5 / 28
4.終わりと始まり④
異世界に来てから二度ほど季節が変わっても、俺はまだラーシュの家にいた。
この頃になれば、さすがに完璧とまではいかなくとも、だいぶこの国の言葉がわかるようになっていて、拙いながらもラーシュと会話できていた。
そしてラーシュも。
『……《いただきます》』
俺が何気なく使っていた日本語を当たり前のように口にするようになっていて、いつの間にか俺との生活がラーシュにも馴染んできているんだな、なんて思えて嬉しかった。
ラーシュは、あまり口数が多いほうでも、愛想が良かったわけでもないが、優しい人だったと思う。
それにすごく頼りがいがあり、何も知らない俺に対して、色んなことを教えてくれた。
だから俺と同じくらいかちょっと年下くらいだろうなと思っていたのに、俺より七歳も年下だと知った時には驚いた。
ラーシュも、この世界では子供でも知っていることを何も知らない俺が、まさか自分より年上だとは思っていなかったらしく、何度も数え間違いじゃないかと確認していた。
俺はそれほどまでに、何もできない人間だったのだ。
最初は、よくある物語のように、特別な使命や能力が自分にもあるのかと思っていた。
けれど、この世界の常識すら知らず、言葉にも困っている俺に、そんなものなどあるわけもなく。ついでに言うなら、この世界では当たり前のように使われているらしい魔力もなかったために、早い段階で自分が特別な存在ではないことを悟った。
しかもこの世界は、俺たちの世界でいうところの、『科学の進歩によって得られた便利さ』に該当する部分が、魔法によって補われていて、その動力源は魔力だった。
そんな世界で、魔力を持たない俺にできることはほとんどなく、せめて少しは役に立ちたいと食事の準備だけは続けていた。
でもそれすらも、ラーシュの家が魔力を持たない人間にも使える仕様になっていたからできたことで、一般的には普及していないものだと知った時には、かなりショックを受けた。
この世界では魔力の有無が死活問題に発展しかねない。
俺はたまたまラーシュのところにたどり着いたから生きていられただけで、そうでなかったら全く知らない世界でひとり、自分の身に起こった信じがたい現実についてじっくり考える余裕すらないまま、人生を終わらせる選択をしていたかもしれない。
そう思ったからこそ、ある日突然当たり前にあった日常を失い、誰ひとりとして自分のことを知らない世界で、自分の存在意義を探すことの重要性を知った。
正義感や使命感が湧くような何かがあれば、それが生きる原動力になっただろう。
でも俺には何もなかった。それでも誰かに必要とされたかった。
そうしないと、自分を保っていられない気がしたから。
そして戻れる保証もない以上、俺はこの世界に馴染む努力をしなければならなかった。
ひとりで生きていけるように、なんて尤もらしいことを口にしながらも、本音を言えば、ラーシュに必要とされたくて必死だったのだろう。
いつかは自立しなければならない。
社会人を経験した大人としても、いつまでもラーシュの親切心に甘え続けているわけにはいかない。
そう考えながらも、ラーシュが何も言わないのをいいことに、何かと自分に言い訳をして、外に出て行くタイミングをズルズルと引き延ばしにしていた。
『異物』が、そんな真似をしたのが間違いだったのかもしれない。
ラーシュとの生活が穏やかに過ぎていったある日。
突然、その『いつか』が訪れた。
この頃になれば、さすがに完璧とまではいかなくとも、だいぶこの国の言葉がわかるようになっていて、拙いながらもラーシュと会話できていた。
そしてラーシュも。
『……《いただきます》』
俺が何気なく使っていた日本語を当たり前のように口にするようになっていて、いつの間にか俺との生活がラーシュにも馴染んできているんだな、なんて思えて嬉しかった。
ラーシュは、あまり口数が多いほうでも、愛想が良かったわけでもないが、優しい人だったと思う。
それにすごく頼りがいがあり、何も知らない俺に対して、色んなことを教えてくれた。
だから俺と同じくらいかちょっと年下くらいだろうなと思っていたのに、俺より七歳も年下だと知った時には驚いた。
ラーシュも、この世界では子供でも知っていることを何も知らない俺が、まさか自分より年上だとは思っていなかったらしく、何度も数え間違いじゃないかと確認していた。
俺はそれほどまでに、何もできない人間だったのだ。
最初は、よくある物語のように、特別な使命や能力が自分にもあるのかと思っていた。
けれど、この世界の常識すら知らず、言葉にも困っている俺に、そんなものなどあるわけもなく。ついでに言うなら、この世界では当たり前のように使われているらしい魔力もなかったために、早い段階で自分が特別な存在ではないことを悟った。
しかもこの世界は、俺たちの世界でいうところの、『科学の進歩によって得られた便利さ』に該当する部分が、魔法によって補われていて、その動力源は魔力だった。
そんな世界で、魔力を持たない俺にできることはほとんどなく、せめて少しは役に立ちたいと食事の準備だけは続けていた。
でもそれすらも、ラーシュの家が魔力を持たない人間にも使える仕様になっていたからできたことで、一般的には普及していないものだと知った時には、かなりショックを受けた。
この世界では魔力の有無が死活問題に発展しかねない。
俺はたまたまラーシュのところにたどり着いたから生きていられただけで、そうでなかったら全く知らない世界でひとり、自分の身に起こった信じがたい現実についてじっくり考える余裕すらないまま、人生を終わらせる選択をしていたかもしれない。
そう思ったからこそ、ある日突然当たり前にあった日常を失い、誰ひとりとして自分のことを知らない世界で、自分の存在意義を探すことの重要性を知った。
正義感や使命感が湧くような何かがあれば、それが生きる原動力になっただろう。
でも俺には何もなかった。それでも誰かに必要とされたかった。
そうしないと、自分を保っていられない気がしたから。
そして戻れる保証もない以上、俺はこの世界に馴染む努力をしなければならなかった。
ひとりで生きていけるように、なんて尤もらしいことを口にしながらも、本音を言えば、ラーシュに必要とされたくて必死だったのだろう。
いつかは自立しなければならない。
社会人を経験した大人としても、いつまでもラーシュの親切心に甘え続けているわけにはいかない。
そう考えながらも、ラーシュが何も言わないのをいいことに、何かと自分に言い訳をして、外に出て行くタイミングをズルズルと引き延ばしにしていた。
『異物』が、そんな真似をしたのが間違いだったのかもしれない。
ラーシュとの生活が穏やかに過ぎていったある日。
突然、その『いつか』が訪れた。
あなたにおすすめの小説
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
Rは書こうか悩み中です。本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
当て馬に転生した俺、メインヒーローに懐かれすぎて物語が崩壊しています ~最強の騎士様、俺じゃなくてヒロインを追いかけてください!~
たら昆布
BL
処刑される元貴族に転生していたので婚約破棄して雑用係になった話
好きだから手放したら捕まった
鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。
※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。
※毎週日曜日の21:00に投稿予約済
本編5話+おまけ1話 全6話
本編最終話とおまけは同時投稿します。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/数日おきに予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!