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1.終わりと始まり①
この世界に来る前の俺の人生は、平凡ながらも、わりと順風満帆といえるようなものだった。
風間大河。二十八歳。会社員。
地元で一番偏差値の高い公立高校を卒業し、地元の国立大学に現役合格。
卒業後は地元の有名企業に就職し、仕事は順調。
大学時代からずっと付き合ってる同じ歳の彼女がいて、付き合いたての頃のようなトキメキやドキドキはないものの、お互いを大切に想う気持ちのまま、穏やかに関係が続いていた。
その頃の悩みといえば、『そろそろ将来について、どう考えてるのか教えてほしい』と彼女に言われていることで。
結婚なんてまだまだ先のことだと思っていた俺は、どう答えたら現状維持のまま彼女に納得してもらえるのかなんて、自分勝手なことを考えては、彼女になんて言おうか頭を悩ませていた。
結局、その年の夏、俺の煮え切らない態度に愛想を尽かせた彼女から別れを切り出され、俺は彼女の決めたことを尊重する以外、彼女のためにできることはないのだと悟った。
『嫌いになったわけじゃない。長く付き合っていたから情もある。でもあなたとの未来が見えないまま付き合い続けることはできない』
そう言った彼女は、俺に何かを訴えかけるような視線を向けていたが、彼女の望むような結果を導き出すことができない以上、俺が言えることなんて何もなかった。
嘘でも『結婚したいと思ってる』と言えば良かったのかなと思わなくもない。でも、時間稼ぎにしかならない言葉を紡いでその糸で縛るのは、どう考えても無責任だし、彼女という人間を軽んじているようで嫌だった。
別れたその日は、心の中にポッカリ穴が空いたような感じがしていた。
ところが次の日、普段どおりに出社して、いつもと変わらない時間を過ごしてるうちに、俺自身の生活は、これまでとあまり変わらないことに気付いてしまったのだ。
お互い仕事が忙しかったこともあって、学生時代のように頻繁に会うこともなく、彼女と会えない、連絡すらできないこともザラだったから、別れた実感が湧かなかっただけかもしれない。
思いのほか薄情だった自分に呆れながらも、これからもあまり変わり映えのない日々が続いていくんだな、なんて思っていたのに。
翌朝、身を切るような寒さを感じて目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは灰色の空。
空から舞い落ちる白いものはたぶん雪だろう。
(夢にしては全ての感覚がリアルだな……)
そう考えたところで、この寒さが現実のものであることに気付いて飛び起きた。
自室で寝ていたはずなのに、なぜか俺は外にいて。
毎日うんざりするほど暑かったのに、季節が一気に逆転している。
その有り得ない状況に、俺は暫し呆然とした。
自分の身に何が起こっているのか、さっぱり見当がつかない。
ただひとつわかっているのは、Tシャツにハーフパンツに素足という格好では、どう頑張ってもこの寒さには耐えられないということだけ。
みるみるうちに体温が奪われ、身体の感覚はなくなっていき、意識を保っていることすら難しくなっていった。
痛いくらい冷たい地面の感触に命の危機を感じた俺は、急いで立ち上がると、寒さのあまり自分を抱きしめるように身を縮めながら辺りを見回した。
見渡す限り何もない野原に、うっすらと雪が積もっている。
そこに誰かの足跡らしきものは一切なかった。
底しれぬ不安と死の恐怖にパニックに陥った俺は、人の気配を求めてただひたすらに走り出した。
どのくらい走ったのかは思い出せない。
どこにむかって行ったのかも。
やがて野原を抜けて森のようなところに入ったところで、俺はようやく一筋の光を見つけた。
そこにあったのは、隠れ家のようにひっそりと佇むログハウス風の建物だった。
俺が近付いた気配を感じたのか、扉が開き、中からひとりの人物が姿を現した。
銀色の髪に冬の空と同じ色の瞳をした美しい青年。
ファンタジー映画でしか見たことのない衣装を身につけた人物を目の前にして、俺は驚きのあまり、呆然と立ち尽くしていた。
