告白ごっこ

みなみ ゆうき

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48.リセット⑤(瑠衣視点)

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姉のみやびとは年が離れている上に、俺が小学校の低学年の時に海外に留学したままほとんど日本に戻ってくることのなかったこともあって、正直言うと、年に数回顔を合わせることもある親戚より馴染みのない存在だったりする。

だからこれまでお互いの連絡先は知っていても、余程の用件がない限り全くといっていいほど連絡を取り合うことはなかったし、顔を合わせたのなんて、俺がケガした直後、姉が留学先から帰国した時が最後だった。


そんな関係の姉から届いたメッセージ。

あの人とのことで姉に対して後ろめたい事がある俺は、スマホの画面に表示された『ちょっと聞きたいことあるんだけど』の文字に、心臓がヤバいくらいに大きく跳ねた。

それでも自分のした事から目を背けるわけにはいかないと、意を決してメッセージアプリを開いた。

すると。


《梅原賢人って人、知ってる?》


予想もしていなかった内容に一瞬思考が停止する。

おかげでその文字が、中学時代クラスも部活も一緒だった友人の名前だと気付くのに、ちょっと時間がかかってしまった。

それと同時に、すっかり疎遠になってしまったかつての友人を思い出し、切ない気持ちにさせられる。


当時、よく女の子に間違われていた俺は、自分の見た目が好きじゃなかった。
そのせいで要らないやっかみや、迷惑な羨望を向けられることも多くて、ホントにウンザリすることが多かったのだ。

でも賢人を始めとした友人達は、いつもその事で腹を立てていた俺に、慰めなのかどうかもわからないような言葉を掛けてくることが常だった。


『瑠衣は顔だけなら、そこら辺にいる女子に余裕で勝ってるんだからしょうがないと思う』

『可愛いは褒め言葉だぞ。ホントのことだからしょうがないって』

『瑠衣の見た目だけしか知らない連中が勝手な事言ってるだけだろ。瑠衣の中身知らないんだからしょうがないよ』


適当にも程があるしょうがないの連呼に、俺が『嬉しくねぇ!』って言うまでがパターン化してて、俺もアイツらの言葉に怒った振りしながらも、最後には皆で大笑いすることで気持ちが軽くなっていた。

そんな日々が無くなるなんて、あの時の俺は予想すらしていなかったのに。


初めは賢人との間が微妙にギクシャクしてるような気がして、そこからなんとなく気まずくなって、徐々に皆と過ごす時間がなくなっていった。


賢人と距離を感じるようになったのは、いつ頃だったっけ?

バカな連中にしつこく絡まれる前?

──いや、ケガするちょっと前くらい?


あの人との関係だけが世界の全てになっていた俺は、面と向かって聞かれないのをいい事に、賢人や他の友達が俺に対して物言いたげな視線を向けていることに気付かない振りをしていた。

あの時はあの人さえいればいいって思ってたし、なんか色々詮索されるのが煩わしいとか思ったりもしたんだよな。


ケガをして学校に行けなくなり、あの人の裏切りに絶望した挙げ句に全てを捨てて逃げてきた俺は、そんな友人達のことを思い出す心の余裕すらないままだった。

高崎達とのことがあってから、たまに思い出したりもしたけれど、もうそれはとっくに過去のものだと思ってのにな……。


複雑な気持ちで文字を打ち込む。


《知ってるよ。中学の時の友達》


そう返信すると、暫くしてから再び姉からメッセージが届いた。


《知り合いから連絡きて、その子に瑠衣が今何してるか教えて欲しいって頼まれたっていうんだけど》


何で今更?

まず最初に思ったのはそれ。

あれから二年が経とうとしてる。

あの時持っていたスマホは番号ごと新しい物に替えたから、俺の連絡先は知らないにしても、わざわざ姉の知り合いに頼んでまで今更俺が何してるか知ってどうするんだろう?


賢人がどういうつもりでそんな真似してるのかがサッパリわからず、何て返したらいいのか迷っていたら、姉から次のメッセージがきた。


《瑠衣が嫌なら教えない》
《なんならハッキリ迷惑だって言おうか?》


実家を出てひとり暮らしをしてる理由を、学校であったことが原因だと思っている姉は、賢人が中学の友達だとわかったことで、俺があの時のことを思い出して嫌な気持ちになっているとでも思ったらしい。


《べつに大丈夫》
《教えていいよ》


苦笑いしながら返した直後、了解のスタンプが送られてきた。

たったそれだけのやり取りだったのに、なんだかどっと疲れた感じがする。

でも姉の『聞きたいこと』っていうのがあの人に関することじゃなくて正直ホッとした。


ところが、気を抜いた直後。


《そういえば》

《瑠衣に確認してなかったけど、倉木さんに瑠衣の連絡先聞かれたから教えた》
《連絡きた?》


不意打ちとしか思えないタイミングで落とされた爆弾。


すっかり油断していた俺は激しく動揺した。

震える指先。耳の奥でずっとドクドクと鳴り続ける鼓動。暑くもないのにジットリと汗が出てきて呼吸が荒くなる。


たぶん姉は単純にその事を思い出したから聞いてきただけで、深い意味はなかったんだろう。

でも後ろめたいことがある俺は、探りを入れられているような錯覚に陥ってしまい。


《きてないよ》


たった五文字打つだけなのに、あり得ないほどの労力が必要だった。


なのに。

それに対する姉からの返信はなく、俺は姉がどういう意図でそんな事を聞いてきたのかわからないまま、モヤモヤした気持ちだけを抱え続ける羽目になったのだ。
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