことで、更なる向上心を育てようと目論んでるようなのだが……。


正直この練習風景を見ているだけでも俺達との実力差がハッキリわかってしまう相手だけに、良い刺激になるどころか一歩間違えるとせっかく上がりつつあるモチベーションが一気に萎んでしまわないか心配になる。

俺と安達は暫く食い入るように練習を見つめた後、色んな意味で自分達とのレベル差を感じ、チラリと視線を合わせた後、ほとんど同じタイミングで大きなため息を吐いたのだった。



三十分ほど練習を見学をした後、俺達はキリのいいタイミングで下に降り、部長と案内してくれたマネージャーに挨拶をしてから体育館を後にした。

結局うちの監督は相手チームの監督との話が盛り上がり過ぎたのか練習の見学には現れず、来客用の玄関で待ち合わせをすることになった。

一体何しにきたのやら。

心の中で軽く監督に文句を言いながら、やや元気の無くなった感のある安達と肩を並べ玄関を目指して歩いていく。


すると。


「あのッ! すみませんッ!」


後ろから声をかけられ、俺達は突然のことに驚きながらも足を止めた。

振り返るとジャージ姿の男子生徒が少し離れた場所から駆け寄ってくるのが見える。

明らかに他校生である俺達に声をかけてくるからには、バスケ部関係の人かと思いきや。


近づいてきた彼が身につけているジャージの胸の部分にある『SEIYO Track and field club』という文字に首を傾げることになった。


──なんで陸上部? もしかして俺達を呼んだわけじゃなかったのかな? 

なんて思いながら辺りを見回してみたものの、土曜日ということもあってほとんど人気のなかった廊下には俺達以外誰もいなかった。

安達の知り合いの線も捨てきれないと思い直し、隣に視線を向けるが、その顔には俺と同じく疑問の色が浮かんでいるのがわかる。

そんな俺達の様子に気付いたのか、陸上部の彼は俺達のすぐ前まで来ると、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「突然声かけてすみません、……それって鳴神西の制服ですよね?」

「? はい、そうですけど……」


うちの高校の制服はブルーのシャツに青と白のストライプのネクタイ。それに濃紺のブレザーにグレーのチェックのズボンというわりとどこにでもあるような組み合わせで、県内の高校ならともかく、県外の人間がこの制服を見て高校名をすぐに言えるほど名の知れた学校じゃない。

なんで知ってるのかと疑問に思いながら肯定すると、目の前の彼はホッとしたような表情を浮かべた後、少し躊躇いがちに言葉を続けた。


「あの、……二年の高嶋瑠衣って知ってますか?」

「……え?」


全く予想もしていなかったタイミングで飛び出したその名前に、俺は一瞬何を言われたのか理解出来ずに固まった。
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