セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

82.生徒会ライフ!10 Side 佐伯伊織 その2

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それから光希ちゃんの意識が戻り大したケガもなかったと聞かされるまでの間、俺はこれまでの人生で初めて誰かの無事をひたすら祈り、そんな事しか出来ない自分の無力さに苛立ち、いかに自分がちっぽけな存在であったかということを嫌というほど思い知った。

そもそもの原因を作ったのが俺だとわかっていても俺が出来ることは何もなく、むしろ何かすればまた光希ちゃんに迷惑がかかるかもしれないと思うと、俺に出来ることなんてただもう光希ちゃんと関わりあいにならずに静かに学園生活を送ることくらいしか思い付かない。

今なら、それまでの華やかだったであろう生活をキッパリと捨てて、あんな地味な見た目でこの学園にやってきた光希ちゃんの行動も理解出来る。

ずっと平穏な生活ってつまらないって勝手に思い込んでたけど、そういうのが一番大事なのかもしれない。

まあ、俺と違って光希ちゃんは何かヤバいことした結果そういう心境になったわけじゃないだろうけどさー。


こうして残りの謹慎期間で今までにないほど色々考えた結果。俺はひとつの結論に達した。





「はい。じゃあ一応今日で自室謹慎は終わり。これに懲りたらもう二度と俺ら風紀の手を煩わすような真似は控えてくれるとありがたいんだけど」


土曜日の消灯時間ギリギリに俺の部屋を訪れた橘は、うんざりした表情を浮かべながら風紀預りとなっていた俺のスマホを差し出した。


「さすがに今回のことは反省してるって」


スマホを受け取りつつ素直な気持ちを告げてみたのだが、今度は思い切り胡散臭そうな目で見られてしまった。

俺って信用ないな~。

まあ、これが俺の今までの積み重ねの結果ってやつか……。


「ちょっと今回のことで俺も色々考えさせられることがあったワケ。もう今までみたいな事はしないつもりだよー」

「ホントにそうだったらいいんだけどね……。
──朝比奈。今回罷免は勘弁してやったんだから、約束どおりしっかり管理しておいてよ」


橘の後ろにいたらしい朔人が、いつもどおりの胡散臭い笑顔を貼り付けたまま顔を出す。


「わかってます。こっちだって色々切羽詰まってて余計なことをしている余裕はないですし、伊織には反省の意味も込めて息吐く暇もないほど仕事をしてもらいますからご安心を」

「佐伯。後で朝比奈から聞くと思うけど、光希クン、誰かさんの策略であのまま役員補佐続行になったから。くれぐれもこれ以上の問題は起こさないようにね。──じゃあ、俺はこれで」


え!?どういうこと!?

もう光希ちゃんには近付くことすら許されないと思っていた俺は事態がさっぱり飲み込めず、この場を後にする橘の後ろ姿を見送りながら、ただ呆然とするばかりだ。


「実はただでさえ忙しい時期だというのに、清雅が余計なことを考え付いてくれましてね。今のままでは手が回らないので光希だけでなく他にも役員補佐を入れることにしたのですよ」

「他にもって?」


光希ちゃん以外で生徒会室にいても邪魔にならない人間なんていたかな、なんて考えていると。


「神崎颯真と光希の親衛隊長に就任した二階堂昂介です。二人とも中等部での生徒会役員経験者ですし最適ですよね」

「え!?光希ちゃん親衛隊が出来たの!?」


思いもよらない情報が飛び出しつい声のトーンが大きくなる。

ここが生徒会役員と風紀の幹部以外が使ってないフロアで良かったよね~。


「あの見た目と性格です。親衛隊なしで学園生活を送るのはどう考えても色んな意味で危険でしょう。二階堂君曰く、親衛隊の存在が平気で無茶する光希の抑止力に少しでもなれば、だそうですけど」

「俺が言えた事じゃないけど、光希ちゃん色々危なっかしいからな~」


自分のした事を棚に上げて思わずそう呟くと、朔人にギロリと睨まれた。


「本当に伊織が言うことじゃないですね。まあ、今回のことは私達全員の普段の在り方に問題があったせいでもあるのであまりとやかく言えませんけど。 そういう訳ですので伊織は充分に気を付けて行動してください」

「わかってるって。俺はもう光希ちゃんと個人的な接触はしないつもりでいるからさー。光希ちゃんは俺の顔見たくもないだろうし、俺だってさすがに自分が最低な真似した自覚あるしね~」

「光希は伊織のした事に対して腹を立ててはいるみたいですが、伊織の存在を気にしてはいないみたいですよ」

「それってどういう事なんだろう?」

「伊織のことは眼中に無いってことじゃないですか?」


なかなか辛辣な答えに俺は苦笑いするしかない。
これ以上この話を続けたら朔人の嫌味が止まらなそうなので、俺はすかさず話題の転換を図ることにした。


「俺のせいで忙しいのはわかった。で? 清雅が考え付いた余計な事って?」

「その件も含めて伊織の仕事はこの中に入れてありますので」


若干軽蔑したような視線と共に渡されたのはUSBメモリ。

これってもしかしなくても部屋で仕事しろって事だよな?


