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44.リセット①(瑠衣視点)
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くだらない茶番が終わり、高崎が俺に近付いてこなくなったことで、表面上は以前と変わらない静かで穏やかな日常が戻ってきた。
朝起きて適当に朝食を済ませてから家を出る。コンビニに寄って昼食のパンを買ってから学校に行く。特別何か用事がない限り誰とも話さないまま一日を過ごし、授業が終わるとすぐに帰宅する。
夕飯の材料を買いに近所のスーパーに出掛けたり、必要なものを買いに数駅離れたところにある大型のショッピングセンターに行く時以外はほとんど外出することもなく、ひとり暮らしの自分の部屋でのんびりと過ごすっていうことの繰り返し。
この生活に不満はないし、自分の意思でこういう生活を選んだとはいえ、一回冷静になってみると、俺って高校生らしくない味気ない生活してんな、って思って、なんだか笑えてきた。
まあ、それに気付けたのは、ある意味高崎のおかげと言えなくもないから、あの茶番も単なる時間の無駄ってだけのものじゃなかったのかもしれない。
かと言って感謝する気には全然なれないけど。
アイツらのしてたことはマジで最悪だから。
許す許さないっていうより、二度と関わり合いになりたくないっていうのが今の俺の正直な気持ちだ。
なのに。
茶番が終わってすぐくらいの頃。
急に仲良くなった俺達が突然また喋らなくなった上に、高崎と中田の間もなんだかギクシャクしてるってことで、高崎のことを心配した女子達から『一体どういう事なの?』と聞かれたことがあった。
何で俺? と思いつつも。
『俺じゃなくてむこうの都合だから、何があったのかあっちに聞いてみたら?』
俺は無関係だとばかりにそう返すと、そんな反応をされるとは思わなかったのか、彼女達は一様に驚いた顔をしていた。
あれから彼女達が直接高崎に事情を聞いたのかはわからない。けど、あれ以来誰にも何も聞かれなくなったから、一応気が済んだってことなんだろう。
まあ、勝手な噂をたてられてて、それが真実だって思われてる可能性も大いにあるけど、普段俺に関わりのない連中が何を言おうと実害がなければそれでいいし、そもそもその噂すらも俺の耳には入ってこないから関係ない。
それよりもあれから時々どころか、わりと頻繁に感じる高崎からの物言いたげな視線と、あからさまに向けられる中田の恨みがましい視線のほうがよっぽど鬱陶しかったりする。
ちょっと前までの俺だったら、そんな視線を向けられてることにすら気付けなかったし、たとえ気付いてもどうでもいいとしか思わなかっただろうけど、今はさすがに腑抜けてばかりいられない。
特に中田あたりは自分達のしたことを棚に上げて逆恨みしてる可能性もあるから、注意するに越したことはないと思うし。
こう思えるようになったのは、漸く周りに目を向ける心の余裕が出来たからだろう。
高校に入学してもうすぐ二年。
やっと過去をリセットする準備が出来た気がする。
あの頃を思い出せばまだ胸は痛むけど、幸せだと信じて疑いもしなかった時間に戻りたいとは思わない。
◇◆◇◆
俺がこの街にやって来た時は、心身共にズタボロの状態で。
季節が何度変わっていっても、俺の時間は中三の冬で止まったままだった。
もう二度と動き出すことなんてないだろうって思うくらいに絶望と虚無感で一杯だったはずなのに、ずっと胸に蟠っていたものが何て事の無いもののように感じられる今となっては、あんな風に立ち止まったままでいたことを後悔している。
あの頃の俺は、たった一回の失恋と裏切りで人生終わった気になっていた。
一途に思い続けても報われるどころか、その気持ちのやり場すら当の本人によって奪われてしまったっていう事実は、恋を知ったばかりの俺には耐え難いものだったのだ。
──俺にはかつて自分の全てを捧げてもいいって思えるほどに好きな人がいた。
あの人と一緒にいられる時間はそれまで過ごしてきた人生でも一番といえるほどに幸せで、俺は初めての恋に浮かれるあまり全く現実が見えておらず、あの恋の為なら何だって出来るとさえ思ってた。
だからこそ、突然の恋の終わりと信じられない現実に耐えられなかった俺は、それを受け入れることが出来ないまま自分の殻に閉じ籠もり、恋の残滓に苛まれるあまり、全く周りに目を向けられなくなっていたのだ。
恋の喜びも楽しさも辛さも痛みも全部あの人から教わった。
気持ちいいことも恥ずかしいことも、あの人がくれるものなら全部受け入れたし、むしろそれが愛されている証のような気がして嬉しかった。
だから俺にくれた数々の甘い言葉も、触れた場所から伝わってくる熱も、俺の身体に残した印も。全部あの人の『本気』なんだと思ってた。
今となっては、あんなのはただの子供の恋愛ごっこで、相手にとっては単にひたむきな子供の一途さを無碍には出来なかっただけ、っていう程度のことでしかなかったんだとわかる。
つくづく思う。
俺ってホントに世間知らずのガキだったな、って……。
あの日、あんな形であの人の裏切りを知るまでは、誰にも認めてもらえなくても、お互いの気持ちが繋がっていれば何とかなるって思ってたし、そもそも相手の気持ちがちゃんと俺に向いてるってことを、信じて疑ってなかったんだから。
中三の冬。
学校で大ケガをして入院していた俺にもたらされたのは、自分の恋人だと思っていた人の、婚約の報せ。
しかもその相手が俺の姉だったっていうオマケ付き。
