二度目の人生は、王子のお飾り婚約者

みなみ ゆうき

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2.終わりと始まり②

 青年は俺の姿を見て、酷く驚いた顔をしていた。
 しかしすぐに険しい表情になると、俺にむかって何かを言っていた。

 おそらく、『お前は誰だ』とか、『ここで何をしているんだ』とか、そういった類のことだったのだろう。
 でも、寒さと疲労と不安で身も心も限界に達していた俺は、彼の言葉を理解する前に意識を失っていた。




(なんて酷い夢だろう……)

 そう思ったところで目が覚めた。

 先ほどまで感じていた、凍てつくような寒さや身体の痛みが無いことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 ところがそんな風に思っていられたのは、ほんの僅かな間のことで。
 視界に映った見慣れない光景に、俺は自分の置かれている状況が、望んだものではないことを悟り、落胆した。

(もう一度眠れば、何かが変わるだろうか……)

 そんな風に考えて、目を閉じようとしたその時。

『※※※※※※※※※』

 誰かが話しかけてきた気がして、俺は反射的に声のするほうに顔を向けた。

 それほど広くない室内には、先ほど意識を失う前に見た青年の姿があった。
 状況から察するに、ここはあの青年が出てきたログハウス風の建物の一室で、彼は目の前で倒れた俺をそのままにはしておけず、自分の家に運び入れて介抱してくれた、といったところだろうか。

 彼の見た目と醸し出す雰囲気から冷たい印象を受けるものの、悪い人ではなさそうだった。



『※※※※※※※※※?』

 再び彼が話しかける。
 でも俺には、意味のある言葉として認識できず、困惑した。

 何かを聞かれているらしいことはわかるのに、何を言っているのかさっぱりわからなかったのだ。

『※※※※※※※※※。※※※※※※※?』

 話しかけているのに俺が何も言わないことをどう思ったのか、青年が怪訝そうな顔をする。
 俺は俺で、聞いたこともない言葉が理解できるわけもなく、コミュニケーションすら取れない状況に愕然としていた。

(目を覚ましたら全く知らない場所にいて、季節まで変わっていたことすら現実として受け入れ難いのに、言葉も通じないなんて……)

 いっそ夢だと思いたかったが、これが現実ならば、自分の身に何が起こっているのか、まずは状況を把握することが先だと、なんとか気持ちを切り替えた。

『え~と、助けてくださってありがとうございます。──俺の言ってることわかりますか?』

 困惑しながらも、とりあえず日本語で話しかけてみる。
 すると、青年は驚いたように軽く目を見開いた。
 その表情で、言葉はわからなくとも、彼の気持ちがなんとなく理解できた気がした。

 まさか言葉が通じないだけではなく、未知の言語で話しかけられるとは思っていなかった、といったところだろう。
 俺も同じ状況だから、似たようなものだと思う。


 それからは、お互いに身振り手振りでなんとか意思の疎通を図ろうと試みた。
 しかし言葉の壁は厚く、この時点でちゃんと伝わったのは、お互いの名前だけだった。

 彼は『ラーシュ』という名前で、話してる間ずっと、他の人の気配を感じなかったことから、この家にひとりで住んでいるらしいことが窺えた。
 見るからに育ちが良さそうなのに、こんなところで一人暮らしだなんて、もしかしたら訳ありなのかなとも思ったけれど、それを知ったところで俺にはどうしてみようもないので、深く考えないことにした。

 それよりも俺には考えなければいけないことが山のようにあった。
 まずは、ここがどこで、俺はなぜこの場所にいるのか。

 ──そしてこの先どうやって生きていくか。

 この時点ではもう、夢だとか、実は誰かのドッキリだったのかも、などという甘い考えはすでになく、目の前の現実を受け止める覚悟をするだけで精一杯だった。

 だけど頭の片隅では、『もしかしたらこれは、昨今流行りの異世界転移かもしれない』と密かに思っていて。

 そういう場合の主人公のお約束のようなものが俺にもあるのかな、なんてぼんやりと思ったりもした。



 まさか自分が、単なる『異物』でしかないなんて、想像すらできずに。



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