「月曜日から追試ですよね?生徒会室に顔を出すのはそれが終わってからで構いませんので、仕事だけは先に進めておいて下さい」


立ち入り禁止ってワケじゃなかったことに少しだけホッとしつつも、この小さな物体の中にどのくらいの仕事量が詰め込まれているのか考えただけで恐ろしい。


「あ、それから。仕事が終わらなかったら夏休みに入ってからも居残りでやるそうですから、念のため今から前半の予定を調整しておくことをお勧めします。ただでさえ余計な仕事が増えた上に一週間無駄にしたんですから仕方ありませんよね」

「え!?」

「それが嫌なら必死に頑張って下さいね」


ニッコリと笑った朔人からは黒いオーラしか感じられない。

こりゃ必死に頑張らないとホントにマズいことになりそうだ……。

そう思いながらも、『必死になる』ということ自体、今までの俺には一番縁がなかったというか、あえて避けてきたことだけに複雑な心境にさせられた。


そして朔人が去った後。
自分の部屋でデータの中身を確認した俺は、生徒会役員選挙の改正という思ってもみなかった急すぎる展開と、膨大すぎる仕事量を前に、すぐに夏休みのスケジュールを変更すること決めたのだった。




月曜日。

追試期間は対象者以外は休みとなるため、優秀な者しか在籍することを許されないSクラスに属している俺は、誰もいない教室で生まれて初めて追試というものを受けた。

元々そんなに勉強しなくても試験に支障が出るようなことはないので、初日のテストはすこぶる順調に終わったのだが。

いつもの鬱陶しいほどの熱の籠った視線と黄色い声が全くない状態の校舎を歩きながら、たったそれだけのことで随分と気楽な気持ちになっている自分に自嘲していると、思いがけない人物と遭遇したのだ。


艶やかな金茶の髪に、ブルーグレイの瞳。

俺と違って紛い物ではないその色を持つ人物は、この学園にはひとりしかいない。

まさかこんなところで光希ちゃんと会うなんて思っていなかったので驚いたが、向こうも俺の存在に気付き酷く驚いた様子を見せている。隣にいる二階堂昂介は警戒モードらしく、厳しい視線を俺に向けていた。


声は掛けないほうがいいよな……。

とりあえず無難に笑顔のまますれ違おうとしたその時。


「その頭、どうしたんスか?」


思いがけず光希ちゃんから話しかけられたことに、俺も二階堂もギョッとした。

まさか光希ちゃんから話しかけてくるとは……。

顔も見たくないほど嫌われてると思っていたが、やっぱり朔人の言うとおり大して気にしていないらしい。


「……あのままだと光希ちゃんと被るからちょっとイメチェン。どう?似合う?」


最後の一言は何となく照れ臭くなってしまったからであって、会話を続けようという意図ではない。

しかし、警戒する二階堂はそうはとってくれなかったらしく、ギロリと睨まれてしまった。

一応俺、先輩なんだけどな……。


まさかこんなことで光希ちゃんから声を掛けてもらえるとは思ってなかったが、失恋した女の子じゃないけどやっぱり気分を変えるにはまず見た目からかなと考えた俺は、昨日わざわざ都内まで戻り、行きつけのヘアサロンで肩に付くくらいの長さだった髪をスッキリとカットし、髪色もアッシュブラウンに変えてきたばかりだったのだ。

スタイルチェンジしたばかりでまだ自分でも見慣れていないだけに、髪のことを言われるとちょっと気恥ずかしい。


すると。


「そっちのほうがいい感じですよ」


そう言いながらふわりと笑った光希ちゃんに俺の目は釘付けになった。

それと同時に俺の胸に鈍い痛みが走る。


──ああ、俺やっぱり光希ちゃんのことが好きなんだなぁ。


最低な真似をした俺のこの気持ちが叶うなんて都合の良いことは最早考えていないけど、光希ちゃんを想う気持ちは簡単にはなくならないってことを嫌というほど実感させられた。

その結果。


「ねぇ、光希ちゃん。俺、光希ちゃんのことが好きなんだけど」


自然と溢れた笑みと共に素直な気持ちが勝手に口から出てしまった。

余程意外だったのか、光希ちゃんは酷く驚いた顔をして俺を凝視している。

そんな光希ちゃんが可愛く感じて、俺は一層笑みを深めたのだった。
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