あの瞬間。俺の初恋は見る影もないほど粉々に砕け散り、人間っていうものは自分勝手で卑怯な生き物だということを改めて思い知らされた。
朝起きて適当に朝食を済ませてから家を出る。コンビニに寄って昼食のパンを買ってから学校に行く。特別何か用事がない限り誰とも話さないまま一日を過ごし、授業が終わるとすぐに帰宅する。
夕飯の材料を買いに近所のスーパーに出掛けたり、必要なものを買いに数駅離れたところにある大型のショッピングセンターに行く時以外はほとんど外出することもなく、ひとり暮らしの自分の部屋でのんびりと過ごすっていうことの繰り返し。
この生活に不満はないし、自分の意思でこういう生活を選んだとはいえ、一回冷静になってみると、俺って高校生らしくない味気ない生活してんな、って思って、なんだか笑えてきた。
まあ、それに気付けたのは、ある意味高崎のおかげと言えなくもないから、あの茶番も単なる時間の無駄ってだけのものじゃなかったのかもしれない。
かと言って感謝する気には全然なれないけど。
アイツらのしてたことはマジで最悪だから。
許す許さないっていうより、二度と関わり合いになりたくないっていうのが今の俺の正直な気持ちだ。
なのに。
茶番が終わってすぐくらいの頃。
急に仲良くなった俺達が突然また喋らなくなった上に、高崎と中田の間もなんだかギクシャクしてるってことで、高崎のことを心配した女子達から『一体どういう事なの?』と聞かれたことがあった。
何で俺? と思いつつも。
『俺じゃなくてむこうの都合だから、何があったのかあっちに聞いてみたら?』
俺は無関係だとばかりにそう返すと、そんな反応をされるとは思わなかったのか、彼女達は一様に驚いた顔をしていた。
あれから彼女達が直接高崎に事情を聞いたのかはわからない。けど、あれ以来誰にも何も聞かれなくなったから、一応気が済んだってことなんだろう。
まあ、勝手な噂をたてられてて、それが真実だって思われてる可能性も大いにあるけど、普段俺に関わりのない連中が何を言おうと実害がなければそれでいいし、そもそもその噂すらも俺の耳には入ってこないから関係ない。
それよりもあれから時々どころか、わりと頻繁に感じる高崎からの物言いたげな視線と、あからさまに向けられる中田の恨みがましい視線のほうがよっぽど鬱陶しかったりする。
ちょっと前までの俺だったら、そんな視線を向けられてることにすら気付けなかったし、たとえ気付いてもどうでもいいとしか思わなかっただろうけど、今はさすがに腑抜けてばかりいられない。
特に中田あたりは自分達のしたことを棚に上げて逆恨みしてる可能性もあるから、注意するに越したことはないと思うし。
こう思えるようになったのは、漸く周りに目を向ける心の余裕が出来たからだろう。
高校に入学してもうすぐ二年。
やっと過去をリセットする準備が出来た気がする。
あの頃を思い出せばまだ胸は痛むけど、幸せだと信じて疑いもしなかった時間に戻りたいとは思わない。
◇◆◇◆
俺がこの街にやって来た時は、心身共にズタボロの状態で。
季節が何度変わっていっても、俺の時間は中三の冬で止まったままだった。
もう二度と動き出すことなんてないだろうって思うくらいに絶望と虚無感で一杯だったはずなのに、ずっと胸に蟠っていたものが何て事の無いもののように感じられる今となっては、あんな風に立ち止まったままでいたことを後悔している。
あの頃の俺は、たった一回の失恋と裏切りで人生終わった気になっていた。
一途に思い続けても報われるどころか、その気持ちのやり場すら当の本人によって奪われてしまったっていう事実は、恋を知ったばかりの俺には耐え難いものだったのだ。
──俺にはかつて自分の全てを捧げてもいいって思えるほどに好きな人がいた。
あの人と一緒にいられる時間はそれまで過ごしてきた人生でも一番といえるほどに幸せで、俺は初めての恋に浮かれるあまり全く現実が見えておらず、あの恋の為なら何だって出来るとさえ思ってた。
だからこそ、突然の恋の終わりと信じられない現実に耐えられなかった俺は、それを受け入れることが出来ないまま自分の殻に閉じ籠もり、恋の残滓に苛まれるあまり、全く周りに目を向けられなくなっていたのだ。
恋の喜びも楽しさも辛さも痛みも全部あの人から教わった。
気持ちいいことも恥ずかしいことも、あの人がくれるものなら全部受け入れたし、むしろそれが愛されている証のような気がして嬉しかった。
だから俺にくれた数々の甘い言葉も、触れた場所から伝わってくる熱も、俺の身体に残した印も。全部あの人の『本気』なんだと思ってた。
今となっては、あんなのはただの子供の恋愛ごっこで、相手にとっては単にひたむきな子供の一途さを無碍には出来なかっただけ、っていう程度のことでしかなかったんだとわかる。
つくづく思う。
俺ってホントに世間知らずのガキだったな、って……。
あの日、あんな形であの人の裏切りを知るまでは、誰にも認めてもらえなくても、お互いの気持ちが繋がっていれば何とかなるって思ってたし、そもそも相手の気持ちがちゃんと俺に向いてるってことを、信じて疑ってなかったんだから。
中三の冬。
学校で大ケガをして入院していた俺にもたらされたのは、自分の恋人だと思っていた人の、婚約の報せ。
しかもその相手が俺の姉だったっていうオマケ付き。
あの瞬間。俺の初恋は見る影もないほど粉々に砕け散り、人間っていうものは自分勝手で卑怯な生き物だということを改めて思い知らされた。
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