告白ごっこ

みなみ ゆうき

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42.リスタート⑦(昴流視点)

電話の向こう側で泣いている梅原にかける言葉は見つからない。

梅原よりも確実に酷く瑠衣を傷つけたであろう俺が、お為ごかしに何か言ったところで慰めにもならないだろう。

やがてひとしきり泣いたことで落ち着いたのか、梅原が静かに呟いた。


『もう少し話してもいいですか?』


その問い掛けに対し、俺は咄嗟に聞きたくないと思ってしまった。


嫌な予感がした。

梅原は直接的に瑠衣に何があったのかなんて言ってないはずなのに、その内容が俺にとって絶対に心穏やかではいられないようなものの気がしてならず、頭の中に警鐘音が響き渡る。

梅原に声をかけられてからの俺は、誰かの口から語られる瑠衣の話なんて聞きたくないと思ったり、瑠衣のことなら何でも知りたいと思ったり。
挙げ句に今度はまた聞きたくないと思うなんて、どんだけ俺は自分勝手な人間なんだって思うけど、今回ばかりは嫌な予感が拭えず、俺はどうにかして梅原がこれから話す内容を変えるか、やめさせることが出来ないかと必死に考えた。

しかし、今まで胸の内に秘め続けていた後悔を口にしたことで、抑えられていたものが一気に溢れ出したのか、梅原は俺が言葉を紡ぎ出す前に話し始めてしまう。


『最初は着替えの時に瑠衣の身体にキスマークらしきものが付いてたっていう、ホントかウソかもわからないような話から始まったんです。……実際にそれっぽいものを見たってヤツもいたし、あれはそんなんじゃないっていうヤツもいました。俺はそれを直接見たわけじゃないし、そんな事を言って騒ぎ立てているヤツらも、普段からすぐに下世話な話をしたがる連中だったので、本気にしてなかったんですけど……』


瑠衣の身体にキスマーク。それだけでも俺の受けた衝撃は相当なものだった。

やっぱりどうにかして梅原の話をやめさせるべきだったと後悔しても、もう遅い。

むしろここでストップをかけて、話が中途半端になってしまったら、その先を無駄に想像してずっとグダグダ考えてそうだ。

梅原はそんな俺の葛藤に気付くことなく話を続ける。


『そんな噂がたってから、着替えの時にやたらとみんなが瑠衣をジロジロと見るようになって……。瑠衣はそれを嫌がって、人目を避けて着替えるようになりました。でもそんな風にしてること以外、瑠衣の態度は何も変わらなかったし、俺達もいつもの調子で『瑠衣はそこら辺の女子より可愛いから、ちょっとしたことでもすぐネタにされるんだな』くらいしか思ってなくて。さっき話したとおり、俺自身もたとえそれが本当のことでも瑠衣は瑠衣だって思ってたんです。でも結局、俺は瑠衣のことを傷つけた……』


そこで梅原がひとつ深いため息を吐いた。


『……あの日、俺はたまたま都内にいる従兄弟のところに遊びに行ってたんです。その帰り、最寄り駅まで歩いている時に、見覚えのある車が信号待ちをしてるのが目に入りました。遠目からだったけど、助手席に瑠衣が乗ってるのが見えて、偶然だなって思ってたら。その直後、ほんの一瞬だったけど、その……、二人の距離が近付くなって……。
…………運転席にいた人が瑠衣にキスしたように見えたんです』


心臓がズキリと痛んだ。焼け付くような胸の痛み。そこから熱い何かが溢れ出て、俺の頭の中を沸騰させていく。

過去のこととはいえ、瑠衣に触れた人間がいたんだとわかったら、今まで感じたことのない強烈な感情が胸の内を支配した。

──たぶんこれは嫉妬だ。


「……見えたってだけだろ?」


自分で思ってるよりも随分と抑揚のない声が出た。
でもそんな事を気にしてる気持ちの余裕はない。


『……そうですね。……もしかしたら、ちょっと顔の距離が近かったせいでそう見えたのかもしれません。でもその後の瑠衣は、ちょっと驚いたような顔をした後、見たこともないような綺麗な表情で本当に嬉しそうに笑ったんです。二人がどんな関係だったのかはわかりません。……でも瑠衣があの人の事を好きなんだろうなってことだけはわかりました。その途端、瑠衣が男に抱かれてるんじゃないかっていう噂が、頭を過ぎってしまったんです。事実かどうかもわからないのに、一度でもそんな風に思ってしまったら、俺、どうしたらいいのかわからなくなって……』


俺もどう気持ちの整理をつけたらいいのかわからない。

確固たる証拠がないとはいえ、男に抱かれていたかもしれない瑠衣。

俺の部屋に来た時、俺の事を拒否したのは、何とも思ってないヤツとヤれるほど神経太くないからだって言ってたくせに、本当はソイツのことを忘れられないからこそ、他の人間には触れられたくないってことだったんじゃないのかと、勘繰ってしまいそうだ。

──そもそも瑠衣は今でもソイツと関係があるのか?

そう思ったところで。


「その相手って……?」


思わず口をついて出てしまい、すぐに後悔する。

知ったところでどうにもならないどころか、ボンヤリとした輪郭が少しハッキリしてしまうことで現実味を帯び、胸の痛みが増しただけだった。

やっぱりいいと、自分の言ったことを取り消そうとしたその時。

先に梅原が口を開いた。


『……瑠衣のお父さんの秘書をしている倉木さんって人です。時々学校まで瑠衣を迎えに来たりしてて、俺も何度か会ったことあって……。あの当時、瑠衣のお父さんに頼まれて、たまに瑠衣の勉強を見てるって言ってたから、二人が一緒にいること自体は不自然じゃなかったんですけど……』

「……そんな人が社長の息子に手を出すかな? 噂のせいで勘違いしただけじゃない? 社会的な立場を考えたら、リスクが高すぎる」

『確かにそうですよね。高崎君の言うとおり、あの時の俺は噂に振り回されて冷静に物事が判断出来なくなってたんだと思います。瑠衣が倉木さんに懐いていたの散々見てたのに、勝手に誤解して、ひとりで無駄に悩んで瑠衣を傷付けて……。俺、ホントにバカだった……』


梅原は俺の言葉に納得した様子だったものの、俺自身は少しも納得出来ておらず、胸の奥で嫉妬という気持ちがチリチリと燻り続けていた。

この胸の痛みを消すにはまだ足りない。

瑠衣とソイツの今の関係性がハッキリしないことには安心出来そうになかった。


「……その人今も瑠衣と仲良いのかな?」


否定して欲しくて言った言葉。

今でも仲が良いとか言われたら、醜い気持ちがまた大きくなってしまいそうだな、なんて思っていると。


『それはさすがにわからないです。でも瑠衣のお姉さんに連絡してくれた人が教えてくれたんですけど、倉木さん、春に瑠衣のお姉さんと結婚するらしくて』


予想もしていなかった話に驚かされた。


「は?」

『俺、勝手に瑠衣のこと誤解してたからそういう意味でも心配してたんですけど、瑠衣にしてみたら大きなお世話どころか、一方的な思い込みで心配されて迷惑ですよね』


どこ吹っ切れた様子でそう言った梅原。
俺は何故か同意の言葉を口にすることが出来なかった。
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