──これが後に俺を殺す男との出会いだった。
風間大河。二十八歳。会社員。
地元で一番偏差値の高い公立高校を卒業し、地元の国立大学に現役合格。
卒業後は地元の有名企業に就職し、仕事は順調。
大学時代からずっと付き合ってる同じ歳の彼女がいて、付き合いたての頃のようなトキメキやドキドキはないものの、お互いを大切に想う気持ちのまま、穏やかに関係が続いていた。
その頃の悩みといえば、『そろそろ将来について、どう考えてるのか教えてほしい』と彼女に言われていることで。
結婚なんてまだまだ先のことだと思っていた俺は、どう答えたら現状維持のまま彼女に納得してもらえるのかなんて、自分勝手なことを考えては、彼女になんて言おうか頭を悩ませていた。
結局、その年の夏、俺の煮え切らない態度に愛想を尽かせた彼女から別れを切り出され、俺は彼女の決めたことを尊重する以外、彼女のためにできることはないのだと悟った。
『嫌いになったわけじゃない。長く付き合っていたから情もある。でもあなたとの未来が見えないまま付き合い続けることはできない』
そう言った彼女は、俺に何かを訴えかけるような視線を向けていたが、彼女の望むような結果を導き出すことができない以上、俺が言えることなんて何もなかった。
嘘でも『結婚したいと思ってる』と言えば良かったのかなと思わなくもない。でも、時間稼ぎにしかならない言葉を紡いでその糸で縛るのは、どう考えても無責任だし、彼女という人間を軽んじているようで嫌だった。
別れたその日は、心の中にポッカリ穴が空いたような感じがしていた。
ところが次の日、普段どおりに出社して、いつもと変わらない時間を過ごしてるうちに、俺自身の生活は、これまでとあまり変わらないことに気付いてしまったのだ。
お互い仕事が忙しかったこともあって、学生時代のように頻繁に会うこともなく、彼女と会えない、連絡すらできないこともザラだったから、別れた実感が湧かなかっただけかもしれない。
思いのほか薄情だった自分に呆れながらも、これからもあまり変わり映えのない日々が続いていくんだな、なんて思っていたのに。
翌朝、身を切るような寒さを感じて目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは灰色の空。
空から舞い落ちる白いものはたぶん雪だろう。
(夢にしては全ての感覚がリアルだな……)
そう考えたところで、この寒さが現実のものであることに気付いて飛び起きた。
自室で寝ていたはずなのに、なぜか俺は外にいて。
毎日うんざりするほど暑かったのに、季節が一気に逆転している。
その有り得ない状況に、俺は暫し呆然とした。
自分の身に何が起こっているのか、さっぱり見当がつかない。
ただひとつわかっているのは、Tシャツにハーフパンツに素足という格好では、どう頑張ってもこの寒さには耐えられないということだけ。
みるみるうちに体温が奪われ、身体の感覚はなくなっていき、意識を保っていることすら難しくなっていった。
痛いくらい冷たい地面の感触に命の危機を感じた俺は、急いで立ち上がると、寒さのあまり自分を抱きしめるように身を縮めながら辺りを見回した。
見渡す限り何もない野原に、うっすらと雪が積もっている。
そこに誰かの足跡らしきものは一切なかった。
底しれぬ不安と死の恐怖にパニックに陥った俺は、人の気配を求めてただひたすらに走り出した。
どのくらい走ったのかは思い出せない。
どこにむかって行ったのかも。
やがて野原を抜けて森のようなところに入ったところで、俺はようやく一筋の光を見つけた。
そこにあったのは、隠れ家のようにひっそりと佇むログハウス風の建物だった。
俺が近付いた気配を感じたのか、扉が開き、中からひとりの人物が姿を現した。
銀色の髪に冬の空と同じ色の瞳をした美しい青年。
ファンタジー映画でしか見たことのない衣装を身につけた人物を目の前にして、俺は驚きのあまり、呆然と立ち尽くしていた。
──これが後に俺を殺す男との出会いだった。
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