二度目の人生は、王子のお飾り婚約者

みなみ ゆうき

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4.終わりと始まり④

 異世界に来てから二度ほど季節が変わっても、俺はまだラーシュの家にいた。

 この頃になれば、さすがに完璧とまではいかなくとも、だいぶこの国の言葉がわかるようになっていて、拙いながらもラーシュと会話できていた。

 そしてラーシュも。

『……《いただきます》』

 俺が何気なく使っていた日本語を当たり前のように口にするようになっていて、いつの間にか俺との生活がラーシュにも馴染んできているんだな、なんて思えて嬉しかった。

 ラーシュは、あまり口数が多いほうでも、愛想が良かったわけでもないが、優しい人だったと思う。
 それにすごく頼りがいがあり、何も知らない俺に対して、色んなことを教えてくれた。

 だから俺と同じくらいかちょっと年下くらいだろうなと思っていたのに、俺より七歳も年下だと知った時には驚いた。
 ラーシュも、この世界では子供でも知っていることを何も知らない俺が、まさか自分より年上だとは思っていなかったらしく、何度も数え間違いじゃないかと確認していた。

 俺はそれほどまでに、何もできない人間だったのだ。



 最初は、よくある物語のように、特別な使命や能力が自分にもあるのかと思っていた。
 けれど、この世界の常識すら知らず、言葉にも困っている俺に、そんなものなどあるわけもなく。ついでに言うなら、この世界では当たり前のように使われているらしい魔力もなかったために、早い段階で自分が特別な存在ではないことを悟った。

 しかもこの世界は、俺たちの世界でいうところの、『科学の進歩によって得られた便利さ』に該当する部分が、魔法によって補われていて、その動力源は魔力だった。

 そんな世界で、魔力を持たない俺にできることはほとんどなく、せめて少しは役に立ちたいと食事の準備だけは続けていた。

 でもそれすらも、ラーシュの家が魔力を持たない人間にも使える仕様になっていたからできたことで、一般的には普及していないものだと知った時には、かなりショックを受けた。

 この世界では魔力の有無が死活問題に発展しかねない。
 
 俺はたまたまラーシュのところにたどり着いたから生きていられただけで、そうでなかったら全く知らない世界でひとり、自分の身に起こった信じがたい現実についてじっくり考える余裕すらないまま、人生を終わらせる選択をしていたかもしれない。


 そう思ったからこそ、ある日突然当たり前にあった日常を失い、誰ひとりとして自分のことを知らない世界で、自分の存在意義を探すことの重要性を知った。

 正義感や使命感が湧くような何かがあれば、それが生きる原動力になっただろう。 
 でも俺には何もなかった。それでも誰かに必要とされたかった。
 そうしないと、自分を保っていられない気がしたから。

 そして戻れる保証もない以上、俺はこの世界に馴染む努力をしなければならなかった。
 ひとりで生きていけるように、なんて尤もらしいことを口にしながらも、本音を言えば、ラーシュに必要とされたくて必死だったのだろう。

 いつかは自立しなければならない。
 社会人を経験した大人としても、いつまでもラーシュの親切心に甘え続けているわけにはいかない。
 そう考えながらも、ラーシュが何も言わないのをいいことに、何かと自分に言い訳をして、外に出て行くタイミングをズルズルと引き延ばしにしていた。

 『異物』が、そんな真似をしたのが間違いだったのかもしれない。



 ラーシュとの生活が穏やかに過ぎていったある日。
 
 突然、その『いつか』が訪れた。
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