告白ごっこ

みなみ ゆうき

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41.リスタート⑥(昴流視点)

俺の話を聞き終わった梅原の反応は、意外に感じるほどに冷静なものだった。


『俺は今でも瑠衣とは友達だと思ってますから、瑠衣を傷付けるヤツには腹が立ちます。でもそれを許す許さないは瑠衣が決めることだから、俺からはこれ以上何も言えません』


たぶん言いたいことはいっぱいあるんだろうな、と言う感じの言い方。
もっと最低だと罵られたり、何でそんな事をしたんだと責められたりするのかと思ってただけに、そういう類いのことを何も言われないのは、逆にキツかった。

瑠衣に対しても許されたいなんて虫のいいことを考えてたつもりはないけど、話をしたいって思ってた時点で、心のどこかで許してもらおうっていう無意識の甘えがあったのかもしれない。

梅原はたぶんそんな俺の甘さを見透かしていたんだろう。


『瑠衣はいいヤツですけど、線引きっていうんですかね? そういうのがハッキリしてるんですよ。だから瑠衣の中で決着がついてるものに関しては、それはもう全部終わったこととして処理されてて、後になってから答えが変わるなんてことは、ほぼ無いんじゃないかって思うんです』


暗に期待するだけ無駄だと釘を刺してきた。

それでも。


「ほぼ無いってだけで可能性がゼロじゃないんだったら、今までみたいにただタイミングを窺ってるだけじゃなくて、みっともなく足掻いてみる価値はあると思う。手段を出し惜しみしてる内に時間だけが過ぎていって、ずっと後悔し続けるなんてことになるのだけは、絶対に嫌だからさ」


俺も諦めないってことだけは言っておく。

瑠衣に会う前の俺だったらそんなダサい真似絶対にしなかったと思うし、そもそも離れていった相手に対して関心を持つことすらなかったけど、瑠衣だけはやっぱり特別だと思えるから。

梅原の話を聞いて俺の行動がことごとく瑠衣に嫌われるようなことばかりだったとわかっても、潔く諦めようなんて考えにはなれなかった。

一歩間違えれば益々嫌われる可能性もあるけど、何もしないでいるうちに瑠衣の中から俺の存在を完全に消し去られ、忘れられるなんてことになったらと思うとゾッとする。


俺の決意を聞いた梅原は、黙り込んだまま喋ろうとしなかった。

電話の向こうの梅原が今どんな表情をしてるのかわからないけど、さっき腹が立つって言われたばかりだし、今の俺の話を聞いたことで今度こそ何かを言われることを覚悟する。

しかし。


『俺にもそれくらいの根性があれば、こんなに後悔する事はなかったのかな……』


電話越しに聞こえてきたのは、俺に話し掛けるというよりも、独り言のような呟き。

梅原が言った『後悔』という言葉が重く響いた。

ここでその言葉を聞かなかった振り をするなんてことは出来そうにはなくて、詳しく聞いてもいいのか少しだけ迷った挙げ句、俺は思い切ってそのことを尋ねてみることに決めた。


「こんな事聞いていいのかわからないけど、その後悔は瑠衣に関することであってる?」

『……そうですね。まあ、そんな感じです』

「もしかして瑠衣を助けられなかったこと?」

『それもそうなんですけど……。その前に色々あって……』


歯切れの悪い言葉。
その色々っていうのが、やっぱりさっき話に出た『噂』に関係のあることのような気がしてならない。

さっき無理に聞き出すことに対して感じていた躊躇いは、今はもうこのタイミングを逃したら二度と聞くチャンスはないかもしれないという焦りに変わっていた。


「色々って、さっき言ってた『噂』のこと?」

『………………』


沈黙という名の肯定に、俺はじっと梅原の言葉を待つ。

すると。


『……あんなことが起こる少し前。……瑠衣に妙な噂がたって……。……最初は単なる噂だと思ったし、たとえそれが本当だとしても瑠衣は瑠衣だから、俺的にはべつに関係ないって思ってたんですけど……』


胸の中にずっとしまい込んでいたものを少しずつ吐き出すように、ポツリ、ポツリと話し始めた。


『──でも俺、偶然瑠衣の秘密を知っちゃって……。それで、噂は本当だったってだけじゃなく、目の前で実際に見ちゃったらやたらとリアルに感じてしまって、なんか勝手にひとりでグルグル考え込んじゃって……。瑠衣もたぶん俺の様子がおかしいことに気付いてたんでしょうね……。何気無く距離を置かれて……。俺、それに気付いてたのに、ちょっと気持ちの整理がしたくて、何も言わずに放っておいてしまったんです。そしたらあんな事になってしまって……』

「瑠衣を助けられなかったことより、瑠衣とちゃんと話せなかったことを後悔してるってこと?」

『そうですね……。現実を目の当たりにして、瑠衣は瑠衣だって思えなかった弱い自分がショックでした。でもそれはやっぱり一時的なもので、瑠衣はやっぱり瑠衣でしかないなって思えた時には、瑠衣との距離は取り返しがつかないほど離れてしまっていて、話すことも目が合うことさえ無くなってしまっていたんです。……そうこうしてる内に、クラスのバカな連中が瑠衣にしつこく絡んでいくようになって、それが原因で瑠衣がみんなから遠巻きにされていって……。……俺はそれを……、……ただ見てるだけしか出来なかった。
──最低ですよね……。瑠衣は友達だから高崎君のした事に腹が立つなんて偉そうに言いましたけど、……本当は俺、……そんな風に言う資格も、……瑠衣と友達だって言える資格もないんです』


そう言ったきり言葉に詰まった梅原。
電話越しには嗚咽を必死に堪らえようとする梅原の息遣いだけが聞こえてきた。
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